ドラゴンのお値段
コロラト王国王城には伊吹が召喚したヘリパッドが設置されている。そこにマットブラックに塗装された汎用ヘリコプターのUH-60 ブラックホークの特殊作戦機であるMH-60L DAPが着陸しようとしていた。
アスファルト舗装されたヘリパッドに向けてダウンウォッシュを叩きつけているMH-60Lはゆっくりと降下しながら着陸した。
ヘリから降りてきた伊吹達4人は、それぞれが普段愛用しているHK416系列の銃ではなく、PDW……個人防衛火器と呼ばれているFN P90TRとH&K MP7A1にそれぞれカスタムを施して装備している。
P90はベルギーのFNハースタル社が開発した個人防衛火器であり、弾薬は同社が製造している拳銃……FN Five-seveNと同じ5.7mm×28mm弾を使用している。弾丸は半透明のプラスチックマガジンを銃の上面に平行に装着し、短機関銃の部類では多い50発の装弾を可能としている。本銃が一躍世間に知れ渡ったのは1996年にペルーの首都リマで起こった在ペルー日本大使公邸占拠事件である。その際に、イギリス陸軍特殊空挺部隊SASから突入訓練を受けたペルー海軍特殊作戦部隊が本銃を使用している様子が報道されたためにPDWという新カテゴリーの銃が知れ渡ったのである。
一方のMP7は、伊吹達がプライマリウェポンとしているHK416やマークスマンライフルであるG28E2を製造しているドイツのヘッケラー&コック社が開発、製造しているPDWであり発表当初はMP7という名ではなくPDWという名称であった。形状はイスラエルのIMI社が製造したUZIやオーストリアのオーストリア・シュタイヤー社が開発したステアーTMP等の短機関銃と似たシルエットを持っており、全長340㎜でストックを伸ばした状態が540㎜とPDWの持つ携行性及び隠匿性に特化したデザインとなっている。だが、使用する弾丸は今現在はMP7専用の4.6㎜×30㎜弾を使用しているため、他の銃との弾薬の共有は出来ないのである。
伊吹と天音はヘリの護衛を凛と智哉、そして特殊作戦群の隊員に任せると以前来た時と同じように中庭の入り口から王宮へと入った。王宮の長い廊下を歩いている内に目的の部屋へと着く。
ドアを3回ノックして部屋に入るとそこには、国王をはじめとしたコロラト王国の関係者と隣国のジーク公国の大使が椅子に座って待機していた。
「おはようございます陛下」
伊吹は国王へ恭しく礼をした。そしてアタッシュケースを机に置き用意された椅子へと腰かけた。
「ふむ、これで役者は揃ったか……」
国王が片手を上げると軍務卿は席から立ち上がった。
「それでは、只今を持ちまして定例御前会議を開始します。本日の議題はお配りした手元のレジュメに記載されておりますので、そちらをご確認ください」
伊吹はレジュメを手に取るとさらっと流し読みをして持参したアタッシュケースのロックを外し、中に入れていた人数分の書類を取り出した。
「天音、ちょっとこれ配って」
隣に座っていた天音に資料を渡すと伊吹は立ち上がり軽く一礼してから、全員に書類が行き渡るまで用意されていた紅茶で喉を潤した。
「それでは、書類が全員に行き渡ったようですので始めさせていただきます。 我々平和維持軍は、昨日戦闘機によるジーク公国内への偵察作戦を実行致しました。その際、目標地点であった城郭都市であるルクスにて、全身が黄金色と黒色で構成されたドラゴンを発見し、そのまま会敵・殲滅いたしました。お手元の資料に会敵したドラゴンの鱗の写真が記載されていますのでご確認を願います」
伊吹の話に部屋の中がざわつきはじめた。
「これは……黒龍……なのか」
「いや、黒龍の鱗には金色など入っていなかったはずだ!」
「だが、こいつの体躯は明らかに黒龍のものだ」
収拾がつかなくなってきた頃合を見計らって伊吹は手をポンと叩いた。直ぐに目線が伊吹に集中する。
「このドラゴンの遺体は回収して基地に保管してあります。が、私達としては早急に黒龍の遺体を買い取って貰いたいのであります。勿論、移送はこちらでさせて頂きます」
「話を混ぜっかえすようで申し訳ないが、これは本当に貴殿らが討伐したのか?」
訝しむ視線を伊吹に向けてきたのは、王宮直属の大魔導師であるヨーラン=カイルだった。
「そうですよ?」
「この鱗の魔写だけでは分からないな……」
ヨーランの言葉を聞いた伊吹は、戦闘服のポケットから黒龍の鱗を取り出す。そして、取り出した鱗をヨーランに向けて放り投げた。
「ほらよ、爺さん。証拠の鱗だ」
ヨーランは慌ててそれを空中で掴むと伊吹に対して怒声を上げる。
「なっ! 貴様! この国で一番強い大魔導師である儂を馬鹿にしているのか!」
「は? 鱗が見たいって遠回しに言ってきたのはアンタだろ?」
プレゼン資料を片手に持ちながら伊吹はP90TRのスリングに手を掛ける。横に座っている天音も手に持っているP90TRを握る手に力を込めた。
言うなれば導火線に着火がなされた爆弾のような状態である。一触即発な状態がその後少し続いたが、遂に国王の側近が声を上げた。
「ヨーラン殿、お止め下さい。仮にも陛下の御前ですよ」
側近の声で我に戻った伊吹とヨーランは国王に向き直ると謝辞を述べた。
「申し訳ありません国王陛下」
「まぁ、よかろう……」
国王はティーカップの紅茶を上品な所作で口に含んだ。そして、少し間を開けてから発語した。
「さて……黒龍の買取に話を戻すか。値段はこちらの付け値で良いか?」
「値段次第です」
「ふむ……金貨200枚でどうか?」
「200枚ですか……正直、こちらの割に合いませんね」
伊吹は大袈裟に頭を振った。
「そうか……では、これから私が話す依頼を受けてくれるのなら貴様の言い値で買い取ってやろう」
「…………」
「沈黙は肯定とみなすぞ。では、依頼の方だが、ここから南に行った樹海の中にモンスターが延々と湧き続ける砦があるのだ。その砦を二度とモンスターが湧かないように破壊して欲しい」
ここまで話したところで国王はもう一度紅茶を口に含んだ。
「……そちらにメリットはあるんですか?」
「ある。その樹海の外側にはヨーランが統治している街があるのだが、そこに連日のようにモンスターが街を襲おうと攻撃を仕掛けてくるのだ。前は攻撃の頻度が少なかったのだが……ここ最近は増えているという。臣民の生活を脅かすモノは排除しなければならない。」
「分かりました。では、成功した暁にはこちらの言い値で買い取って頂きます。ところで、その砦の破壊に期限はありますか?」
「2週間以内だ」
「いいでしょう」
その後会議を終えた伊吹達は、直ぐに基地に戻り計画の立案に取り掛かった。
どうも時雨です
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