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14人目 詐欺師と師匠

「本当にすまないねぇ……。後できちんと色をつけて返すから……」

「いえいえ。困った時はお互い様ですから……」

「あんた、本当にいい人だな。あんたに出会えたことを神に感謝したいくらいだ」

「そんな、大げさですよ。それじゃ、僕はこれで……」

「ああ、本当にありがとな! 金が用意できたら連絡するから!」


 分かりました、と少し離れたところで頭を下げたお人好しな男が大通りに消えていくのを見送った俺は思わずにやりと笑うと、男から借りた金をそのまま懐にしまいこんで、すぐに裏通りの自分の棲家へ向かう。

 途中、王都の裏通りを棲家にしている浮浪児どもが羨ましそうに見つめてくるのを無視し、俺を獲物と定めた馬鹿な浮浪者を痛い目にあわせながらも無事に家に帰り着いた俺は、懐から取り出した金をもう一度見つめる。


「今回は特にうまくいったな。まさかあんな簡単に引っかかってくれるなんて、思ってもみなかったぜ」


 自分の仕事・・がうまくいったことに気を良くしながら、俺は手に入れた金を持って秘密の金庫を開ける。その中には、結構な額の札束が詰め込まれている。

 その中から半端な数の札束を取り出すと、今回手に入れた6万Rを加えて、改めてその数を数える。


「……84、85、86……か……。あと2回くらいで20束目の100万Rか……。楽しみだな……」


 目の前の札束がさらに増えたところを想像してくつくつと笑った俺は、誰もいないとわかっていながらも、念のために周りを警戒しながら金庫を閉じると、冷えたエールを瓶のまま一息にあおった。

 ちなみに、今日男から手に入れた金を返すつもりはさらさらない。

 なぜなら俺は、このハイドラ王国王都を根城にする詐欺師なのだから。


「くっくっく……。明日も仕事を頑張るか……」


 明日、俺の哀れな被害者になる獲物を妄想しながら、俺は眠りに就いた。




◆◇◆




「カオリちゃん……ちょっと相談があるんだけど……」


 神妙そうな顔つきであたしに声をかけてきたのは、あたしの数少ない親友のアリス。


「…………? どうしたのさ、神妙な顔して……? まぁ、神妙な顔はいつものことだけど……」

「酷い!? あたしだって好きでこんな顔してるんじゃないよ!? 大体いつもカオリちゃんの無茶振りにつき合わされてるだけだからね!?」

「そう? あたしの印象としては、大体がアリスの自爆というか、アリスがトラブルを引き寄せてるように見えるけど?」

「生粋のトラブルメーカーがそれを言う!? あたしが大変な目に遭う原因の9割はカオリちゃんだよ!?」

「嘘だ!!」

「嘘じゃないからね!? むしろそのセリフは私のだからね!?」

「チッ!」

「「チッ!」じゃないよ!?」

「ところでアリス……」

「何?」

「なんで師匠と同じツッコミしてるの?」

「カオリちゃんのせいだよ!!」


 ツッコミ疲れてぐったりとするアリス。

 この程度で疲れるとか情けないな。師匠ならもっと……。


「うん、私をあの規格外な人と同じ扱いにしないでね?」


 がっくりと項垂れながら呟くアリスだけど、何気にアリスも結構毒を吐くほうだとあたしは思うんだ。

 まぁ、それは流石に口に出さずに、あたしは話を本題に戻す。


「それで? アリスの相談って一体なに?」

「ああ……そうだった……。カオリちゃんと話すと中々本題に行けないのが悩みどころだけど、とりあえずそれは置いておいて、私の相談っていうのはね……」


 さらりと人をディスったアリスが言うには、数日前の休日に、アリスが買い物をしようと商店街がある場所へ向かっているときにそれはおこったらしい。

 なんでも、数か月分のお小遣いを溜め込んだ財布をポーチに入れて何を買おうかと考えながら歩いていたら、いかにも観光客といった姿の男の人に声を掛けられたらしい。


「なん……だと!? そいつはもしかして師匠と同じロリコンか!?」

「うん、これ以上ツッコむと話が進まないから、とりあえず無視するね?」

「チッ!」


 ともあれ、その観光客は困った様子だったらしく、生来のお人よしを発揮させたアリスは、その観光客と近くの喫茶店に入ったらしい。

 そうして話を聞くところによれば、どうやらその男は王都から少し離れた田舎町に住んでいて、今回は娘さんが結婚式を上げるから、そのお祝いとして王都に来たらしい。

 そしてその日は結婚式も終わり、せっかくだから王都を少し観光してから帰ろうとしていたらしく、王宮前広場や観光名所を巡っていたが、ふと家族へのお土産を買おうとしたときに、財布を落としたことに気付いた。

 幸い、小分けにしていた別の財布は無事だったから、軽い飲食程度はできるものの、このままではお土産を買うどころか、家に帰るのもままならない。

 本来ならば、通信魔道具とかで家に連絡を入れるべきなのだろうが、タイミングが悪いことに、その日は、田舎に残った家族たちは別のところへ出かけていたため、連絡の入れようがない。

 仕方がないので、道行く人に事情を説明しようと声をかけ続けていたのだが、ほとんどの人に無視され、諦めかけていたところに現れたのがアリスだったとのこと。


「……それで、流石に可哀想だなと思ったアリスは、持っていたお小遣いをその男に貸すことにしたと?」

「うん……。でもその人は、その田舎町で何かの会社の社長をやってるから、家に戻ったら絶対にすぐに色をつけてお金を返すって約束してくれたから……」

「それでアリスの連絡先を聞いて、その男と別れたけど、それから何日たってもお金が返ってくるどころか、連絡がないと……」

「そうなの……。いくらお小遣いだったとはいっても、結構な金額だったから心配で……」

「アリス……こんなこと言いたくはないんだけどさ……。それ、騙されたんじゃないの?」

「うぅ……やっぱりそうなのかなぁ……?」

「少なくともあたしはそう思うよ? というか、相手の連絡先は聞いてないの?」

「聞いたんだけど……連絡がつかなくて……」

「嘘を教えられたってことか……」

「……どうしよう、カオリちゃん……」


 どうしようと言われても、相手に連絡がつかないんじゃ、あたしもお手上げだ。

 連絡がつくんだったら、脅してでもお金を取り戻すことはできたんだけど……。


 そんなことを考えていたあたしは、ふと妙案を思いついた。


「アリス……。流石にそれはあたしにはどうしようもないけど、もしかしたら師匠なら何とかなるかも!」

「カオリちゃんのお師匠様?」

「うん! ウチの師匠はバケモンだし、人脈もありえないくらい広いんだ! 何せ、国王とも知り合いだからな!」

「国王様と!?」


 まぁ、国王と知り合いなのはあたしも同じだけど……。そういえば前に国王は、いつでも遊びに来ていいって言ってたっけ……。


「まぁ、信じられないかもしれないけど、これはマジなんだ……。しかもただの知り合いと言うわけじゃなくて、タメ口で話せるレベルだから……。ともかく、学校が終わったら師匠に相談してみよう!」

「…………カオリちゃんがそういうなら……」


 こうしてあたしとアリスは、学校が終わった後、速攻であたしの家に帰って師匠に話を持ちかけた。


「…………と言うことなんだけど……」

「……いや、帰って来ていきなり「と言うことなんだけど」って言われても、まったく話が見えないからな? せいぜい俺にわかるのはアリスちゃんがなにやら厄介ごとに巻き込まれたってだけだ……」


 事情も何も説明してないのにそこまで分かるとは……さすが師匠。ロリコンの鏡!


「だから俺は……っと、こいつに構ってると話が進まないから、すまないけどアリスちゃん。事情を説明してくれないか?」

「分かりました……」


 ボケるあたしを無視して、アリスが師匠に説明し始める。


 それからしばらくして、一連の事情を話し終えたアリスが落とした肩に、師匠がエロい手つき(・・・・・・)で手を置いた。


「おいこら馬鹿弟子。誤解を招く言い方をするな!」


 あたしに一言ツッコんでから、師匠が優しく語りかけた。


「それは困ったな……。分かった。俺も協力しよう……。馬鹿弟子の友人を騙したんだ。少々痛い目に遭うくらいはしてやろうか……」


 くつくつと師匠が黒い笑みを浮かべる。

 ……やべぇ、師匠がマジだ……。こりゃ、アリスを騙した男は死んだな……。


「とりあえず、カオリちゃん。君がその男と話したという喫茶店に連れて行ってくれないか?」

「……分かりました……」


 こうしてマジになった師匠の、本気の捜査が開始された。




◆◇◆




 そしてそれから数日後。

 師匠から、犯人を捕まえたとの連絡を受けたあたしは、アリスと一緒に学校を早退すると、急いであたしのウチに戻った。


「師匠! 捕まえたのってマジか!?」


 バン、と扉を開けながら叫んだあたしとアリスの目の前には、黒い外套を纏った鋭い目つきの師匠と、猿轡を噛まされて両腕を後ろに縛られ、よほど酷い目に遭ったのかがたがた震えながら、怯えた目つきであたしたちを見上げる男だった。


「ああ、お帰り、二人とも……

 アリスちゃん、君を騙した男はこいつで間違いないか?」


 ごつ、とつま先で男の顎を蹴り上げながら言う師匠に、アリスはおずおずと頷いた。


「はい……その人です……」

「……だ、そうだ

 ……というわけでお前に俺からいくつか提案があるんだが……?」


 あえて威圧するような視線で、男の目を覗き込む師匠。


「一つは、アリスちゃんに約束した金額をきちんと返して、二度と彼女の前に姿を現さないこと

 二つ目は、お前を王国守備隊に引き渡して、お前が溜め込んだ全財産を俺たちが山分けすること

 そして三つ目は、お前と言う存在をこの世から消すこと……。もちろんその場合はお前の財産はすべて俺たちがいただく

 さて、どうする?」


 猿轡を噛まされて「むー、むー」としかいえない男が、ますます怯えた目で師匠を見ながら必死に首を振る。


「むーっ! むーっ!!」

「なに? 三つ目がいい?」

「むーっ!? むむむーっ!!」


 首がもげるんじゃないかと思うほど、首を振って否定し続ける男を流石に見かねたのか、アリスがおずおずと師匠に声を掛けた。


「あの……お師匠様……?」

「なんだい、アリスちゃん?」

「あ……私としてはその……、貸したお金がちゃんと戻ってこればそれで……」

「…………だそうだ。アリスちゃんの優しさに感謝するんだな?」


 そういいながら、師匠が男の猿轡を外してやると、男は涙を溢れさせながらひたすらに「ごめんなさい」を繰り返した。

 ……いったい、あたしたちが来るまでにどんな目に遭ったんだか……。


 あたしが、男に降りかかった災難を想像している間に、師匠は男の拘束を解く。


「とりあえずお前は今からダッシュで、彼女に約束した金額をきっちりと払え。ああ、逃げようなんて思うなよ? もし逃げようとしたら、問答無用でお前を消す(・・)


 手のひらに魔法を発動させながら言う師匠に、男は顔を真っ青にしながら頷き、慌てて店を出て行った。


 そしてそれから僅か5分後。

 息を切らせた男が、帯でくくられた札束をアリスへ持ってきた。


「この度は大変申し訳ありませんでした。この通りお金はお返ししますので許してください」


 地面に頭をこすり付けてまで必死に謝る男に、アリスは戸惑いながら頷いた。


 流石にちょっとやりすぎだったかもしれないけど、正直あたしの親友を騙そうとした男なのだから、これくらいはいいかもしれない。

 そんなことを考えながら、まだ戸惑ったような顔のまま店を出て行くアリスを見送っていると、師匠が男の頭を掴んでこういった。


「さて、それじゃ約束通り、二度と俺たちの前に姿を現すなよ? もし見かけたら、問答無用でお前を消すからな?」


 師匠の脅しに、顔色が蒼白を通り越して土気色になってきた男は必死に頷き、まるで転移魔法でも使ったかのようにあたしたちの目の前から消えた。

 こうしてアリスを騙した詐欺師の事件は無事に解決した。




 ちなみに、それから数日後。

 師匠から聞いた話では、男は師匠に脅されたその日に、家に溜め込んでいた全財産を置いて王都から逃げ出したらしい。

 そしてその男が溜め込んでいた全財産の行方はといえば……。

 実はウチの金庫にしまってあったりする……んだけど…………これっていいの?

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