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衝撃と畏怖2



 イージス護衛艦きりしまの飛行甲板では、伊吹が国王や宰相達へイージス艦の説明をしている。きりしまの左舷後方にはこんごう型護衛艦1番艦のこんごうが追走しており、国王達はきりしまとこんごうの大きさに驚いていた。


「この艦…きりしまと後ろを追走しているこんごうは同時に200以上の目標を捕捉・追尾できる装備を備えた艦です。ですので、こいつに係れば公国の50門級の戦列艦や海蛇やらリヴァイアサンやらは直ぐに沈められますよ」


「…貴様……さっきから聞いていれば……その態度は不遜ではないか!」

 伊吹の発言に怒りを覚えたのは公国の海軍司令官であるゴルフ・クレイ将軍だ。


「実際…戦列艦はイージス艦にとってはただの的ですよ」

 ゴルフは伊吹に殴りかかろうとするが直前で伊吹に避けられる。その隙に伊吹はホルスターからUSPを抜くとゴルフに向けた。


「大人しくしてくださいよ」

 

「そんな物で何が出来る」

 ここでソレンセンが仲裁に入った。


「ゴルフ将軍…伊吹の武器は危険ですので…歯向かうと…」

 既に周囲には9mm機関けん銃を構えている海自隊員がいた。伊吹はUSPを仕舞うと周囲にいる海自隊員にも9mm機関けん銃を下げる様に命令した。


『総司令、そろそろ艦橋へお越しください』

 朝比奈海将補からの無線を聞いた伊吹は全員に艦橋へ上がるように促した。


「では、艦橋へ行きましょう」

 艦内を歩き急な階段を上り艦橋へと到着した。艦橋では朝比奈海将補が艦長席に座っていた。


「もう少しで指定海域に到着します。到着後は……」


「朝比奈海将補自らの判断で撃沈してかまいません。主砲でもハープーンでも魚雷でも…お好きな装備でどうぞ」


「了解しました。ですが……流石に総司令以外をCIC(戦闘指揮所)に入れるのはちょっと……」

 CICとは現代の軍艦における戦闘情報中枢のことである。レーダーやソナー、通信などや、自艦の状態に関する情報が集約される部署であり、指揮・発令もここから行う。その性質上多くの機密情報を扱うため、運用時間中は乗組員であっても立ち入りには制限が加えられる部屋だ。


「それじゃあ…私たちは艦橋のウイングからでも観戦しましょうか」


「それでしたら問題ありません」

 短い会話の間にもきりしまとこんごうは廃船となった戦列艦が浮いている海域に向けて進んでいる。


「海将補、目標までの距離は?」


「約10㎞ですが……8Km圏内に入ったら攻撃を開始します」


「127㎜じゃ無さそうですね」

 伊吹の言葉に朝比奈海将補は苦笑した。


「ええ…ハープーンで一隻は沈めさせてもらいます。速射砲での撃沈はこんごうにやってもらいますよ」


「健闘を」

 伊吹はウイングに出た。今ウイングにいるのは国王と海軍司令のゴルフだけだった。


「国王陛下そろそろ攻撃を始めます」


「そうか…」


「まだ船も見えないのに何で攻撃するというのか!」

 ゴルフはいちいち突っかかってくるので伊吹はもう何も言うつもりも無かった。



 CICでは戦闘準備が始まっていた。砲雷科の運用員達はモニターに向き合いながらレーダー等を確認している。CICに移動した朝比奈はレーダースクリーンを見ながら指示を出した。


「……対水上戦闘用意……」


「対水上ぅ戦闘用ぉー意!」

 朝比奈の指示を砲雷長が復唱する。


「ハープーン戦、CIC指示の目標、攻撃始め」


「ハープーン、攻撃始め…」

 ミサイル員は指示を聞くと発射パネルを押した。刹那、きりしまの4連装SSM発射筒からハープーンが発射される。約7秒間のブースターによる加速が終わると搭載されたターボジェット・サステナーによって飛行するハープーンは慣性誘導によって、目標の戦列艦へと短時間で突入し船体に大穴をあけて起爆した。爆発によって木の破片が舞う。


「目標への命中を確認」

 砲雷長からの報告を聞いた朝比奈は告げた。


「戦闘用具収め」


「戦闘用具収め」

 復唱する砲雷長を横目に朝比奈はレーダースクリーンを見た。スクリーン上には、三つの光点が映し出されている。一つは追走しているこんごう、二つ目は上空から戦果確認のために離陸したRQ-4B グローバルホーク、三つ目はもう一隻用意されている戦列艦である。



 艦橋横のウイングでは国王と海軍司令官がハープーンの発射炎と伊吹から伝えられた戦列艦撃沈の言葉で唖然としていた。既にハープーンが命中した戦列艦は轟沈した。もう一隻の戦列艦までは4マイルを切っている。こんごうのCICでは、艦長の松田 千秋1佐が指示をだしていた。


「戦闘用意……」


「……戦闘用ぉー意!」


「左砲戦、CIC指示の目標、主砲、撃ちぃ方始めぇ!」

 

「撃ちぃー方始めぇ!」

 こんごうの砲雷長の復唱によって、射撃員はコンソールに備え付けられているピストル型の発射装置を握り、トリガーを引いた。127mm速射砲は旋回し戦列艦へ砲身を向けると、5インチ砲弾を目標へ向けて吐き出した。砲弾は、約6㎞先の戦列艦の上甲板を突き破ると船体中央にそびえたつマストの近くで破裂し、船体を崩れさせた。その様子は双眼鏡を使って見ていたゴルフ海軍司令官の心を完膚なきまでに叩き潰した。


「目標の撃沈を確認」


「戦闘用具収め」

 きりしまの朝比奈海将補は、CICから艦橋へ戻ると伊吹に訓練終了を告げた。


「総司令官、目標船を2隻とも撃沈しました」


「ご苦労様でした。では、基地へ戻りましょうか」

 突如サイレンが鳴り始めた。朝比奈は艦内電話を取ると、CICにいる砲雷長に説明を求めた。


「何があった!」


「ソナーが海中を移動する巨大な物体を発見しました。距離は約0.3マイル! 右舷前方に浮上します!」

 海中から現れたのは全身が白い巨大な海蛇だった。幅は約5mに及ぶなと伊吹は双眼鏡を覗きながら思っていた。


「対潜戦闘用意! 直ぐにCICに戻る」

 朝比奈海将補は伊吹の方を向いた。


「撃沈してかまいません。これからの航海であんなモノに邪魔されては堪ったもんじゃないですからね」


「了解」

 朝比奈海将補は敬礼をするとCICへ向けて走り出した。


 その頃こんごうのCICでは松田1佐がマイクを取り低い声で命令をした。


「総員戦闘配置、対潜戦闘用意! これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない」

 艦内に警告音が響き渡った。この警告を聞いたこんごうの隊員達は気を引き締め直していた。

 

「距離をとるぞ。取舵」


「と~りか~じ」

 松田の指示を航海長が復唱する。そして操舵員も復唱し舵輪を回した。こんごうが左に15度回頭し、海蛇と距離をとった。


「右砲戦」

 この指示に砲雷長は驚いた。


「艦長! 何故砲撃なんでしょうか!」


「馬鹿野郎……こんな近い距離からASROCを撃つのか、お前は?」


「うぐっ…ですが!」


「今……あいつは海面に姿を見せている。こんなチャンスを逃す訳にはいかないだろ?」

 松田は砲雷長に言い聞かせるように話すと、再度指示を出した。


「右砲戦用意」

 砲雷長は艦長に説き伏せられると、気持ちを切り替えて復唱した。


「右舷、砲戦用ぉ~意!」


「CIC指示の目標、主砲、撃ち方始め!」


「主砲、撃ちぃー方始めぇ!」

 旋回した砲塔から発射された砲弾は海蛇の背に直撃した。海蛇は命中した砲弾によってもがきながら大量の血を流し始めた。その間にもこんごうは毎分45発の砲撃が可能な127mm砲で砲撃している。発射された砲弾の中の一発は海蛇の頭に命中した。脳味噌を抉られた海蛇は、もう動くことはなかった。


「やったか……。戦闘用具収め」


「用具収め」

 国王とゴルフ海軍司令官はたった数分で巨大な海蛇が殺戮されたのを見ていた。


「国王陛下……我々は……何を召喚してしまったのでしょうか……」

 海軍司令官が途切れ途切れ言葉を紡いだ。


「異世界の悪魔達……かもしれんな」


「悪魔ではありませんよ……」

 伊吹はウイングにいる国王達に後ろから話しかける。


「ですが、敵にならないという保証もないですけどね」

 凶悪な笑みを浮かべる伊吹に国王とゴルフは戦慄する。


「……何を望んでいる……」


「我々平和維持軍の邪魔をしない事と食料と資金の援助……これだけです」


「つまり……基地へ騎士団員を入れるなという事か」

 伊吹はゆっくりと頷いた。


「これを守っていただければ確実に公国はお守りしますので」

 国王陛下は伊吹の意見を聞き入れた。

 その後、伊吹の命令によりこんごうときりしまの潜水科の隊員たちが海蛇の曳航準備を始め、基地へと戻っていった。曳航した海蛇は基地のガントリークレーンで陸地に上げられ、調査がされたのち冒険者ギルドへと引き渡された。




どうも時雨です。

海上戦闘の描写がうまくできたか不安です。

感想や質問待ってます!

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