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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第二章 『忘却』
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第二章20 『空へ芽吹く小さな芽』



 また、あの鈴の音だ。


 フェルソナも同様のものを聞いていたらしいが、それが一体どういう因果からなのかは分からない。

 聞くたびに痛みが走っていたので、あまりいい思い出はない。


 『トランス』の一段階目『憑依』を体に馴染ませて、葵から出された課題もクリアした。

 自分でも驚く程長く『トランス』を長く出来たし、希美や梨佳達のように体に疲れが生じることも、最初の数日を除きほとんどなかった。


 適性の高さ、というやつだろうか。

 複数の種類の動物を宿していることから、体に来る負担も維持出来る時間も、相当厳しいものになるかと思っていたのだが。

 ひょっとすると、二段階目の『纏い』で額から生える角を発現させた時こそ、この能力の真価は発揮されるのかもしれない。体は毛皮で覆われるが、手は特別爪が武器になったりとか、そのようなことがないから。


 そう考えるとかなりピーキーな能力である。『憑依』の時はそこそこ、『纏い』の時は主に角が武器だというのだから。

 本当にそれだけなのか、というのを確かめる意味でも、『纏い』を試してみたいと、そう思った。


 ユズカに声をかけたら笑顔で了承してくれたし、『憑依』に慣れ、コツを聞いた今なら前よりかは上手くいくはずだと心のどこかで思っていた……はず、だったのだが。

 実際のところ、怒りと本能のみで戦っていた今までと違って、少しは思考を割り込む余地はあったのだ。

 しかし結果的には抑え込むのに精一杯で、どうしようもないまま気絶させてもらった。


 普段ならここで反省するのだが、今は上機嫌だった。

 『憑依』を体に馴染ませられたし、『纏い』に関しても少しの改善の兆しが見えたからだ。時間をかけてゆっくり練習すれば、いつかは完全に意識下に置いたまま制御だって、夢じゃない。


 それに、ユズカの『トランス』を見た。

 はっきり言って、あれは別次元に存在していると言っても過言ではないくらいに、並外れた強さだった。

 思い出しただけでも、鳥肌が立つ。

 いずれはあれくらいに強くなりたいと、そんな目標さえ出来た。

 少女に憧れる、というのはそれはそれで問題な気がするが、それはさておくとして。


 芽空とユキナには心配をかけてしまっただろうか。後で葵に怒られるだろうか。いや、間違いなく怒られる。

 けれど、それもまたいい。


 それなりに力を身につけつつあるのだ。

 皆を守り、ハクアを倒せるくらいの強さを得るのもそうはかからないはずだ。

 『纏い』を、マスター出来れば。

 大丈夫だ、きっと出来る。そんな根拠のない自信のような感情が、胸の内から湧いてきていた。

 側から見たら、多分きっとそれは別の名前で呼ばれるのだろうけど、一体それが何だったのかは、思い出せない。


「————た」


 思考の渦が止まって、微かな光が射した。

 声だ。自分を呼ぶ声がする。


「——そーた」


 どこまでも続く暗闇の世界に光の柱が何本も立つ。

 それは遥か上空の、空の彼方から届いていた。

 自分を呼ぶ声がする。間延びした声が、閉鎖空間で反響している。


 意識が徐々に覚醒していく。

 現実へと、回帰するために。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「————あれ」


「あ、そーたが起きたー」


 目を開けると、カラフルな部屋が視界いっぱいに広がった。


 いつの間にかベッドに寝かされていたらしい。運んでくれたのは、状況的に芽空かユズカのどちらかだろうか。

 出来れば後者であって欲しいところだが。

 体を起こして、どこにも怪我がないかを確認。


 ——よし、大丈夫だ。


「そーた、うなされてたよ?」


 珍しく芽空はベッドの横に椅子を持ってきて、本を読んでいたようだ。いつもはソファか、あるいはベッドが定位置だというのに。

 そんな彼女は、今現在奏太の顔を覗き込んでいた。

 結構近くで。


「え? そんな悪い夢なんて——」


 見ていない、彼女の発言をそう否定しようとして気がつく。

 体を起こす際にシーツを掴んだその手が、ひどく汗ばんでいることを。

 ぼんやりとした頭の中に、悪い夢を見た記憶はない。が、その記憶を裏切るように現実が嘘をついていた。


「おかしいな……って、そんなことより、誰が俺をここまで運んでくれたんだ?」


「ユズカだよー。私じゃそーたは運べないしねー」


 ほっと息を吐く。

 どうやら芽空は、『トランス』を使わないでいたらしい。


 遡ること二週間前、芽空が自身の『トランス』を明かすことに怯えていたのは、今も奏太の記憶に新しい。

 あれを見て以降というもの、芽空が自分の意思で見せよう、あるいは話そうと考えた時にしか彼女に『トランス』を使わせないようにしたいと、そう考えていた。

 未だ理由は分からないにしても、再びああして彼女が怯えるような事態になるのはごめんなのだ。


 もちろん命の危険に発展するような状況になったならば、惜しみなく使ってもらいたいところだが。


「あ、クッキー食べるー?」


「うん、じゃあ紅茶も一緒にお願いします」


「かしこまりましたー」


 しかし本当にクッキーと紅茶が大好きな少女だ。

 ここ二週間毎日のように提供され、毎回のように食べているが、一体どこから出てきているのだろうか。

 時折部屋から姿を消すことがあるから、もしかするとその時に焼きに行っているのかもしれない。

 手作りにしては随分と見た目が綺麗で舌触りの良い物だが、彼女の料理上手のことを考えればあり得なくもない。


 とはいえ、どれだけ美味しくても、さすがにそろそろ別のものが食べたい気がするのは仕方のない事だ。もらってる側からすれば文句は言うべきではないのだが、遠回しに言ってみるとしよう。


「なあ、芽空って他のお菓子って作れるのか?」


「いくつか作れるけど、クッキー飽きちゃったー?」


 一瞬で見抜かれた。

 紅茶を入れつつ半身でこちらに顔を向ける芽空。その表情には心なしか憂いの色が見え、慌てて弁明する。


「いやその、あれだ。クッキー美味しいからさ、他のお菓子も食べてみたいなー、なんて……」


 ぎこちない笑みを浮かべてそんなことを言ってみる。

 対して彼女は紅茶を入れ終えたのだろう、ワゴンの上に紅茶とクッキーを乗せてガラガラと運んできた。


 しかしながら返答はない。

 怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも何か考え事をしているのか。いずれにしても言葉には出来ない引っ掛かりがあって。

 先程とは違い、その表情は読み取れない。


「……塩気のあるものとかー?」


 やがてベッドの横でそれを止めると、椅子に座って芽空は言った。


「え。ああ、まあそうだな。例えば……野菜チップスとか。でも甘いのでも、別に問題ないぞ。ただ、連日クッキーが続いてるなと思っただけで」


「私クッキー飽きないんだけどなー。色々と考えてみるねー」


 芽空は紅茶を手渡してくるが、体を起こしているとはいえベッドで飲む事には抵抗があり、一度降りようとして——止められる。


「寝てなきゃダメだよー」


「いや、でも汚れるし」


「ダメだよー」


 ずいっと顔を寄せられ、その平坦な声に移動を拒否される。

 一体、どれだけ心配されているのだろうか。

 彼女のこれが心配であることは分かるが、これではまるで普段の立場が逆転したようである。


 とはいえ、大人しく受け取る以外の選択肢は選ばせてもらえず、返す言葉を噛み殺して受け取る。


「ありがと、芽空」


「どういたしましてー」


 そしてそのまま少量口に含み、ふと気がつく。

 ついさっき感じた引っ掛かりの、その正体に。


「…………なあ、芽空?」


「どうしたの、そーた」


「——何か良いことでもあったのか?」


「————」


 微々たる変化。

 この二週間程度、毎日一日の半分以上を芽空と過ごしてきて、少しずつ彼女の様子が変わっていっている事に、奏太は気がついていなかった。

 そして今、この瞬間も。


 だが、今日の芽空は——いや、目覚めてから見た彼女の様子は、いつもとどこか異なるものだと分かった。


「上手く言えないけど、なんかいつもより心の距離感が近い、みたいな感じがしてさ」


「距離感が……近い」


 奏太の言葉を反復して、受け止めた彼女に問いかけられる。


「そーたは、嫌?」


 まただ。彼女の表情に感情が灯る。本当に注視しなければ分からない程のものではあるが、やけに今日の芽空は分かりやすい。

 普段なら、そうそうその内面を見抜くことなど出来やしないのに。


 まるで、堪えようとして漏れ出たような。


「全然。嫌じゃないぞ」


 だからこそ奏太は、何の躊躇もなく本心を言う。

 きっと芽空は、それを望んでいるから。


「————」


 数秒の沈黙があった。

 芽空はその間何かを考えるように瞳を閉じる。

 そしてそれが開いた時、彼女の表情に浮かんでいたのは、


「そーた。見てもらいたいものがあるんだ」


 やけに清々しく、ほんのりとした笑顔だった。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「見てもらいたいもの?」


「うん。そーたには見た上で、知ってもらいたいんだ」


 芽空は胸に手を当てて、そう呟く。

 その仕草には、どことなく普段とは違う気品のようなものが感じられた。


「あのね、そーた。待たせてるのにごめんなさい。まだ、私はあの時の説明を——ううん、世界に怯えている説明を、まだ出来ないの」


「世界に……? それじゃ、芽空は何を——」


「『トランス』」


 やけにはっきりと、その声は聞こえてきた。

 いつもの間延びした声はそこにはない。

 人形のようなガラスの碧眼にも、確かな芯と光が宿っている。

 その迫力と力強さに、思わず奏太は息を呑んだ。


「私の『トランス』。そーたに見せるよ」


「……いいのか」


「うん、もう決めたの」


 穏やかな声だ。何かを見守り、包み込むように温かな生気を含んだ声。

 これがきっと、彼女の出す本来の音なのだ。


 だが何かの理由があって、今の彼女になった。それは多分、ひどく辛く苦しいこと。

 どれだけのことを経験して、感情が失われていくまでに至ったのか、その心中は計り知れない。


「——分かった」


 言った直後、芽空は小さく顎を引き、二度、三度、息を吸って吐く。

 そして、


「————え」


 突如として目の前から、芽空が消えた。


 何度も目を瞬かせ、周りを見渡す。しかしどこにも芽空の姿は見当たらない。

 不可思議な光景だ。一体、一瞬の間に何があったというのか。

 彼女がこの場に存在していないかのように、姿形の一切が残っていない。


「……そーた」


 ぽつり、と呟くような声が聞こえた。

 見えないが、すぐ近くにいる。

 視認出来なくても、確かにその存在を再び確認した。


「芽空、いるんだな。じゃあ頼む、そこから動かないでくれ」


「————」


 返答はなかった。

 だが、彼女はそれについて了承しているだろう。見えずとも、それくらいのことは分かる。


 芽空が見えない理由は十中八九『トランス』によるものだ。見えなくなってしまう能力など、ぱっと思いつきはしない。

 だが、見つけ出したいと、そう思った。

 いや、見つけなければいけないのだ。


「集中だ、集中…………」


 瞳を閉じて、己の内に眠る感覚を呼び起こす。

 姿の見えない芽空を、見つけるために。


 『トランス』の一段階目である『憑依』に慣れ始めてすぐに、奏太はあることに気がついた。

 『トランス』を使っていないのに、妙に感覚が研ぎ澄まされている時がある、と。


 それは葵との稽古を始める前にも一度だけあった。

 ハクアとの戦闘を行なった蓮を探し出す時。あの時は無我夢中で、しかし今となって思えばやけに不自然だ。


 適性の高さ故に生身の体にまで影響が出ているのだとしたら、多分あの時は封じ込めておく蓋が緩まっていたのだろう。

 蓮を救いたいと、そう思う反面、怒りの芽はひっそりと育っていたのだから。


 そして今この時にも、感覚を研ぎ澄ませることで、芽空を見つけ出そうとする。

 今度は怒りを交えず、自分の意識でもって、そうするのだ。


「————そこだ」


 意識の海の中で、探していたものが見つかると、パッと振り返って手を伸ばす。

 何かが指先に当たり、そして、


「そーた……」


 芽空の腕を、掴んだ。

 確かな感触だ。見えなかった彼女が徐々に現実に回帰し、その姿を現す。

 見間違えるはずもない。伸びっぱなしの鶯色の長髪に、整った容姿。芽空だ。


 彼女の瞳にあるのは驚き、動揺、困惑。そして、幾筋もの涙がその頰を伝った。


「どうして」


 芽空は問う。見つけた理由を。


「芽空だからだよ」


「私は誰の目にも映らないのに」


「俺が見つけるよ」


「私には何の価値もないよ。いてもいなくても、変わらないの」


 少女から、感情が溢れ出す。

 芽空は人形などではない。ちゃんと生気を持った人間だ。

 奏太達と同じように考え、話し、喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。


 彼女は、忘れていたのだろう。何かがあって、感情の出し方を。

 抑え込むことで、自分が世界から観測されない苦しさを抱えて過ごしてきたのだ。

 ……断片でしかない彼女の吐露は、分からないことが多い。


 ——けれど、言わなければならないことがあった。

 今だからこそ言わなければならないことで、奏太だからこそ言えること。


「芽空が自分のことを価値がないって言うんなら、俺は芽空が必要な存在だって言うよ。いつだって、何度だって」


「そーた……?」


「いなくても変わらなくなんかない。だって俺は、芽空に助けられた。一度だけじゃない、何度だって。蓮のことで悩んで苦しんで。そんな俺を、助けてくれた」


 今になって、ようやく分かったことがある。

 奏太は芽空を妹のような存在だと、そう思った。放っておけないし、ついつい構いたくなる。そう、思っていたのだ。


 だけどそれは違った。


 似た者同士だったのだ。

 奏太も、芽空も。世界から切り離されるのが怖くて怖くて、たまらなかった。しかしそれに対して、何かしようとしていたわけでもない。

 ただただ、怖がる事しか出来なくて。


「正直、俺はまだ蓮の死をちゃんと受け止めきれてない。でも芽空がいなかったら、今の俺はここにいないから」


 そんな奏太に、光は差した。

 蓮という光に、救われた。

 今は彼女と交わした約束が強く心を蝕んでいるけれど、それでもあの日々が、前を向けたあの日々が無駄だったなんて、絶対に言わない。言えない。言いたくない。


 だからこそ、同じように一人で立てない人がいるのなら、その人は救われるべきなのだ。

 一人で無理なら、二人で立てばいいのだと。

 自信が持てないのなら、それを肯定する誰かがいればいいのだと。

 そう気づいて、前を向くべきなのだ。

 その先にはきっと、楽しい日々が待っているから。


 それがたとえ、ほんのひと時の幸せであっても。


「だからさ、芽空。二度と自分に価値がないなんて言わないでくれ。——たとえ世界の目に芽空が映らなくても。俺がいる限り、何度だって何十回だって、俺が芽空を見つける。絶対に見つけ出すから」


「……そ、た」


 少女から、声が漏れた。


 自分の名を呼ぶ声。嗚咽と涙と色々が混ざった、感情の塊。

 彼女は、いつからこれを自分の内に閉じ込めていたのだろう。


「そう、た。そうたそうた。そうた……っ」


「……どうした、芽空」


 小さく地を蹴る音がしたかと思えば、胸のあたりにこつんと硬いものが当たる感触があった。

 芽空は、奏太の胸に顔を埋めていた。

 涙と感情が溢れて止まらなくなったのだろう。声にならない声が、こだまする。


「————」


 そっと彼女の髪を撫でて、その感情の全てを放出させる。


 それがどれだけ大事な事かを教えてくれた人がいたのを、知っているから。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「芽空、落ち着いたか?」


「…………うん」


 あれからしばらくの間、彼の胸で泣き続けた。

 二週間前もそうだったけれど、あんなに泣いたのはいつぶりだろうか。それすらも思い出せないくらいに、自分はずっと泣いていなかったのだ。


 ——いや、違う。感情を、出していなかったんだ。


「そういえば、今何時かな。ご飯作らないと」


 彼は気を遣ってくれたのだろう。

 いつものように優しげに微笑んで、そう言った。


「そろそろ日付が変わる頃だよ。そーた、ずっと寝てたから」


 鼻の調子が変になって、鼻声になっている。

 けれど、ちゃんと言葉を返せるくらいには頭は落ち着いてきていた。

 何を彼に話したのかも、未だに何を話せていないのかも、ちゃんと分かっている。


「もうそんな時間か。芽空はご飯、食べたのか?」


「まだだよ。後で食べに行く?」


「そうだな。あ、でも芽空は女の子だし、こんな時間に食べるのは——」


 思わず、くすりと笑いが漏れた。

 それは小さなものだったけれど、一度漏れてしまえば留まるところを知らない。

 何度も何度も、お腹が痛くなるまで笑い出す。


 彼はそんな様子を見て困った表情を浮かべていた。

 だから、


「ありがとう、そーた」


「……えと、どういたしまして?」


 笑みが顔に残ったまま、彼にお礼を言う。

 こんな時でも、奏太は自分を女の子扱いし、いつものように話してくれる。

 本当に、感謝がたくさん溢れてくる。


「それじゃ、そーた。行こっかー」


「急だな。顔とか、洗わなくていいか?」


「いいよ。このままで」


 ベッドから立ち上がり、扉へ向かう。

 彼はそれを追うように、慌てて後ろを付いてきた。


 思えば、いつも奏太の後をついて行くことばかりだった。会話では、多少自分が振り回していたかもしれないけど、それでも行動する時は、いつも彼が先を行く。


 多分きっと、彼は今の状況に動揺しているはずだ。

 いつもと立場が逆だな、などと。

 けれど、そうさせてくれたのは、奏太なのだ。


「——ねえ、そーた。もう一度だけ。……ありがとう」


「…………ああ」


 ——必要な存在だと言ってくれて、絶対に見つけ出すと言ってくれて、ありがとう。


 体が熱い。久々に感情が溢れて、なんだか気恥ずかしい。

 でも、いつかはこれにも慣れて、それからあの事にも、向き合えるようになるのだろう。

 全て、奏太のおかげだ。


「…………本当に、ありがとう」


 草木が枯れ果て、全てが凍りついた世界に、日差しが差した。


 それは心地が良いくらいにとても暖かくて、徐々に氷を溶かしてゆく。

 枯れ果てたボロボロの草木達は、再生するのに長い長い、年月がかかる。


 けれど、一つだけ。一つだけ、元気なものがあった。

 とても小さな芽。

 少し前まで白銀の世界だったそこには、空に向かって芽吹く、小さな芽があった。

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