昇格試験?
伊吹達「Defender」の4人はコロラト王国上空高度200mを現在トーネード GR.4A 一機とAV-8B ハリアーⅡ 二機で飛行している。
トーネード GR.4Aは、イギリス空軍向けに開発されたトーネード GR.1をBAE システムズ社が寿命中期能力向上のために改修した機体である。GR.4は、電子機器や兵装システムが一新され、GPSの受信能力や広角ヘッドアップディスプレイ(HUD)、赤外線前方探索機器(FLIR)、暗視ゴーグル(NVG)なども追加装備された。この改修によりトーネードGR.4は夜間攻撃能力が向上したほか、レーダーに依存しない航法能力を獲得した機体である。
俺の前をハリアーⅡで飛行している智哉から無線が入った。
「なぁ…伊吹。なんでトーネードとハリアーなんだ?」
「トーネードは俺が操縦してみたかったから。 で、ハリアーの方は…本当はF-35Bを使いたかったんだけどまだアンロックされてないからな。だからハリアーになったんだよ」
「はぁ…だから俺と凛がハリアーなのね…」
「悪いね」
今回はギルドランクの昇格試験と通常のクエストが一緒になっている。試験内容と通常クエストがオーガ15体の討伐と同じなのは、ギルドマスターから早急に倒してほしいと言われたので昇格試験と一緒にしてもらったのだ。
「伊吹君、そろそろ目標の森の上空に入るよ」
後席の兵装士官席に座っている天音が声をかけてくる。
「もう着いた?」
「うん」
「じゃあ… MW-1散布用意」
MW-1ボムレット・ディスペンサーとは大量の小爆弾を散布する装置である。飛行しながら徐々に爆弾を投下していくため、半数必中界が広い兵器である。今回は少量の爆薬で効率的に被害を与えるため、弾頭には成形炸薬弾を選んだ。
「智哉と凛、MW-1を散布している間は援護頼むぞ」
『了解』
「MW-1散布開始…」
ディスペンサーから段々と小型爆弾が散布されていく。散布された小爆弾は木々をすり抜け地面に着弾すると、それぞれ爆発していく。トーネードが通過した場所は木々が燃え始める。その間にも伊吹と天音が搭乗しているトーネード GR.4はMW-1を散布していく。そして森の中では目標のオーガやゴブリンなど様々なモンスターが火事と爆弾で命を失っていた。その時だった。突如森の中から多数のワイバーンが上空に上がってきた。ワイバーンの背には竜騎士と思われる人物が乗っていた。
「…まずい…。智哉! 凛! ワイバーンを撃墜してくれ。俺は一旦上昇して離脱する」
機体を加速させ上昇させる。
「了解、シャーク…エンゲージ AIM-9X ロックオン…Fox2 Fire」
智哉が操縦しているハリアーⅡがAIM-9X サイドワインダーをワイバーンに向けて発射した。
「シャーク、スプラッシュワン」
シャークとは智哉が自分でつけたTACネームである。なんでシャークかというと、シャークっていう言葉が格好いいからとつけたそうだ。
「ホワイト、エンゲージ…AIM-9X ロックオン、Fox2…Fire」
凛からもサイドワインダーを発射したようだ。レーダーでは、凛が撃ったサイドワインダーがワイバーンに命中し、光点が一つ消えたことを確認した。
「ホワイト、スプラッシュワン」
凛のTACネームはホワイトだ。ホワイトは凛の好きな色である白からつけたと言っていた。ちなみに俺のTACネームはサイファーで天音がレインだ。サイファーを選んだ理由は、好きなシューティングゲームの主人公のTACネームだからだ。天音は雨が好きだからレインを選んだそうだ。TACネームの説明をしている間もレーダー上に表示された光点が智哉と凛によって消えていった。残る光点はあと4個だ。最初の光点は12個だったので、智哉と凛で8機も撃墜したようだ。
「ハリアーのミサイルはもう切れたか…。天音、こっちのサイドワインダーは?」
「左右で一本づつだよ」
「2本か…。ありがとう」
俺は、機体を下降させワイバーンにロックオンする。
「サイファー、エンゲージ…AIM-9X Fox2 Fire」
サイドワインダーのMk.36固体燃料ロケットに火がともる。ペイロードから離れたサイドワインダーはワイバーンの熱源に向けて誘導されていき、ミサイルが命中する。
「スプラッシュワン」
サイドワインダーを喰らったワイバーンは体を竜騎士ごと引き裂かれ、落下していく。MW-1を散布され森林火災になった森へと。もう片方の翼についているサイドワインダーもワイバーン目がけて飛翔していく。命中したサイドワインダーは爆発し、竜騎士とワイバーンの命を強制的に終了させた。
「あと2体…」
機体をトーネードやハリアーⅡから逃げるように移動しているワイバーンに向け、接近させる。マウザー BK-27 27mm機関砲の射程圏内に入ると機関砲のトリガーを引いた。初速1,025mで発射される弾丸はワイバーンと竜騎士を食いちぎった。わずか数分で12騎のワイバーンはこの世界には存在しないはずの戦闘機3機に屠られた。
「残存のワイバーンなし」
「さて…もうクエスト終了でいいよね?」
下を見ると森全域が火に覆われていた。
「伊吹君…オーガどうするの?」
俺は冷や汗が背中を流れるのを感じた。
「いや…もう死骸が残ってないことにしてしまえば…」
「通らないと思うよ?」
その時、智哉の声が聞こえてきた。
「伊吹、森の端に生き残りのオーガいるぜ」
「まじで?」
「ああ、25mmでやっていいか?」
「いいぞ…。これで証拠ができる…」
智哉が操縦しているハリアーⅡのGAU-12 イコライザー25mmガンポッドから鉄鋼焼夷弾であるPGU-20/Uが発射され、森の中から逃げてきたオーガの群れに命中する。鉄鋼焼夷弾は、オーガの体を貫き焼夷効果によってオーガの体を内側から燃やし始めた。
「あ、鉄鋼焼夷弾積んでたのか…」
いつの間にかすべてのオーガやゴブリンが死んでいた。そしてその近くでは智哉と凛のハリアーⅡがノズルを下方に向けて垂直着陸の体勢に入っていた。着陸するエンジンを切って座席から飛び降りた。智哉と凛は共に身体強化の魔法を事前にかけていたので怪我をすることなく地面に降り立った。そして近くに転がっていたオーガの死体を智哉は伊吹が貸したマジックバッグにしまう。
「回収完了。で、伊吹俺たちは何で帰れば?」
「ああ、何で帰りたい? 装甲車両? それともソフトスキン?」
「機関銃を積んだテクニカルとか出せるか?」
「たぶん出せる」
「じゃあハイラックスでも出してくれ」
「ハンヴィーじゃなくていいのか?」
「ああ、ハイラックスで十分だ」
「分かったよ…テクニカル…召喚」
智哉たちの目の前の機関銃を積んだトヨタ ハイラックスが現れる。
「ご注文は以上かい?」
「サンキュー伊吹。凛運転頼むぞ」
「え、あたしが運転するの?」
「だってお前、一昨日伊吹の運転で酔ってたじゃん。だから自分で運転すれば酔わないんじゃね?」
「はぁ…分かったわよ…」
「俺は後ろの荷台に乗るから頼むな」
智哉はエクストラキャブの荷台に乗ると機銃に手をかけずにそのまま寝ころんだ。
「智哉の奴…寝る気か…」
俺はため息をつきながら智哉と凛が操縦していたAV-8B ハリアーⅡを消去した。
「凛、先に滑走路を召喚した場所に戻ってるからな」
「はーい…」
「それと、後ろに寝ころんでる智哉は急ハンドルや急ブレーキで振り落としてもかまわん」
「は…智哉寝ころんでるの?」
「ああ、今にも寝そうだぜ」
「信じらんない…」
「まぁ、死なない程度にいたぶってくれ」
「わかったわ」
ハイラックスは走りだしていく。俺はトーネードを滑走路のある方角へと向け、加速させた。
どうも時雨です。
やはり固定翼機のシーンを書くのは楽しいですね。




