第16話 さようなら我が愛しき故郷よ
「命を…もらいました。秀幸さんの…」
わたしは一度そこで切ってまず両親の反応を見る事にした。予想通りと言っていいのか、2人は困惑したような顔を浮かべている。
どういう事?というような目でわたしを見る目には半信半疑の感情が込められているように感じる。
「秀幸さんは死亡される際、ドナーの提供に同意していました。その後脳死状態のわたしへ脳は受け継がれた…というべきでしょうか…」
「それはつまり…キミがいう救ってもらったというのは…」
「はい。一度死んだわたしを生き返らせてくださったと…」
「で、でも、聞いた話ではあるがそうなった時、秀幸の意識の方が残る可能性だってあるんじゃ…」
「確かにその可能性もありましたが(実際には全くもってその通りなんだけど)、多少の記憶だけを共有して秀幸さんは……消えて行きました…」
少ししめやかな語り方をしたが、これで納得はしてもらえないだろうか…。なんて思いながら両親の反応を待ってみる。
「そうですか…キミがここに来れた理由がわかった気がするよ。こっちへ…秀幸の仏壇がある」
「…っ!……ありがとうございます」
少し躊躇いながら親父についていく。お袋はまだわたしの…俺のことを引きずっているようでポロポロと涙を零しながら話を聞いていた。
お袋から逃げるように自分の仏壇へ向かい、正面に座る。写真は最後に就活の時に撮った下手くそな真面目顔をした自分だった。
「秀幸は…嘘をつくのがとても下手くそな子だったんだ」
隣に座った親父がそう一言口にすると、やれやれこの人はとつい顔に出てしまったようで
「本当は…お前がその子の身体をもらってしまう形になってしまったのだろう?秀幸」
真面目な顔で…でもどこか優しさを感じる顔でそう語りかけてきた。
「お袋には内緒にしてくれないか?…未だに引きずってるようだったし」
「確かにな。ずっと息子はひょっこり帰ってくるんじゃないかと未だに期待しているようだ」
「でもその期待には答えられない…。身体はもう無いし、何より天ヶ瀬いのりとして生きていくってもう決めちまったんだ」
「そうか…なら親のオレが言えるのは一つだけだ。悔いを残さないように生きろよ」
「うん…ありがとう、父さん」
わたしは自分の仏壇に線香をあげるという貴重な体験をした後、残酷かもしれないがお袋に秀幸さんからと付け加えて「今までありがとうさようなら」と伝えて逃げるように家から出る。
気がかりだった両親のことはわかった。かといってまたこの家の子供として生きていくことは出来ない。親父にも言われたように悔いのないようちゃんと…ではないが両親には感謝の意と別れの挨拶をしておきたかったのだ。
「さて…せっかくこっちに来たんだし」
まだ帰るには日も高いので子供の頃によく行っていた駄菓子屋へ向かった。
「いらっしゃい。あら珍しい子だねぇ」
「こんにちわおばあさん、見ていってもいいですか?」
「あぁもちろん構わないよ」
一応礼儀正しいお嬢様に戻したわたしはにっこりと外行きスマイルで挨拶をし、懐かしい駄菓子を漁り始めた。一度見始めるとこれがなかなかとまらないもので、あれが懐かしいこれが美味しかったと思い返しながらついつい買い始めると口へ運んでしまう。
ひと通り懐かしい味を堪能した後、新しい身体は駄菓子を気に入ったようでこの街での最後の思い出と特に美味しかったお菓子を買っていく。
おばあさんに礼を言って店を出るとそのまま駅へ向かって歩を進める。
さようなら、俺の生まれた街よ。
さようなら、愛しき家族よ。
さようなら……我が愛しき故郷よ。
ここ数日でいきなり冬らしさを取り戻そうとしてくる気温は嫌いだ。青月志乃です。
皆さま寒暖差に身体がお疲れではありませんか?インフルやノロが流行る時期なのでどうぞ体調管理お気をつけくださいませ。わたしはバカなので風邪引かないんで大丈夫です。
いのりちゃんではなく秀幸くんとしての心残りを解消しにいくお話も2話に渡りお送りしました。
これから少々時間を飛ばしていこうと思いますがご了承いただければ幸いです。