第15話 実家へ帰ろう(?)
お正月、家が大手財閥?ということもあり元旦パーティーとなっていた。周りを見ればドレス姿の大人、スーツの大人、髭、ヒゲ、ひげ。
それぞれがわたしを見かけるたびににっこりと微笑んで挨拶をしてきたり、わたしが何度も死にかけている(実際には死んでる)ことを痛ましく心配してきたりする。
「おやおやこれはいのりお嬢様、ご機嫌麗しゅう」
急に後ろから声をかけられた為、よそ行きの笑顔が張り付いた顔を向けるとそこには金髪のキザったらしい青年が立っていた。
わたしを見下ろすように仁王立ちで、値踏みするような視線を向けてくるのには内心すごいイラっとくる。
「おっとお忘れですか?ボクはあなたの〈フィアンセ〉の『多分野 英』ですよ!ん?その顔は本当に覚えがなさそうですね?」
「えっと…申し訳ありません、半年前の重病から回復するときに記憶の大方が抜け落ちてしまいまして…」
「あぁそれはなんとお痛ましい!将来このボクと結婚する身なのですから忘れないでくださいね?ふふふふふ…あははは!」
そう高々に笑い声を上げながらわたしから離れていく男を見て心に誓った。…誰がしてやるものか、と。
その後も沢山の大人に挨拶をされまくり、ぶっちゃけ誰が誰だかさっぱり覚えきれん。…しかしフィアンセときたか…まぁお金持ちだし不思議ではないとは思うがどうもあの男は気に食わなかった。
パーティーの後、わたしの部屋に届けられた段ボールの箱。中身を聞けばお年玉なのだとか。
え、何いってんの?お年玉が箱で届くかよ…。
恐る恐る中を見ればぽち袋がスーパーのリンゴの入ってる段ボールくらいにびっしりと…お給料っていうよりボーナス的なものでは?と疑問に思いながら正直知りたくないがついでに自称フィアンセ君のことを侍女に聞いてみる。
「あー…英様ですね…えーっと…多分野コンツェルンの御曹司で『手に入れられぬものはない』が座右の銘とされるプライドの塊でございます。お嬢様とは…今よりもっとお嬢様が幼い頃に英様がお嬢様をお気に召したとかで周りの方々に言い回っているようですが、皆々様は戯言と相手にされていないようです」
「あー…そうなんだ…ありがとう」
「いいえ、お嬢様のお力になれて光栄ですわ」
そういうと侍女はぺこりと一礼して去っていった。
やっぱりな!!!!と心の中で思いながらポチ袋の中身確認を開始した。合計数百万円という『俺』の年収を軽々しく超える額に眩暈を覚えながら特注の金庫にしまって鍵をかける。鍵はわたしの色盲と指紋が必要であり、耐久性自体は像を叩きつけられようとも傷一つつかないらしい。
三が日が終わった1月4日の朝、わたしは清々しい気分で朝を迎える。連日に渡りパーティーでにこやかな顔を貼り付け続けていた為かいまだに口角が上がっているような感覚が残っているほど筋肉が疲弊しているようで、つくづくお金持ちとやらが大変なのが身に染みてわかった気がする。
食堂へ向かい、いつもよりあっさりめの朝食をお願いすると胃に優しいおかゆが出てきた。
普通の家庭のものに比べると見ただけでも手間がかけられてるんだろうなぁと思える盛り付けにシェフには頭が上がらない。なんかこう、白い飯が少し金色に薄く輝いてるように見えるもん…。
さて、朝食を終えてからわたしはあることを実行することにする。この約半年を新しいわたし…天ヶ瀬いのりとして生きてきたわけだがやはりどうも『俺』の家族がどうしているのか気になってしまう。
思い立ったが吉日という言葉もあるのですぐさま出かける準備をして駅まで送ってもらう。住所はいまだに覚えているので最寄り駅までひとり旅。
「確か…次の駅だよな」
電車に乗って約1時間ほど揺られて目的の駅にたどり着く。
何を思ったのかうちの近くの駅でお土産になりそうな…『母さん』が好きなお菓子を買ってきてしまった自分を鼻で笑うように駅を出ると懐かしい空気につい深呼吸をしてしまう。
駅から徒歩30分ほどかけて懐かしい家の前に足を止めた。思わず涙がこみ上げてくるが周りの目を気にして抑えることにする。
しかしどうしたものか…全く知らない人がいきなり家に押しかけたら流石に不審がられるかな?と思っていると声をかけられる。
「ウチのまえでなにかようかな?」
聞きなれた…でも初めて聞く声色に振り向きその顔を見る。50代後半の…でもそれよりも老けて見える男性がそこに立っており、明らかに不審がっている。
「えっと…新年早々にすみせん。秀幸さんにお世話になったものなのですが」
秀幸…その名前を出した方が話が早いだろうと思い言葉にすると男性は…『親父』はひどく驚いた顔をした後すごく優しい顔になり家の中へ案内してくれた。
変わらない…。わたしがいた頃と全然間取りを変えていないのだろうと思いながら先走らないように気をつけながら案内に従ってついていくと、リビングに通される。
「汚いところですまないね」
「いえそんなことないです!」
「おかえりなさい。…あらお客さん?」
「たっ……お邪魔します」
ただいま…と口にしてしまいそうになり誤魔化すようにぺこりとお辞儀をする。リビングのコタツには白みがかった髪を後ろでまとめた女性が…『お袋』が座っていた。
(なんか…老けたな)
なんて思いながら通されるままコタツに失礼する。
「あ、これよかったらどうぞ」
「これはこれは…ありがとう」
買ってきた手土産を親父に渡し、キョロキョロと周りを見渡してしまう。やはり見えるようなところにはないか。そんなとこをしていると親父が話を切り出してくれる。
「母さん、この子はあいつに…秀幸に世話になったことがあるんだとな」
「えっ…あの子が?この子に…?」
「自己紹介がまだでしたね…わたしは『天ヶ瀬いのり』と言います。息子さん…『坂出秀幸』さんに命を救ってもらったことがあるのです」
命を救った。そういうとお袋は急に涙を流し「そうだったのね」と呟く。親父は驚いた顔をするがすぐにお袋に寄り添い、背中を撫でながら言葉を口にする。
「息子はね…半年前に亡くなったんだ。交通事故だったと聞いている。それから病院に救急搬送されたが…ダメだった」
「そう…だったんですね…」
「息子はどこか抜けていてね…でも、君のような子に優しく出来ていたとは…。もしよかったら息子は君に何をしてあげられたのか、教えてもらえるかい…?」
そう言われて少し戸惑った。親父とはあまり話ができる環境じゃなかったのもあるのか、『俺』との関係性をしっかりしておきたいのだろう。
深呼吸をして、落ち着いたお袋と親父を見て真実を伝える。
「命を…もらいました。秀幸さんの…」
ぶっちゃけ出すつもりはなかったのですが流れ的に出てしまった青年の本名!というわけで青月志乃です。
いきなりそんな話しし始めてもって感じにはなりますが帰省するというか、彼の気持ちに区切りをつけようと思い脳的に実家へ一回帰らせようとそんな感じです。
というわけでまた次回お楽しみに