空中戦
AIM-9X サイドワインダー2000のロケットモーターに火が点いた。サイドワインダーはパイロンを離れるとマッハ2.5の速度でドラゴンに向かって飛翔していく。
数十秒でサイドワインダーは目標のドラゴンに命中した。が、ドラゴンは痛くも痒くもないようだ。ドラゴンの腹に命中したサイドワインダーは爆発しただけでダメージを与えている様には見えなかった。
「サイドワインダー命中させても何ともないのかよ……」
ボソッと呟いた瞬間、機体の腹の下を一基のミサイルが高速で飛んでいきドラゴンの片翼に命中した。
「誰のミサイルだ!?」
「総司令、援護に来ました。小隊各機、攻撃始め!」
声の主は、ベア隊隊長のシロボコフ中佐だった。
「モーラト1、エンゲージ」
「ヴァローナ1、エンゲージ」
「アクーラ1、エンゲージ」
16機の機体からK-74M 短距離空対空ミサイルが順々に発射され、そのほとんどは命中したが、中にはドラゴンに到達する前に信管が作動して爆発するミサイルもあった。数分後には、計50発以上のミサイルを受けても墜ちないドラゴンに伊吹をはじめとしたパイロット達は辟易していた。
「おいおい、硬すぎるだろコイツ」
機体を旋回させながら一人のパイロットが呟いた。
「御伽噺のドラゴンスレイヤーって……凄いんだな……」
Su-47のパイロットはドラゴンスレイヤーが出てくる御伽噺の内容を思い出しながら呟いた。
『なんだぁ? ロシア隊と総司令はもうお手上げなのか?』
『おい! ニクソン黙ってろ!』
『別にいいじゃないっすか!』
VFA-27のニクソン少佐の軽口をVFA-24の隊長であるグレイ中佐が窘める無線を聞いた伊吹は二人に命令を発した。
「あー、2人とも聞こえているかい? 喧嘩は降りてからにしてくれると助かる」
『申し訳ありません……』
「で、命令なんだが……ロシア隊は全てミサイルを撃ちきっている。俺は、まだAMRAAMを3発残してはいるが……流石に墜とせる気がしない」
「総司令、機銃の弾は残っていますか?」
ニクソン少佐は先程の声から一転して冷静な声で質問をしてきた。
「機銃なら使っていないから400発まるまる残ってるな」
「そいつを目に撃ちこめますか?」
「成程……機関銃で目を潰して墜とす。そしてMk.84で仕留めるってことか……だから少佐の隊の機体にMk.84が装着されてんのか」
ニクソン少佐が飛行隊長を務めているVFA-27のF/A-18Eは12機中6機の機体がMk.84を装備している。
「ええ、そうです。ですが、市街地にMk.84を落とす訳にはいきません。出来れば市街地から離れた森や草原にドラゴンを誘導して欲しいんです」
「了解した。囮の役目は俺が引き受けよう」
「総司令、頼みます」
伊吹は、ドラゴンを焚きつけるために機体を右にターンさせた。そして、機体を右に傾けながらの状態で速度をマッハ1.5まで加速させてドラゴンの右半身側を通り過ぎた。
「ひゅー……」
案の定ドラゴンは、近くを超音速で通過されたために衝撃波をもろに喰らい、伊吹もといF-22A ラプターを完全な敵として認識した。
「来た来た……」
ドラゴンはラプターに追いつこうとして翼を一所懸命はばたかせる。その速度は時速約600㎞程だった。
「うわぁ……意外と速いなコイツ」
その後、ドラゴンはラプターに対して、当たるはずも無いのに火炎を発射し巨大な尾を振り回したりしていた。
数分で伊吹はドラゴンを郊外の草原に誘導することに成功した。到着した途端、伊吹は操縦桿を操作しスライスバックと呼ばれる戦闘機動をした。
スライスバックとは、水平飛行の状態からマイナス45度または135度バンクし、そのまま斜めに下方宙返りをして高度を速度に変える機動である。開始時と終了時で方位が180度変わり、高度が下がる代わりに速度が増大するので、伊吹は機体をドラゴンに接触させない様に最大限の注意を払いながら、ドラゴンの顔面……特に目や目の周辺に向けてM61A2 20㎜機関砲の発射ボタンを押した。
毎分6600発の速度で発射される20㎜弾は、短時間で強い雨や雷が発生するゲリラ雷雨のようにドラゴンの顔面を襲った。残弾数がどんどんと減っていき、カウンターの数字がゼロになるとトリガーから指を離した。そして機体を90度バンクさせ、ナイフエッジの状態でドラゴンをパイロンに見立てて距離を取った。
「バルカンの弾数はゼロ……サイドワインダーも最初の空戦で全て使った。残ってるのはAMRAAMが3発だけ……。墜ちててくれば後の処理はニクソン少佐の隊が何とかしてくれるな」
伊吹はそう言ってドラゴンがホバリングしていた方向に目をやる。もうそこにはドラゴンの姿が無かった。機体をバンクさせて草原に目をやるとドラゴンが墜落していた。
その間にMk.84をパイロンに装着しているVFA-27のF/A-18E スーパーホーネット6機はニクソン少佐の指示で投弾しやすいポイントへと移動した。
『腹に抱えてる大事なプレゼントをやるよ。Mk.84投弾用意!』
ニクソン少佐が最初にMk.84を投下した。投下されたMk.84は緩やかな緩急を描きながらドラゴンの頭のわきに着弾した。着弾時の衝撃によって信管が作動しトリトナール高性能爆薬が炸裂した。草原に直径15m程のクレーターを作り、致死的な破片をばら撒きドラゴンの脳を揺らし脳震盪を起こさせた。
ふらふらとしながらも依然立ち上がり飛ぼうとするドラゴンに向けて二発目、三発目とMk.84が投下され四発目の爆発で遂に倒れた。
「やったか?」
伊吹はドラゴンが倒れたのを見て、確認の為に高度を下げようとした。
「総司令、確認のためもう一発投下させてください」
「許可する」
一言だけ呟き、ニクソン少佐からの進言によって機体を下降の状態から上昇に切り替え最後の投弾の様子を見るために顔をキャノピーの外……地面に向けた。
1機のスーパーホーネットが綺麗な弧を描きながらドラゴンの手前でMk84を投下した。投下された爆弾は着弾と同時に爆発し、鱗や羽をさらにズタズタにした。
「……動かなくなったな……」
『AWACSより全機、対象生物の撃破を確認した。対象生物の死体は陸軍が回収に向かった。燃料ビンゴの機は一旦帰投して待機せよ』
「了解、01より全機、今から此処に基地を召喚する。燃料が不安な機は此処に降りて休め」
『総司令! そこはフロントラインを超えています! 完全に敵勢力地帯です!』
「基地を召喚しても誰も突っかかってこないさ。このジーク公国は、今は魔王軍でいっぱいいっぱいだ。ばれた場合は返り討ちにしてやればいい」
『了解』
その後、基地を召喚し燃料が少ない機から順番に着陸し休息をとった。陸軍がコロラト王国からジーク公国に入ったのが確認されると、ヴァローナ隊のSu-47 ベールクト4機が離陸しCAP(戦闘空中哨戒)任務についた。
どうも時雨です。
久々にまともな文章になったのかなぁと思ってます
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