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9人目 師匠の秘密を暴け! 前編

 以前も話した通り、クレイン道具店(ウチ)の財源には謎がある。

 師匠が道具を作り出すための素材の購入費や、あたしの学校の学費、日々の暮らしに掛かる費用など、外へ出ていくお金に対して、主にこの店の収入源であるはずの売上が明らかに少なすぎるのだ。

 だというのに、別にウチの家計が火の車というわけでもなさそうだし、どこかに借金をしている様子もない。

 いくらウチの師匠がお金に無頓着で、毎日のように高価な素材を買うような性格でも、流石にお金がなければ気づくはずだ。


 ……え? あたしの食費?

 そんなもんは、師匠が買う素材に比べたら大したことないって。


「いや、お前の食費も十分デカイ支出だからな!? むしろウチの支出の半分はお前の食費だからな!?」


 師匠があたしの心の声にツッコミをしてきた。


「うっさい、馬鹿師匠! 人の心の声にツッコミするな! この変態!」

「おまっ……毎度毎度のことだけど、人を変態とか言うな!」

「変態なんだから変態って言うんだよ! 人の心を読むし、エロいし、童貞だし、ロリコンだし、メガネが本体だし!」

「お前は考えがすぐに顔に出るから分かりやすいんだよ! あと残りは全部違うからな!? 完全にお前の言いがかりだよ!?」

「何を今更……全部事実じゃん!」

「事実であってたまるか! 事実だったら俺は犯罪者だからね!? 今ここにいねぇよ!?」

「よし、それじゃあたしが今すぐ警備隊に突き出してやる! 罪状は弟子に手を出したから!」

「冤罪じゃねぇか! そんなんで突き出されてたまるか!」

「チッ!」

「チッ! じゃねぇよ!」


 さすがにツッコミ疲れたのか、息を切らしてぐったりする師匠。


「たかだか数回ツッコミしただけで息が切れるとか……、運動不足じゃないですか、師匠?

 まったく……ずっと工房に引きこもって変な道具を作ってばかりだからですよ?」

「お前がボケなきゃ、俺だってツッコミする必要ないんだからね!?」

「だが断る! 師匠は弟子あたしの数少ない楽しみを奪う気か!? いつからそんな横暴になった!?」

「横暴はお前の方だ馬鹿弟子! あと数少ない楽しみがボケとか寂しいな! というかツッコミが追い付かねぇ!」


 ついに限界を迎えたらしく、師匠はカウンターにぐったりと突っ伏す。

 む? 流石にやりすぎたかな? 反省しなければ……。


「師匠、すんません。さすがにやりすぎました。反省してます……」

「カオリ……お前……」

「次からは師匠のツッコミが追い付くようにボケますね!」

「そういうことじゃねぇよ! そもそもボケるな! あと俺の感動を返せ!」


 あれ? まだツッコむ元気あるの? それじゃ……。


「もうお前がボケても俺はツッコまないからな?」

「……チッ!」

「だから「チッ」じゃ…………はぁ……」


 師匠は不自然に言葉を途切れさせてから、深々とため息をつくと、そのままキッチンへ飲み物を取りに行ってしまった。

 どうやら宣言通り、このあとはいくらあたしがボケても絶対にツッコまないようだ。

 ……残念。もう少し師匠おもちゃで遊びたかったのに……。

 まぁ、いいや。


 あたしが、師匠が淹れたコーヒーを奪って砂糖をたっぷり入れて飲んでいた時だった。


 ――カランコロン


 店の入り口に取り付けられたベルが軽やかな音を立てて、来客を告げた。


「らっしゃっせ~……」


 この店には珍しい来客に、けれどあたしはコーヒーを啜りながら出迎える。

 ……師匠が見たら怒りそうだけど、そんなのは気にしない。

 それよりも気になるのは、今店に入ってきた客だ。


 その客は、すっかり常連になった勇者のクリスさんや、ここ最近になってたまに顔を出すようになった変なしゃべり方をする、名前を聞いてすらいない男でもなく、こんな小さくてしょぼくれた店には絶対に入らないだろう、騎士甲冑に身を包んだ男の人だった。

 もともと兜をかぶらずに来たのだろう、端正な顔を露出させたその人は、少しの間店の中をきょろきょろと見回した後、カウンターに座るあたしに目を止めて、静かに近づいてきた。

 というか、あれだけの重装備をしているのにほとんど音を立てずに歩くとか、この人は相当強そうだ。


 そんな、あたしの値踏みをするような視線を軽くかわして、その人が声をかけてくる。


「失礼、お嬢さん。この店のご主人はいるかな?」


 騎士の中には自分はえらいと勘違いして、横柄な態度で話しかけてくる馬鹿野郎とは違い、その人は丁寧な物腰で話しかけてきた。


「えっと……師匠なら、今はキッチンにいますけど……?」

「……そうか。申し訳ないが、呼び出してもらえるかな?」

「…………? はぁ……まぁいいっすけど……」


 果たしてこんな立派な騎士様が、うちの馬鹿師匠にいったいどんな用事だろうか?

 ………………っ!? まさか師匠! あたしの知らないところで犯罪やって、それがバレて捕まえに来たとか!?


「師匠師匠! 大変だ! 王国の騎士が師匠を捕まえに来た! いったい何をしたんだよ!?」

「身に覚えがないわ! 別に俺は犯罪なんてやってねぇよ!?」

「嘘だ!! 師匠はいつだって変態でロリコンで眼鏡で犯罪者だ!」

「俺はいつだって善良な一市民だよ!?」

「じゃあ何で騎士の人がわざわざ師匠を呼び出せって言ってくるんだよ!?」

「……? 客じゃないのか?」

「そんな雰囲気じゃないって! あれは絶対に師匠を……」

「ああ、もういい! お前と話してるといい加減話が前に進まなくなる! 俺が直接行って確かめる!」

「やめたほうがいいんじゃ? 捕まるよ!?」

「まだいうか!?」


 せっかくのあたしの忠告を無視して、師匠は何の警戒もすることなくキッチンから店に出ていった。

 ああ……これで師匠は豚箱行か……。明日から、ご飯どうしよう……?

 仕方ない、しばらくアリスの家に厄介になるか……。


「師匠? あたしは師匠が罪を償って出てくるのを待ってるからね?」

「だから俺は無実だって言ってるだろが!!」


 キッチンから店のほうに顔をのぞかせてそういうと、師匠は捕まった様子もなくあたしにツッコミを返してきた。


「なんだ……師匠を捕まえに来たんじゃないのか……」

「だからそういってるだろうが、この馬鹿弟子!」

「チッ!」

「「チッ!」じゃねぇよ!」


 あたしと師匠がいつものやり取りをしていると、その様子を見ていた騎士の人がからからと笑った。


「はっはっは! なかなか愉快なお弟子さんじゃないですか」

「愉快どころか、毎日こんな感じで困ってますよ……」


 あきれ顔であたしを見ながら言うけれど、それはこっちも同じだ。

 何せうちの師匠ったら、暇さえあれば工房に引きこもって怪しげなアイテムを作ってるか、街で犯罪してるかだからね!


「お前な……来客の前であることないことを吹聴するのをやめろ!」

「え? あたしは事実を言ってるだけじゃん」

「事実であってたまるか!」


 流石に我慢の限界だったのか。ツッコみながら、師匠が軽くあたしの頭を殴ってきた。


「あ痛!? 師匠が殴った! 暴行だ! 家庭内暴力だ! 犯罪だ! 変態だ! 騎士さん、助けて!?」

「なに!? よし、今すぐ逮捕しましょう!」

「軽く小突いただけで大げさだよ!? あとあんたも乗らないで!? 話がややこしくなる!!」


 助けを求めるあたしに、笑いながら乗ってきてくれて師匠にツッコミをさせるとは……。

 どうやら戦闘の腕だけでなく、こっち(・・・)の腕も立つようだ。


 妙なシンパシーを感じたあたしと騎士さんが、お互いに見つめあった後、がっしりと硬い握手を交わした。


「あんたらね…………。はぁ、まぁいいや……」


 師匠が疲れたようにため息をつきながら、眼鏡を持ち上げて話題を変える。


「ところで、俺に用事ってことはアレなんですよね? すぐに準備するので少し待っていてください」


 分かりました、と頷いて、奥へと消えていく師匠を見送る騎士さん。

 ……? というか、アレ? アレって何だ?

 一体アレが何か分からず、とりあえず隣で師匠を待つ騎士さんに訊いてみる。


「師匠が言うアレって何ですか?」

「ああ……、君の師匠が言うアレって言うのは……」

「お待たせいたしました」


 今、まさにあたしにとって最大級の謎が解き明かされると思った瞬間のタイミングを狙ったかのように、師匠が自分の部屋から出てきた。

 その姿は、余所行き用の外套を羽織っているくらいで、ほかは普段とあまり変わらない気がするけど、多分腰のマジックポーチにいろいろ詰め込んだのだろう。


「準備もできたんで、行きましょうか」


 師匠の言葉に頷いて、そのまま店の外へ出ようとする二人。

 ……ってちょっと待って!? まだあたしの質問に答えてないよ!?


「ああ、そうだカオリ……」


 店の扉を開けて、今まさに外に出ようとした師匠があたしを振り返る。


「今日はもう店を閉めていい。あと、帰りは遅くなる。キッチンの上に夕食代を置いておいたから、適当にそれで何か食べてくれ。戸締りだけは忘れるなよ?」


 そういい残して店を出る師匠。


 夕食を好きにしていいと言われて、一瞬だけ舞い上がったあたしだけど、すぐに冷静になる。

 店を閉めて、あたしに適当に夕食を済ませろということは、師匠はあの騎士と出かけた先で夕食を食べるということだ。

 そして、師匠が出かける先は騎士を使いとして寄越すような、少なくともハイドラ王国(この国)でも結構な権力者。つまり、師匠が食べる夕食もそれに見合った豪勢なものに違いない!


 ……おのれ師匠! 自分だけ美味い飯を鱈腹食べるつもりだな!?

 そんなことさせるか!!


 あたしは師匠の思惑を阻止すべく、すぐさま行動を開始する。


 まずは、急いで店を閉めて、腰に師匠が作った大量のアイテムを詰め込めるマジックポーチを装着。その中に、武器や役に立ちそうなアイテムを適当に詰め込み、ついでに師匠がキッチンにおいていった今夜の有蜀台も詰め込んでおく。

 そうしてすべての準備を整えたあたしは、師匠が作った「身体能力を高める薬」を飲んで店の屋根に上ると、師匠が乗りこんだ馬車を探す。


 ……見つけた!


 今まさに、大通りへと出ようとする馬車を見つけたあたしは、そのまま屋根伝いに飛んで馬車を追いかけた。


 気分はまさに、あたしの故郷に伝わる伝説の忍!


「ふっふっふ……。馬鹿師匠め……あたしから逃げられると思うなよ?」


 くつくつと笑いながら、あたしは師匠を追いかけ続けた。

~~おまけ~~


弟子「師匠を追いかけた先は、あたしの予想の斜め上を行く場所だった!

   馬車を追いかけてそこへ忍び込むあたしが目にしたものは、師匠へ迫る危機だった!

   果たしてあたしは師匠を救えるのか!?

   次回、「クレイン道具店は今日も暇!!」。10人目! 師匠死す!

   お楽しみに!!」

師匠「勝手に殺すな!!」

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