黄昏の時間・・予知夢・・終末の悪夢 ・・覚醒する最後の黄金の竜の王
深夜・・
ここは黒の王宮の一室・・
少年の姿をした 黒の王・火竜王アーシュランの部屋
柔らかな毛布に包まれ 「ううん・・」寝返りをうつ・・眠っているアーシュ
薄っすらと開いた瞳は いつもの焔色の瞳でなく・・黄金の金の色・・
再び 目を閉じる・・そのまま深い眠りへと誘なわれる・・夢の中へ・・予知夢・・
見るべきではない・・未来の予兆・・・終末の悪夢・・
鎧を纏い 大人の姿のアーシュは激しい長い戦いの中
激戦に 血まみれに・・ 傷だらけになりながら 剣を振るい 魔法の呪文を何度も唱える
「炎! 焔の柱! 敵を焼き尽くせ!」
「ぎやああ!」 「うわああ!」 多くの敵が炎に包まれ 焼け死ぬ・・
だが・・次々と恐れを知らぬ 敵の大群が襲いかかる 中には 魔法の呪文を唱える者も・・
「風の矢!」敵の呪文!
サッと 剣を持ってない右手で逆立ち 横にジャンプ!敵の攻撃魔法を避ける・・
しかし・・次にまた 同じ風の呪文の魔法の矢が次々と飛んできて
よけきれずに そのうちの一本が 右腕に命中する!
「っつ!」痛みに声がもれる 矢をへし折り そのまま戦い続ける・・
「火竜王様! あちらです・・あの奥の部屋に 巨人族の王と例の魔法使いがいます!」
味方の兵士が叫ぶ
再び・・子供の姿の・・今の眠っているアーシュ・・
うなされ・・また少し目を少しだけ 開ける・・黄金の金の色の瞳
・・まだまだ夢は・・終末の悪夢は続いてゆく・・
再び目を閉じるアーシュ
次に見た光景は・・相変わらずの血まみれで 傷だらけの自分の鎧姿・・
床に巨人族の王の首が転がり・・
宿敵だった あの敵の魔法使いの胸に剣を突き刺して
はあはあ・・と荒い息をしながら・・アーシュは言う・・「これで終わりだ 魔法使い・・」
「・・これで 呪いの入れ墨は残るが テインタル王女は解放される・・この戦いも・・・」
「・・ふっ・・ふふ」口元かから血を流しながら 魔法使いは笑う
「・・・何がおかしい?」アーシュは問う
がしっと 剣を刺しているアーシュの左手首を掴み こう言う・・
「・・・私は・・・遥か遠い時代・・長い時を生きてきた・・追放された神の一人・・」
「・・何故 この大陸に二千年もの間 戦が絶えなかったと思う?
私が 歴代の王や 白の宗主達に取り入り・・裏で操ってきたのですよ・・
絶大な魔力を 手に入れる為に・・風と土・・水の魔力・・
絶大な力を持った 先代達の黒の王達の力は すでに我がものにした・・
時や心に干渉したり 支配する特別な力は 先の黒の王 貴方の父親・・
竜の王の死体から 取り込んだ・・」
魔法使いは ローブから アーシュにその顔を覗かせる・・誰にもみせた事のない顔
・・40代前後の男の顔・・瞳が様々な色に変化する・・
歴代の幾世代もの黒の王達・・その魔法の力 属性は瞳に映して現れる・・
昔の水の魔法の世代・・水の王・・水の竜王の目の色 深い青・・揺れるように薄い青にも・・
土の魔法の世代・・薄茶から黒・・豊かな大地の色・・
風の魔法の世代・・銀と淡い黄緑色・・空の青にも・・
最後に見せたの黄金の金の色・・先代 アーシュの父王と同じもの・・
「今・・この身は滅ぶが・・死にはしない・・
ずっと炎の世代を待ち続けた・・前回の炎の世代は奪いそこねた・・ずっと欲しっていた
特に欲しかったその力・・魔力!
全てを焼き尽くす焔の力・・
私が大いなる力を手にいれ・・天上の世界に戻り・・私を追放した神々と呼ばれる私の同族・・
彼らを 皆殺しにする為の大いなる絶大な魔力・・力・・
あのもう一人の火竜王テインタル王女だけでは まだ足りない・・
・・ゆえに 黒の王 火竜王アーシュラン貴方の力を・・
だが・・簡単には 殺しはしない・・長い間 手間取らせてくれた礼に
そなたをじわじわと殺して・・嬲り殺してやろう・・
黒の王 火竜王・・貴方の命と魔力を奪う・・」
ぐいと 左手首を握られながらも 力を入れて 魔法使いの身体に剣を突き刺す・・・
「うぐっ!」声を上げる 魔法使い 彼の口から また血が流れる・・
「ふっ・・ふふふ」魔法使いは笑う
「・・世迷言はここで終わりだ・・そんな状態で 何が出来る」
「何がおかしい?」怪訝な顔をするアーシュ
「ん・・うっ!・・ううっ!」今度はアーシュが 息苦しそうに 苦しそうな声を口から漏らす
突然 前ぶれもなしに 電流のような力が
アーシュの身体中を巡り 身体の中から 焼けるような激しい痛みを感じる
魔法使いは ぶつぶつと魔法の呪文を唱えてる・・
「・・き・・きさま! 何をしている魔法使い!」
アーシュは痛みに歯ぎしりをして 叫ぶように言う
「・・貴方の命、魔力 全てを頂き 奪うと言いましたよ・・ 火竜王」
ガリっと 音がして 床から光が走り 無数の水晶の尖った鋭い先が 下から次々とアーシュの身体を貫く!
「うおおっ!」身体を貫かれた 激しい痛み
「ぐっ・・」焔色の赤い瞳を見開くアーシュラン
口元から血が滴る・・
魔法使いは また小さな声で 魔法の呪文を唱えてる・・
「・・これで魔法は完成・・貴方を殺す・・じわじわと長い時間をかけて・・
私は・・再び新しい身体を・・新しい絶大な焔の力を手にいれる!」
真っ白な大きな光が アーシュと魔法使いの身体・・二人を包み 光が消えた途端
二人は消える・・
・・しばらく後・・声・・
「アーシュ様!」アルテイシアが呼ぶ
肩を上下に動かしながら・・
荒い息とアーシュランと同じく 敵の返り血と敵から受けた攻撃で傷つき
血がまみれの鎧姿のアルテイシアが部屋に転がりこんできた
あるのは 無数の血が飛び散り 部屋中をあちら こちらと・・染めている事と・・
首のない胴体と 斬り落とされた 巨人族の王の首・・
「どこに? 火竜王様 !アーシュ様 」アルテイシアが叫ぶ
気を失っていたが 無数の水晶に貫かれた激しい痛みで 目を覚ますアーシュ
ほとんど光のない場所 闇の中・・廻りには多数の美しい無数の水晶群・・
アーシュの身体は何本もの水晶に貫かれ その水晶に少し斜めに立った状態でいた・・
倒れかけてる身体を貫いた水晶が支えてる・・
外そうと 身体を動かそうとするが まるで力が入らない・・
動けない・・
「くっ・・くそう!」アーシュ 身体と口元からは 血が流れ・・止まらない
「くくっ・・動けないでしょう・・それは私が作った魔法の水晶・・」
倒れて・・胸から血を流して・・その胸を手で押さえ上半身だけ起こして 魔法使いは言う・・
「・・じわじわと・・何年か、長い時間かけて・・その水晶は 貴方の身体を貫きながら・・
その命・・を奪う・・
貴方が力尽きて・・命と魔力を奪い終えて・・
魔法の水晶は私の身体を復活させ・・貴方の焔の力も貰いうける」
「・・テインタル王女に彫りこんだ呪いの入れ墨 あれも同じ効果がある・・
少しずつつで・・彼女は気がつかないが・・
ゆっくりと私にその魔力と寿命を奪われていたのだよ・・」
「あと10年足らずで テインタル王女は・・死ぬ・・」
「・・さすがは 純粋な血を持つ火竜王
貴方なら もっと早く死んだでしょうね
母親は 魔力のないただの人族・・半分は人族だから・・・」
「テインタル王女は もっと早く死ぬはずだったが・・時間がかかった・・」
「・・貴方が殺してくれれば 手間がはぶけて良かったのに」
「・・貴様・・」アーシュの焔の赤い瞳が 怒りで輝く
「ふふふ・・動けまい・・火竜王」魔法使い
「二人の火竜王・・その莫大な魔力・・」
「痛いでしょう・・あと その状態で 不死身に近い身体・・
再生能力 それでも数年しか持たない・・しかも半分は人族
貴方はその魔法の水晶に貫かれたまま 寿命と魔力は無くなる・・奪われる」
「癒しの呪文は効かない・・黒の王 火竜王」
「一人では 動く事も出来ない・・誰もこの場所は わからない・・」
「・・私は復活する・・」そう言い残して 魔法使いは倒れ・・
身体はチリとなり ローブだけが残る・・
アーシュは 動こうと何度も試みるが 動かない
何度も癒しの呪文を唱えても・・まるで効かない・・
水晶を破壊する魔法の呪文も効かない・・
効果ない・呪文の詠唱の声だけが残るだけ・・・
「うおおおっ!」絶望・・アーシュの絶叫・・
痛みに気を失う・・
そして・・長い時間が流れる・・
その間 ずっと 呪文や身体を動かす事を試すが・・徒労に終わる・・
また何度も激しい痛みに気を失う・・そして その激しい痛みで目を覚ます・・また気を失う
長い間 その繰り返し・・幾度 絶望のあまり 舌を咬み切ろうと思いかけた事か・・
・・一体・・どれだけの月日過ぎたのか・・戦の結末は・・? エイル・・皆・・無事だろうか・・
また 意識が遠のく・・
現在 今の時間・・黒の王宮 ベットの中でうなされるアーシュ
また少し瞼が開く・・金の色の瞳 また閉じる・・眠りの中へ・・
・・長い時間・・どれだけの時間が過ぎたのか・・
もう意識は 半分ない・・いつも朦朧としている
アーシュの流した血で 魔法の水晶は深い赤い色に変化して
目覚める度に より赤く深く透明に・・宝石のような美しい赤 ますます輝きを増している・・
時折 はっきりと意識のあった時に エイルやアルの声がきこえた気がする・・
ある時・・声がした・・聞こえた・・ また幻聴かもしれないが・・
また長い時間が過ぎる・・ ある時にアーシュはハッとする
エイルの声・・
「・・アーシュ・・」エイルのか細い声・・
悲鳴が聞こえた 僅かに泣き声・・・一瞬の悲鳴
エイルの痛みに アーシュの身体が同調する「! うぐっ・・つうう・・」・・ほぼ即死だ・・
恐らく 何らかの事で 殺されて 一瞬で即死したのだ・・
その瞬間 アーシュの瞳が焔の色から黄金の金色に変わる・・涙が流れる・・
「エイルが・・たった今死んだ・・」呟くアーシュ
「エイル・・エイル・・エルトニアああ!」絶叫する
涙を流したまま そのまま気を失う・・
ゆっくり 首だけ左右に振り動かす・・そして また気を失いかけた時に
声がした・・テインタルの声・・また幻聴か・・ぼんやりと上を向く
目の前にいたのまテインタル王女 アムネジア・・
「・・テイ?」 幻覚かも知れない・・でも・・もしや
テインタルは涙を浮かべ流す・・
「なんて・・惨い・・アーシュ兄様」テインタル
「本当に・・テイか?」アーシュ
「そう 私・・ 今助けるわ!」テインタル
幾つもの呪文を試すテイ 「風のかまいたち!」 「大地の精霊!水晶を砕け!」
「・・無駄だ・・テイ・・」アーシュ
涙がテインタルの瞳に浮かぶ・・
「・・この頃 魔法が使えないの・・そのせいかしら・・
身体も弱り 時々 気が遠くなったり・・眩暈がしたり・・
えっ!・・アーシュ兄さまのその顔・・何か知っているのね・・」
「・・テイ・・」弱弱しくアーシュは言う・・
何も言わずにアーシュの顔に触れる・・
金色の瞳に変わるテインタル・・過去見の力を使う
「そう・・そうだったの・・」
再び 元の焔色の瞳に戻る・・
「・・何をしても 無駄だ・・テイ 俺を殺せ・・
このまま 嬲り殺しになるのは嫌だ・・」
「それに あの魔法使いが もう少しで蘇ってしまう・・俺の命と魔力と引き換えにして・・」
「・・そんな事はさせない・・それに 私の命を使っても 貴方を助けるわ」テインタル
「・・・戦は アルテイシアが大将となり 勝利をおさめたわ・・
8年前にね・・ その間 解放された私はアルテイシアの傍で 安らかな幸せな時間を持てた・・
こんな私を受け入れて 廻りの人達も優しく接してくれた・・
アーシュ兄様・・
リアン殿が 王となって・・今は 黒と白の国は 一つになり その国を治めてる・・」
「貴方を探し出すのに 8年かかった・・・
もうすぐリアン殿達が迎えにくるわ 私は一足先に飛んで来たの」
自分の服を少し脱ぎ 身体にしまってある 背中の漆黒の翼を広げて見せるテインタル
・・それから その翼を身体の中にしまい 再び自分の服を整える
「・・可哀そうに・・8年もの間 たった一人で・・
こんな所で・・無数の水晶に貫かれ 一人で苦しんで・・」
「・・・愛してる 私のお兄様」
「私の・・もう一人の火竜王」瞳には涙・・
アーシュの顔を両手でそっと包み込み その唇に自分の唇を重ねるテインタル
「・・今 助ける」テインタル
今度は アーシュが金色の瞳に変わる ハッとする テインタルが何をしようとするのか 瞬時に知る
「やめろ!テイ 身代わりなどになるな! 俺を殺せ!テイ」
「・・・いずれにしろ この呪いの入れ墨のせいで 数年内に私は死ぬのよ・・アーシュ兄様・・」
「魔法使いが死ぬ寸前にアーシュ兄様にそう言った・・」微笑むテインタル
テインタルは呪文を叫ぶように唱える
「私は火竜王 先の黒の王・竜の王の娘!すべての精霊よ!
我 この身を もう一人の火竜王と入れ代えろ!」
ザックッザック!にぶい音を立てて 無数の水晶が一瞬にしてテインタルの身体を貫く!
「はうっ!!」
代わりにアーシュの身体を貫いていた パキン パキンと音を立てて 水晶が砕け散る
「テイ!」よろめきながらアーシュはテインタルのもとに行く・・
「キスして・・最後の願いよ・・そして とどめを・・
私の場合は あと2年かかる・・わかるの・・」口から血が滴る・・
今は金色の瞳のテインタル・・
はあ・・と息を吐くテインタル
「・・アーシュ兄様・・この水晶に貫かれたこの痛みに 8年も よく耐えられたわね・・
私なら耐え切れずに舌を咬み切っていたと思う・・可哀そうに・・」テインタル
「・・俺も耐え切れずに 何度か舌を咬み切りそうになった・・」アーシュ
テインタルの頬を優しく撫ぜる・・
「すまない・・テイ・・許してくれ・・」そっと唇を重ねる
そして・・アーシュは 痛みを感じなくさせる麻痺の呪文を唱えた・・
「・・優しいのね アーシュ兄様・・」微笑むテインタル
「・・本当にすまない・・」アーシュ
「私の愛しい もう一人の火竜王・・」テインタル
「・・・いいの さよなら・・アーシュ兄様 愛してる・・」
「時の向こう側でエイルと一緒に待ってるわ・・」焔色の瞳で微笑む テインタル
短い呪文を唱え アーシュの左手に光の玉が出現する それは光る小さなナイフになる
それをテインタルの首筋にあて 一気に斬る・・
血が噴き出す
「ぐっ・・」そのまま事切れるテイ・・テインタル
「・・・・」沈黙して 目を閉じるアーシュ
遠くから声が響き聞こえてくる
アーシュはそのまま 気を失い倒れた・・
目が覚めたら ベッドの上に寝かされていた・・
窓からそよぐ風 バルコニーがある広い部屋
小鳥がさえずる声が聞こえる
「ひさしぶりですね アーシュ殿・・」微笑むリアン 淡い金髪 淡い薄青の瞳
以前と変わらない・・姿・・穏やかな気質もそのまま
今は2つの国の片腕の国主・・王
「・・リアン」アーシュ
ベットに寝かされてる自分の身体には沢山の包帯が巻かれている
止めどなく流れていた血は止まっている・・
アーシュはゆっくりと上半身だけ 起き上がる
「っつ・・」痛みが走る
「まだ 横になった方が・・」
リアンが声をかけて アーシュの肩に手を触れる
「大丈夫だ・・」アーシュ
「何があったかは・・わかってます」リアン
「過去見が出来る幻獣を 私は持っていましてね・・
その幻獣が 貴方と死んだテインタル姫の事を調べ
起こった出来事すべてを教えてくれた・・」リアン
「・・アーシュ様」傍にいたアルテイシア・・
「・・アル・・」
アルテイシアは泣いていた・・
「・・すまない・・アル 俺の為に テイが・・テインタルが・・」アーシュ
「・・いいのです テイの死に顔は微笑んでいました
満足してるでしょう・・」アルテイシア
「テイの身体は 水晶から外す事とが出来なくて そのまま髪をひと房だけ残して
魔法で塵に 返しました・・」
「・・・身体をそのまま放置しておいたら あの魔法使いが
蘇ってしまうかも知れないので・・」
「髪は 黒の王宮の墓所に埋葬します 黒の王女に相応しい葬送の儀式も・・私達が・・」
「あの魔法の水晶群は 破壊する事が出来なくて・・入口を封印しました」リアン
「アーシュさま 貴方が早く 元気に・・」泣きながらアーシュを抱きしめるアル
「・・無駄だ・・わかっているだろうアル・・」アーシュ
・・・アーシュを抱きしめたままアルテイシアは涙を流す
泣ているアルテイシアの涙を指先で拭こうとして 腕をあげようとするが動けない・・
抱きしめようとするが 力がはいらない 腕はだらりと下がり
そのままの状態で抱きしめられてるアーシュ
「今は休んでくださいアーシュ殿・・」リアン
「でも 少しだけ話があります・・恨み事もね・・
「エイルの事を・・知っていたのでしょう・・死んだ事も死ぬ運命にある事も
避けられたかも知らないのに・・」
「・・エイルの腕の呪いの焼き印の事も・・」
「・・正直 呪いの焼き印をしたテインタル王女の事を心から許すのは・・少し時間がかかりました・・
事情を聴きましたし 彼女の呪いの入れ墨のせいでもありますから・・
エルトニアもアルテイシア姫も彼女を庇いましたから・・8年間 彼女も皆も・・
仲良く暮らしていました」
「・・・それから・・」リアンは続けて話す・・
「エイル エルトニアの事です・・
未分化の身体で 妊娠して 一時 命も危うかったのですよ・・
薬師には 何度も降ろすように言われて・・無駄だとはわかっていましたが
エイルの子供を降ろすように説得した事も・・
出産は 危険な賭けでした・・思った通り・・難産でした」
「・・焼き印は すべて 俺のせいだ・・すまない・・」
「エイルの死・・すまない・・だが 詳しい事は知らなかった・・それに
どうやっても エイルは死ぬ運命にあった事は知っていた・・無駄だとわかっていた」
「・・それと・・妊娠の事だが
あの年齢なら 普通は単体化 男か女かどちらかの性になってたはずだが・・
エイルは稀なタイプだった・・
・・俺もエイルも互いに待ちきれなかった・・すまない」うなだれるアーシュ
「・・わかりました もう休んでください 私も この状態の貴方に少し言い過ぎました 謝ります
でも・・その前にあと一つだけ・・」
「入りなさい・・アーシュラン」部屋の向こう側 ドアの方にそう呼びかけるリアン
「・・?」きょとんとするアーシュ アーシュラン・・
小さな男の子がドアから入ってくる 髪は黒 瞳は・・
右は 焔色の瞳 左は天空の青・・オッドアイ
面差しは アーシュに似てる・・
「貴方の名前を頂きました・・エイルと貴方の子供ですよ アーシュ殿」
「さあ お父様にご挨拶しなさい・・」リアン
「・・はじめまして・・お父様」顔を少し赤くして小さなアーシュは言う
「・・少し小さなアーシュと話したい リアン」目を細めて 微笑みアーシュは言った
「・・わかりました 少しだけですよ・・行きなさいアーシュ」リアン
「はい!」元気よく駆け寄り 大きく両腕を広げ 背伸びして アーシュの身体を抱きしめる・・
「・・お父様・・」
身体が動かないアーシュは 微笑んで
そのまま小さなアーシュ・・ 自分の息子に抱きしめられて 目を閉じる
ドアを閉じ リアンとアルテイシアの二人は部屋の外へ・・
「・・アルテイシア姫・・覚悟しておいて下さい・・アーシュ殿の身体
出血は何とか止めましたが 傷口が塞がらない・・また出血の可能性もある・・」
「今度は あの猫耳の人間達の外科手術で 傷口を縫うつもりですが・・恐らく繋がらないでしょう
魔法の傷だから 呪いの魔力で 繋いだ糸がちぎれて 開く可能性もある・・」リアン
「・・そんな・・」アルテイシア姫
「その上 彼の魔力のほとんどは すでにあの魔法の水晶に奪われていました・・
不死身に近い・・
例えば 首以外は・・斬り落とされた自分の腕をすぐに繋ぐ事も 再生させる事も出来る
黒の王族の身体の再生能力は 失われました・・」
「それにアーシュ殿は 半分は人族・・火竜王とはいえ・・
8年もの長い年月の間・・よく持ちこたえたものです・・」
「・・・もって後・・数か月・・恐らく今度の冬の季節は越せないでしょう・・」リアン
「・・アーシュ様」涙があふれて流れ落ちる・・
そんなアルテイシアを 自分の残った片腕で 抱きしめるリアン
「・・聞こえますから・・こちらへ・・そこなら 幾らでも泣いて下さい・・
私がお邪魔なら 席を外します」リアン
「・・傍にいて下さい・・耐えられない!惨すぎる!私のアーシュ様 可哀そうなテイ・・」
涙がとめどなく止まらないアルテイシア
「・・わかりました・・向こうの部屋で・・気持ちが落ち着くお茶も用意させますから・・」リアン
現在の黒の王宮・・寝むっていて 「ううん・・」と うなされているアーシュラン
ぼんやりと目を開けかける・・だが また眠る・・子供姿の・・今のアーシュ
また 夢の中へ・・
ベットで横になってるアーシュ
リアンと会話をしている
リアンは そのようにエイルが死んだか 教えてくれた・・
「・・エイルが死んだのは まだ三月前の事です・・」
「偽情報でおびき出され 丁度 出かけていた私やアルテイシア姫の帰りを待たずに
飛び出してゆきました・・そして荒れ地の林の中で 矢で胸を射抜かれ死んでいました・・」リアン
「冷たい大地の上で あの美しいオッドアイの瞳を見開いたまま・・見送る者もなく たった一人で・・」
「・・ほぼ即死だったようですが・・ほんの数秒間 意識があったのか
瞳には 涙が残ってました・・私がエイルの瞳を閉じました・・」
「即死に近く・・ほとんど苦しくない事がなかったのだけが救いです・・」
「きっと その時 貴方の名を呟いたのでしょう・・」リアン
「・・エイルが死んだ瞬間 貴方は あの無数の魔法の水晶に貫かれながら・・エイルの声を聴き
エイルの死の痛みに同調したと・・アルテイシア姫に言われたそうですね 彼女から聞きましたから・・」リアン
「・・皮肉なものだな‥戦士の俺はこのままベットの上で死ぬだろう・・エイル・・エルトニア」
左手を自分の顔にあてるアーシュ 泣いてはいないが・・肩が小刻みに震えている
「・・・・」リアンは黙ってアーシュの様子を静かに見守っている
「セルトは・・?」アーシュ
「セルト将軍は死にました あの激しい戦いで 沢山の魔法の攻撃と無数の槍で身体を貫かれ・・
壮絶な死にざまでした・・貫いた無数の槍が支えになり ほとんど立った状態で 絶命しました・・」
「戦に参加した竜人はすべて あの戦で戦死しました・・」
「ただ一人 戦に参加しなった 黒の王都の魔法画、画家の竜人の老人 彼だけが生き残りましたが
昨年 急な病で 身罷りました・・」
「長き年月に渡り、黒の王族を守護してきた・・竜人の一族は絶えました・・滅びました・・。」
「あのケンタウロス一族が絶えて 滅んだように・・・」リアン
「・・ナーリンが産んだセルトの子供は? あの子は?ナーリンは?」再びアーシュが訊ねる
「セルト将軍の妻のナーリン殿ともども 死にました・・
黒の王宮に攻め込んだ 敵の兵士達に斬り殺されました・・
その時に二人の竜人の妻達と幼い子供達がいましたが
同じく斬り殺されました
その時に タルベリイ殿も・・」
・・セルト・・ナーリン・・タルベリイ・・あのナーリンとセルトの子供・・
ナーリンの腕に抱かれていた 小さな竜人の赤ん坊・・
彼らの姿を想い浮かべて 唇を噛み締め 目を閉じる アーシュ
しばらく後の沈黙の後で またアーシュがリアンに訊ねる
「・・巨人族は その後どうした?」アーシュ
「巨人族の事ですか・・あのエリンシア姫の夫 アーサーが王になりました
今は平和条約を結び やっと本当の平和を手にいれました・・」
「・・幾世代にも・・二千年の長い時間 歴史の裏から歴代の黒の王や白の宗主
今回は巨人族の王を操ってきた あの魔法使い・・追放された神・・奴は 滅んだ・・」
「奴がいない この世界に やっと本当の意味の平和が訪れる・・」アーシュは呟く・・
「・・・・先読みの話では 焔・・炎の魔法の世代は 二度と出ないそうです・・
貴方とあの小さなアーシュで終わりです・・火竜王」
「・・それに 全ての属性を持った竜の王も・・現れない・・」リアン
「・・・焔の世代よりは 戦は少ないが 必ず黄金の瞳の・・竜の王の時代も戦いは多い・・」
「・・戦乱の時代が終わったという事か・・」アーシュ
「・・黒の王族の血が流れている家系の黒の貴族の子供で
天才的な先読みの子供が現れて・・全てを予言しました・・
貴方が囚われているあの魔法の水晶の場所を その力で・・読み取りました・・
片目だけ 黄金の瞳です・・」リアン
「その瞳・・竜の王の力か・・それは いつか直接 礼を言わないとな・・」アーシュ
「・・そうですねアーシュ殿」リアン
「その子は以前 何度か この城に遊びに来て 小さなアーシュとチエスをしてましたね
アーシュより 年上ですが 仲がいいですよ・・ふふ」リアン
「・・平和と繁栄が続き 幾世代か風と水と土の魔法の世代が出た後には・・
王は子を残せずに この王国も滅び・・
直系の人々は 特殊な疫病で 死に絶えるそうです・・
血を受けついだ傍系が少し残るだけだそうです・・」リアン
「・・・そうか・・王国は そうやって終末を迎えるのか・・」静かな声でアーシュは言う
こんこんドアを叩く音
「どうぞ」リアン ガチャリと扉が開く
「お茶をどうぞ お父様 リアン父様」
小さなアーシュがお茶とお菓子を乗せたお盆をかかえて やって来た
「・・有難う・・小さなアーシュ・・」アーシュは目を細めて笑う
二人の様子にリアンも微笑む・・
その時である 声が廊下から聞こえた そして どたどたと廊下を走る足音も一緒に
「わんわん!!アーシュ様 わん!」どたどたどた!走り来る足音が近くなる
「まさか・・ワン子・・?」アーシュ
「そうですよ・・彼はかなり歳をとりましたが 元気です ふふ」リアン
「どうやら あの水晶のせいで あなたの記憶が幾つか忘れているようだから 説明しますが
わん子はもう 貴方が黒の王 火竜王だという事・・
貴方の正体は すべて 知ってます」リアン
・・そう言えば たった今 廊下から聞こえた わん子の台詞・・
ずっと 「アーシュさん」だったのに 「アーシュ様」になっている・・
・・いつ 知ったのだろうか? あのニブニブは・・?
「今は 仕事で 連絡係をしてますよ
それで リュース家と この城を往復しています 貴方の小さなアーシュのいい遊び相手です」
クスッと笑うリアン
「わん子は ここしばらく ずっと リュース家の方に行っていて
やっと帰ってきたんだよ お父様」今度は小さなアーシュが言う
「・・アルテイシア姫の父君リュース公は あの戦の怪我が元で 身体が弱り 病気がちですが・・
今度の雪花の季節に 貴方に会いに来るそうです・・」リアン
そこに わん子が部屋に飛び込んできた!
「アーシュ様ああ わんわん!」
泣きながら ベットに横になっているアーシュに抱きつくわん子
再び 現在 黒の王宮 「・・わんこ・・」眠りながら寝言を言うアーシュ
また夢の中・・
アルテシア姫とリアンが二人
眠っているアーシュの部屋のドアの近く廊下で話をしている
ドアは開いている・・会話が聞こえて 薄っすらと 目を開ける・・
意識は半分 眠ったまま 二人の会話を聞くアーシュ
「あの魔法の水晶群から助け出して以来 アーシュ殿は
起きてる時間より 眠っている時間の方が長いですね・・」リアン
「・・ええ」アルテイシア
「・・エイルが死んだせいで 自殺でもされないか 心配でしたが
身体も思うように動かす事も出来ずに・・
・・ただ アルテイシア姫と小さなアーシュ わん子達のおかげで
気力だけは 回復されましたね・・小さなアーシュが来る度
いつも目を細めて笑顔を浮かべている・・。」
「・・食欲もあまり ありません・・」アルテイシア
「・・そうですね・・特に心配なのは 傷口の事です・・予想通り・・
猫耳達の外科手術をして 傷口を縫い合わせましたが
やはり傷口に呪いの魔術が掛かっていて
すぐに 縫い合わせた糸がちぎれて かえって傷口が更に大きく広がった
魔法と魔法薬で 出血と化膿だけは何とか抑え込んでますが・・」リアン
「・・昨夜 夜遅く 傷口から突然 出血されて・・痛みも酷くて
アーシュ様が もがき苦しまれて大変でした・・
幸い 魔法薬のおかげで 出血も痛みもおさまりましたが・・」
不安そうなアルテイシア
「・・もっと術がないか 捜してます・・」リアン
「・・はい」アルテイシア
・・二人の会話を聞きながらアーシュは眠くなり そのまま目を閉じる・・
アーシュが目が覚めると
今度はすぐ傍で椅子に座り アルテイシアが林檎をむいていた
「・・起きられましたね・・もう お昼ですよ・・」微笑むアルテイシア
「小さなアーシュは?」アーシュ
「リアン殿と魔法と剣の練習中です・・家庭教師の勉強も
ありますから・・今日は遅くなると思いますよ・・」
「・・そうか・・ところで気がついたか?
小さなアーシュの焔色の方の瞳・・
時折 黄金の金色に変わる・・」アーシュ
「・・本当ですか? でしたら・・小さなアーシュも・・」
「・・そのうち 過去見の力を使いだすだろう・・
この力だけは 半分は人族の俺にもあったから・・他の力も覚醒するかもな・・
俺もそうだった・・」アーシュ
「そうですか・・楽しみですね・・まず 飲み物をどうぞ・・アーシュ様
搾りたての林檎ジュースですよ」林檎ジュースの入ったコップを差し出す
「有難うアル・・」アーシュは林檎ジュースを口にする
「・・ところで小さなアーシュですが 顔は貴方ですが・・どうも性格はエイルの方に
似たようです・・そっくり・・」コロコロと笑うアルテイシア
「・・えっ?」顔色を変える・・アーシュ
「・・まさかと思うが・・味オンチか? まさかとは・・思うが・・料理は下手か?
キッチンを爆発させたり・・とか・・」まっ青のアーシュ コップを持つ左手が震えている
「はい ご想像通り 味オンチで 料理は下手・・キッチンなら もう二度爆発しましたわ」
にっこり笑うアルテイシア
ますます青くなり 目を見開き 手からコップを落としそうになるアーシュ
その手から コップをサッと受けとり 何事もなかったごとくコップを傍のテーブルに戻す
アルテイシア
目を見開いたまま フリーズしているアーシュ
「・・本当に性格はエイルの方?」恐る恐る聞くアーシュ 声が震えてる・・
「・・間違いありませんわ・・料理に関しては・・アーシュ様があれ程の料理上手でしたから
楽しみにして 期待してたのですが・・残念ですね」微笑むアルテイシア
「・・それより・・大丈夫なのか?
将来は・・リアンの跡継ぎになって この2つの王国の王になるのに・・」口元がゆがんでいる
「・・そうですね ちょっと心配ですが・・まあ何とかなりますわ
私達もいますし・・亡くなられる前に タルベリイ殿が
優秀な人材を沢山育てて彼らを遺しましたし・・
・・もし 私が本当にリアン殿の妻になったら 必ず女の子を産みます
その子は小さなアーシュと恋をして 結婚して支えます・・
必ず性格は私かリアン殿に似ると思いますから 大丈夫です」
きっぱりと言いきるアルテイシア
「・・確信してるようだな・・」左腕の肘をベットにつき
左手で少し横を向いた自分の顔を支えて笑うアーシュ
「・・酒も強そうだ・・二人とも強いからな」
「貴方は下戸ですものね・・残念ながら 一緒にお酒を飲みたかったのに」
「・・酒に酔って 本当に押し倒されて そのまま本当に襲われる事になるとはな・・
まあ・・一応 予想はしてたが・・お前の方がアル 実はエイルより先だった・・」
「・・それは初耳です・・私の方が先だったのですか?」
「・・実はそう・・」顔を横に向けて 視線をそらし 上を見上げてアーシュは言う
「・・でもちょっと残念ですね 貴方とは あの時の一夜が一度きり・・・
しかも 酒に酔って あまり覚えてない・・」
「・・エイルとは幾度か夜を共にされたのでしょう?
その睦言を聞きたいですわ・・」
「・・・・」口元をゆがめるアーシュ
「・・どうされましたの?アーシュ様」
「・・おいおい」
「そんなに俺とエイルの睦言を知りたいのか?アル?」
口元を歪ませえたままアーシュは言う
「当然 興味ありますわ」アルテイシア 言葉に力が入っている・・
「・・・・」アーシュの沈黙が続く
「・・前に少し話した・・」アーシュ
「詳しくは 聞いてませんわ」アルテイシア
また しばらくの沈黙・・黙ってじっと見るアルテシア
少々 目が恐い・・
「大体 それは俺とエイルだけの・・」アーシュ
じっ・・とアーシュをまだ睨んでる・・
「・・・アル・・お前に剣と魔法の勝負で勝った試しはない
俺の負けだな・・・」やれやれと ため息をつくアーシュ
観念して話しだす・・
「・・・抱いたのは 数える程・・
最初に求めてきたのは エイルの方・・」
「だが未分化体の身体は 子供の身体に近い・・負担が大きい・・
ここに来て 最初にリアンと話した時にも話に出たが・・
本来なら あの年齢なら 性別は確定してるのはずなのだが・・
稀にあるらしい・・
単体化を促進する薬もずっと飲んでいたのに・・
最初は慎重にしていたが・・一度だけ俺の方がとまらなくて
‥エイルが嫌がっていたのに無理に抱いた事がある」
「事が・・済んで・・俺は正気に戻り 謝ったが・・
泣いて・・数日 口も聞いてくれなかった・・」
「その後 エイルが許してくれて その時に
抱こうとしたら・・エイルの身体が少し震えて怖がっていたから
途中で俺はやめようとしたら・・エイルが俺にキスしてきて・・」
「・・そのまま抱かれたのですね・・」アルテイシア
「・・それが最後・・」アーシュ
「その時は 優しく出来ましたか?」アルテイシア
「・・なんとかな・・」
「・・その後は 戦が始まりかけて・・大騒動になったから・・
それどころではなかった」
「・・その時だと思いますわ・・エイルが身ごもったのは・・」アルテイシア
「・・多分 アーシュ様 貴方は発情期に入っていたのでしょう・・
仕方ないですわ・・」アルテイシア
「・・そうか・・」アーシュ
「・・よくこらえられましたね・・発情期の始まりはなかなか抑えるのが
特に辛くて・・セーブは難しいのですよ
・・私に声をかけてくれたら良かったのに・・
あの時の一夜の交わり・・
それが引き金になって 私も発情期に入りかけたのですよ・・
幸い すぐに納まりましたが・・
・・身体はエイルと違い 単体の女性 年齢通り
成熟しておりましたのに・・
貴方の第二王妃なのに・・貴方との夜の事は
私が押し倒したあの一度きり・・
貴方はされるがままで・・というか 凍りついてて・・
私にされるがまま・・
私はお酒に酔ってあまり 覚えてはいませんが・・」
「まあ 貴方の方はよく覚えてますよね・・
私も貴方の子供が持てたかも知れないのに 残念です」
「・・それに あの時のあの・・いまいちのやる気のなさ・・
本当に・・本当に・・いまいちのあのやる気のなさ・・
私が押し倒した後 服だって私がベットの上で脱がせて・・されるがまま・・」
「・・少々緊張してたのか 怖がっていたのか・・凍っていたみたい・・でしたけど・・」
その時の事を思い出し 少しむくれるアルテイシア
「そうか? そっちは かなり楽しそうだったぞアル」
「・・・本当はよく覚えてるじゃないか アルテイシア!」少し赤くなるアーシュ
「結局 酒に酔って 押し倒して襲って 本当に楽しそうだった・・」
「まさか本当に襲われるとはな・・普通 逆だよな
・・それに一応・・後半戦は頑張ったぞ・・一応・・」
顔に手をあてて 下を向き視線を逸らすアーシュ
「‥一応だけね・・」
「それも それなり程度・・本当に・・それなり程度・・」軽く睨み じと目のアルテイシア
「やっぱり しっかり覚えてるじゃないか・・!」
「頼むから・・そんなに責めるな! いじめるな! 俺の第二王妃・・」アーシュ
「・・いいえ 攻めますわよ・・ふふふっ」笑みが浮かんでるアルテイシア
「・・どうしたら機嫌をなおしてくれる?」アーシュ
ゆっくりとアーシュに顔を近づけて アルテイシアはアーシュに軽くキスをする
「・・見逃してあげます 私の王様」アルテイシアは微笑む
そして 次に・・少しため息をつくアルテイシア・・
「黒の第二王妃の称号は頂きましたが・・黒の第一王妃のエイルともども・・
戦が始まる直前の あの大騒動のせいで正式な結婚の儀式が出来ませんでしたし・・」
アルテイシア
「その件は 俺も残念だ・・二人の花嫁衣裳を見るのを楽しみにしてたから・・」
アーシュ
「・・仕方ありませんね・・あら?」アルテイシア
「どうしたアル?」アーシュ
「料理が冷めてしまいましたわ・・御免なさい すぐに温めます」
「いや 大丈夫だ それは ジャガイモのポタージュだろう
冷えても大丈夫だ・・食べる・・」
「でも・・」
「いいから・・少し食欲はないが なんとか入りそうだ・・」
ポタージュをスプーンで飲むアーシュ
「ん・・うまいな・・久しぶりに美味しく感じる・・」
「小さなアーシュには どちらの剣の型を・・? 黒の国か それとも白の国?」
「両方ですよ・・剣の扱いは上手ですね・・魔法も大丈夫・・
小さなアーシュは飲み込みが早いし・・リアン様は 教え方がお上手ですね」
「・・そうか」アーシュ
「・・小さなアーシュにあのリュース家に伝わる剣舞はもう教えたか アル?」
アーシュ
「いいえ まだです」アルテイシア
「あの剣舞は美しい・・アルとあの小さなアーシュの剣舞を見てみたい・・」微笑むアーシュ
「・・少し 眠たい・・悪いが・・小さなアーシュが来たら 起こしてくれ
ポタージュの残りも その時に飲むから・・」半分 瞼が閉じかけているアーシュ
「わかりました・・むいた林檎は塩水につけて・・そうですね・・すりおろしましょうか?
それから ポタージュは温めなおしておきますね
お休みなさいアーシュ様」アルテイシア
ドアが閉まり・・眠りにつく・・
それから・・静かに日々は 過ぎて行く・・眠っている時間の方がもっと長いなり
段々と 身体が食事を受けつけなくなってゆく・・
リアンやアルテイシア 小さなアーシュ わん子の会話が楽しみだった・・
だが・・あのエイルがいない・・それが寂しく とても辛い・・
「・・エイルのいない世界・・案外と・・耐えられたな・・」ポツリとベットに寝ながら
アーシュの一人言・・
「・・一人・・冷たい大地の上で 見送る者もなく・・すまない・・エイル エルトニア・・」
そして・・エイルの腕の呪いの焼き印・・
「・・すべて 俺が悪い・・俺が・・許してくれ エイル・・」唇を噛み締める・・
閉じた瞳に涙がひとすじ・・
気がつくと
部屋はいつの間にか 黄金色の光で満たされている・・黄昏の時間・・
「もう・・こんな時間か ほとんど寝ていたな・・昼時に一度 起こされたが・・
食事がまったく 入らなくて・・アルはスープを持ってくると言いていたが・・
・・そのまま 寝てしまったんだ・・」ため息をつくアーシュ
「・・少し 寒くなってきた・・あ・・」アーシュがよろよろとしながら上半身を起こす
窓辺のバルコニーから雪花の木が・・雪のような白い美しい花々を咲かせている・・
無理をして 身体を起こす・・少し動くたびに身体のあちらこちらが痛む
顔をしかめながら 手で 壁を伝い・・二度転びそうになりながら
なんとかバルコニーの椅子に腰かける
「・・ふう・・ああ 上着を忘れた・・・」ため息をつく
よく見ると・・雪花は かなり花びらが散っている・・
黄昏の・・黄金の光を浴びて 雪花は美しくその白い花びらを散らす・・
「・・雪花は ひと月前に咲き出す・・なんで気がつかなっただろう・・
まあ・・いいか・・」椅子に座り・・最初に見た 雪花の祭りの事を思い出す・・
雪花の美しさと・・あの異母兄妹テインタル王女・・アムネジアの最悪の出会いと事件・・
・・エイルの腕の呪いの焼き印・・
・・その後のわん子やリアン達との出会いと・・やっぱり大騒動の事件・・
「・・まあ わん子と・・魔法薬の材料を捜すあの騒動・・
今 思い返せば・・それは案外と・・楽しい思い出・・
事件はそれなりに楽しかったな・・わん子とも出会えたし・・
最初にリアンに出会ったのも あの大騒動の最中だった・・白の国の武官として 赴任して来て・・」
その後の雪花祭りは 騒動もなく 楽しくエイルやアル・・皆と楽しく過ごせた・・
・・最後の雪花祭り・・雪花が咲く前に 戦争が起こったから・・
あの時 雪花祭りの時に 結婚の儀式をしようなんて 言わなければよかった・・
もっと早く
そうだな・・その前の別の祝祭 たとえば大地の女神レセフイールの祝祭にでも
結婚の儀式を上げたらよかった・・まったく・・二人の花嫁姿・・見たかった・・
・・祝祭の時に 結婚の儀式をするのは縁起担ぎの意味もあるが・・
ほぼ伝統だから・・白の国もそうだし・・・
花びらがアーシュの肩の上に何枚も落ちてきた・・
・・・・遥か彼方の未来の時代にも雪花は残って咲いていると あの猫耳の・・
だめだ・・顔や出来事は覚えてるだが・・名前が出てこない・・
記憶がまた・・
まあ 結局 本当の子供時代の記憶はほとんど思い出せなかった・・
どんな風に白の国でエイルと最初に出会い どんな日々を送ったのか・・
記憶を失くす前に アルテイシア達とは・・どうだったのだろう・・
こんこん 扉にノックの音「入りますよアーシュ様 食事の・・」そう言いかけてアルテイシア
バルコニーの椅子に座っているアーシュがいる しかも上着もなしに・・
「アーシュ様!」アルテイシアが
スープの皿や他の食事の乗ったお盆を落として まっ青になり部屋に飛び込み
バルコニーのアーシュの元に駆け寄って来た
「いけません!無理に動いて
ああ 上着もなしに こんなに身体が冷えて!」アーシュを抱きしめるアルテイシア
「・・アルテイシア」まるで無邪気な子供のような笑顔を見せるアーシュ
「・・気分がいいんだ・・もう少しここにいさせてくれ・・雪花をよく見たいアル」
「・・上着と足元に掛ける小さな毛布・・それとクッションをお持ちします」
アルテイシアはアーシュの身体を少し起こして 椅子にクションを敷き 上着を着せて
足元に小さな毛布をかける・・
「・・有難うアル・・いつもすまない・・」微笑むアーシュ
「アーシュ様・・」アルテシア
「ちょっとだけ すいません・・アーシュ様 すぐ戻ります」
少しの間だけアーシュの傍を離れる
そして 落ちていたお盆や割れたスープの皿や落ちた食事をかたずける
「ふう・・ドア付近の絨毯の染みは また後で・・召使にまかせましょう・・」
独り言・・
「・・お盆を落としてしまいましたから・・代わりの食事をお持ちしますね」
「有難う アル・・だが 少し一緒にここいてくれないか? この黄金の黄昏の時間が終わるまで・・」
「わかりました・・では・・」アルは隣の椅子に座る
「食事は 入らない・・スープと林檎の擦ったものか ジュースだけでいい」微笑むアーシュ
「はい・・」少し心配そうな微笑み 答えるアルテイシア
「明日 リュース公が来るな・・ずっと俺の世話ばかりで 父親のリュース公に会うのは
ひさしぶりになるな・・すまないな・・アル」アーシュ
「気にされないでください・・私は貴方の第二王妃・・妻ですのよ」微笑むアルテイシア
「・・・」アルテイシアを見つめて笑うアーシュ
「・・リュース公とは8年前のあの激戦の戦の時に会って以来だ・・」アーシュ
「そうですね・・父の容姿は 長寿のこの黒と白の一族ですから
あまり変わりませんが・・あの戦の怪我で身体が弱り 病がちです・・
本当は早くアーシュ様に会いたかったと先日の手紙には そう書かれてました・・」
「・・そうか・・」アーシュ
「・・あの小さなレグルス・・ケンタウロス族の女の子は?」
「元気ですよ あのままの姿で・・今はあの魔法使いで薬師のジェンとリュース家にいて
多分 父と一緒に来ますわよ ふふっ」アルテイシア
「・・あのジェンか・・俺の記憶を吹っ飛ばした張本人・・
結局 俺の記憶は 殆ど戻らなかった・・文句を言ってやる・・」口を歪めるアーシュ
「・・ふふっ アーシュ様たら・・もういいじゃないですか 許してあげては・・」アルテイシア
「・・・わかった・・アルがそう言うなら・・そうする」微妙な表情のアーシュ
「・・最近 本当に素直ですね・・うふふ
もう少し頑張って お食事食べてくださいね」アルテイシア
「・・それから 先程リアン殿から聞いたのですが
巨人族の王アーサーの娘・・テイナ姫が この城に来ます・・
半年程・・この国に留学する事になりました・・」アルテイシア
「・・・エイルの異父姉妹か・・肖像画の母親のエリンシア姫に似てる・・
エイルにも・・少し似てる・・」アーシュ
「・・・千客万来だな・・会えるのか・・」アーシュ
「ええ・・楽しみですね・・」アルテイシア
「・・そうだな・・楽しみだ・・」
「・・・アル・・アルテイシア」微笑むアーシュ
「・・何ですか?」アルテイシア
「・・・そろそろ終わりの時間らしい・・エイルが迎えに来たようだ・・」
「・・有難う アル・・」
目を細めて笑うアーシュ 子供のような・・満足そうな笑み
「・・!」目を見開くアルテイシア
「・・・雪花が・・白い花びらが・・とても綺麗だ・・」ゆっくりと焔色の瞳を閉じるアーシュ
アーシュが瞳を開けると・・そこにエイル エルトニアが立っていた
白い足が見える短めの服・・
ウエーブのかかった長い金の髪は頭の上で一旦結ばれて そのまま下に流している
ポニーテールの髪型・・
アーシュが覚えている最初の頃のエイルの姿・・エイルは優しく笑っている
「エイル・・俺のエルトニア」アーシュはエイルに微笑む・・
エイルはアーシュに手を差しのべて 腕を引っ張る
うまく動かなったはずの身体はこの時はなんなくと動き
腕を引っ張られて すっと 椅子から 立ち上がる・・
アーシュはエイルを抱きしめて・・唇を重ねる・・
「・・愛している・・エイル」アーシュ
「うん・・僕もだよ アーシュ 愛している・・」エイル
「うふふ・・」笑うエイル 「どうしたエイル?」アーシュ
「子供の姿のアーシュもちょっとカッコよくって可愛かったけど
大人の姿のアーシュもりりしくて・・いいなあ・・って・・
でも わん子さんが言ったように
目つきは確かに 吊り上がって大きいよね・・ふふっ」エイル
ちょっとむくれてアーシュは言う
「エイル エルトニア・・8年・・いや9年近くか・・どうせ俺の目つきは 鬼瓦・・
ひさしぶりに会ったというのに・・それは・・」ジト目になるアーシュ
「うふ・・ごめん」そう言って 軽くアーシュの唇にキスをするエイル
「・・行こう・・向こうで みんな・・待っているよ
セルト将軍も ナーリンも テインタル王女も・・タルベリイ殿も・・みんな・・
待っている・・」
「・・ああ」アーシュは微笑んでエイルに答える そしてもう一度唇を重ねる・・
そして アルテイシアは目を閉じたままのアーシュの身体を揺する 何度も・・
腕がだらりと落ち アーシュの身体が・・・少しずつ冷たくなってゆく
「・・起きて・・起きてください・・お願いアーシュ様 私の火竜王!」
「いけません! お願い まだ・・まだ・・連れて行かないでエイル! テイ! お願い!
まだ沢山話したい事が残ってます!貴方が楽しみにしていた剣舞もまだ見せてない!
私の父にも会ってない! エイルの異父姉妹のテイナ姫も来ます!
貴方の小さなアーシュを・・私を・・置いて行かないでください・・お願い・・」
「起きてアーシュ様!」涙を流しながら 泣き叫ぶアルテイシア
廊下をアーシュの部屋へと・・三人が歩いてくる
リアンに小さなアーシュ・・それにわん子が歩いている
「テイナ姫様か・・」小さなアーシュ
「エイルお母様の異父姉妹で 僕の叔母様・・会うのが楽しみです リアンお父様」
「楽しみですワンワン!」わん子
「そう言えば わん子さん リュース家に行っていて 一週間ぶりだよね お父様に会うのは・・」
小さなアーシュ
「はいですワン! アーシュ様 黒の王・火竜王様に会うのは
一週間ぶりですワン! 本当は明日 リュース公様達が行くから 一緒に・・言われたのですけど・・
このお土産の林檎のコンポートとテインベリーの果実を早くお届けしたくて
帰ってきたですワンワン!」
「あ、僕もお菓子の料理作るよ! お父様やみんなの為に 頑張るね!」
小さなアーシュ嬉しそうに 握りこぶし
「・・いや お前は大人しくしていなさい・・」青くなり 静かに諭すリアン
「こ・・この前 爆発した アーシュ様専用のキッチンまだ 修理出来てないですワン!
今度にしましょうワン」
必死で言うわん子
実は・・わざとキッチンは 修理されてない・・
顔はアーシュ似だが・・恐ろしい程の下手な料理の腕と究極の味オンチと・・
何故だかキッチンを爆発させる癖は 母親のエイル譲り
しかし・・趣味は料理 そこだけは父親似・・残念な事に・・
・・残念ながら・・料理の才能は・・
あのアーシュランには似なかった・・父親である料理の天才だったアーシュには・・
何人の者達の腹が壊れた事か・・あの時のトイレの前の行列・・・・
皆 今にも 死にそうな顔をしていた・・
リアンもアルテイシアもわん子も当然 被害を受けてる・・
「・・別棟のキッチン 城のコック長が貸してくれるって・・」小さなアーシュ
「・・あのコック長・・余計な事を・・前の引退したコック長と入れ代わり・・
入ったばかりだから・・何も知らないから・・」少し横を向き ポツリとつぶやく青い顔のリアン
「えっ?今なんて言われたの?聞こえなかった・・」小さなアーシュが笑って問う
その無邪気な笑顔を見ながら・・リアンは決心した・・
「・・・そのお菓子は私が食べるから・・今度にしなさい・・」自爆覚悟でリアンは言う
「り・・リアン様ワ・・ワン・・」まっ青のわん子
リアンと目が合う・・わん子・・リアンのその決意表明に
そおっと心の中で涙を流すわん子・・頑張ってくださいワン!
「・・わん子さんも食べるよね・・当然」リアンはわん子を巻き添えにする事にした
・・・滅多に見せる事のない 不気味な笑みを浮かべてるリアン
普段は 隠されてる・・ダークサイドな影の部分の本性・・
「・・・・・わん」怯え青い顔のわん子・・ああ 哀れなる犠牲者わん子?
「・・アーシュは 歓迎の宴で 剣舞をアルテイシア姫と舞うのだろう
彼が・・お前のお父様が楽しみにしてたから・・そっちにまず 集中して・・」
とリアンが言いかけた所に
「・・様・・アーシュラン様ああ!」「いやああ!!」
アルテイシア姫の絶叫が聞こえる
慌てて 三人は廊下を駆け抜けて アーシュの部屋へと・・
ドアの所には 落ちた食事の沢山の染み・・
そして・・部屋の奥のバルコニーで 椅子に座ったアーシュが目を閉じている
そのアーシュの身体を抱きしめて アルテイシアは声を上げて泣いている・・
「・・わん・・アーシュ様・・まさか‥ワン」わん子
「・・・お父様? 姫様?」小さなアーシュ
目を見開き・・そして 全てを悟り・・
リアンは残った片腕でまず 自分の顔を覆う・・瞳を閉じる 涙が浮かぶ・・
その涙をスッと拭い・・・また目を開く そっと見る・・不安そうな顔をする小さなアーシュ
「・・アーシュ・・」静かな声で そっと言う・・
「・・リアンお父様・・」小さなアーシュ
「・・お父様にお別れを言いなさい・・お前のお父様は 逝かれた・・
お前の母親・・エルトニア姫の処に行かれたから・・」
蒼白になり・・小さなアーシュが答える
「・・はい リアンお父様・・」
・・・現在・・今の時間・・
黒の王宮・・・
まだ朝の時間に近ついて来たが まだ 明けきれぬ夜の時間
子供姿の今のアーシュ
やっと長い夢が終わり・・解放されて
目を覚ます ゆっくりと瞼を開ける・・
ベットから 上半身だけ起こす・・
「・・・んっ?」自分が夢を見ながら泣いていた事に気がつく・・
自分の瞳の色がまた あの黄金の金に変わっている・・しかも片目だけ・・
「・・こんな事は 初めてだ・・」
いつもなら 力を使い終わったり・・自分の意思一つで 元の焔色に戻せるのに・・
戻す事が出来ない・・
それに・・あの生々しい・・激しい痛みに・・食事の味・・さまざな感触まであった あの夢は・・
一体 なんなんだ・・?
「・・・この前 時空を飛んだ時に・・時の狭間の力に触れて・・
覚醒したんだよ・・眠っていた能力が・・アーシュ殿」
ゆっくりと声の方に振りかえる・・
「・・・その声・・レグルスか?」アーシュ
「ああ・・火竜王殿」銀の髪の女ケンタウロス レグルスが立っている・・
レグルス傍にはあの時の回廊 巨大さそりの処で出会った 幼い少女の姿の女神バステイル
バステイル・・猫耳で片方の耳には金に輪に小さなピアス
肩より少し長いだけのストレートの髪・・髪の先には少しずつ黄金の縦長の飾り玉
じゃらじゃらとついている 髪の先 全てに・・
胸元には大きな首飾り 古代のエジプトのファラオのような・・
首飾りにはトルコ石に
赤い宝石にエメラルド 青いラズラベリの宝石が埋め込まれている
「・・・詳しい事は お前に聞いた方が早そうだな・・レグルス」起き上がり
レグルスの処に行くアーシュ
「・・そうだな・・竜の王の力は 精神や時に・・特に通じている
お前が視た夢は 予知夢・・終末の悪夢だ・・
「・・・これから 起こる現実の未来・・そういう事なのか?レグルス」
硬い表情で レグルス達を見ながら アーシュは言う・・
「・・・残念ながら そういう事だ・・火竜王アーシュ殿・・」
「・・・・どうすれば 未来は変えられる?」アーシュ
「俺は エイルを死なせたくはない・・」
「あの8年の地獄の魔法の水晶群に貫かれる責め苦も・・テイの犠牲も・・セルトやナーリン達・・」
「・・・・」黙った見つめているレグルス達・・悲しそうな憐憫の表情・・
「・・・変えられない・・そういう事か・・」アーシュ
「・・忘れさせてやる・・見るべきでない・・後 数年間 お前達の安穏な幸福の時間は
約束されている・・運命のその時まで・・・
忘れるべきだから・・その覚醒した力も消す・・」レグルス
「!」アーシュは目を見開いた後で レグルス達を睨み身構える・・
「・・・今にも炎の魔法で攻撃しそうな勢いだな・・アーシュ殿」レグルス
「・・・次第によってはな・・レグルス」睨みつけたまま言うアーシュ
「・・すぐに済む・・痛みも何もない・・忘れるだけだ・・」
「失礼いたします 火竜王様」バステイル
彼女はサッとアーシュの顔の前に手を上げて 素早く呪文を唱えた
手から 大きな光が生まれ その光がアーシュの身体 全てを包み込む
ドサリ 倒れかけた アーシュの身体をレグするは受けて
軽々と受け止める
アーシュは目を閉じて 眠っている・・
アーシュの身体をベットに運び 寝かせて そっとをか毛布をかける
「もうすぐ朝だ・・それまで 今度は良い夢を・・アーシュ殿」レグルス達は去る
眠ってるアーシュ
そして・・朝
「おはよう!アーシュ」 「アーシュ様」 「やあ おはよう アーシュ殿」
「アーシュ様お早うございます」
エイルやナーリン、 リアン セルト将軍が それぞれ 声をかける
「あ ああ・・おはよう」アーシュは笑う
「先に 我々は食堂へ行きますよ・・お待ちしてます では」リアン
「お先にアーシュ様」セルトとナーリン
エイルは 立ち止まり アーシュを見る
「・・どうしたのアーシュ?なんか調子悪いの 顔色が悪いよ」エイル
「ん・・ああ ごめん ちょっと夢見が悪くて・・」ため息をつくアーシュ
「大丈夫? どんな夢?」エイル
「・・いや よく覚えてない・・」アーシュ
「そう・・まあ 気にしない 気にしない!」明るくエイル
「・・腕輪・・」アーシュ
「うん 綺麗でしょう? おニューだよ リュース公がまた くれたの」エイル
魔法の腕輪・・エイルの呪いの焼き印を隠すもの・・
そして 呪いを防ぐもの
腕輪の下には あの痛々しい 焼き印が隠されている・・
「エイル・・」エイルを見つめる瞳・・悲しそうな目
「・・どうしたの? 本当は夢 覚えてるでしょう?・・どんな夢 話して」エイル
「・・だから 覚えてないってば・・大丈夫 少し 食欲がない
朝食はパスするよ・・悪いが みんなには そう言ってくれないか・・・
昼は食べる・・じゃあ・・部屋で休むから また昼に・・」アーシュ
「ン・・待って その瞳 よく見せて 何か今・・」エイル
「・・なんだ・・?」アーシュ
「目が 金色だよ・・しかも片目だけ・・」
ハッとするアーシュ
「・・エイル・・俺の記憶には ないが・・
子供時代・・一、二度そんな事があったらしい・・
記憶を失くし 大人の姿だった頃の俺の書いた覚書・・日記に記載されていた・・
・・悪いが・・人には言わないでくれ・・エイル」
「力が暴走して・・ちょっとした騒ぎがあって・・
知ったら・・それを知っているセルト達が心配する・・」アーシュ
「・・すぐに元に・・あ、ほら・・」瞳をパチクリして見せる・・再びの焔の色の瞳・・
「そう・・戻ったし・・そういう事情なら わかったアーシュ」エイル
「・・エイル」 「何? アーシュ?」かがみ込んでアーシュの顔を見るエイル
そのエイルの頬と唇に軽くキスするアーシュ
「・・じゃ 昼まで起こさないで」アーシュ
「・・了解 アーシュ 後でね」少し赤くなるエイル・・
エイルは 皆の後を追い 朝食が用意されてる食堂へ向かう
今のアーシュの言葉は嘘・・とっさについた アーシュの嘘・・・
アーシュは 自分の部屋に戻りバタンと扉を閉める・・
ガチャリと鍵をかける・・
普段は開けたままの部屋の鍵・・
しばらくの間 瞳を閉じているアーシュ
ゆっくりと・・目を開ける・・
硬い表情・・開けた瞳・・焔の瞳・・
だが片方は黄金の金の色・・先の黒の王 竜の王と同じもの・・
「・・・しくじったな・・レグルス・・効かなかったぞ・・今の俺には・・」
「・・すべて・・覚えてる・・覚醒した力も消えてないぞ!・・レグルス」
声が震えてる・・怒りを帯びた声・・
「・・・もう この瞳は戻らない・・先程 エイルにしたように
妖しの呪文で これからは 誤魔化すしかない・・」
ゆったりとした部屋に置かれた 一人用のソフアに座る・・
「・・・」ため息をつき・・すぐに真剣な表情に変わる・・正面を見据える
「・・この出来事を・・未来を知り・・覚醒した竜の王の力を手に入れた以上・・」
アーシュは呟く
・・抗う・・・
・・徒労に終わるかもだけかも知れない・・
歴史に干渉し 変える事になるかも・・知れない・・
「・・・やるか・・」ゆっくりと瞳を閉じるアーシュ
狙いを定める・・・
意識を飛ばす・・狙った時間 その瞬間 確実にその時に・・未来に・・
・・ここ・・ここだ!・・・
あの激しい激しい激戦 あの悪夢の予知夢の始まり・・
未来の自分と意識を重ねる 傷を負い 血まみれの鎧を身に纏った大人の姿の未来の自分に・・
瞳が 片方だけ黄金の金の色に変わる!
巨人族の王の部屋に飛び込み まず王の首を斬り落とし 即座に魔法使いの胸に剣を突き刺す
未来の時間 あの時のように・・
それから 瞬時に その剣を引き抜き
魔法使いの首を真横一文字に 斬り落とす!
胴体は 倒れ落ち 首はゴトンと音を立てて 転がる・・
「・・やった・・か・・」はあはあ・・と 荒い息をはきながら アーシュは呟く・・
だが・・
生首は・・笑う・・
「クククッ・・」そして 生首は あの時と同じように
小さな声でぶつぶつと呪文を唱える
また あの時のように 身体中に電流のような力が走り抜け 身体が焼ける痛みに
アーシュは悲鳴を上げる・・
「・・・魔法使い・・お前・・」アーシュは生首を睨みつける・・
魔法使いは あの時と同じ言葉を繰り返して言う・・
「・・・私は・・・遥か遠い時代・・長い時を生きてきた・・追放された神の一人・・」
「・・何故 この大陸に二千年もの間 戦が絶えなかったと思う?
私が 歴代の王や 白の宗主達に取り入り・・裏で操ってきたのですよ・・
絶大な魔力を 手に入れる為に・・風と土・・水の魔力・・
絶大な力を持った 先代達の黒の王達の力は すでに我がものにした・・
時や心に干渉したり 支配する特別な力は 先の黒の王 貴方の父親・・
竜の王の死体から 取り込んだ・・」
生首は ふわりと・・浮かび上がる・・
・・40代前後の男の顔の生首・・瞳が様々な色に変化する・・
歴代の魔法の力を象徴する瞳の色に・・様々な色 歴代の黒の王の瞳に・・
「・・おや・・その瞳・・片方だけが 黄金の金の色・・
成程・・魔力は純粋なテインタル王女の半分だが・・
覚醒したと・・そうゆう訳ですね・・黄金の竜の王の力・・」
魔法使いの生首は にやりと笑う・・
ハッとして 思わず 目を見開き 自分の変化した黄金の色の瞳に 空いてる右手で覆う
「・・・その力も頂きますよ・・火竜王」
焼けるような酷い痛みで 思うように 身体が動かないアーシュ・・
「・・くっ・・」歯ぎしりをする・・このままでは・・また・・あの煉獄の場所へ
魔法の水晶群に刺し貫かれ・・8年の歳月を刻む・・地獄に連れて行かれる!
ブツブツと呪文を唱える魔法使いの生首・・
「今・・この身は滅ぶが・・死にはしない・・
ずっと炎の世代を待ち続けた・・前回の炎の世代は奪いそこねた・・ずっと欲しっていた
特に欲しかったその力・・魔力!
全てを焼き尽くす焔の力・・
私が大いなる力を手にいれ・・天上の世界に戻り・・私を追放した神々と呼ばれる私の同族・・
彼らを 皆殺しにする為の大いなる絶大な魔力・・力・・」
「貴方は私の贄・・いけにえだ・・」
もう一人の火竜王テインタル王女に刻んだ あの呪いの入れ墨は
じわじわと その魔力と寿命を奪ってゆく・・彼女は 後 数十年の命・・
貴方が殺してくれれば 手間がはぶて良かったのに・・」
「・・魔法使い・・きさま・・」片方の焔の瞳が赤く燃え上がる アーシュは生首を睨みつける
「あのもう一人の火竜王テインタル王女だけでは まだ足りない・・
・・ゆえに 黒の王 火竜王アーシュラン貴方の力を・・
だが・・簡単には 殺しはしない・・長い間 手間取らせてくれた礼に
そなたをじわじわと殺して・・嬲り殺してやろう・・
黒の王 火竜王・・貴方の命と魔力を奪う・・」
「すでに 魔法は完成した!」
ガリっと 音がして 床から光が走り 無数の水晶の尖った鋭い先が
下から次々とアーシュの身体を貫く!
「うおおっ!」身体を貫かれた 激しい痛みに悲鳴を上げる
「ぐっ・・」オッド・アイとなった焔色と黄金の瞳を見開くアーシュラン
口元から血が滴る・・予知夢・・悪夢で見たあの時と同じように・・
魔法使いは また小さな声で 魔法の呪文を唱えてる・・
「・・これですべての魔法は完成・・貴方を殺す・・じわじわと長い時間をかけて・・
私は・・再び新しい身体を・・新しい絶大な焔の力を手にいれる!」
真っ白な大きな光が アーシュと魔法使いの身体・・アーシュと魔法使い生首を包む
また あの場所へ・・煉獄の水晶群にアーシュを連れ去る
そして また あの場所へ・・
アーシュは 闇の中の美しい無数の透明な水晶群に
身体を刺しつられている あの時と同じように・・
生首は 浮かんだまま 笑っている
「・・じわじわと・・何年か、長い時間かけて・・その水晶は 貴方の身体を貫きながら・・
その命・・を奪う・・
貴方が力尽きて・・命と魔力を奪い終えて・・
魔法の水晶は私の身体を復活させ・・貴方の焔の力も貰いうける」
「・・・・私は 蘇る・・その魔法の水晶群が 貴方の魔力と命を奪い終わってた後に・・」
魔法使いの生首はそう言い終わって・・ 転がり落ち 塵となって・・消えた
変化した片方の黄金の瞳が 元の焔色の瞳に戻る・・
あの時と同じ刺し貫かれた激しい痛み・・血が流れ落ちる・・
「ぐっ・・うつ・・うう・・」口元からも また血が滴る
痛みに悶え 無駄と分かっていても
身体を水晶群から外そうとして 左右に揺らす・・
全く・・動かない・・
そして・・ある恐ろしい事に気がつく・・
融合した意識が 身体から離れられない・・
・・再び・・瞳が片方だけ黄金の金の色に変わる・・
そして また焔の色に戻る・・
・・このまま・・
・・・俺は煉獄の8年を過ごす・・テインタルが犠牲になり
救われる日まで・・そして・・あの黄金の黄昏の中・・
アルテイシアの目の前で 命が尽き果て・・
エイルが迎えに来てくれる その日まで・・
・・これは・・代償か・・未来の時間に干渉した代償・・
「・・まさか・・そんな・・」
「・・うっ・・うわあああ!・・ぐつ・・く・・」悲鳴を上げて その後 激しい痛みに気を失う・・
月日が流れ・・リロードするように・・同じ事を繰り返した後で・・
時に意識が融合し また少し離れ・・遠くから未来の自分を見ている・・今の時間のアーシュの意識
そして・・あの激しい痛みや身体の苦しみは 感触はそのまま同じように体験して・・
感じて 同じように苦しみあがく・・
あの最後の黄金の黄昏の時間・・雪花の花びらが舞う中 エイルが迎えに来る・・
エイルと未来の自分は・・キスを交わしている
ぼんやりと・・最後の瞬間の未来の自分を見てる・・アーシュの意識
アーシュがエイルと立ち去ろうとした その瞬間
未来のアーシュがこちらを見て 笑いかける・・
そして 軽くため息をつく 未来のアーシュ・・もう一人の自分
「・・・一緒にいるのは・・気がついていた・・
辛かったろう・・あの激しい痛みや苦しみをほぼ共有したのだから・・」
「・・最初の試みは失敗したな・・だが・・また未来に干渉するのだろう・・
止めても無駄だろう・・あの煉獄の8年も 覚悟したうえで試みる・・過去の俺・・アーシュラン」
「・・・・」子供の姿の・・今のアーシュの意識は沈黙する・・
「・・・そろそろ・・俺達は還る時間・・」
何も言えず・・ただ黙って聞いている今のアーシュ・・過去の時間の・・
「もうすぐ エイルが扉をノックする・・昼の時間だ・・お別れだ・・」
「・・片方の黄金の瞳・・妖しの呪文を忘れないように・・
それから・・・
・・幾度か抗って試した後に レグルス達が気がついて 止めに来る・・
その時は もう、あきらめろ・・じゃないと手遅れになる・・
レグルス達の訪れは・・それは合図だ・・
まあ・・ その時が それがいつなのかは 必ずわかるだろう
その時はもう限界だから・・身体も心も・・
止めても・・無駄だから・・止めない・・俺の性格は・・よく分かっている・・
どういう意味かは 戻ればすぐわかる・・
傷は一応 水の呪文の癒し ならすぐに塞がる
今のお前なら もう水の魔法も扱える・・」未来のアーシュ
寂しそうに笑う未来の大人の姿のアーシュ・・
「・・何故? 何故なんだ?何故そんな事を・・?」過去の時間 今のアーシュ
「・・・お前が融合したから・・俺にも その黄金の瞳の力
竜の王の力で・・視た・・
お前がこれからする事も・・その顛末も・・」
トコトコと迎えに来たエイルが こちらに来て かがんで頬に軽くキスをする
「・・やっぱり 子供時代のアーシュはちょっとカッコよくて 可愛い・・」ふふっと笑う
「・・エイル・・」未来のアーシュが笑う
「うん・・アーシュ 還ろうね・・」
未来のアーシュはエイルと抱き合いながら こちらを向き・・笑う・・
少しずつ その姿が消えてゆく・・
アーシュの意識は 今の時間・・現在の時間・・本来の身体に引き戻される・・
こんこん!軽くる扉をノックsる音・・
「起こしに来たよ お昼ご飯食べるよアーシュ・・開けるよ・・あれ・・
鍵がかかてる・・いつも鍵なんて かけないのに アーシュ?」
「・・・今 開けるから ちょっと待って 体調が少し悪いんだ・・」
横顔のアーシュ まだ椅子に座ったまま・・
口元から 血が滴り落ちる・・
あるはずのない傷・・あの魔法の水晶群で貫かれた傷・・
・・そういう事か・・これが未来に干渉した代償・・
未来に干渉する事は 多分 数回しか 出来ない・・
じゃないと この傷は塞ぐ事が出来なくなる・・
それにレグルス達が気がつく・・・
少し震える左手を 傷口に近くに かざして・・
未来のアーシュに言われた通り・・アルテイシアがよく使っていた
水の呪文の言葉を思い出しながら唱えようとする・・しかし
思いだせずに・・即興の水の呪文を唱える
「水よ・・癒しの水・・水の女王アルテイシアの・・・名を借りて・・癒しの水・・傷口を塞げ・・」
水の癒しの呪文で 傷口は塞がる・・
血のにじんだ服の・・血の染みも 先程の水の呪文と同じく
即興の・・アルテイシアの名を借りた水の呪文で消す・・
口元の血を拭い・・片方の瞳を隠す 妖しの呪文を唱え・・
扉を開けるアーシュ・・
「‥大丈夫 顔色が悪いよ・・薬師の方を呼ぶ? アーシュ
それと お昼入りそう・・」
「・・薬師はいい 大丈夫・・やはり 昼も入りそうにない・・」アーシュ
「・・だめだよ・・薬師の方を呼ぶから・・ちゃんと診てもらったほうがいい
顔色 本当に悪い・・」
「・・呼ばなくていい・・昼は少しなら 入る・・
部屋に運んでくるようにナーリンに言いておいて
一人で食べるから・・」
「・・僕も一緒に食べる・・その調子だと 残して こっそり 捨てる気でしょう・・アーシュ」
両腕をまげ 両手を左右の腰元にやって エイルは言う めっ!と軽く睨んでいる・・
「・・わかった 一緒に食べよう・・でも 残しても勘弁してくれ・・エイル
本当に食欲がない・・」ため息をつくアーシュ
「わかった ナーリンに言ってくるね アーシュ 待ってて」エイル
深いため息をつくアーシュ 目を閉じる そして沈黙
「・・・・」
・・それから・・10日程過ぎた後の事・・
二人の姫・・アルテイシアとエイルことエルトニアは椅子に腰かけて
お茶やお菓子をテーブルの上に置いて 仲良く談笑している
傍らには 女官長のナーリンが立っていて・・二人のお茶をついでいる・・
「・・・そうなの・・今日は体調が悪くて・・部屋で寝ているの・・」エイル
「アーシュ様そうなの・・残念・・それにリアン様もいらしゃらなくて 残念・・
せっかく 頼まれてたリュース家のとっておきの地酒 持ってきたのに・・」
「リアン兄様なら 当分 白の国から帰らないよ・・
異母兄弟・・兄である白の宗主様が急な病で倒れて・・悪いらしい・・
その上・・その白の宗主様の跡継ぎの子供と・・リアン兄様の2番目の兄である
弟君も先月・・相次いで 病気と怪我が元で亡くなられて・・大変なんだ・・」
「・・白の宗主様には もう一人 お子様がおられるけど・・よく病気をされて・・
状態がよくないらしくて・・
もしかしたら 順番からいって リアン兄様が 白の宗主になられるかも・・
でも 反対する人達も多いし・・リアン兄様 その気はないみたい・・」エイル
「・・そうね・・」テーブルに肘をつき 手は顎にあてて アルテイシア
心の中で アルテイシアは密かに思う・・
まだまだ 全然・・ エイル 貴方の事をあきらめてないわよ・・
リアン様・・
傍にいたい一心で 全てを投げ出して・・白の武官として 貴方の傍に来たから・・
「ふう・・」ため息をつくエイル
「それにしてもアーシュってば 様子が変・・」エイル
「・・本当に様子が変ですね・・アーシュ様」少女の姿の女官長のナーリン
「・・そうね・・始めたばかりの・・リュース家に伝わる・・
二人舞の剣舞のお稽古・・
あんなに楽しそうに練習されてたのに・・ずっと お休みしてるのよ・・
来月の宴で 披露する予定で 頑張っていたのに・・
セルト将軍や私との・・剣や体術・・魔法の練習もさぼりがち・・」
アルテイシア姫
「・・側近のタルベリイ様も困っていらしゃいました・・王としての業務・・
大事な書類の案件とか・・この国の黒の貴族達の要望とか・・
民の為の大事な業務の書類・・
目を通して・・印を押さないといけないのに・・
全部・・お任せ状態です・・前はちゃんとされてらしたのに・・
記憶を失くしたせいで しなくてはいけない お勉強も・・
アーシュ様 頭がよくて物覚えも良いから・・
もう あと少しで終わるのに・・」ナーリン
「・・なんか変だよね・・体調も悪そうなのに・・薬師に見せなくて・・」
「・・・大好きな料理も最近 作らない」エイル
「・・そうね・・最近アーシュ様 ご自慢の手作りのお菓子や食事・・
頂いた記憶がありません」アルテイシア
「・・食欲もありませんね・・残されるし・・一人で食べる事も多くて・・」
心配そうなナーリン
「今朝は 一人で食べるからって・・
飲み物とサンドイッチを持ってゆかれましたが・・」ナーリン
「・・様子を見に行こうか・・まだ部屋で 休んでるけど・・」エイル
「そうね・・」アルテイシア
「私も参ります」ナーリン
「あ、 ナーリン 離れにいるセルト将軍にお昼を届けるんじゃなかったの?
なんか セルト将軍の好物が手に入ったって 今朝・・食堂で言っていたじゃない・・
今日の昼食には セルト将軍 多忙だから 来られないから届けるって・・
その好物・・傷みやすいから 早く食べないといけないからって・・」エイル
「そうでした 行ってきます!」ナーリン
「あ、ナーリン 申し訳ないけど このリアン様にあげる地酒・・」アルテイシア
「はい 私がお預かりしておきます・・ではこれで・・」ナーリンは立ち去る
「ふふ・・」きら~んとエイルの目が光る ちょっと不気味・・
「・・・え・・エイル」なにこの感じ・・エイル?
「・・あのね 僕 見ちゃった・・ナーリンとセルト将軍が木陰でキスしてるのを・・」
「ええっ! とうとう・・・ナーリン告白して くどき落とされたのね・・セルト将軍」
アルテイシア
うんうんと首を縦にふるエイル・・
「兄妹とはいえ・・セルト将軍の父親の再婚相手連れ子のナーリン
血の繋がらない兄妹なのだし・・元々 竜人族は男しかいなくて・・
婚姻相手は大抵 黒の人族・・」うんうんと首を振りながら言うエイル
「・・いつ結婚するかしら・・」アルテイシア
「・・さあ?・・それより アル・・アルテイシア・・」エイル
「・・そうね アーシュ様のお部屋に行ってみましょう・・」
「・・鍵 またかかってるかも・・」エイル
「えっ! 前は空けっぱなしだったのに・・」アルテイシア
「・・それから アル・・アーシュの子供時代に
片方だけ 瞳が黄金の金色に変わった事・・あった? その時 どんな騒ぎがあったの?」
エイル
「ないわよ・・そんな話・・時々 先代の竜の王の力を使う時に
両目が金色に瞳の色が変わるけど・・すぐに元の焔の瞳に戻るから・・」
アルテイシア
「ますます変! アーシュ嘘ついた・・この前 アーシュの瞳が
片方だけ 黄金の金の色に変わったの・・
前に見た両方の金色より 濃い黄金の金・・
それに子供時代に 片方だけ瞳が変わって ちょっとした騒動があったから
皆が心配するから・・秘密にしろって・・」エイル
「・・完全に何か 隠しているわね・・部屋に鍵がかかっていたら
私が魔法で 部屋を開けるわ・・エイル
さすがに魔法で施錠までされてないでしょう・・」アルテイシア
「えっ!アル」エイル
「・・そうした方がいいと思うわ・・行きしょう」アルテイシア
走りながら エイルは言う
「・・・ねえ・・こんな時だけど・・剣舞の三人舞・・ってある?」エイル
「ええ あるけど?」アルテイシア
「・・じゃあ 僕にも剣舞を教えて・・アル
将来の結婚の儀には アーシュとアルの二人舞と僕を加えた三人舞 踊ろうよ・・」
「ナイス アイデイア! いいわね 練習頑張りましょうね エイル!」
「うん アル 頑張るよ・・」エイル
アーシュの部屋 一人でいるアーシュ・・
・・部屋の一人用ソフアに腰かけて・・まるで眠っているかのようなアーシュ
ゆっくりと・・まぶたを開ける・・だが・・半分までしか 瞳は開かない・・
そして・・そのアーシュの腰かけてるソフアの後ろに出現したレグルス達に声をかける
だが 後ろを向き・・ソフアにも腰かけたまま 動こうとも 振り返りもしない・・
「・・ようやく 気がついて 来たなレグルス・・」落ち着いた静かな声・・
「・・ああ アーシュ殿・・やっと異変に気がついた やってくれたな・・」硬い表情のレグルス達
「・・まさか・・まさか・・神である私の力が通じないとは・・弾き飛ばすとは・・」
少し震える声でバステイル
「・・それに 先の黒の王・竜の王さえ 意識を飛ばして
未来に干渉する力はなかったぞ・・
仮に あったとしても・・時に干渉する恐ろしさを よく知っていたからな
あの王は・・」レグルス
「・・力・・魔力は 純粋な血のテインタル王女の半分・・半分はただの人族なのにな・・」
静かな声でつぶやくアーシュ
後ろを向き ソフアに座ったままの状態・・口元から また血が滴る・・傷口が現れる・・
大きな傷の痛みに顔をしかめる・・「っ・・痛っ・・水の癒し・・」
傷口に手をかざして呪文を呟くアーシュ 水球が現れて 傷口を覆い消し去る
傷口は一旦閉じるが また ゆっくりと開く・・
「・・またか・・まったく!水の癒し・・」ようやく傷口は塞がる
指で口元の血を拭うアーシュ・・
「・・また ソフアまで 血が染みた・・後で水の魔法で 消しておかないと・・やれやれ・・」
「!!」「水の呪文だと!!」大きく瞳を見開くレグルス達
「・・・傷口は広がる一方だ・・まったく・・」ふうとため息をつくアーシュ
「・・それは・・それは代償です! アーシュ様 わかっているでしょう!」バステイル
「・・すべて 無駄に・・徒労に終わったろう! なのになぜ繰り返す!
そんな傷を何度も負ってまで!」レグルス
ため息をつきながら あいかわらずにソフアに座り 後ろを向いたままアーシュは言う
「・・もう・・何度目かな・・五回・・いや六回か・・ここまでが限界・・」アーシュ
「・・意識を飛ばし・・必ず あの夢の始まりの瞬間に 俺の意識は未来の俺と意識が重なり合う・・」
「・・そう無駄でもなかった・・ナーリン一人だけなら 助ける事が出来た・・
子供はすぐに病気で死んだが・・」
「魔法使い・・あの追放された神を・・刺し殺して 首を刎ね 焼き殺そうとしたが・・
それも 無駄だった・・炎に包まれながら・・
あの生首は笑って呪いの言葉は言いながら また呪文をかける」
「必ず あの煉獄に俺を連れて行く・・」
「・・たまらずに 妹のテンタルに酷い事をしょうとした・・今回だ・・」
「テイが犠牲の代償を払う事がわかっていながら・・
たった8年の安息の幸せを奪うとわかっていたのに・・」
「・・・あの煉獄・・」
「魔法の水晶群の場所を教えた・・
激戦のあの時・・俺に 巨人族の王と魔法使いの部屋の場所を教えた味方の兵士に告げた 伝言をした」
「俺がいなくなったら・・消えたら・・あの水晶群の場所に行くようにアルテイシアに
場所を教えた・・」
「セルトにも ある程度の処で 一旦 引くように・・」
「それと急いで ナーリンとタルベリイ達を黒の王宮から 避難させるように・・」
「そしたら・・今回は まずアルテイシアが部屋に飛び込んで来て
俺を押しのけて 俺の立っていた場所に
アルテイシアが・・」アーシュ
「まさか・・アルテイシア姫は?」レグルス
「無事だった・・床から突き出た水晶群が動きを止めて
本来の獲物である俺に・・確実にあの水晶群を突き刺した
この時は アルテイシアの目の前で・・死にかけの魔法使いと供に
あの闇の水晶群の煉獄へ連れ去った・・。」
「一年後・・テイ・・テインタル王女がやって来た・・
一年かかったのは 場所が違っていた・・言った・・」
「場所が変わっていたんだ・・」
「過去見の力で 俺がした事を知りながら・・涙を流して・・俺の方が可哀そうだと言った・・
テイが 身代わりの呪文を呪文を唱えようとしたら・・
俺を刺し貫いている水晶群とともに 俺はまた 別の場所に飛ばれされた・」
「そしてまた 同じようなくらい闇の空間・・魔法の水晶群に突き貫かれている・・
7年後・・あの片方だけの黄金の瞳を持つ・・
先読みの子供が現れて・・俺がいる場所をつきとめるまで・・」
「そして またテイが一人でやって来た・・身代わりの犠牲になる為に・・」
「・・ナーリン 今回は あの場 俺の最後の場所 あのリアンの城にいた・・
俺の伝言で 他の竜人の妻達と逃げた・・」
「ナーリンの子も含め 竜人の子供達は数か月後 疫病で皆 死んだと言った・・」
「セルトは 俺が王の部屋に行く前に 壮絶な死を遂げた後だった・・」
「タルベリイの方は 王宮から動けずに殺されたと・・」
「・・今回は 最後の数か月・・俺の意識と未来の俺は 完全に融合していた・・
俺の瞳の色が片方だけ・・金色に変わっていた・・
・・だから リアンにこう言った・・」
「この瞳は 先の竜の王の力の証・・
だからリアン お前が言いたい 恨み言の三つは分かっている・・すべて 俺のせいだ すまない・・
恨み言はエイル・・エルトニアの事だと・・」
「そうしたらリアンは言った・・
私の恨み言がわかっているのなら・・貴方は今 私に謝れました・・
もういいのです・・おやすみください・・と」
「今度は俺の方が もう一つ言った・・小さなアーシュに早く会いたいと・・」
「今回は心残りだった2つの事も・・」
「雪花が咲く前に練習でもいいから アルと小さなアーシュの二人剣舞を見せてくれと・・
花が咲く前に・・リュース公にも会いたいと・・」
「ああ 今 思い出した・・成長したテイナ王女の肖像画だけでも見ておこうと思っていたが
・・それは忘れたてな・・まあ・・いいか・・」
アーシュの話に 黙って聞いている レグルス達・・表情は硬いまま・・
アーシュはまだソフアに座り・・相変わらず 後ろをむいたまま
静かに平静な声で話を続ける・・
「もう一つ 変化があった・・
エイルが城で 侵入してきた敵に・・小さなアーシュの目の前で殺されていたそうだ・・
また矢で射抜かれた・・ ほぼ即死状態で死んだ・・」
「すぐに駆け付けたリアンの腕に抱かれて・・俺の名を呼んで・・
半分閉じかけた瞳に涙を浮かべて死んだ・・その後で リアンがエイルの目を閉じたそうだ・・」
また ため息をつくアーシュラン
「・・あの地獄の8年の煉獄は・・俺の罪の罰か? 戦や他の事でも多くの命を奪った・・
奪わざる得なかった」
「煉獄の地獄は どうしても どうやっても逃れる事が出来なかった・・」
「・・最初に意識を飛ばした時・・最初に会った未来の俺が 最後の瞬間に 俺に言った・・」
「レグルス達が来たら それが合図・・そこまでだと・・
確かにもう俺の身体も心も限界だ・・」
「気が狂いそうだ・・」
「これ以上やったら もうこの傷口は 癒しの水の呪文でも塞がらない・・」
アーシュ・・ 声は平静・・
「・・・アーシュ殿・・」レグルス
「・・何故だ・・何故・・そこまで・・」レグルス
「わかってるだろう・・最愛のエイルの為だ・・残されるアルテシア・・
哀れな妹のテインタル・・セルト達・・
小さなアーシュ・・愛する者達の為だけだ・・それに俺自身もな・・」
「・・それに何故と言う その言葉は俺が言いたい・・」ソフアから立ち上がるアーシュ
「・・何故だ・・」平静な静かな声で そう言いながらゆっくり まず 顔だけ振り返る
片方だけ黄金の瞳と焔の瞳・・
その目から 涙が滴り落ちている・・
「・・なぜ・・しくじったレグルス・・何故 消させなかったこの記憶・・」
「予知の悪夢・・最悪の終末の未来の夢を・・」
「何故・・消せなかった この覚醒した竜の王の力を・・・」アーシュ
「・・アーシュ殿」レグルス
「・・・少しだけ・・恨んでも・・いいか?」アーシュ
「・・まだ 後一つだけ 試してない事がある・・
時空に意識を飛ばさなくても 今の時間の俺が 出来る簡単な事・・」アーシュ
「・・俺がエイルの事をあきらめて・・リアンの元にエイルを返して 白の国へ送り返す事・・」
目をつぶる女神バステイル 心の目で何かを視てるようだ・・
パッと開く・・
「・・可能です・・それならエイル様はリアン様と結ばれて・・天寿を全う出来る・・」
「ただし・・小さなアーシュは産まれません・・代わりにエイル様は女の子を産み・・
アーシュ様とアルテイシア姫様との間に出来た男の子と結ばれます・・」
「・・・白と黒の2つの王国は 数世代後の・・ 運命の時・・子が産まれず
絶えるその時まで続きます・・
多少 歴史は変わりますが・・王国は 風と土と水の・・
大いなる魔力を受け継いだ魔法の王達の元で
繁栄をする運命ですから・・支障はありません・・」
「・・・ナーリンの子供と竜人達の子達も救っても いいですよ・・
命を救う 薬を差し上げます・・」
「ただし・・それは 直系の王国の子孫達が疫病で死に絶える時に・・同じく滅びます・・
傍系も残せず・・絶えます・・」
「セルト殿とタルベリイ殿の運命は宿命なので・・変えられません・・」
「アーシュ様・・貴方の運命は 煉獄の8年は 変わりませんが・・
死期が早まります・・雪花の季節まで・・持たないかもしれない・・」
「・・あの黄金の・・黄昏の時間の雪花・・散りゆく様は 美しかったが・・
「それは 抗った罪・・ 代償だな・・仕方ない・・」
「・・薬を差し上げます 傷口が開いたら飲んで下さい・・痛み止めの効果もあります
時折 その呪いの魔法の傷口は開くでしょうから・・
薬が切れても心配されないでください・・必ず枕元に置いておきますから・・」
「・・それと貴方様は もう一つの異名を歴史に残す事になります・・
最後の黄金の竜の王と・・
・・・貴方は その覚醒した竜の王の力で その片方の黄金の瞳を・・
最後の戦の時に現します・・ぜひ 使ってください」
「戦いは 少々・・楽になるでしょう・・あの追放された神
魔法使いは 貴方と対峙し 死ぬ寸前まで 気がつかない」
「もし・・知られたら 厄介な事になる 貴方の力を取り込もうと暗殺や戦争を企み
もし成功でもしたら テインタル王女も殺し 莫大な焔の力を手にして
天上界の神々は 虐殺されて・・世界を守ってきた神々の死・・」
「この世界も その影響で・・・
大災害で 地は崩れ落ち・・最後の一人が死に絶えるまで・・災害と疫病が続くでしょう・・
世界が滅びます」
「その時までは 隠してください・・妖しの呪文に 私の名を加えてください・・
それなら そういった幻惑や幻獣に通じた白の国の者達・・
幻惑の呪文を打ち破る事の出来る あのリアン殿さえ 騙し通せます・・」
「・・そうですね・・貴方の記憶や覚醒した力を消せずに 貴方を苦しめたお詫びをします」
傷口のあった場所に手をかざすバステイル
手は淡い光を放つ・・痛みが和らぐ・・
「これでいい・・貴方は あの黄金の時間まで 命を保てます・・
黄昏の時間 雪花の花びらが散りゆく様が見れます・・」バステイル
「・・そうか 有難うバステイル・・」アーシュ
「・・アルテイア姫は貴方が死んだ2年後に女の子を産みます
彼女が言ったように 小さなアーシュ様とその女の子は結ばれます・・」
「・・もし 貴方がエイル様をどうしても 手放す事が出来なかったら・・
必ず・・矢で射抜かれて死ぬ運命です・・
しかも 小さなアーシュ様の目の前で・・
・・せめて 小さなアーシュ様の目の前で エイル様が殺されないように・・
貴方が救われる一年か半年前にでも・・しばらくの間
リュース公の元にでも 預けるように・・今なら手をうつ事は可能です
理由なら なんでもいいのです・・」バステイル
「エイル様と 別れる間際にでも もし懐妊してたら・・
子供が出来たら 7歳の時に リュース家で 剣や魔法の勉強をさせるようにと・・」
「・・ああ 最後の別れの時は・・わかりますね
あの際 最初の時空の旅・・私やレグルスと出会った時の旅・・
エイル様がバラバラになり
未来の時代で 未来のアルテイシア姫と未来のアーシュ様が出会った時です・・
出撃寸前でしたでしょう・・」
「あの時です・・もちろん 少し あの場面
聞いた言葉も・・あの時に交わした言葉の数々は変わってます」
「貴方がその力を手に入れたから すでに歴史が少し変わったから・・
・・・その時は 貴方が過去の自分に話をする番ですね・・。」
「婚姻の儀式は 大地の女神レセフールの祝祭がいいでしょう・・」バステイル
・・いや・・時の女神の神殿と祝祭を作る・・」
「名目は 先の竜の王の為の神殿
予知や過去見・・時の魔法に関する神殿」
「時の番人 バステイルとケンタウロスのレグルスの神殿だ・・お前達の・・
その時に挙げる・・」アーシュは微笑む
「・・時の神殿と祝祭は約束するが・・
アルテイシアと挙げる・・」アーシュ
「俺は・・俺がエイルと小さなアーシュをあきらめば・・いい話だ・・
そうすれば エイルとナーリン達は救える・・」
「俺は・・エイルを・・うっ・・」アーシュ
「! どうしたアーシュ殿!」レグルス
「アーシュ様 あ!その瞳!」バステイル
また傷口が開く 目を見開く ・・黄金色の片方・・異様に輝く!
時空を幾度も意識が飛び その時空の力に触れて・・覚醒した力
竜の王の力が 暴走しようとしてる!
呪いの傷口が開き・・大量の血が胸元や腹の辺りから噴き出して流れ落ちる
口元から また血が流れる・・
「アーシュ殿!」まっ青になる レグルス
「そんな まさか! 呪いの傷口は消したのに!」バステイル
こんこん!扉をノックする音
「アーシュ 起きてる?」エイル
「・・すいませんが 勝手に入らせてもらいますアーシュ様」
短い呪文 扉の鍵を解除する魔法を唱え アルテイシアとエイルが部屋に入ってくる
「・・入るな! 二人とも!」アーシュは絞り出すように声を出す
今は・・今は・・駄目だ! 頼む!
瞳を見開き 二人は息を飲む・・
「・・レグルス・・」「・・なぜ いるの?レグルス どうしたの?」エイルとアルテイシア
「・・その女の子は・・?レグルス」エイル
「アーシュ お腹を押さえて どうしたの・・あ!」エイル
「アーシュ様 その血!! それに その瞳!」蒼白になるアルテイシア
「その傷どうしたの!大変!口元からも血が・・それにその片方の瞳 黄金色に輝いてる瞳!」エイル
急いでアーシュの元に駆け寄る
「頼む! 近づくな!二人とも!!」声を荒げてアーシュは叫ぶ
だが 二人は無我夢中で 駆け寄る
駄目だ! 力が・・片方の黄金の瞳の力・・竜の王の力が暴走する
俺にも止められない!
アーシュの片方の黄金色の瞳が輝き その力を暴走させる・・
部屋中が黄金の光で満たされて 輝いた!
その瞬間・・アーシュの知っている 意識を飛ばした際の記憶が 廻り全ての者達の
頭の中に映像として・・その時の声も音も・・ 駆け巡る・・
終末の未来の出来事を・・知った・・
皆 目を見開き 動きを止めている・・
すべての事を知ったのだ・・
「あ・・」最初に口を開いたのはアルテイシア 床に膝を落として 座り込み
両腕で自分の身体を包み・・ガタガタと震えてる・・
アルテイシアの瞳から 涙が溢れて流れ落ちる
「いやあああ! 酷い! ひどすぎる!耐えられない! いやああ!」
絶叫 悲鳴を上げて泣き叫ぶ
エイルは茫然として 目を見開いたまま 手を壁にして・・
ずるずると床に座り込む・・
まだ目を見開き 泣きもせずに ただ茫然としている・・
はあはあ・・と息を吐くアーシュ 顔には汗がにじんでる ようやく傷口は塞がり
血が止まっているが 痛みが残り・・腹に手をあてて押さえてる
彼も床に 座り込んでいる
レグルスとバステイルは 三人の様子を ただただ・・静かに見つめていた・・
遥か未来の時代・・にやんこな人達(猫耳 しっぽつき 魔法ありの世界)がいる場所
「ナジュナジュ! ニュース聞いた!」
「聞いたよ!リア これでしょう!」新聞をバッと広げる
それに載っている写真 しかもカラー
「綺麗だよね・・三人とも・・」うふふと笑うナジュナジュ
写真の絵・・
それは時の神殿バステイルとレグルスの神殿・・その神殿の遺跡で見つかったもの・・
アーシュとエイルとアルテイシアの三人の婚姻の儀式
儀式の最中に舞ったといわれる 剣舞の三人舞の様子を描いた絵・・
白を基調にした衣装・・ 両方の肩には 黄金の色の布の飾り刺繍が施された
帯のような長い布・・腰の帯はアーシュは刺繍の施された物・・赤色
エイルとアルテイシアの帯は青・・同じく刺繍が施されている
肩のあたりで・・袖の白い布は長く2つに分かれて 肩が見えるデザイン
服は裾は長め・・三人とも同じ衣装
三人は両手に細長い剣・・
エイルは二人の真ん中にいる
緩いウエーブのかかった金の髪を上の方の髪を少しだけ
頭の上に止めて真珠の飾りの髪留めで留めている
アルテシアの長い真っ直ぐな黒髪は 耳元 それぞれ横をだけ少し短め・・
左だけ少し 上に同じく真珠の髪留めで 留めて そのまま流している・・
二人とも耳には真珠と鈍い光を放つ白い宝石の耳飾り
アーシュの方は 肩より少しだけ長い黒髪を
細長い金刺繍のついた白い布で縛っている・・
エイルは 片方の膝を床につけて もう片方は膝を曲げて足を立ててる状態で座っている
両腕は大きく左右に横に広げて・・両手には細長い剣が握られている・・
その剣に重ねるように十字の形で 両方 左右に・・
エイルの間に立ったアルテイシアとアーシュが片方のずつつ
剣をあてている・・
アーシュとアルテイシア もう片方の手にも剣が握られて
上に 二人それぞれ掲げている・・
エイルの左腕には 大きな腕輪・・
「舞のポーズだね・・多分」ナジュナジュ
「うん そうだと思う」リア
「・・最後の戦いの時 その時に 隠しつづけていた片方の黄金の瞳を現して・・
水の呪文も その戦いでは 使った・・」
「火竜王 もう一つの異名 最後の黄金の竜の王
かっこいいね! うふ ・・子供時代もいいけどね・・子供時代の姿は 生で見たし・・うふふ」
ナジュナジュ
うん! えっ・・あれ・・
何か違う 何か違うぞ・・確かアーシュラン様って・・竜の王の異名なんて・・?
・・・僕の勘違いか・・そうだよね と首をひねりつつ 納得するリア
横で積み木遊びをしていたアシャアシャがあ ぽつと呟く・・
「・・歴史・・少し くああった(変わった)」
「何か 言った?」リア
アシャアシャは積み木遊びに夢中である
「・・いいか」リア
将来の暗黒の女王様アシャアシャは・・
その大いなる魔力で 時の流れ・・少し歴史が変わった事に気がついている・・
でも・・アシャアシャにとっては関係ない事なので 気にしない・・
幼いアシャアシャは忘れてしまう・・・
そして・・過去の・・今のアーシュ達の時代・・
黄金の時間・・黄昏の時間に・・その黄金の光を浴びながら
アーシュの部屋のバルコニーに
アーシュ エイル アルテイシアの三人がいる・・
少し前にレグルス達は立ち去った・・
「・・万が一・・またアーシュ殿の呪いの傷が・・あの戦の前に開いたら・・
その時は・・このバステイルとともに やって来る・・傷を癒しに・・
一応 薬は渡したが・・
様子も見に来るかも知れない・・大した事が出来ずにすまない・・
あの最後の黄昏の黄金の時間・・雪花の散りゆく様は見せてやる・・ではな・・」
そう言い残して去って行った・・
そして・・バルコニーで・・
エイルは 泣き止まないアルテイシアを抱きしめて背中を優しく撫ぜている
アーシュはバルコニーは半円形の形 大理石の白い短い柱が並び
短い柱の上にバルコニーの半円形に合わせて大理石の石が乗っている
そのバルコニーに 座っている・・二人からは離れて後ろを向いている・・
片足は真っ直ぐに伸ばして 乗せて
もう一つの足は曲げて足をバルコニーの上に乗せている
両腕を組み その両腕を 曲げてる足の膝関節の処に置き
沈黙して 真っ直ぐに正面を向いている・・
瞳は相変わらず 片方だけ黄金の金・・今は隠す必要もないので
そのままにしている・・
やっと泣き止んだアルテイシアをバルコニーの椅子に座らせて
「・・ちょおと 離れるけど 大丈夫?
アーシュの処に行くよアルテイシア・・アル」
子供のように 黙って頷くアルテイシア
「んっ・・じゃあ行くね・・今日は泊まってね
この王宮には アル専用の部屋も着替えも寝間着もあるから・・
明日は・・そうだね 晴れたら みんなで・・三人で海に遊びに行こうね
前から 二人とも 海が見たいって・・言いていたから・・
お弁当はアーシュが作ると思う ダメなら僕が頑張る・・」
ふんと鼻息・・
「お昼 食べ損ねたね・・夜食は ここで 三人でアーシュのお部屋で
食べようね・・ワゴンでここに運んで来てって ナーリンにお願いするから・・」
勝手に決めて・・しきりまくるエイル・・強い・・
目を大きく見開きつつ・・黙ってまた 子供のように
コクリと頷くアルテイシア
ちょっと安心して ようやくアーシュの元に行く・・
アーシュを背中から抱きしめる
「・・アーシュ」優しく耳元で彼の名を呼ぶエイル
しばらくの沈黙の後・・やっとアーシュは口を開く
変わらずに後ろを向いたまま
「・・エイル・・帰るんだ‥リ・・」リアンと一緒に・・
そう言いかけたアーシュの言葉を塞ぐように
「・・いやだよ・・わかっているでしょ・・僕 アーシュを愛している・・
死の運命が待っていても・・その運命の瞬間まで 許された時間が終わるまで・・
ここにいる・・アーシュに 小さなアーシュをあげるのは・・僕が選んだ運命」
はっきりと言うエイル
「・・・エイル・・いいのか? それで・・」アーシュ
後ろを向いたまま振りかえらずに・・言う・・
「・・いいの それで・・それにほぼ即死・・苦しくない苦しくない・・
大丈夫 大丈夫・・」カラカラと明るく言うエイル
「小さなアーシュはレグルス達に言われた通りにする・・
リアン兄様が見送って僕の目を閉じてくれるから・・いいの」
エイルは笑って言う・・
「・・大丈夫じゃないだろう・・」少し俯いてアーシュ
か細い声・・少し震えている
「・・僕が大丈夫って言ってるんだから 大丈夫・・
今は 僕の方が年上の姉さん女房・・言う事を聞く!」
きっぱりと言うエイル・・
「・・強いなエイルは・・」アーシュ 少し上に顔を上げる・・
エイルの方は見ずに後ろをむいたまま
まだ か細い声 震えている・・声
「強いよ 僕・・そこが好きなんでしょ・・」エイルは明るく言う
ぎゅうう・・とアーシュを背中から力を込めて抱きしめる
エイルの髪の匂い・・甘い花の香がする・・
目を大きく広げ また半分閉じる・・
「ああ・・そうだ・・俺より強いから・・最強だ・・あのセルトも倒した・・」
口元に 少し笑み・・だが まだ声はか細い・・アーシュ
「うっ・・それは・・言わない・・じゃないと
明日 晴れたら 海に三人で行くって決めた・・海で思いきり遊ぶ!
そして お弁当は 僕の手作り! 今日の夜食はアーシュの部屋で三人で食べる・・」
抱きしめて・・そのままエイルは言う
「・・まったく・・勝手に決めやがって・・仕切りすぎエイル・・頑固なんだから!」
後ろ越しにアーシュ
「・・悪い?」少しむくれてエイル しっかりアーシュを後ろから抱きしめつつ・・
「・・まったく・・最強なんだから・・仕方ないな・・
ただし 弁当は俺が作る!エイルは手を出すな!
デザートもちゃんとつけてやるから 心配するな!
決して手を出すな!いいなエイル!」
変わらず後ろを向いたまま・・少し怒っているアーシュ
「・・今晩 添い寝してあげようか?大丈夫 眠れそう?」
自分の顎をアーシュの頭に乗せてエイルは言う・・
「誰かさんは 寝相が悪いから・・パス!」きっぱりとアーシュ
「・・本当に?大丈夫かな・・」エイル
「・・じゃあ 許可する・・ただし 俺がエイルを襲っても
文句は なし だ!・・俺の第一王妃!」
アーシュ なんか むくれている・・すねたような声・・
しばらくの沈黙・・ずうっとエイルはアーシュを背中から抱きしめている
「アーシュの瞳 オッドアイになっちゃったね・・僕とお揃い・・」エイル
「・・・・・」黙っているアーシュ
「アーシュ・・御免ね・・」エイル
「・・何故 謝るんだエイル・・?何かしたか?
海を遊びに行く事とか・・勝手に決めた事か?」
アーシュ 相変わらずの後ろ向き・・
でも なんかちょっと心配そうな声・・
何故だか 後ろを向いたまま エイルの方を相変わらず見ない・・
「・・8年も・・あの煉獄に囚われて・・可哀そうに・・
御免ね・・長い間 助けだせずにいて・・
アーシュが救われた時には もう 僕はいないから・・
今・・謝っておくよ・・アーシュ」エイル
落ちつた声・・優しい口調・・
「・・・・」大きく瞳を見開くアーシュ
肩が小刻みに震えだす・・そしてアーシュは言う
「・・エイルのせいじゃない・・気にするな・・」
最後の方の言葉は 小さく か細くなっていた・・
肩が小刻みに震えている
「・・・」
そおおと エイルはアーシュの顔を覗き込む・・
見開いた瞳からは 涙が流れて落ちる・・
そして・・瞳を閉じ そのまま 泣いている・・
声一つ出さずに 無言で・・
「・・子供の時にアーシュが一度 僕の胸の中で 泣いた・・
あの時も・・声一つ 出さなかった・・あの時のままだね・・アーシュ」
ぎゅうつとアーシュの背中を抱きしめる・・エイル
「・・運命のその時まで・・僕はここにいて・・
・・それから・・
小さなアーシュを アーシュにあげるね・・アーシュ
・・アーシュ大好き・・ 愛してる」微笑むエイル
黄昏の・・黄金の光が バルコニーの三人を包みこみ輝く・・
・・あと数年・・
約束された安息の幸福な時間を祝福するように・・
FIN