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20人目 師匠の魔法薬講座

「師匠! 魔法薬の作り方教えて!!」


 ある日、学校が終わり、自分の家でもある「クレイン道具店」の扉を開けた直後のあたしの言葉に、ちょうどカウンターでコーヒーを飲んでいた師匠が、ぽかんと間抜けな顔をさらした。

 ……師匠の間抜けな顔って、マジで間抜けだよね。


「間抜けなんだから間抜けな顔というんだ。間抜けじゃないなら、それは間抜けな顔とは言わない……」

「……つまり間抜けは間抜けな間抜け?」

「…………たぶん? というか、そろそろゲシュタルト崩壊しそうだからこの話題、やめていいか?」

「あたしも、ちょうど同じように思ってたところっす……」


 まったく……。師匠が変なことを言い出すから……。


「うん、今のは完全にお前が悪いからな? あと、これ以上は話が進まなくなるから、ツッコミはしないからな?」


 師匠に先に釘を刺されてしまった……。チッ!


 あからさまに舌打ちをするあたしに、深々とため息をついた師匠は、あたしが無理やり引っ張ってきたアリスに目を向ける。


「おっと、師匠のロリコンの血が騒いだか!?」

「……んで? 魔法薬の作り方がどうとか聞こえたけど?」


 師匠がマジでツッコミを放棄した件について……。まぁいいけど……。


「そうそう、魔法薬の作り方を教えてほしいんだった!」

「お前からそういってくるってことは……、なるほど。試験が近いのか……」

「さすが師匠! よくわかってるじゃん!」

「でも、だったらアリスちゃんがいるだろ……?」

「私ですか!?」


 突然話を振られて、アリスがしどろもどろになる。


「いやぁ……、確かにアリスも魔法薬の作り方は教えてくれるけどさ……。せっかくなら、職人プロ直伝の魔法薬を作って先生を驚かせたいじゃん? 師匠の魔法薬は無限再生薬とか即時回復薬とか反則級チートばかりだし……」

「というか、カオリちゃん……。試験で作る魔法薬は内容が決まってるから、あまり関係ないんじゃ……」


 アリスが控えめにツッコんでくるけど、甘いな!

 あたしは知ってるんだ! 同じ内容の魔法薬でも、作る側の技量によってその効果に差が出ることを!

 そしてこの場合、アリスよりも師匠の方が技量が上なのは明白!


「確かに私はお師匠様に比べたらまだまだだけど……。これでも魔法薬の成績はいい方なんだけどな……」


 アリスが肩を落とすけど、今はそれを無視して師匠を急かす。


「……どうでもいいけど、何でお前はそんなに焦ってんだ? 急に勉強にやる気を出したことといい、いったい何を企んでる?」

「た……、企んでるとか酷くないっすか!? せっかく弟子がやる気を出してるのに……」


 鋭い視線で睨みつけてくる師匠を何とか誤魔化す。

 アレだけは、ばれたら駄目だ。ばれたら師匠に殺される!


「……怪しい……」


 訝しむ師匠が、つとアリスに目を向けた。

 

 頼むアリス! あのことだけは絶対に言うな!!


 あたしのそんな願いも虚しく、アリスは怯えるように口を開いた。


「あ……あの……、カオリちゃんはその……学校の魔法薬の授業で作った適当な魔法薬を、先生に実験で飲ませちゃったんです……。幸い、毒じゃなかったけど、その効果で先生は一週間ずっと右と左が逆転するっていう症状が出ちゃって……。それで、戻ってきた先生が怒って、次の魔法薬のテストでいい点を取らなきゃ退学にするって言ってたんです……」


 ぎゃ~~~す!

 アリスが全部吐いちゃった!!

 やばい……師匠に殺される…………!

 ……こうなったら……三十六計なんとやらだ!


 師匠とアリスにばれないように、じりじりと店の出口へ移動する。

 そうして、手を伸ばせば扉を開けられるところまで来た瞬間。


「おい、馬鹿弟子! 俺から逃げられると思ったか?」


 いつの間にかあたしの横に回りこんでいた師匠に、がっしりと腕を掴まれた。


「あ……あの……師匠……? 師匠の指があたしの腕にぎりぎりと食い込んで、めっさ痛いんですけど!? あと、か弱い女の子を脅して無理矢理喋らせるのもどうかと…………」

「お前が全力でこの場から逃げ出そうとしてるから捕まえてるだけだし、俺は別に脅したわけじゃない。ただアリスちゃんなら事情を知ってるだろうと思って、彼女の善意を信じただけだ」


 いや、あの目は絶対に脅してた! その証拠に、気の弱いアリスはすぐに喋ったじゃないか!

 ほら! 今だって「あうあう……」とか言いながら、おろおろしてるし!


「まぁ、あの子には少し気の毒と思わなくもないが、それよりもまずは、お前のことだ」


 チッ! 話を誤魔化そうとしたのに、しっかりと覚えてやがったか、このポンコツ師匠!


「その程度で誤魔化されるほど耄碌してないからな……

 というか、だ。俺は別に「やるな」とは言わない」

「…………へ?」

「やるなとは言わないが、もう少しうまくやれ……」


 …………あれ? 怒られない?


「あ~……まぁ、俺も修行時代はよく無茶やってたからな……。師匠やハインリヒ相手に片っ端から魔法薬を試したり、敵を弱体化させる魔法薬を作ったつもりが、実は能力強化の魔法薬ができてたり、な……」


 ……うん、なんだか凄くその光景が目に浮かぶ。


「実際、魔法薬ってのは、実験して見なければその効果を確かめられない。特に、新しい魔法薬はな……。だから、やるんだったら、きちんとその効果を確かめて、その効果が悪い方向のものならば、それを解除する解除薬を作るところまでやる。これが新しい魔法薬を作るうえで大切なことだ」


 分かったな? とあたしの頭にやさしく手を置く師匠。


「分かった。今度からはばれないようにやるよ、師匠!」

「よし、それでこそ俺の弟子だ!」

「なんだかいろいろと論点がずれてるよ!?」


 親指を立てて笑いあうあたしたち師弟に、アリスのツッコミは届かなかった。




◆◇◆




「さてと……、作りたいのは試験用の魔法薬だったな……」

「うっす……」

「んじゃまぁ、とりあえず店を閉めて、工房に移動するか……。店内ここじゃ、材料も道具もないし……」


 そういいながら、師匠は扉の表にかけられていた看板をひっくり返して閉店にすると、そのまま店の奥にある階段を降りて、工房の扉をあけた。


「ほら、二人とも。こっちだ」


 がちゃり、と開けられた扉の先を見て、アリスが「ふわ~……」と感嘆の声を漏らす。

 ……そういえばアリスは師匠の工房に入るのは初めてだっけ?


「そうだね……。いつもは店の中までしか入らなかったから……」


 呟きながら、興味深そうに工房の中を見回すアリス。

 だけど、そこまで物珍しいかな?


 頑丈な石造りの部屋の壁には、あたしには何に使うのかよく分からない道具が、几帳面な師匠らしく綺麗にかけられていたり、設置された棚に納まっていたりする。

 部屋の奥には、赤々とした炎が燃える炉があり、その横には黒ずんだ金床が鎮座している。

 壁には大量の棚が据え付けられていて、中にはいろんな素材が綺麗に納められ、部屋の中央にある大きなテーブルには、実験中だったのか、フラスコや試験管などが並べられていた。


「…………なんだ、意外に綺麗にしてるじゃん……」

「普段はお前も工房こっちまで降りてこないからな……。もっと汚いと思ったか?」

「うん。何と言うかこう……もっと、ヤバい実験室みたいに色んなものが散らばってるかと……」

「あ……実は私も……」


 小さく手を上げてあたしの言葉に同意するアリス。

 誰だってやっぱり、魔術師というか、工房と聞くとどうしてももっと雑然としたイメージを持つものだ。実際、学校の先生の工房はもっと散らかってるし……。


「俺の師匠もそうだったけど、普通、工房での作業ってのは、使った道具はきちんと片付けるし、材料だって出しっぱなしにしたりはしない。中にはちょっとした衝撃や他の材料と混ざると事故が起こるものもあったりするからな……。だから、そういうことに気を使わない工房ってのは、二流三流な証拠なんだ……」


 うわ……この人、自分は一流だって自画自賛してるよ……。

 そんなあたしの内心を無視して、師匠は話を本題に戻した。


「それで? 作りたい魔法薬って何だ?」

「えっと……、作るのは基本的な身体強化用の魔法薬です」


 アリスの回答に、師匠は少しだけ考えて、材料が並べてある棚に近寄る。


「……となると、必要となるのは干した鎧ガエルの肝に、ゴブリンの角、それとにんにくとドラゴンの鱗の粉末か……」


 すでに魔法薬のレシピが頭にあるのだろう、淀みなく材料を戸棚から取り出して、机の上に並べていく。


「それじゃ、まずは基本的な薬の作り方から……」


 こうして、師匠による魔法薬の作り方講座が始まった。


「…………そう、ゴブリンの角は鎧ガエルの肝と一緒に磨り潰してから、ドラゴンの鱗の粉末を混ぜる……ってこら、カオリ! 勝手に発火草を混ぜるな! それはどう考えても身体強化の魔法や国は使わない!」

「えっと……お師匠様? この場合、こっちのサソリカラスの羽根を混ぜればいいですか?」

「……うん、そうだな。そのほうが効果が強くなる。あと馬鹿弟子! そのマンドラゴラを何に使うつもりだ!?」

「え? 当然、この魔法薬に使うつもりだけど?」

「あほか! そいつを使うときはまず毒抜きをして1週間天日干ししてから使うんだ! 誰が生のまま使うか!」

「……じゃあ、こっちのこれは?」

「月光草は、入れてもいいけど、ただ出来上がったときに光る程度の効果しかねぇぞ?」

「……んじゃあいらね!」

「おい! 必要ない材料をその辺に投げ捨てるな!」

「ちょっとカオリちゃん!? 何で私のほうに水銀を入れようとしてるの!?」

「え? ピカピカしててかっこいいかなって思って」

「やめて!?」


 そうしてその日は、日が暮れて暗くなるまで師匠に魔法薬の作り方を叩き込まれた。




◆◇◆




 そしてそれから数日後。

 無事にテストに合格したあたしは、意気揚々と店に戻ると、その結果を胸を張って師匠に報告した。


「ほう……。どうやら上手く行ったようだな?」

「うっす。まぁ、作った魔法薬を飲ませたネズミの身体能力が上がりすぎて、若干教室がパニックになったけど……」

「……まぁ、そのくらいなら許容範囲だろ……。んじゃあ、合格祝いになんか美味いもんでも食いにいくか?」

「やったね!」


 珍しく師匠が褒めてくれたので、あたしは上機嫌でご飯をたらふく食べることができた。

~~おまけ~~


カオリ・オオトリはスキル「魔法薬作成」を覚えた!

カオリ・オオトリの知能が5上がった!

カオリ・オオトリの成績が2上がった!

魔法薬授業の先生の精神に20のダメージ!

トーマ・クレインの信用が50下がった!

トーマ・クレインのお金が20000R減った!

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