解体作業
ドラゴンの解体作業を請け負った陸上自衛隊東北方面隊第2施設団第10施設群の団長である秋川 英人一等陸佐は目の前に転がっているドラゴンの死体を見てため息をついた。
「はぁ~……作業開始から既に3時間が経過したのに……半分しか解体できてないな」
「団長、総司令から無線です」
本部付きの1尉が背中に背負っている無線機の受話器を差し出した。
「もしもし、秋川です。進捗ですか? はい、まだ半分といったところですね。 鱗と皮膚が邪魔をしてなかなか作業が進みません。 え、もう半分しかないなら特大(74式特大型トラック)に積んで駐屯地に持って来て欲しい? 分かりました。 それでは失礼します」
秋川1佐は受話器を1尉に返しながら、伊吹に言われたことを各隊の隊長に伝える様に指示を出した。本部付きの1尉は敬礼すると、直ぐに各隊に向けて無線を始めた。
その後、隷下の部隊所有のトラッククレーンによってドラゴンの体のパーツが特大に積まれ、96式装輪装甲車や軽装甲機動車等の混成部隊の護衛を伴って、伊吹が召喚した非合法のジーク公国駐屯地へと帰隊した。
「総司令から封筒が届いたかと思えば……まさか……駐屯地司令に就任するとはな……それと同時に陸将補へと昇任か……」
秋川1佐は、机の上に置いてある封筒から2枚の命令書を取り出し読み直す。そこには、駐屯地司令としてこの基地に赴任することと平和維持軍陸軍司令を命じるということが書いてあった。
ふと、航空機の轟音を聞いた秋川1佐は、太陽が完全に沈み月が昇り始めている窓の外に目をやった。目をやった方向には進入灯や淡く光る滑走路中心灯等の飛行場灯火によって照らし出されている滑走路があった。そこに、巨大な輸送機が順番に着陸しようとしていた。
「総司令との無線であった隊員や物資輸送用のC-17とC-5M……の第一陣か」
秋川1佐は、昼間にあった伊吹との無線を思い出しながらコーヒーを一口飲んだ。
C-17 グローブマスターⅢとC-5M スーパーギャラクシーの編隊は多数の護衛戦闘機と飛来した。護衛の戦闘機は2機のF-15Jを残して格納庫に収容されたが、C-5とC-17はエプロンに待機したまま、その巨大な腹から荷物を降ろすための後部ランプドアを開けた。6機のC-17とC-5から降りてきたのはアメリカ陸軍所属の軍人約600名とM1A2エイブラムス戦車やハンヴィーといった軍用車両からなるジーク公国救援部隊だった。
軍用車両を降ろし終わったC-5Mには、すぐさま回収されたドラゴンが積み込まれた。腕や脚といった体のパーツはパレットに固定されて積み込みが行われる。ちなみに、回収作業中に剥がれ落ちた鱗は隊員達によって出来る限り拾い集められ、袋に詰められてパレットに固定された。積み込み作業が終了すると、今度は機体への補給作業が行われた。同じように、輸送編隊を護衛していたF-15J 要撃戦闘機にも補給が行われた。
両機への補給が終わると、離陸するために誘導路へと入っていった。最初に離陸するC-5M スーパーギャラクシーは管制搭と無線交信を開始した。
「タワー、こちら、スプーキー01、進入許可をを願う」
『スプーキー01、ランウェイ21への進入を許可する』
「ラジャ、ランウェイ21へ進入する」
C-5Mスーパーギャラクシーは、管制官の指示に従いながら3,500mの滑走路に進入した。
『スプーキー01、風は300度から9ノット、ランウェイ21から離陸に影響なし。離陸を許可する』
「ラジャ、スプーキー01、離陸する」
最大離陸重量381.0tの機体は徐々に速度を上げながら平和維持軍コロラト基地へ向けて離陸した。
C-5Mが離陸した滑走路に今度は、2機のF-15J 要撃戦闘機が進入しお辞儀をするように機体を停止させた。
『ブルーディフェンサー編隊に離陸を許可。風は310度から、10ノット』
「ブルーディフェンサー編隊、了解。離陸する」
滑走路を走り始めた二機のF-15Jは周囲にF100-IHI-220Eの轟音を轟かせて離陸していった。それぞれのF-15Jのパイロンには自衛用の04式空対空誘導弾……AAM-5が装着されていた。
輸送機がコロラト基地へ向けて飛び立った頃、伊吹は自分の執務室で書類を作成していた。執務机の前に置いてある応接用のソファーには天音が座っており、文庫本を読んでいる。
「ふぅ……こんなもんでいいか……」
伊吹はボールペンをペンスタンドに入れると執務椅子から立ち上がり天音の横に腰掛けた。
「ギルドと王城に報告に行かなきゃいけないね………」
天音は、本を膝の上で閉じるとそのまま伊吹に体を預けた。
「そうだな……これからは今以上に忙しくなるな」
伊吹の机に置かれた資料には、「平和維持軍ジーク公国派遣概要」と書かれていた。
どうも、時雨です
今回も遅くなってしまいました。
申し訳ございません。
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