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6人目 初めての極大魔法

 山肌に無理やりくっつけられたような、物々しい門をくぐってダンジョンの内部に足を踏み入れる。

 思ったよりも広い通路の両側に取り付けられた明かりを頼りに奥を覗いてみると、ゆるやかに下へ向かっている。どうやら、ここは洞窟型のダンジョンのようだ。


 以前、師匠に聞かされたことがある。

 実は一口にダンジョンといっても、さまざまなタイプがあるのだと。

 今回のように天然の洞窟が加工されたもの、古代に建てられた目的が分からない塔を利用したもの、魔王の魔力で迷宮化した深い森林、はるか昔に人が利用していた要塞を加工して迷宮化したものなど。

 そういう場所に魔物や魔王軍が棲みついてしまったものを総称して「ダンジョン」というらしい。


「ちなみに人がダンジョンの攻略に挑むのは、ダンジョンにしか生息しない魔物から貴重な素材を集めたり、ダンジョン内部に設置された宝が目的だったりする。ついでにいえば、ダンジョンの最奥――迷宮主ダンジョンマスターを倒したその先に初めて到達した人間には、そのダンジョンの中でも最高の宝が与えられるらしい」

「ふ~ん、このご時世に魔王軍も豪勢なものっすね」


 あたしの感想に、師匠が思わずといった様子で苦笑いを浮かべていたのを覚えている。


 そんなことをぼんやりと思いだしながら、ゆっくりと前を歩く師匠に不満を言う。


「師匠……なんでそんなにゆっくりなんですか? もっとちゃっちゃと進みましょうよ……」

「あのなぁ、馬鹿弟子……。ここは普段潜ってるダンジョンとは違って俺たちは初めてなんだ。すでに攻略済みで地図も街に売られていたとはいえ、慣れないところだからな。慎重に進まないと何が起こるかわからないだろ……」

「まったく……師匠はいつもビビリなんだから……」

「違うな。間違っているぞ、カオリ・オオトリ。世の中は石橋を叩いて渡るくらい慎重でなければいけないんだ」

「いつも石橋を叩きすぎて壊すくせに……。たとえ石橋が崩れそうになってても崩れる前に渡ってしまえばいいじゃん」

「まぁ、お前はそういう性格だよな。で、結局渡りきれずにド派手に玉砕するんだよな……」

「お、分かってんじゃん師匠! どうせなら派手に逝ったほうが……ねぇ?」

「自分ひとりで逝くならまだしも、お前の場合は大抵俺を巻き込んでいることを忘れるなよ?」

「あっはっは! いいじゃん。弟子のしりを拭うのが師匠の勤めでしょ? ……え? あたし師匠に尻拭われてるの? 師匠の変態!!」

「話がずれてる上に強引に人を変態扱いするんじゃありません!」


 いつものようにぎゃあぎゃあと騒ぎながら、どんどんとダンジョンの奥に進んでいく。

 ちなみに実は、途中途中で魔物が襲い掛かってきたりしてるんだけど、所詮はゴブリン並の雑魚魔物。

 その程度なら、あたしも師匠も特に意識しなくても倒せるので、さっきから会話をしながら叩き潰したり魔法で吹き飛ばしたりしている。


「それにしても師匠……中々出ませんね、その稀少魔物レアモンスター

「当たり前だ。こんな入り口のほうでほいほい出られたら、レアじゃなくなるだろ……。それにこっちはもともと数日間はかかるという覚悟で来てるんだ。そんなあっさり遭遇できたら苦労しないよ……」

「え~……、あたしは早くその貴重な素材とやらをゲットして、上の街で美味いもんをまた腹いっぱい食べたいなぁ……」

「食欲魔人か!? さっきクレソン()で散々食べたよね!?」

「あれしきのことで散々? 師匠、あたしを舐めてる?

 あんなもん、あたしにとっちゃ腹の足し程度だよ? 今まであたしが何件の食べ放題の店で出禁喰らったと思ってるの?

 あれは師匠がダンジョン内で食べる食料を買わないといけないって泣いて頼むから、少なめに食べただけだよ?」

「うん、泣いてないからな?

 ともかく、だ。お前は日ごろからもう少し食べる量を減らしたほうがいい。お前のせいで食費が馬鹿にならないんだぞ?」

「やだね! 食うのがあたしの楽しみなんだ! 師匠は弟子の数少ない楽しみを奪うのか? そんな権利が師匠にあると思ってるの?」

「……ったく……。口ばかり達者になりやがって……」


 深くため息をついて、師匠はそれ以上小言を言うのを辞めたようだ。

 へへん、あたしの勝ちだね。


「おい、馬鹿弟子。勝ち誇ってないで、さっさとそっちの宝箱を開けろ」


 いつの間にかたどり着いていた広間みたいな場所に設置された宝箱を開ける師匠。

 でもどうやら中身は大したものではなかったらしく、軽く舌打ちをしながらそのままぱたりと蓋を閉じた。


 どうでもいいけど、師匠って時々人格変わるときあるよね?


 そんなことを考えながら宝箱を開けると、中身はどこにでもある普通の薬草だった。


「ちっ! シケたもんいれてんじゃねぇよ!」

「うん、お前も人のこといえないからな?」




◆◇◆




 勇者が最初にこのダンジョンをクリアして以降、数多くの冒険者が宝や魔物の素材を求めて潜ってくるようになった。

 このダンジョンを管理しているものとしては、冒険者が途中で倒れたり落としたりした貴重なアイテムが手に入るので歓迎したいところだが、逆に宝箱に配置するアイテムが少なくなってきているのが悩みの種だ。


 じゃあ別に宝箱に中身を入れなければいいと思うかもしれないが、それでは冒険者たちがダンジョンに入る理由がなくなってしまう。

 いわば、宝箱と言うのは冒険者を釣るための餌なのだ。それなりのものを用意しなければ、やがて冒険者たちの足も遠のき、このダンジョン内で仕事(・・)をする魔物たちへの報酬も払えなくなってしまう。そうなれば、何れは廃れてしまうのだ。

 だから、どこのダンジョン管理者もアイテムの仕入れには非常に気を使う。まったく、世知辛い世の中だ。


 そんなことを考えていると、私の目の前の扉が開かれ、男女一組の冒険者が姿を現した。

 さほど消耗せずに、ダンジョンの最奥(私の部屋)まで来れるなんて、中々実力が高いらしい。


 さて、仕事の時間だ。


「よくここまでたどり着けたな、人間共……」




◆◇◆




 何度か、途中の広間みたいな場所で食事と仮眠の休憩を取りつつ、あたしたちはダンジョンを探索していた。

 具体的にどのくらい時間が経ったのかは分からないけど、あたしの感覚的にすでにダンジョンに潜り始めてから数日が経過している。

 どうやらその間にお目当ての魔物が出ることはなかったらしく、師匠は芳しくない顔をしていた。


「師匠……そろそろ諦めたほうがよくない? 買い溜めた飯もそろそろ少なくなってきてるし……」

「そうだな……。すでにダンジョンに潜って四日が経ったし……。一度このあたりで外に出たほうがいい、か……」


 普段は諦めの悪い流石の師匠も、今回ばかりはあたしの提案に乗ってくれた。


「よし。それじゃ、最後にダンジョン管理者ボスの部屋を覗いてから上に帰るか。どうせ中には誰もいないだろうけど……」


 そういいながら師匠が指差した先には、洞窟には似つかわしくない、物々しい鉄製の扉。

 いかにもここから先には特別な魔物がいます、といわんばかりのその扉を、あたしたちはゆっくりと押し開く。

 ここは一度勇者様(クリスさん)によって攻略されたダンジョンだから、この先のボスもいない。

 そう思っていた時期があたしと師匠にもありました。


 だって、一度攻略されたダンジョンの、扉を開いたその先の薄暗い部屋の中央に、いかにもダンジョンのボスですって姿の魔物が、石を削り出しただけの椅子に座ってこっちをじろりと見ているだなんて思わないじゃん!?


 予想が外れて驚くあたしと師匠に、その魔物が話しかけてくる。


「よくここまでたどり着けたな、人間共……」


 低い声を発しながら、ゆっくりと椅子から立ち上がったその魔物をみて、あたしは直感する。


――この魔物は強い!


 自然、意識が戦闘するときのそれへと引き上げられるのを感じながら、ゆっくりと隣の師匠を見上げると、師匠も驚いているようで大きく目を見開いていた……けど、あれ?

 何か師匠の目が獲物を狩る肉食獣みたいな目になってますよ?


「見つけたぞ、カオリ……。あいつが今回俺たちが探していた魔物だ!」

「マジっすか!?」

「ああ! さあ、あいつから素材を奪って、さっさと帰るぞ!」


 師匠が強盗みたいなことを言い出したけど、ぶっちゃけあの目をした師匠はマジで怖いので、流石のあたしも逆らえないので、とりあえずポーチから師匠特性の重さが自在に操れる「如意ハンマー(ネーミングセンス皆無)」を取り出す。


 そして師匠が魔素を練って魔法の準備を始めたのと同時に、あたしは一気に飛び出してダンジョンのボスへと接近すると、思いっきりハンマーを振り下ろす。

 打撃の瞬間に重さを最大にしたその一撃は、けれどボスにあっさりと受け止められてしまった。


「カオリ! どけ!」


 直後、師匠の声が聞こえて咄嗟に飛びのいたあたしと入れ替わるように、今度は師匠の魔法が直撃する。

 直前まであたしがいた場所ごと、ボスを巨大な火柱が包み込む……って師匠!?


「今避けなかったら完全にあたしもアレに巻き込まれてたよねぇ!?」

「だからその前にどけっていっただろうが!」

「もし避けるのが間に合わなかったらどうしたんですか!?」

「そのときはそのときだ!」


 ひでぇ! ウチの師匠があたしごと敵を焼き払おうとしやがった!

 おのれ許さん! 後でその眼鏡カチ割ってやる!


「馬鹿なこと言ってないでさっさと攻撃準備だ! 来るぞ!」


 師匠が叫んだと同時に、天井を焦がす勢いだった炎が弾かれ、中からほぼ無傷のボスが姿を現した。


「高い物理防御力に、魔法耐性が高い装備か……」

「それって強すぎじゃねぇっすか?」


 正直今すぐこの場を逃げ出したい。


「いいねぇ……ますます欲しくなった!」


 あ、駄目だ。師匠が獰猛な肉食獣みたいに笑ってる……。あたし、死んだかも……。

 お父さん、お母さん。こんな駄目師匠に引っかかったあたしをお許しください……。


 すでにこの世に居ない両親に向かってあたしが祈ってると、師匠が自分のポーチから一本の杖を取り出してあたしに放り投げた。


「あの……師匠? あたし魔法なんて使えないよ? 杖を渡されても……」

「安心しろ。そいつは俺が作った特別製でな……。たとえ魔法の素質がない一般人でも極大魔法級の魔法を放つことができる優れものだ。あの装備を抜いてダメージを与えるにはそれくらいの攻撃力がない無理だからな……」

「マジっすか!? あたしでも師匠みたいな魔法が使えるって事!?」

「まぁな。ただし、その魔法を使うためには、その紙に書かれた呪文を噛まずに唱えなければいけないけどな」

「師匠が作ったって時点で嫌な予感がしてたけどやっぱりか! でも魔法は使いたい! 強力な魔法を馬鹿師匠にぶっ放したい!」

「心の声がダダ漏れだが、今は無視しておく……。とりあえずあいつの足止めは俺がやっておくから、お前はさっさと呪文を唱えろ。ただし、その呪文は途中で噛んだら最初からやり直しだからな!」


 そういい残して、師匠は腰につけていた剣を抜き放ってダンジョンボスへと突撃していく。


「よ~し! 早速極大魔法を師匠にぶっ放してやる!

 え~っと……この紙の呪文を唱えればいいんだな?」


 そうして一緒に渡された紙を開いて、そこに書かれた内容に目を通す。


『この呪文を噛まずに唱えろ!』

 ――アンリ・ルネ・ルノルマンの流浪者の群れは、アンリ・ルネ・ルノルマンの落伍者の民と言い改めねばならぬ


 ……何でこの呪文!? と言うかこれ、呪文じゃないよね!?


「くっ! さすが師匠……。そう簡単に魔法を使わせない気か! けどあたしを舐めるなよ……このくらい……」


 前方で激しくボスと斬りあう師匠を睨みつけ、私は大きく息を吸うと、一気に呪文を唱えた。


「アンリ・ルネ・ルノルマンの流浪者の群れは、アンリ・ルネ・ルノルマンの落伍者の民と言い改めねばならぬっ!!」


 おお、言えた! 途中で絶対に噛むと思ってたのにいえたよ!

 まさかの一回での成功にあたしが感動していると、杖の先に膨大な魔素が集まり、甲高い音を立てて収束していく。

 それと同時に杖の先に魔法陣が展開され、強く輝きだした。

 どうやら魔法を放つための準備ができたらしい。


「ふふふははははは! 喰らえ、馬鹿師匠っ!!」


 高笑いをしながら、あたしは前方で斬りあっていた師匠(・・)へ向かって、勢いよく杖を振り下ろした。

 その瞬間、杖の魔法陣から極太の光が発射され、見事師匠と敵に命中、巨大な爆発を引き起こした。

 その衝撃は凄まじく、咄嗟に脱出した師匠の眼鏡が割れるほどだった。


「ちっ! 仕留めそこなったか!」

「ちっじゃねぇよ! この馬鹿弟子!!」


 師匠にぽかり、と頭を殴られたけど納得いかない。


「だって師匠がやれっていったじゃん!」

「そうだけど! 味方を撃つ馬鹿がどこにいる!?」

「いいじゃん、本体が割れただけですんだんだから!」

「眼鏡が本体じゃねぇよ! ……ったく……おかげでボスに逃げられた……」


 ツッコんだ後に疲れたようにため息をつく師匠。

 この程度で疲れるなんてまだまだだね。


「誰のせいだ、誰の……

 まぁ、いい。今回はこれで終わりだ……。帰るぞ……」


 よほど疲れたのだろう、力なく肩を落として師匠は転送魔法を発動させた。




 ついでに後で知ったんだけど、あの後、あたしたちが潜っていたダンジョンが謎の崩壊をしたらしい……。

 まったく、誰の仕業だろうね?

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