3話:泉のお茶会
毎日更新三日目。
「人間さん、入ってらっしゃい」と言う声が聞こえて来た、多分この向こうに居る人はさっきのオーブ達よりはっきりと知性を感じる気がする。
俺は少し躊躇ったあと開いたアーチの中に足を進めた、そこには小さな泉の真ん中には不釣り合いなお洒落なテーブルと椅子に二人の美女が座っていた。そう、普通なら沈むはずの水面で二人の美女がお茶をしていたのだ。
やっぱり俺はまだ夢の中なのかな、人が水に浮いてらぁ。
目の前に広がる美しい景色と美女はまるで絵画を切り取ったかのような、声が出なくなるほどに美しかった。
ゆったりとした動作でティーカップを口に運ぶ仕草も見惚れてしまうほど美しい、薄黄緑色の長い髪を横に束ねた女性と水色で先端に行くほど透明になっているセミロングの女性がこっちを見ていた。
ご両人とも純白の一枚布で作られた様な服のキトンを着ていて、所々淡い色の宝石をあしらえた髪留めや腕輪を付けている。きっとギリシャ神話の女神はこんな感じなのだろう、なんて事を考えていたら此方を見ていた水色の不思議な髪の女神が俺を手招きした。
「人間さん、こっちに来てお話ししましょう?」
少し距離があるにもかかわらずその囁くような声は俺の耳まで届いた。美人の声が耳元で聞こえた事で背中が少しぞわぞわした。
ゆっくりと泉の辺まで足を進めたがどうやら何の変哲もない泉様で水中を数メートル進と頭まで沈むだろう事が窺い知れた。
さて、美女に手招きされたうえお話しましょうと言われてしまった。
はっきり言ってこんなに綺麗な人に微笑まれて、お話しましょうって言われたのは俺の人生で初めてだ。
だが美女は泉の真ん中か、最悪パンイチになって泳いで行くか。
なんて冗談を考えていたが俺も決して恥知らずではないので素直に美女に尋ねる。
「別に脱いだり泳いだりしなくて良いわよ〜、あなたには水面歩行を授けたから」
「早くいらっしゃい」
スイメンホコウ?サズケタ?え、じゃあ俺水面を歩けるの?マジで!?
恐る恐るつま先で水面を突いたが水は俺のつま先を弾き返す様な弾力を持っていて水に触れたはずのスニーカーも濡れていなっかった。
俺は少し、ほんの少しだけ屁っ放り腰になりながら初めての水面歩行を体験した、水面はウォーターベッドを少し硬くした様な反発力があり、少しバランスが取りにくかった。
十数メートル歩くのにこんなに疲れてたのは初めてだ。そして今、俺の前には優雅にお茶を楽しむ二人の美女が居る。
ガラスの様な丸テーブルに水面の光が反射し、美女達の髪や服に不規則な模様を浮かび上がらせていた。どれくらい眺めていたか分からないけど、水色の髪の美女に目を逸らされるくらいガン見していた。
「さて、そろそろ貴方について教えてもらえるかしら?」
と薄黄緑色の髪の美女がそう呟いて水色の髪の美女に目配せした途端俺の前に椅子が生えて来た。
シュルシュルと液体が豪華な装飾の付いた椅子の形になった途端、クリスタルの様な面を持つ固体に変わった。
俺は恐る恐るその椅子を引きゆっくりと腰掛けると今まで黙っていた水色の髪の美女が睨む様な鋭い視線と共にこう尋ねてきた。
「貴方はこの世界の者ではないわね」
あぁ、やっぱり。
夢じゃなく俺は異世界に来てしまったのだとわかった。良く読んでいるラノベでいう転移物だろう、まさか自分が巻き込まれる何て微塵も想像していなかったが。
「た、確かに俺はこの世界の人間じゃありません、俺の住んでいた地球には魔法なんて物は存在していませんでしたし、こんな風に水の上を歩いたり出来ませんでした」
「そう、それじゃもう一つ」
今度は薄黄緑色の髪の美女の顔が険しくなった。
「貴方はこの世界に害なす存在かしら?」
この世界に害なす?つまりなんだ、魔王とかそんな感じの者かって事?確かに異世界の中では魔王って良く聞くけど俺はそんな大悪党になるつもりは微塵もない。
「いや、害なす存在じゃない。俺はただの農家の倅で土いじりが好きな普通の人間だ」
ジロリと薄黄緑色の髪の美女に睨め付けられる、ジワリと背中に汗が吹き出た気がした。
「そう、悪いけど貴方の心の中も見させてもらったわ。まぁ貴方が自分で言った通りなんともゆるい普通の人間ね」
「ソウデスカ」
「ふふふ、もうそんな緊張しなくても良いわ」
二人の精霊が笑い合うと、ふと周りの空気も緩んだ気がした。
精霊主は神の一種です。創造主が絶対神で他の神は上中下と続き、その下に精霊主が居ます。
精霊主は各々の神に仕える神に近いとんでも生物って感じです。