第5話 宿題と言う名の怪物
声が聞こえる。夢から覚めるか否かのふわふわしたような感覚…複数人が会話をしているのが聞こえる。
そういえばこんなことが前にもあったような気がする。出世に関わるみたいな感じの会話を神とか言ってたおっさんと女の子が会話をしていたような…。
「神さまぁ〜こいつまた死んじゃいましたよ?」
「えーうそぉん…あ、いや待って?こいつまだギリギリ生きてるわ」
「え、マジですか?…おーすごい根性っすね」
「でもほっとけば死んじゃうし…短期間で二度も死なれると流石にワシの評価どん底になっちゃうし…なんかいい案ない?」
「え、ウチっすか?えー……あ!」
「お?なになに?なんか思いついた?」
「神さまの力でこいつ死なないようにすりゃ良くないっすか?自己再生能力爆上げ付きで」
「はーー!?お前なんなの!?天才!?いいねいいね!ならおまけで不老もつけちゃお」
「いやぁそれほどでも〜!人間って若さやら不死やら憧れてるっぽいですしいいんじゃないっすか?」
「おっけーおっけー!…まどろみの中で記憶に残らんじゃろがこの瞬間よりお主は人間として最高の祝福あげちゃうから頑張って生きてねー」
なんとふざけた会話だろうか。しかし生きてねという言葉…つまりわたしはあの状況から生き返れるのだろうか…。
全身の骨ボッキボキのままだと嫌だなぁ…なんて思いながらわたしの意識はまた深い闇に落ちていく。
声がする。俺を…いやわたしを呼ぶ声が…。
ゆっくりと目を開けると知らない天井が見えた。はっきりとしない頭の中、ゆっくりと身体を起こし周りを見ると涙目のアキちゃん、ゆあちゃん、かなちゃんがみえる。白い部屋、薬品の匂いがするからきっと病院かな?と思った。よかった…生きてたんだ…。何か夢を見た気がするけどなんだったかな…まぁ…いいか。
アキ「いのりちゃん…!いのりちゃん!」
「ぁ…きちゃ…?」
かな「いのりちゃん気がついた…!よかった…よかったぁぁ…」
ゆあ「ぐすっ…いぎでるよぉぉ…いのりぃ…ぶええぇ!」
みんながわたしが目を覚ましたことを喜んで泣いてくれている…そう思っただけですごく嬉しくてわたしも涙が出てくる。
「わ…たし…なん……っ!?」
なぜここにいるのか?そう考えようとすると同時にあの時の…全身を殴り壊されるあの感覚が全身を駆け巡った。動く。体は動く。身体中触り、顔も顎も全て折られた歯も…へし折られた腕もなんともない。
「ぁ…あぁ…ああぁぁぁぁぁぁぁぁあ…!!」
しかし……全身はあの死の恐怖を覚えている。
アキ「わ、私パパとママ呼んでくる…!」
ゆあ「ちょっといのり⁉︎どうしたの⁉︎」
かな「大丈夫だよ…!落ち着いて?ね?」
あの恐怖を思い出し絶叫するわたしをゆあちゃんが手を握り、かなちゃんが抱きしめてくれる。
怖い…人が怖い。いや…大人の男が怖い。何かを持っている男の人が怖い。いや…違う知らない人が怖い…。
知っている人の顔をよく頭に浮かべていく。今いてくれてる2人…大丈夫。アキちゃんやその家族…大丈夫。
クラスのみんなやわたしの両親…侍女のみんな…大丈夫。ゆっくり深呼吸して自我を取り戻し、片手を抱きしめてくれているかなちゃんに巻き、抱きかえし、もう片手でゆあちゃんの手を握り返す。
「ごめん…ありがとう…もう大丈夫だよ」
ゆあ「ほんとに…?」
「ほんとだよ」
かな「ほんとのほんとに?」
「ほんとだよ?凄くあったかくて…落ち着くの。もう少しこうしててもいい…?」
2人「「仕方ないなぁ(仕方ないわね)」」
アキ「あー!みんなで抱き合ってるのずるい!私もぉ!!」
両親を連れてこのタイミングで戻ってきたアキちゃんはかなちゃんの反対側面から抱きしめてくれる。あったかい…。
それを微笑ましそうに見るアキちゃんの両親に私は一言謝った。「ご迷惑おかけしてごめんなさい」と。
アキちゃんの両親は教えてくれた。わたしは少し離れた海岸に打ち上げられていたのだと。発見された時はひどい打ち身で所々は骨折していたのだと。すぐに病院へ運び込まれ、緊急で治療されたのがもう2週間も前のことだとか。3人は毎日わたしのお見舞いに来てくれていたらしく、ずっと心配していてくれたのだと。またあの時のように…脳死した時みたいに起きなくなっちゃうのではないか、今度はもうこのまま起きてくれないんじゃないかと泣いていたのだそうだ。
あぁ…わたしは…いや、『いのりちゃん』はいい友達を持ったのだな…。
「みんな…ありがとね…」
ごめんというよりここはありがとうの方が彼女たちに言いたい。3人に頬ズリしたり手を強く握ったりして感謝の気持ちを言葉以上に伝えたかった。
それから約1週間ほどリハビリをし、夏休みが終わる頃には退院することができた。
わたしの両親は仕事が多忙期であるにもかかわらず、合間を縫ってわたしのお見舞いに来てくれていたのだということを知ったのはリハビリ中のことで、退院日にはわざわざ仕事を休んで迎えにきてくれた。
宝物を抱くように…優しくそして強く両親は抱きしめてくれた。この2人には特に申し訳なさを感じる。2度も…。そう、2度も愛する我が子が死に際を彷徨ったのだ。『俺』に子供はいなかったが愛する存在がそんな状況になったら仕事にも手がつかず、なおかつ失ったのならどれだけ心に穴が開くのか…想像を絶するものだ。
周りを見るとアキちゃんたち3人、そしてアキちゃんたちの両親もわたしの退院祝いに来てくれた。わたしは嬉しくなり、つい3人を抱きしめに行ってしまう。3人はそれを受け止めてくれ、そして喜んでくれた。
わたしたちはそのまま全員でウチに向かい、父が用意させていた貴族のパーティーか?と言わんばかりの退院祝いを開きわたしの生還を喜び祝ってくれた。
こんなに嬉しい事は『俺』にあっただろうか?なんて1人心にしまいながら気の済むまで楽しんだ。その後アキちゃんたち曰く大変だったのは、わたしは知らずにシャンパンやらお酒類を飲み、酔ってアキちゃんにキスしたりゆあちゃんのお尻を触ったりかなちゃんにちょっとエッチな事をしたりしたらしい。ぜんっぜん覚えてないけど…。
そのほかにも何か忘れてるような気がした。なんだっけ?
とても重要だったような………あ!
「宿題やってないじゃん…」
神テメェ!!!!となるようなクッッソかるぅいノリの神さま再登場です。
もう5話ですね!青月志乃です。
わたしがやりたいと思っている描写への布石の一つをやっと打つことができました!これからどうぞ期待しないで待っていてくださればと思います。
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