第12話 風邪にはご注意を
みなさまおはようございます。修学旅行から帰ってきて1週間ほど経過しまして何事もなくいつも通りの学校生活に戻っていく…はずだったのですがお恥ずかしながらわたしは今日も学校を休んでおります。
取ってつけたような病弱設定やめろ?いやいやよく考えてください。わたしの身体はもともと病気しがちなもので、そこから脳死するような病気さえ患って脳みそ取り替えられて今のわたしがあるわけなのですよ。…というわけで今風邪の調子が絶好調でございまして、喉は痛いわ鼻水止まらないわ熱すげーわで体調最悪な状況となっております。
インフルじゃなくてほんとよかったと思いながら、熱を発し続ける身体は汗でべったりで気持ち悪くいっそ裸で寝た方がマシなのでは?とさえ思えてくる。氷嚢で頭を冷やしてはいるが身動きとるのも身体は悲鳴をあげる。
「う…ぁ…トイレに行くのも大変じゃん…」
しかし現実は非情かな…そういうと急激に尿意を感じ、私は全力で抵抗をする。しかし酷い風邪をひいているためあまり力が入らない。
わたしはなんとか侍女をベルで呼ぶが、到着より先にわたしはそのまま力尽きてしまうのだった…。
「急速吸水シートがシーツの下に敷いてあって良かった…」
脳みそ年齢27歳のわたしはそれこそ小学校低学年以降お漏らしなどしたことはなく、しかもこんなベッドの上でやらかすなど思っていなかった。
しかし優秀な侍女はわたしが風邪であるとわかるとすぐさま着替えをさせ、その間にベッドにこのシートを敷いておいたのだそうだ。被害はシーツとシートのみ。…あ、あとわたしの寝間着も。
お粗相してしまったが為に着替えと一緒に身体の汗も一緒に拭いてもらった。
「ありがとうございます。それと…ごめんなさい…」
「い、いえ大丈夫ですよお嬢様!お身体を崩されているんですから仕方ない事ですし、ね?」
侍女の1人にそう諭され支えられながらまた部屋に戻る。
すでに新しいシートとシーツに変えられており、ベッドに入ると肌触りのいい感触が安心感のようなものを与えてくれる。新しく敷いた氷嚢の冷ややかな感触も合わさってそのまますぐに睡魔に襲われ眠ってしまうことにする。起きた時にはもう少し身体が楽になってればいいな…なんて淡い期待をして。
周りがうるさい…。ピーッピーッと機械音がするがそれ以上にわたしを呼ぶ声が聞こえる。
泣きじゃくっているような、叫んでいるような。やだなぁ…ただの風邪で死ぬわけないのに。
「い…いのりちゃん!?目開けた!…みんなぁ!!いのりちゃん起きたぁ!!!!」
「いのり!?いのりぃ…ょかったぁ…ぐすっ…」
重い瞼を開けるとアキちゃん達が見えた。その後ろではまるで信じられないものを見るような目で白衣を着た人間が数人見える。
…ふと、左手が温かい感触を覚える。
かな「少し前に…ね…いのりの心臓…ぐすっ…止まっちゃって…ぐすっ…もぅ…」
後半はもうすすり泣き声でよく聞き取れなかったが、わたしはまた一度知らないうちに死んでいたらしい。だんだん視界もはっきりしてきた。顔を動かして周りを確認すると、眠るまではなかった色々な機材、身体中に貼られたモニタリング用?の電極、他にもアキちゃん達やお医者さん、複数の侍女…それだけでなんとなく『やばいことが起きていた』ことはわかった。
「もう大丈夫だよ…ありがとう」
かなちゃんの手を握りしめ、微笑んで声をかけてあげる。わたしの声を聞いてかなちゃん達は侍女に連れられ一旦離れ、それを確認したお医者さんはわたしの身体から電極を外していく。
「もう長いこと医者をやってきたが…君のように生命力の強い子は初めて見たよ…全く医者としてまだまだなのかもしれないな私は…」
「そんなことないですよ…ありがとうございました」
医者が帰ってから、かなちゃん達はわたしの部屋に戻ってくるとわたしを囲むようにして集まる。みんな目が赤く腫れておりずっと泣いていたのかなと思われる。…こんなわたしに泣いてくれる友人を持って幸せだな…いやまて違うこれ死ぬセリフじゃん!?なしなし今のなしでお願いします!
しばらく何も声を発せずいると、アキちゃんが急にパタリと倒れた。
「あ、アキちゃん!?」
アキ「くーーー…すぴぃ…Zzz」
ゆあ「……紛らわしい!?」
かな「みんな心配で…昨日の夜から寝てない…」
「え…!?ちょっと待って今いつ!?」
ゆあ「土曜日の夕方よ今…」
「そんなに…本当にありがとうね」
まだ少しだるさの残る腕を動かし、ゆあちゃんとかなちゃんの手を握ったあとアキちゃんの頭を撫でる。アキちゃんは撫でられると「うにゃ」と可愛らしくひと鳴きして、わたしの布団に顔を突っ込んでくる。風邪の症状はあれだけ酷かったにもかかわらず今はなんともない。ゆあちゃんはベッドの反対側から、かなちゃんはアキちゃんを少しどかすようにして添い寝するようにお布団に入ってくる。わたしはそのまま2人にサンドイッチにされてしまい両サイドから程なくして寝息が聞こえ始める。
起きてばかりではあるが周りを取り囲む寝息にだんだん眠気が込み上がってくる。特に抵抗する意味もないのでそのまま身を任せてもう一度眠ってしまう。
友達の温かさがとても心地よく、深寝してしまいそうだったのはナイショの話である。