第19話 憧れてくれるあなたへ
海に行ってから数日、わたしは何の気なしにぬーちゅーぶを見ていた。身体が成長しないとわかってから徐々に回数を減らしフェードアウトし、今ではぬーちゅーばーの1リスナーに戻っているのだ。
活動をやめた理由は一つ。生の人間が全く成長せず、いつも同じ姿で何年も居るのは明らかに気味が悪い。それに気がつかれる前にみんなの前から居なくなるのがみんなのためでもあった。
〈それでねー!ユイね、秘密にしてたけど、ぬーちゅーばーになろうと思った理由が一個あるの!〉
今見ているのはわたしが消えてからしばらくしてデビューしたみんなの新しいロリ供給源こと『空間ユイ』ちゃんだ。わたしに比べればほんわかしていながら元気いっぱいで、明るい印象の中学二年生である。
ユイちゃんは誰かとお話しするのが大好きすぎて喋りすぎてしまう事が多々あり、同年代の友達が少ないのだと言う。それでいくら話してもうざがられない、むしろ喋ることで誰もが楽しめるコンテンツを、ぬーちゅーぶを見つけぬーちゅーばーになったと初めの自己紹介で言っていた。
ユイ〈ユイね、実は会いたい人しお話ししてみたいがいてぬーちゅーばーになったんだ〜!〉
『なになに?』『それは男か女かでみんなの反応が変わる』『男なら発狂不可避www』『それはどんな人?』
ユイ〈女の子…じゃないか…。多分『もう高校生』だと思うんだよー〉
『もうって事は長い間会ってない?』『みんなよかったな』『ユイちゃんが会いたいならきっと会えるよ』
ユイ〈えへへーそうかな〜!えっとね?みんなも多分知ってるんだ!〉
「へぇ…みんなが知ってて、長い間…すでに高校生……ん?」
なんとなく聞いていたが、この子が言っている条件に妙に合う人間を一人知っている。でもそれにはじめに当てはめるなんてきっと思い過ごしだろうと自意識過剰すぎるだろ!と思っていると、ユイちゃんの口から答えが出てくる。
ユイ〈うさぎちゃん!ぬーちゅーばーの、井ノ莉うさぎちゃん!〉
ほぉら思い違いだ何言ってんだ全く!ぬーちゅーばーのうさぎちゃんなんて……やっぱりわたしだったぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!?!?
変化球で来ると思ったらストレートコースと思いきややっぱり変化球だったみたいな衝撃がわたしを襲う。
そしてその言葉に対し『俺も会いたい』『急にいなくなっちゃったよね』『夢でもいいからまた声聞きたい』などのコメントがどんどん流れていく。
ユイ〈でもうさぎちゃんも何か事情があって居なくなっちゃったんだと思うし、仕方ないね!あはは…って暗い雰囲気になっちゃったね!?ナシナシ!いつも通りの凸待ちコーナーいくよー!〉
ユイちゃんは少し悲しそうに笑うもすぐにいつもの笑顔に戻り、おなじみのコーナー化してきた凸待ち…持ち時間ありで通話アプリで本人と話せるコーナーを設けており、通話アプリ『ウカイプ』のIDを画面に表示する。
すると『誰か凸して』とか『可愛い女の子同士でお話ししてほしい』とか他力本願この上ないコメントが次々と流れてくる。しかし10分ほど経っても今日は誰も凸して来ず、ユイちゃんも少し困惑している様子だった。
それをみてわたしは久しぶりにマイクとウカイプを起動し匿名でキーボードを打ちコメントを発する。
《誰も行かないならユイちゃんに凸いいっすか》
ユイ〈お!いいよいいよ〜いつでもカモン(´∀`*)〉
ウカイプでのわたしの名前は『いのりん』で登録してあり、ID検索にユイちゃんのIDを打ち込み連絡帳へ追加、そして通話開始ボタンを押すとユイちゃんは〈こんばんわ〜!えっとーアナタは誰ですか?〉とワクワクした声で問いかけてくる。
さぁ、中学生への思いつきサプライズを、わたしにしかできない夢いっぱいのぬーちゅーばーにプレゼントしよう。画面越しのユイちゃんに微笑みながらわたしは返事をマイクに吹き込むのだ。
「こんばんわ、ユイちゃん。はじめまして井ノ莉うさぎです!」