衝撃と畏怖1
伊吹と智哉は王宮の中庭でヘリコプターの脇に待機している。なぜかと言うと国王やその側近などに基地を紹介するためだ。もう既に基地では、1機のVFA-102゛ロイヤル・メイセス゛に所属しているF/A-18Eの周囲に使用できる武器を並べたStatic display with weaponでの展示準備を始めている。ちなみに今回操縦するのは天音と凛である。10分ほど待っているとソレンセン騎士団長や宰相や軍務卿、各軍の司令官が国王と共にやってきた。
「騎士団長、これで全員ですか?」
伊吹はソレンセンに確認を取った。
「そうだ」
「分かりました。では、皆さんにはこのヘリコプターに乗っていただきます。多少揺れますけど驚かないでくださいね? さらに揺れますから」
多少の脅しを混ぜた紹介をし、ヘリのサイドドアを開け搭乗させようとするが国王や宰相が中々乗り込まないので騎士団長に説得してもらい搭乗してもらった。この中でヘリに乗ったことがあるのはダンジョン攻略の際にCH-53E スーパースタリオンに搭乗したソレンセンだけである。ドアを閉め、近くのシートに座った伊吹は天音にサインを出した。天音はそのサインを見ると、てきぱきと離陸動作を始めた。
「では、少しの間ですが初めての空中散歩をお楽しみください」
王宮の中庭からAS 332が離陸した。高度50mまで上昇すると、宰相や軍務卿は窓から街を眺めていた。国王は恐怖心があるのか窓の外を見ずにじっとしている。
「これは凄い! 生きているうちに空の上から王国を眺める事が出来るとは!」
宰相は子供のようにはしゃいでいた。AS 332は直ぐに基地上空へと到達した。
「皆さま、この下に見えるのが我々の基地です。天音、無線を繋いでくれ」
天音がスイッチを操作すると機内に航空管制が流れ始めた。
『コロラトコントロール、こちら、901号機、着陸許可を願う』
『901号機、ランウェイ12Rへの着陸を許可する』
『了解』
眼下では、偵察へ出していた航空自衛隊のF4-EJが着陸のアプローチを開始していた。宰相達は、青いF-4を見て驚いていた。
「コロラトコントロール、こちら、AS 332、1番ヘリポートへの着陸を許可されたし」
天音が無線で管制官に呼びかけた。
『AS 332、1番ヘリポートへの着陸を許可する。風は、方位245から4ノット』
「了解」
天音は指示に従って1番ヘリポートへと機体を飛行させる。高度を下げ、ゆっくりと1番ヘリポートに着陸し、エンジンを切りローターの回転が収まると、サイドドアを開けて地面に降り立った。ヘリポートの近くには基地を案内するために航空自衛隊に配備されているトヨタ・コースターの塗装を変更した小型人員輸送車が停車している。
「今回はあそこに止まっているバスと呼ばれている乗り物で移動してもらいます」
乗車すると運転手を含めて合計で13人しかいないコースターの車内は普段よりも広く感じられた。
空自隊員の運転によってエプロンに駐機しているロイヤル・メイセスのF/A-18Eの近くまで来ると、国王や宰相は窓の外に駐機してあるホーネットとその周囲に展示しているミサイルや爆弾に釘付けになった。運転手の隊員はバスを停車させるとスイッチを操作してドアを開いた。国王たちから先に降ろし、ホーネットの前へと足を進める。立ち入り禁止のロープで囲われたホーネットの説明を始める。
「皆さんの前に駐機しているのは、戦闘攻撃機という物です。この世界で言えば…竜騎…ワイバーンみたいな物ですかね…。ですが、このF/A-18E スーパーホーネットはマッハ1.6…つまり音速の1.6倍での飛行が可能です。ワイバーンが大体時速250㎞くらいですか? ライノ(スーパーホーネットの愛称)からしたら、ワイバーンは空中で静止してるような感じです」
伊吹はF/A-18Eを指さしながら説明しており、国王や宰相は恐ろしい物を見つめるような顔をして話を聞いている。
「正直に言いますと、私たちの世界ではこれよりも速い戦闘機が大量に生産されてますね」
ここで軍務卿が質問をしてきた。各軍の司令官も気になるようで、じっとホーネットを見ている。
「この周りに置いてある物は何なのだね?」
軍務卿は戦闘機よりも、ミサイルや爆弾に興味があるようだ。
「これから説明しようと思っていたんですけど……まぁ…いいか。では、この棒状の物は空対空ミサイルと言います。ミサイルとは、目標に向かって誘導を受けるか自律誘導によって自ら進路を変えながら、自らの推進装置によって飛翔していく兵器です。簡単に言いますと、ワイバーン等に向かって自分で飛んでいく兵器です」
この発言に、この場にいた王国の関係者の青白くなった。その時だった。突然基地のサイレンが鳴り始めた。伊吹は無線に呼びかけた。
「何があった?」
骨伝導式のイヤホンからは基地オペレーターの声が聞こえてくる。
「レーダーが基地に接近する機影を捉えました」
「偵察に出したファントムじゃないのか?」
「IFFに応答ありません」
「そうか…F-14にサイドワインダーを着けて上げさせろ」
「了解」
謎の機械に話かけている伊吹を公国関係者は不思議そうに見つめた。
「伊吹、どうしたんだ?」
ソレンセンが話かけてきた。
「この基地に何かが接近してるみたいなので、一旦兵器見学は中止にして司令部施設に入ります。急いでバスに乗ってください」
小走りをしながらバスに乗り込むと、司令部施設へと向かった。司令部の玄関前に着くと伊吹達は衛兵に敬礼して入っていくが、国王たちは簡単な身体検査を受け短剣等を衛兵が預かると、施設内へと入った。
「なんと…綺麗な建物なのだ…」
「この床も凄い…大理石かこれは!?」
宰相や軍務卿や建物の中を見て興奮している。地下にある統合司令部に入室し、国王達は元から用意されているソファへと腰かけた。
「ふかふかな椅子だな…」
基地に設置されているカメラとレーダーサイトからの情報を得られるディスプレイを見ると、丁度両翼にサイドワインダーを装着して飛び立っていくF-14Aが映し出されている。
「凄く綺麗な魔像だ……」
陸軍司令官が呟いた。
「すまん、ちょっとマイクを」
伊吹は近くの席に座っていたオペレーターからマイクを借りると、離陸していったF-14Aのパイロットへ指示を出す。
「カール中佐聞こえるか?」
『聞こえます司令』
「竜騎士が乗っていないドラゴンは落としても構わないが、竜騎兵の場合は注意してくれ」
『了解』
マイクを机に置きながら伊吹は小さい声で呟いた。
「……アラート部隊のローテーション決めと……機体が少ないな…」
この言葉を聞いていたのはすぐ隣にいた天音だけだった。
カール中佐から無線が入る。
『不明機確認……竜騎兵です!』
「対象への警告を始めろ」
『了解…。接近する竜騎兵へ告ぐ。貴官は、平和維持軍の基地へと接近している。直ちに転進せよ…。繰り返す。貴官は、平和維持軍の基地へと接近している。直ちに転進せよ。転進しない場合は威嚇射撃を行う』
カール中佐の声がスピーカーを通じて流れてくる。
「伊吹殿、少し良いか?」
軍務卿が質問をしてきた。
「何でしょうか、ブラッド軍務卿」
「何故警告をするのだ? そのまま撃墜すればよかろう」
伊吹は苦笑しながら答えた。
「…無用な戦闘を避けるためです」
「そうか…」
結局竜騎兵は転進して、基地から離れていった。スクランブルに上がったF-14Aは翼のサイドワインダーを使わずに戻ってきた。軍務卿達は、綺麗に編隊着陸をする2機の戦闘機に感嘆の声を上げていた。
どうも時雨です。
異世界の人々にとって見るもの全てが新鮮なんでしょうね~
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