唐突に
智哉達を奪還してから一週間後、伊吹は単身でジーク公国の空を世界最強の戦闘機であるF-22A ラプターで敵情視察のために飛んでいた。本来ならばRQ-4 グローバルホークだけを飛ばせば良いのだが、伊吹が自身の目で公国の様子を知るために一緒に飛ぶことに決定したのである。
操縦しているラプターはステルス性を考慮していないため、翼下のパイロンに600ガロンの増槽2本を装着しており、下面と側面のウェポンベイには自衛用としてAIM-120Cが6発とAIM-9X サイドワインダー2000が2発格納されている。
「ガルム1、こちらカノープス、グローバルホークが目標地域に進入した」
「了解、高度を下げて追跡する」
AWACSとの短い無線を終え操縦桿を左に軽く倒しながらレーダーに表示された緑の光点を目指して機体を加速し降下させた。伊吹は自分の背中がP&W製F119-PW-100 A/B付きターボファンエンジンの加速に押されるのを感じながらHUDに映し出される速度と高度を確認した。現在の速度はマッハ1.1……伊吹はここまでラプターのアフターバーナーを使わずに超音速巡航……スーパークルーズを使用して飛行してきた。そのため、燃料はあまり消費していない。
「戦闘にならなければいいけど……」
伊吹は目の前にある各種計器を確認しながら離陸する前から気がかりだった事を呟き、グローバルホークとの距離を確認した。その後、伊吹の操縦するラプターは数分でグローバルホークの後方8㎞まで接近した。今回の作戦は、ジーク公国の現在の状況を上空から偵察することである。
突如、高空を飛行中のAWACSから無線が入った。
「ガルム1、グローバルホークが黒煙を上げている街を視認した。戦闘が起きているかもしれない。さらに接近して状況を確認している。警戒を厳とせよ」
伊吹は、AWACSの管制官に聞こえない様に酸素マスクの中で舌打ちをした。
「……了解」
上げていた濃色のバイザーを下げ操縦桿を握り直す。レーダースクリーン上では何かの光点が移動しながら点滅を繰り返していた。
視線をレーダーからキャノピーの外に向けグローバルホークの後を追うために機体をさらに加速させ何者かによって襲撃されている街へと急いだ。
基地の地下にある統合司令部では、特殊作戦群長の曽根 凛太郎1佐と陸上自衛隊唯一の機甲師団である第7師団第71戦車連隊の連隊長である緑川 仁1佐及び航空自衛隊第501飛行隊の岩城 洋祐3佐がグローバルホークから送信されてくる映像を椅子に座りながら見ていた。ちなみに海軍司令の朝比奈海将補や空母ロナルド・レーガンの艦長であるロバート大佐らは、空母打撃群を編成し万が一の事態に備えて外洋に展開している。
「しかし……総司令を一人で行かせて良かったのだろうか……」
緑川1佐はコーヒーカップを持ちながら呟いた。
「……私の方からも、単機戦闘になるのを避けてもらうために僚機を伴って飛行してもらうに上申したのですが……」
岩城3佐は緑川1佐に申し訳なさそうに言葉を返した。
「まぁ……総司令なら、ピンチになっても自身の召喚能力で何とかするだろうさ」
曽根1佐はコーヒーを啜りながら答えた。
「……そうだな……」
黒板大のスクリーンに向き直ると火と煙にまかれている街の映像が3人の目に入ってきた。その映像には全身が黒と金の鱗で覆われ金色の鱗がいくらか煤けているドラゴンが巨大な口腔から炎を吐き出し木造だと思われる家屋を空中から燃やしている様子が映っていた。道路には多く人々が逃げ惑い黒金のドラゴンの配下であろうモンスター達が剣や槌でその人々を殺害していた。
「なっ……」
その部屋の中にいたオペレーターや幹部の軍人はその光景に絶句した。もちろん緑川1佐や曽根1佐も例外ではない。だが、直ぐに冷静さを取り戻した。
「総司令に無線を繋げ!」
すぐさまオペレーターに指示を飛ばす緑川1佐は目の前のスイッチを押しマイクに顔を近づけ伊吹と無線通信を始めた。
「総司令! 応答して下さい!」
打てば響くように伊吹から涼しい声が返ってきた。
「どうかしましたか?」
風切り音と共に伊吹の声が室内のスピーカーに流れる。
「目標地点上空に巨大なドラゴンを確認しました。更に街の中でも大規模な戦闘が行われています」
「……空軍と艦上機部隊に出動要請を……陸軍の方は状況次第で出動させられるように待機させて下さい」
先程の涼しい声から一転、重苦しい声に変わった伊吹の声を聞いた緑川1佐は戦闘服のポケットからペンを取り出し、手元に置いてあった資料に何かを書くと近くにいたオペレーターに手渡した。受け取ったオペレーターは渡された紙をファイルに挟むとすぐさま部屋を出ていった。
「了解しました」
伊吹との無線を終えた緑川1佐は海上にいる空母打撃群の艦艇と基地内へ向けて戦闘機部隊へのスクランブル通達と陸海軍への第二戦闘配備を発令した。すぐさまサイレンが鳴り、基地は慌ただしく動き始める。滑走路のエプロンでは格納庫から出されたロシア製戦闘機のパイロンに増槽とK-74M 短距離空対空ミサイルの装着作業が始まっていた。ミサイルと増槽の装着が終わった機体からパイロット達が最終点検を始める。機体各部を確認し終えたパイロットから機体に乗り込んだ。
「いいかお前ら! 海から来るVFAの連中に負けんなよ!」
「「「「ypaaaaa!!」」」」
シロボコフ中佐の掛け声によってSu-47、Su-35S、MIG-35、MIG-1.44のパイロットや整備兵達が一斉に叫ぶ。
「総員! 出撃!」
戦闘機のキャノピーが閉まりシロボコフ中佐のSu-35Sを先頭にして計16機の戦闘機がエプロンから滑走路へと進入していく。
「ベア隊、アクーラ隊、ヴァローナ隊、モーラト隊各機へ。離陸を許可する」
管制官が冷静な声で離陸許可を告げ、2機ずつの編隊を組み離陸していった。
「当該空域にはAWACSがいる。離陸したらそちらの管制に入ってくれ」
「了解」
全機離陸したことをシロボコフ中佐は確認し、上空で編隊を組む事を告げると機体を高度1000mまで上昇させた。上空で隊ごとにダイアモンドを組むとそのまま、AWACSの管制に入りジーク公国へと飛んで行った。
どうも時雨です。
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