奪還
ブクマ登録101件と37000アクセスありがとうございます!!
日が陰り始めてきた空に伊吹と曽根1佐率いる特殊作戦群1小隊45名を乗せた米陸軍第160特殊作戦航空連隊のMH-60L ブラックホーク4機とAH-6M キラーエッグ4機及び捕縛者回収用のCH-47F チヌーク1機が目的地へと羽音を響かせながら飛んでいる。
機長の一人がヘッドセットのマイクに向かって叫んだ。
「降下3分前です!」
ヘリ部隊が散開しそれぞれの降下地点へと機体を進めていった。その頃、下の倉庫街の一角では智哉達を拉致したジーク公国の将兵達は聞こえてくる音に首を傾げていた。
「なんだこの音は?」
額から頬にかけて傷のある男が一人の部下に聞いた。男は応戦しようとした智哉が後頭部を殴られた際に落としたM92Fを見ながら言った。
「あっしも分かりませんよ。所でお頭が数刻ほど前に王宮に送らせた手紙は何を書いたんですかい?」
「一昨年の戦で死んだ奴の名前を使って国に金と物資、兵士を送るように請求してやったのさ。こいつら勇者を人質にしてな」
お頭と呼ばれた男は倉庫の真ん中で足と手を荒縄で締められている智哉達を顎で指した。その脇には智哉が借りていったハンヴィーが止まっていた。
「それにしても……この女どもは上物だな。おい、そいつら二人の足の縄を解け」
男は二人の部下に優衣と笹沼 恋の縄を外すように指示した。足の縄を解かれた二人はそのまま男の前に引きずられた。男は木箱から立ち上がると二人の前にしゃがみ込んだ。
「お前ら、結構いい顔してんな。ガキじゃなけりゃ味見してるとこだったが……生憎ガキを犯す趣味はないんでね」
「なによ、あたしらがそんなにガキに見えんの?」
恋が声を震わせながら男に聞いた。男はどすのきいた声で回答した。
「ああ、俺からしたらガキにしか見えねぇな。まぁ、心配すんな。俺たちは一応軍人だからな」
男は一応を強調しながら言った。
恋が男達と話している間に伊吹達は倉庫の周辺にラぺリング降下した。倉庫の裏にあるドアを少し開けM84 スタングレネードを投げ込んだ。スタングレネードは、約100万カンデラ以上の閃光と、15m以内に170デシベルの爆音を発生させる非致死性兵器である。そのため、爆発時の爆音と閃光により、付近の人間に一時的な失明、眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状と、それらに伴うパニックや見当識失調を発生させる。倉庫内にいた人間は、突然の閃光と爆音によって目と耳をやられて木箱にぶつかったり、地面をのたうち回った。
「あ~あ~目がぁ~、目がぁ~!」
「耳が、耳がイカれちまった!」
倉庫内から男達の悲鳴が聞こえてくる。
「よし! 突入しろ!」
曽根1佐の指示を受け表と裏のドアから特戦群の隊員が突入する。隊員達はそれぞれのポーチから事前に伊吹から支給されたハンドカフを取り出すと地面にうずくまっている男達の手首に嵌め頭に麻袋を被せていった。が、男達の中には視力が回復し始めた者がおり、その男は腰に下げた革製の鞘から短剣を抜くと一人の隊員に向けて切りかかろうとした。
「てめぇらナニモン……っ……」
狙われた隊員は冷静にHK416の引き金を引いた。セミオートで放たれた弾丸は男の胸を正確に仕留める。伊吹はHK416Cを構えながら倉庫の中心にいた智哉達の縄をケイバ-・ナイフで切った。全員の縄を切り終えると座り込んでいる智哉に話しかけた。
「よう智哉、なんか話す事あるんじゃねぇか?」
「うぐっ……えっと……この周りにいる方々は?」
「もう一回縛り直してやろうか?」
「ごめんなさい」
智哉は伊吹の言葉を聞いた途端に土下座をした。伊吹は智哉が顔を上げた時と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。頭を上げた智哉が見たのは穏やかな笑みを浮かべる友の姿だった。
「ま、無事で良かったな。ほら、お前のベレッタ」
伊吹は智哉に落ちていたベレッタを手渡した。
「ありがとう。応戦しようとしたんだけど……無理だったわ」
渡されたベレッタをサイ・ホルスターに仕舞う智哉は悔しそうな表情を浮かべた。伊吹はそんな智哉を見ながら曽根1佐に指示を出した。
「捕縛した連中を倉庫の外へ。遺体は……取り合えず死体袋に入れて王国に指示を仰ぎましょうか」
「了解」
曽根1佐は隊員達に指示を出した。ハンドカフを着けられた男達を特戦群の隊員が倉庫の外に連れ出し、射殺された男は死体袋に入れられ外に置かれた。伊吹は倉庫の中心に置いてあったハンヴィーを消去し、倉庫の扉を全開にして外に出た。
「タスカー24、回収してくれ」
伊吹の指示を聞いたチヌークのパイロットは己の機体幅より10m程広いスペースへと機体を着陸させた。前後の回転翼が発生させる強烈なダウンウォッシュは石畳の路面の砂や埃を舞い上がらせる。伊吹や隊員達は砂や埃から目を守るためにゴーグルを装着した。チヌークの後部ランプが開くと確保した9名と1名の死者そして伊吹や曽根1佐及び監視役の隊員ら18名を乗せ、2機のAH-6M キラーエッグと共に王宮へと向かった。智哉達や小隊長の神崎 彰人2尉は順番に着陸してきたMH-60Lに乗って基地へと戻っていった。
王宮へ向かうチヌークの機内では確保された男達が騒ぎ始めていた。
「顔から袋を取れ! 手枷を外せ!」
「そうだ! そうだ!」
中にはシートを蹴りだしたりする者が出てきたため、伊吹は隊員達に麻袋を外すように命令した。
「麻袋は外してやるが手枷を外す程甘くはないぞ」
男達に話しながら伊吹は自身のHK416Cのマガジンを抜き取った。そしてゴム弾を装填したマガジンをマグウェルに挿入しチャージングハンドルを引き1発の実弾を抜き取ると元のマガジンに戻しマグポーチへと仕舞うとHK416Cを一人の男の頭に押し付けた。
「こいつで殺されたくなかったら大人しくしてろ」
他の隊員達もMP7や9㎜拳銃を向けて男達の動きに警戒している。そんな中額から左頬にかけて傷のある男が口を開いた。
「俺達を何処に連れて行くんだ? 麻袋を外されてからこの小さい窓の外を見たが何処かに連れていこうとしているんだろ?」
「外を見りゃわかるんじゃねぇか?」
男は伊吹の言葉を聞くともう一度チヌークの窓の外を見た。
「悪いが連れていく先はこの国の王宮だ」
「そうか……」
その後直ぐに王宮のヘリポートに着陸した。後部ランプが開かれると一人ずつ降ろされ、ヘリの音を聞いて中庭の入り口に集まっていた衛兵に引き渡された。近くにいた衛兵にハンドカフの鍵と解き方の説明書を預け基地へと帰投した。
どうも時雨です。
突入の描写がうまく描けたかどうか……
感想や質問待ってます!




