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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第二章 『忘却』
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第二章19 『少女の中で』



「奏太さんは、『トランス』の、練習、してるんだね」


「あ、ああ……」


 トレーニングルームを出てすぐの通路に、二人の声が響き渡る。

 片方は壁にもたれる奏太の、もう片方は隣でしゃがんだ希美のものだ。

 葵はご飯を作るとかでこの場を離れてしまったし、梨佳はそれについていってしまった。

 結果、残ったのがこの二人。


 こうして希美と二人きりで話をするのは初日以来である。

 昨夜も『トランス』の説明の時に顔を合わせたりはしていたが、実際冗談を抜いて交わした言葉はないに等しい。

 他のメンバーと比べて遭遇率が低い、というのもあるが、奏太自身彼女に対してどう接すれば良いのか分からない部分があるのだ。

 蓮のこともあってか、彼女を前にすると、葵や芽空達を相手にする時とは違い、冗談やふざけの類のものの一切が頭から離れていってしまう。


 一方希美の方は全く気にしていないのか、あるいはそう振る舞っているのか、これと言っておかしな様子は見当たらない。

 こうして奏太に話しかけに来ているし、相変わらず感情の起伏は一切見えないが、奏太程身構えていないことは確かだった。


「約束、したからな。幸せにするって。でもそのためには力が足りないんだ」


 彼女の——希美の考えはかなり変わっている。

 蓮が死んだのは、世界のせいなのだと。幸せにするはずだった世界が裏切り、彼女を殺したのだと、何の疑いもなくそう思っていた。


 しかし彼女が世界に報復宣言をするには、どう見ても力が足りない。

 それが昨日の講座でよく分かった。

 フェルソナが言うには、彼女は蓮を除いた現在のラインヴァントで二番目に位置する強さを持つそうだが、はっきり言ってそれほど強いとは思えなかった、と言うのが奏太の本心だ。

 蝶を具現化出来る。これは確かに驚くべきことであり、工夫次第で相当な被害を出すことも可能だろう。

 だが、その場合希美単体の強さは『トランス』してもほとんど変わらないらしく、生身を狙われたら為すすべもなくやられてしまう。

 奏太を含めた他の『トランサー』との違いはそこだ。


 故に奏太の中では、彼女の想いを叶えるために自分がやってやらなければならないという気持ちが強まっていた。

 もちろん葵にも言った通り、それだけではないのだが。


「昨日の説明、役に、立った?」


 独特のテンポを持った言葉を発しながら、希美は自身の青髪をさらりと流す。蓮よりも色素の濃い海のようなその青髪を。


「ああ。役に立ったよ。おかげで今俺がどうしたらいいのか、それがよく分かった」


「…………そう」


 そしてたった二文字の返答があり、会話が終了した。

 嫌な沈黙が流れると同時、あまりにも短すぎる会話だと引きつった笑いを浮かべる。

 多分これは奏太が普段通りに話していても同じ状況を作り出すのだろう、そんな気がする。


 さすがにこのまま時間の経過を待つのは色々とまずい気がして、


「……そうだ。葵から『トランス』には二つの段階があるって聞いたけど、希美のあれはどっちなんだ?」


 話題を振ってみる。

 希美は口下手なのかもしれない。だから、奏太が質問をしてそれに返答して貰えば自然と会話も弾むはず……という寸法だ。

 とはいえただそれを繰り返しているだけでは会話と呼ばず、ただの質疑応答なのだがそれはさておき。


「ない、よ?」


「え?」


「だから、私は、一つ目、ないよ」


「え、ないって……」


 一段階目がない。

 それは確かに彼女の異質な能力を考えれば当然のことではあるが、その代わりに蝶自身に何か変化があるのではないか、と考えていた。


 力を取り戻してすぐに二段階目を発動させた奏太が言えることではないが、改めて彼女は異質だと分かる。

 しかし当然の如く制御は難しいだろうに、やはり姉妹というべきか。努力を怠らず、あらゆることに力を入れているのだろう。

 ただし、恐らく蓮の愛し愛されっぷりは天性のもので、希美はコミュニケーションを除き、だが。


「——俺も頑張らないとな」


「奏太さん」


 呟くように言った矢先、名前を呼ばれる。

 何ともまあ、独特な会話の調子の持ち主である。会話をする気があるのかないのか、分からない。


「アドレス、教えて」


「えらく唐突だな」


 そう言い、希美は空中を何度かつつく。

 彼女のその動作を、奏太は思わず眉を寄せて見つめる。


 年頃の子ども——いや、今ではこの国に住まうもの皆にとって当たり前のその行動に違和感を持つ。

 葵の話では『トランサー』は皆デバイスを使わないという話だったからだ。

 しかしながら目の前の彼女は、どこからどう見てもデバイスを操作している様子そのものであり、奏太にアドレスを教えることさえ求めてきた。


「————」


 そのことについて問いかけようとして、言の葉に音を乗せる寸前で気がつく。


 緊急事態の時に必要なのではないか、と。


 二日前に葵と姉妹の部屋で事実確認を行った際、蓮からのメールによって葵達はユキナの場所が分かり、その上で芽空を呼べたと言っていた。

 そして芽空が、奏太のアドレスを何の抵抗もなく受け取っていたこと。


 これらから考えるに、基本は使わないが、有事の際にはデバイスを起動してでも命を優先する、ということなのだろう。

 とはいえ、オフにしたままでは受信通知があるかどうかすら分からないのだが、その辺りは何かしらの方法があるのだろう。

 さすがにそれで連絡が取れません、などということがあれば、あまりに滑稽すぎるし。


 隣の希美にふっと視線を落とし、彼女の手首を見やるが、そこに奏太と同じ腕時計はない。

 ひょっとすると、常時付けっ放しにしているため、腕時計を持ち歩いていないのかもしれない。

 医療ソフトのオンラインアップデートをオフにすることで、条件はクリア出来るのだから。


 ほぼ確信に近い予想がついたところで、一旦思考を中断し、言葉を返す。


「ちょっと待ってくれ。今から起動するよ」


 手首に巻いてある腕時計の液晶に触れ、起動する。

 次に現れるのは眼前に広がるアイコンの数々。

 ほんの一週間前までは何度も目にしていたそれは、ここ数日では見る頻度がかなり減っている。

 というのもこのアジト、地下ということもあってかなり電波が悪い。

 ネットの海に潜ることの多かった奏太としてはかなりの苦しみではあったのだが、芽空達と話をすることでその不満をどうにか解消していた。


「よし、じゃあ読み上げるぞ——」


 メールのアイコンにタッチし、自分のアドレスをゆっくり発音し、希美に入力させる。

 少し時間を置いて空メールが届いたことを伝えると、


「それじゃ、私、学校、行くね」


「ん、いってらっしゃい」


 すっかりそんな時間になっていたらしく、希美はそのまま立ち去って行った。

 一人ポツンと残された奏太は、寂しい空間に鳴り響く腹の根を聞き、呟く。


「……朝ごはん、食べに行くか」


 こうして、稽古一日目はまずまずな進展が見られたのだった。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 奏太が『トランス』の稽古を始めて二週間が経過した。

 その間に地上では梅雨が始まり、連日雨が続いている。芽空は奏太と葵が買い物に行く時には同行するようになり、今が梅雨だと知ったのはそれが理由だった。

 

 奏太と違ってあまりネットには触れないし、葵達と違って外にも出ない。兄や奏太に言われて体は適度に動かしているけれど、それでも地上の情報に疎いことは何も変わらない。

 本を読んで、ゴロゴロと転がって一日を終える。その日々にいくつかの変化があっても。


「そこは突き出しちゃダメだよー」


「うー、すっごく難しい……」


「お姉ちゃん、もう少しだから頑張って」


「ユキナは綺麗だよー」


 廊下とトレーニングルームをつなぐ通路、そこに三人はいた。

 物置部屋から机と椅子を持って来て、早朝から正午にかけてここで勉強の復習に付き合っている。


 買い物の付き添いと、姉妹の勉強を見る。この二つが芽空の新しい日課として定着しつつあった。


 奏太は葵が学校に行った後も、昼まで『トランス』の練習を続けているし、残っている者で少女達に勉強を教えるのは芽空くらいしかいないのだ。

 主要メンバー以外はこちらに関わってこない上、フェルソナはいつも部屋に篭って一人で笑っているし、きっと彼は付き合いはしないだろうから。


 けれどこれは決して嫌なことなんかじゃない。

 日に日に成長していく奏太や姉妹が見れるのは、芽空としても胸が踊るから。あまり表情に出したりは、しないけれど。


「あ、ソウタおにーさんそろろ終わりじゃない?」


「ほんとだー」


「お姉ちゃん、それも大事だけど早く終わらせようよ。もう少しなんだから……」


 困った声を出すユキナとその原因であるユズカと共に、窓越しに映る奏太を見つめる。

 彼は肩で息を吐くくらいには疲弊しているが、山のように積まれていた鉄棒も残るところ数本となっている。

 全てを曲げ切り、目標を達成するのも時間の問題だ。


「なんであんなに頑張るんだろーね?」


「ソウタお兄さんにはきっと、何かやらなきゃいけないことがあるんだよ。多分……」


 やらなきゃいけないこと。

 それは多分、蓮の仇討ちなんだろう。

 仇討ちと、別の何か。『トランス』の練習をしているのは、それが理由なのだと思う。

 一見ただの頑張り屋さんに見えるけれど、裏を返せばそれだけの理由があるということ。


 やる事なす事何もかもに力を入れる子はこれまでに何度か見てきた。

 彼の想い人の蓮も、その一人。

 けれど彼は違う。二週間とちょっと、一日の半分以上を一緒に過ごして、それがよく分かった。

 蓮のような人はいつか倒れやしないかと心配になってしまう分、彼はまだマシな方なのだけど。

 それでも、全く違う意味で心配なのは確かだった。


「メソラおねーさん、これでいい?」


 ふいに声をかけられ、しかしその驚きを表情に出さずにそちらを見る。

 机の上に広げられたノートには、びっしりと平仮名と数字が書かれていた。

 そのいずれもが拙い字ではあったが、教え始めた初日に比べればかなりマシになった方だろう。


 見た目は不恰好でも、最近では絵本も読めるようになって来ていると聞くし、確かな成長が見られている。

 カタカナや漢字を覚える時にどんな反応をするのか、想像しただけで楽しみだ。


 そう、奏太も姉妹も、成長……しているのだ。


 ——自分は、どうなんだろう。


 奏太と同じ部屋で過ごすようになってから、前よりもやることが増えた。考えることも、話すことも。


 でも、まだ過去に向き合えてはいない。目を向けることも、変えようという勇気も、まだ出てこない。

 兄は、何も言わない。

 奏太は、何も知らない。


「私は————」


 あの事を話す勇気は、向き合えない以上湧いてきはしない。

 けれど真っ直ぐに好意を伝えてくれる奏太に触れて、少しずつ自分の中で芽吹く何かがあると感じていた。


 あの事はまだ話せないけれど、それでも知って欲しいと、自分の中でそう思う部分があった。

 ラインヴァントの皆も知らない、あの事から今に至るまでの空白を彼に知って欲しいと、そう思ってしまう。その理由はもう、気づいてる。

 ならば、自分は————、


「ユズカ、ちょっと来てくれないか?」


「ほえ?」


 芽空の中で答えが出る直前、扉は開かれた。

 そこから現れたのは奏太。

 二週間目にして全ての鉄棒を曲げ終えた奏太は、晴れやかな笑顔でそう言った。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「二段階目を試す?」


「ああ。俺は『纏い』って呼んでるけど、一応コツは聞いてるから」


「それでなんでアタシなの? ソウタおにーさん」


「失敗して暴走したら止めて欲しいなーと……」


 そう言って奏太は苦笑いを浮かべた。

 彼はついさっきまで一段階目をしていたというのに、休まずにそのまま試そうというのだ。


 止めるべきだろうか、と一瞬戸惑いが生じる。

 だけど、彼の意思を尊重して、見届けたいとも思った。それは多分、先程悩んでいたことと無関係ではないはずで。


「そーた、頑張れー」


 故に離れた場所で、ユキナと共に二人を見守ることにした。


 不安げに二人を見つめるユキナがひどく苦しそうに見えて、そっと頭を撫でる。

 柔らかな髪だ。しばらく前に触れた時と比べると、ずっと女の子らしいものになった。


「奏太さん……」


 姉の心配はしていないのだろう。

 ユキナは姉が危険な目に合うことなど、微塵も考えていない。事実、これまでにユズカが致命傷を負ったことなどまずないし、これからもそうそう起きることではないはずだ。

 多分それは、奏太が『トランス』を完全に扱えるようになっても。


 ユキナにも芽空にも、そう思わせる程の強さと実績がユズカにはあるのだから。


「それじゃ始めてもいいか?」


「アタシはいつでもばっちこいだよ!」


 にこやかなその笑顔は、およそそこらの少女と変わらない、可愛げのあるものだ。

 ただし、中身に抱えるものは全くの別物。


「————」


 奏太が深く息を吸った。

 これから始めるという合図だ。

 芽空もユキナも、決して二人から目を離しはしない。

 次に、数秒後に何が起きるのか、その一瞬をちゃんと見つめるために。


「——広げて、纏う…………」


 奏太が小さく呟いたのは、以前に蓮が口に出していたものと同様の言葉だ。

 何でも、こうして口に出すことで、自分の中に眠る能力を確かなイメージにするのだとか。

 二段階目を出来ない芽空からすれば、実際に試せないのは何だか寂しいような気もする。

 とはいえ、出来ないことは出来ないのだから、受け入れるしかないのだけど。


「————っ」


 空間を切り裂くような、音。


 それが幻聴なのか、本当に鳴り響いたものなのかは分からない。が、奏太が呟きの後に纏ったそれは、この場の空気を変貌させた。

 思わず眉を寄せ、目を細める。


「……」


 同じく彼に異質なものを感じ取ったのだろう、ユズカは臨戦態勢に入った。

 そこにいつもの少女の顔はない。目からは光が消え失せ、あるのは目の前の脅威を排除し、生きながらえようとする生物の本能のみだ。

 一歩間違えれば相手を——奏太を殺しかねない、それ程に研ぎ澄まされた闘気。


 ユズカがそれを奏太に向ける理由は一つ。


「——ぐ、ァがッァァァアアア!!」


 そこにいたのは、奏太であり奏太ではないからだ。

 初日に芽空が見た不完全なものとは違う、確かな『トランス』による奏太の肉体の変化。

 天に伸びるような長くねじれた角に、灰色の毛皮に覆われた手足。赤黒く変色した髪。そして、苦痛で歪んだ表情。

 奏太に聞いていた通りだった。確かにこのような動物は、芽空であっても知らない。絶滅危惧種や突然変異種、希少種のいずれにも該当しない。

 しかし、今はそんなことは大した問題なんかじゃ、ない。目の前にいるのは、自分の知らない奏太であるということ。


「————」


 ——ふと、服が引っ張られるような感覚がした。

 ユキナだ。ユキナは奏太から目を離さず、しかし何か思うことがあるのだろう。ぎゅっと芽空の服の裾を掴み、怯えるようにこちらに体を寄せる。


 あれほど憧れていた存在が、今目の前で苦しんでいる。普段通りの姿とはかけ離れたものを見せている。

 きっとそれらが、少女の苦しみになっているのだろう。怯えではなく、心の底から身を案じているはずだ。

 ユキナは、優しい女の子だから。


「————せ」


 悲鳴に近い、声がした。

 普段の彼からは想像も出来ない程に冷たく、怒気を孕んで低くなった声。

 しかし肝心の内容が聞き取れない。それは姉妹二人も同様なようで、声の主である奏太の声を待つ。

 そして、


「——ぶッ飛ばせ、ユズカ。今のうちに……ッ」


 苦痛に満ち満ちたその声は、最後のほんの一瞬だけ普段の彼が垣間見えた。

 身悶えし、何かに抗うような彼の素振りはひどく辛そうだ。出来るものならば、芽空がこの手で解放してあげたい。しかし、それだけの力を持ったものはこの場に一人しかいない。芽空では、ないのだ。

 彼が必死に絞り出した言の葉に対して、ユズカが返したのはごく単純で、簡潔なものだ。


 彼を注視したまま、小さく顎を引く。


「……お姉ちゃん」


 奏太の身を案じるユキナの声と同時、ユズカに変化が生じた。

 その小さな体に眠る獰猛な獣を呼び起こし、全てを喰らい尽くして体に纏う。


「————ふっ」


 彼女が短く息を吐いたのが聞こえたかと思えば、瞬きをした次の瞬間、鈍い打撃音とともに奏太が顎を突き上げられて倒れるのが見えた。

 まさしく目にも止まらぬ豪速と怪力。

 ほんの一瞬で、奏太を気絶させてしまった。


「……おやすみ、ソウタおにーさん」


 発された言葉の文面だけを辿れば、至って平和で彼女らしい無邪気なものだ。

 ——『トランス』の後で、声に感情が戻ってきていないことを除けば。


 何度か目にしたことのあるユズカの『トランス』。

 蜜柑色の髪の頭頂部から生えた丸い耳は僅かに揺れて、普段の彼女にこれがあれば可愛らしいと、そう思えるのかもしれない。

 だが、一つ結びにされた長髪。その毛先は、黒く変色していて。


 これらは本来ライオン——それも、雄にしか見られない特徴だ。ユズカのような少女がこれほどの雄の力を与えられるなど、なんという皮肉なのだろうか。

 柔らかで細い手足も、百獣の王と同様の薄黄色をした強靭なものへと変質している。

 少女にこんな能力を与えたこの世界は、ひどく残酷だ。


 葵が姉妹を——特にユズカを気にかけるのも、当然だ。


「メソラおねーさん、ソウタおにーさんどうしよっか?」


 視線を地に倒れ伏した奏太へ向ける。


 彼は多分、こうなることを心のどこかで分かっていたのだと思う。

 それでもやってみたいと、そう申し出たのは、きっと今の自分に足りないものを補って前へ進みたいと、そう考えていたから。

 結果的に失敗してしまっても、原因を探って次に生かす、と。


 やはり危うさは否めないけれど、彼の行動が芽空に決して少なくない影響を与えているのは、事実だ。


 二週間前にもあった感覚がした。

 心がきゅうっと苦しくなって、だけど温かい。

 ずっと冷たくなっていた心に小さな火が宿って、それは次々に周りへ伝わっていく。ぽかぽかと体が熱くなってきて、その果てに出た結論。


「——部屋に運んで欲しいな」


 怖くないわけ、ない。

 けれど、それでも。

 小さな一歩を踏み出そう。彼の為に。——自分の為に。


 芽空は頰を緩めて、そう言った。

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