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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第三章 『反転』
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第三章9 『特権同士の立ち合い』



 ——早朝。

 やや寝不足気味の頭を無理矢理に起こし、傍で眠る少女を起こさないように気をつけつつ、ベッドの端に腰掛ける。

 それから側に置いておいた腕時計で時刻を確認すると、


「七時ぴったり、か。驚くぐらい寝てないな」


 入学した当初ならば、今頃はすっかり登った朝日を見て感嘆の声を上げていただろうか。

 登校するための準備をし、朝食を作って。


「……考えてみると、ここに来てから朝日見てないんだよな」


 なんだかそれが遠い昔の話のような気がして、思わず物思いにふけり——、


「————いや、正しくはあの時が最後、か」


 先の自分の発言に誤りがあったと気がつく。


 一度だけ、今よりも早い時間に外へ出たことがあるのだ。

 蓮を失い、アジトに来た次の日のこと。

 葵達のように人に紛れて学校へ行く為に、芽空に家まで付いていってもらい、道中で朝日を見た。

 あの頃は芽空もあまり感情を出さず、時折見せた笑顔のみが彼女の表情の変化だったとそう言えよう。


「そう考えると……」


 数分前まで自分が潜り込んでいたベッドに視線をやり、思う。


 当初に比べると本当に距離が縮まったと。


 ただでさえ広い部屋の大きなそのベッドで眠るのは芽空だ。

 以前はベッドを奏太に譲り、彼女はクッションに埋もれて眠っていたのだが、いつの間にやら奏太と同じベッドで眠るようになっていた。


 それ程の信頼に値する人物になり得た、ということなのだろうか。

 そうなると、もはや信頼が仲の良い兄弟か何かの域にまで達している気がするのだが、悪くないとも思う自分がいて。

 疑うような仲でない事は日々の言動からも自明であり、信頼されていたいと思ってしまうのだから。


 もっとも、それは芽空に限らずラインヴァントの皆々にも言えることなのだが。


「ただ、まあ……」


 いくら信頼があるからといって、一応は年頃の男と同じベッドで過ごすというのはどうなのだろうか。


 奏太はもはや慣れ切ったので問題がないと言えばないが、このまま放っておいて良いものなのか議論をしなければならないところだ。

 芽空自身はたまにずれた発言をすることもあるし、そこから矯正しなければならない気がするのだが……まあ、恐らくは現状維持の方向が結論になること間違いなしだろう。


 いずれポロっとヨーハンの前で漏らしでもしたら、温厚な彼であっても激怒されそうな気がするのだが、さておき。


「————よし」


 あれこれと考えているうちに、眠気を訴える頭も完全に覚醒、体もぼちぼちだ。


 気合いを入れる理由は一つ。

 昨夜訪問して来たチンピラ——オダマキに申し込まれた決闘。

 それに向かうためだ。


 頰を何度か叩き、そして、


「……そもそもあいつって『獣人』なのか?」


 今更になって浮かんだ疑問を口にするのだった。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 そうしてやってきた、毎日のように出入りしているトレーニングルーム。


「あぁん? そりゃオッレも『獣人』に決まってんだろーが! 舐めてんのかこら」


 学生服を脱いだオダマキに問いかけると、すんなり答えは返ってきた。

 梨佳と知り合いであり、その上で葵とも面識があるのであれば当然と言えば当然なのだが……、だからなのだろうか。


「奏太さん、本気で潰しにかかっても構いませんよ。身の程知らずのチンピラ風情など軽く捻ってやってください」


「え、この人も『獣人』なの? アタシも戦ってみたいなー、ダメ?」


「あ、あの! ソウタお兄さん頑張ってくださいっ! 応援してます!」


 端で奏太達を見守る三人はそれぞれに言葉を告げ、奏太にエールを送ってくれる。

 一人戦闘狂のような発言をした気がするが、葵が止めてくれているので心配は無用である。


 そんな微笑ましい光景に目をやりつつ、そのまま視線を横にスライドしていくと、


「おー、奏太頑張れよー」


 部屋から持ち込んだのだろう、毛布にくるまって芋虫のようになっている梨佳がいた。

 今回見物としてきたのはこの四人。


「……まあ、希美と芽空は疲れてるし来ないか」


 結局途中から応答がないまま部屋へと運ばれた希美。

 彼女もまた、芽空同様に疲れていたのだろう。

 ……昨晩のパーティーではご機嫌麗しゅうと口にしている姿ばかり見たような気がするが、それはともかくとして。


 葵と姉妹が奏太の応援につき、残りの梨佳はどっちにつくのか分からないこの決闘。

 そもそも応援される時点でやりづらいのだが、


「あーしは寝てるから終わったら起こしてくれ」


「そりゃねーよアネキ!」


 オダマキにとって一番見てもらいたい人であろう梨佳すらも彼に目を向けないとあれば、やりづらさなど忘れて同情せざるを得ない。


 出会いはじめからやたらと騒ぐ彼もさすがに意気消沈し、がくりと項垂れて——、


「————っ!!」


 途端、緩みかけていた頭が一気に緊張へと変わる。

 瞳が視界に移すよりも前、肌がそれを感じ取った。


「——ふざけんのはこれでシメーだ。アネキが見てねえってんならちょうどいい」


 今まではあくまで人として怒っていた。

 はっきりとそれが分かるほどの空気の震え。

 かつてハクアと対面した時にも感じた覚えのあるものだ。あるいは、藤咲華から一瞬放たれたもの。


 ——それは敵意。

 思わず息が止まりそうになるその感覚に、奏太は息を呑み判断する。

 力の限りを尽くすべきだと。


「三日月、テメエは動物の姿になれんのか?」


「動物……? ああ、『纏い』か。なれるよ」


 彼の一言一句に閃光が走るような衝撃を受けつつ、応じる。


「じゃあ早くなれや。オッレに手加減して勝てると思ってんじゃねーぞこら」


「言われなくても。……少し時間もらうぞ」


 頷くオダマキに了承を得、体の中にある緊張を全て外に出すかのように、深く息を吐く。

 冷や汗が流れてくるのを感じながら、改めて酸素を取り込もうとして——、


「——ユズカ、葵。気をつけるつもりだけど、もし危なくなったら」


「——ええ。大丈夫です。梨佳さんはともかくとして……二人の決闘を近くで見たいと言ったのはボク達ですからね」


「ソウタおにーさん、アタシの時みたいにずばばってやっちゃっていいよ!」


 ——この部屋に来る直前、奏太の反対を押し切り、立ち合いを近くで見届けることを決めた葵達。

 それぞれに理由があるのだろうが、もしもの時は『トランス』を使用してでも回避するようにと言ってある。


 『トランス』を扱えないユズカも、眠り続ける梨佳も二人に預けて奏太は目の前の脅威に目を向ける。

 そして、


「————」


 奏太は強くイメージをする。


 奏太の中にある獰猛な本能を、獣を。体に纏い、同化し、飲み込んで。

 どす黒い感情など介入させない白。

 天を穿ち、自身の願いを届かせる超常の力をここに体現させる。


「————『ユニコーン』!!」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 ひと月も前のことだ。

 ハクアの脅威も去り、平穏の訪れたアジトで奏太は疑問した。


「……俺の『トランス』って何の動物なんだ?」


 皆々の集まる食堂にて発言したそれに反応したのは、大きく分けて三人。

 古里芽空に天姫宮葵、それから紫髪を覗かせる鳥仮面フェルソナだ。


 彼らはあれこれと推測を交わし、時々茶化されつつも結論として出たのが、


「伝説上の生き物『ユニコーン』?」


「そうだよー。見た目も能力も、それに近いからー」


「赤髪はともかくとして、白い毛皮に真っ直ぐと伸びた角。一般的な『ユニコーン』の見た目そのものですね」


「加えて、回復力もだね。一体何の因果と組み合わせから伝説上の生き物を再現——いや、限りなく近いものにしたのかは分からないけれど、二人の証言通りに『ユニコーン』と称して差し支えないだろう」


 三人に太鼓判を押してもらい、奏太の能力が判明した。

 後になって調べてみれば確かに一致するところも多く、フェルソナではないが本当にどうして奏太にこんな能力が宿ったのか分からない。


 ともあれモチーフの動物も判明し、イメージが固まりつつあった奏太の『トランス』は、


「『纏い』の際、叫んでみるのはどうでしょう」


 やけに意気揚々と提案する葵の一言によって、最終的にその発現方法を大きく変えることとなった。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「————」


 叫んだ直後、奏太の中に眠る異形の力が融合していくのが分かった。

 それは以前とは比にならないほどの速さであり、二つのメリットのうちの一つでもある。

 ちなみにもう片方はかっこいいから。避けることの出来ない男のロマンである。


「——ほぉ、それがテメエの」


「ああ。幻獣『ユニコーン』。これが俺の『トランス』だ」


 天を衝く真っ直ぐで長い角に、穢れを知らない純白の毛皮。

 赤くたなびく髪をかきあげつつ、重力が薄れたと錯覚するほどの体の調子を確かめるように、軽く屈伸。

 そして、


「————オダマキ。お前は使わないのかよ」


「ハッ! 馬鹿言え、テメエなんざ……いや、使ってやろうじゃねーの。オッレがテメエのその角へし折ってやるよ」


 威勢良く言ってのけるオダマキは、奏太に見せつけるように腕に力を込め、


「——ッ!?」


 奏太が瞬きをした次の瞬間、彼は地を蹴った。

 ぐんぐんと風を切って進んでくるオダマキは、右の痛撃を奏太に対して繰り出し、


「う、らァ!」


 奏太はそれを拳で突き上げるように飛ばした。

 結果オダマキの体が仰け反り、そこへ奏太が蹴りを叩き込み——切れず、掴まれたかと思えば、仰け反った勢いを利用し反転した彼に壁へ投げつけられる。


 しかし衝突は起こらない。

 白壁に足裏で着地して衝撃を緩和、それにより僅かな停滞が生まれ、重力で落下する前にオダマキへ向けて跳躍する。

 バネのように弾む体を制御しつつ、引き絞った一撃をすれ違いざまに放つ。

 咄嗟に防御として出された彼の左手を弾き、そのまま左肩へ、確かな感触とともに一撃を喰らわせることに成功。

 が、


「——ッは」


 当たる直前、彼が後方へ体を逸らしたことにより、感触ほどオダマキは損害を受けてはいなかった。

 とはいえ、結果的に怯ませることには成功し、


「……お前、その姿は」


 大きく距離を取り、改めて眼前の男の姿を目に移す。

 そこにいるのは、


「ああん? ——ああ、これか? まあなかなか見かけねーかもな」


 普段から鍛えているのであろう、締まった上腕より下、肘より先だ。そこに異質があった。


 重なった岩の層のごとくゴツゴツとした土色の手、爪先は人のものとは思えない程長く鋭利な黒漆。

 両の手に顕現したそれは一振りで人を裂くことも容易いであろう。


 思わず目を疑ってしまうようなその光景に疑問は推測へ、推測は確信へと変わる。


 ——彼が左右の手だけに『纏い』を発動させていたという事実に。

 そしてそれは、


「——? てめえ、驚いてねーのか?」


「ん、まあな」


 奏太に笑みを浮かばせる。

 まさかこんな表情を浮かべるなどと、彼は思いもしなかっただろう。

 『纏い』を知る『獣人』であるならば、誰しもが驚き羨望の目を向けるはずだ。


 例外を除き、見た目にさほど変化のない『憑依』以上の力を発揮し、用途に合わせて対象部分に『纏い』を行なえる。

 それはつまり、消耗を抑えるだけでなく、日常生活でもそのまま使用が可能だということだ。


 もちろん目立ったり対象部分が見られて『獣人』だとバレてしまえば本末転倒なので、ある程度制限はかかるが。

 それでも、世間に知られている『獣人』だと認識されることは少ないと言えよう。

 世界に恐怖をもたらした『獣人』。その姿は、奏太が『鬼』と称した『纏い』状態のものなのだから。


 ——ともあれ。

 彼が『部分纏い』を使いこなしている以上は、奏太だけでなく端で見守っている姉妹達も、信じられない光景を目にしているはずだったのだ。


 だが、奏太はそれを知っている。

 口づてに蓮が扱えると聞いたことと、もう一つ。


「おいこら、てめえ角は……おぉ、そうか。そういうことかよ、てめえこら」


 奏太の顔を見たオダマキが一瞬驚愕、続けて頭をガリガリとかいて舌打ちする。

 虚をつかれた彼の表情が垣間見えたことが妙に心地良くて、しかしそれは彼にとって刺激にしかならないようで、


「うっぜえ。クソが。——てめえも、出来るのかよ」


「ああ、残念だったな。『部分纏い』はお前だけの特権じゃねェんだ」


 そう。先まで奏太の額から現出していたはずの角は、あるべき場所に姿形の欠片すらない。

 もっとも、彼のように各部位で分けて発動させることは出来ず、角を意図して失くすことしか出来ないのだが。

 しかしそんな実情を知らなくとも、オダマキは驚きを隠せないようだった。


 何故なら、彼にとって異常であったはずの『部分纏い』は、奏太にとっての常なのだから。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 再開した戦闘は徐々に勢いを増し、互いの体にはちらほらと傷が見られるようになった。

 奏太には裂くような引っ掻き傷が、オダマキには打撃による体力の低下が。

 しかしいずれも気を抜けない攻防には違いなく、


「ぅ、らァァアア!!」


「——ッチ!」


 狂撃が迫る。

 空気を裂き、突き、掻き毟り。

 それら一撃一撃を流し、弾き、躱すことで対応。その流れで身を低くしオダマキの足を払った。

 結果、前のめり気味に攻撃を続けていた彼は姿勢を崩して倒れ——、


「甘ェ!」


 否、払われる直前に『部分纏い』を行なった彼の足は、奏太の足払いを弾き、変わらずそこにあった。

 一切のブレなく立つ彼の不動なる姿は、まさしく岩の如し。岩のような肌が身を守っていた。


 その事実に怯んだ奏太に、間髪を入れない次の攻撃が入った。

 両の手を合わせて振り下ろされた岩撃。すんでのところでそれを回避し、地面に手をついたまま彼の腕に向けて半回転蹴りを食らわせる。

 これにはさすがに対応しきれなかったようで、


「っぐううううう!!」


 反射で出されたオダマキの左爪が割れ、眼前に黒漆が散らばった。

 痛みを堪える彼は苦悶の表情を浮かべ、距離を取るが、


「休ませねェよ!」


 奏太は踏み出し、開いた距離を縮めて追い込みをかける。


 超至近距離で行われるのは一瞬の攻防のやりとりだ。

 踏み出しの勢いによる左の打撃を腹部へ。それを防ぐついでに突き上げられる膝を避け、彼の左へ飛び込むように回り込み、彼が振り向くより先に右爪を殴りつけ粉砕。


「これで武器はなくなっただろッ!」


「——クソがァァアアッッ!!」


 振り向きざまに爪を失った右の裏拳を放たれ、ガラ空きとなっていた奏太の頭に直撃する——直前、右腕を犠牲にそれを防ぐ。死力を絞ったその痛恨の一撃に、視界の半分が赤に染まったと錯覚するほどの衝撃を受けるが、それでも、


「こッれで、終わ——ッ!?」


「はッッ、油断してじゃねーぞこら!」


 顎先に狙いを定めて放つだけ。

 しかしそれは届かない。

 先程防いだ裏拳の逆腕、抉るような彼の左肘が斜めに奏太の胸元を強襲したからだ。


「ッが、ァ」


 回避、防御、相殺、いずれもの選択肢が間に合わず、直撃を食らう。

 骨が砕けるような痛みと共に体が沈み、仰向けのまま白の地面が迫って————、


「——お前がなァ!」


 直後、地につけた手を支点に、後方縦回転した奏太の蹴りがオダマキの顎に直撃する。

 そして、


「——ふぅ、俺の勝ち……だな」


「————は、がっ」


 脳を激しく揺さぶられた彼は、右に、左に、ふらふらと体を揺らし、やがて、


「ちっくしょうが……ッ」


 激しい音を立てて崩れ落ちるのだった。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 気絶したオダマキが目を覚ましたのは、それから数時間後の昼食後のことだった。

 結局一度も起きずに終始熟睡していた梨佳も、ほぼほぼ同タイミングでの起床であり、今日の食事当番である奏太は当然その被害を被ることになったのだが、


「——三日月のアニキ」


「…………は?」


 ほとんどのメンバーが去った食堂で、奏太は眼前のチンピラ男——オダマキの口から出た言葉に耳を疑った。


「いやいや、アニキだってアニキ。オッレを倒したからアニキ、当然だろ?」


「どういう原理だよ。三日月でいいよ」


「んじゃ三日月だ。あんたクッソ強えなおい! オッレの爪ぶっ壊してぶっ倒したのなんて三日月で二人目だぜ? やっベーよマジ」


 人格が変わったのではないかと思うその言動に、強く頭を揺らし過ぎたかと後悔。


 そもそも、目覚めてすぐの時点で嫌な予感はしていたのだ。

 昼食を終えてすぐだというのに、梨佳とオダマキのために昼食を作り、提供したところ彼は何の抵抗も躊躇もなく黙々と食べ始めた。

 体中が痛むはずなのに、苦痛の声ひとつ上げずに。


 そう、散々梨佳のことで嫉妬だの怒りだのをぶつけてきた彼が、である。

 誤解が解けただけでは済まされない類の反応だが、


「考えただけムダだぞ、奏太ー。こいつの頭ふわっふわだから」


「ふわっふわじゃねーってアネキ。せめてゴッツゴツにしてくれよ!」


「どっちみち良い意味じゃないけどな」


 梨佳の言う通り考えるだけ無駄——というわけではなく、単純に上下の発想なのだろう。

 負けたから下につく、言ってしまえば舎弟のようなものなのかもしれない。


「って言っても態度が変わり過ぎてな……」


「あーしもこいつとっちめたらこんな感じになったから、こき使っていいぞ」


「おぉ、アネキの言う通りだ。何でもいいぜ? 気に入らねーやつシメんのでも、飲みもん買ってくんのでも」


 ケラケラと笑ってみせる梨佳に、胸を張ってパシリ宣言をするオダマキ。

 彼らに呆れてため息を吐く。

 だが、ひとまずは片が付いた。

 そう安堵しようとして、


「————こんちゃーっス! キヅカミサンいるっスか? このイス・エトイラク、実験のためにいざ参上っスよ!」


 嵐は再度訪れた。

 高音を口から鳴らし、奏太の平静を乱す灰色混じりの那須頭。

 彼女は二つ結びの髪を揺らし、


「——やぁ、奏太君……ただいま」


 項垂れたフェルソナを担いで再び奏太の前に現れたのだった。

 平和を脅かす、不穏な単語と共に。

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