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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
終曲 『それから』
201/201

『エピローグ』



 ——何年も前。


 ——十何年も前。


 世界は、海の上にあったのだという。


 多くの大陸があり、様々な生物が存在し、何より空があって。

 宇宙を目指し、空を駆け、海を渡り、季節によって違いを見せる太陽の下で生活を営む。

 歴史の多くがそうであったと証明しているし——しかし同時に、歴史はこうも告げていた。


 時代には節目というものがあり。

 性別・身分・年齢を問わず、その度に人類にとって偉大な進歩を成し遂げた者がいた、と。


 幼少期にそれを知れば、何者かに憧れる少年少女も出てくるだろう。

 もしくは、一体どういう軌跡の元に軌跡たらしめる功績を残したが、調べる者もいるはずだ。


 そんな流れを経て、人は気づく。

 人類の大半は凡庸な人間でしかなく。本当の天才なんてものはそう簡単に生まれるものじゃない。

 きっとそうだ。

 『偉人』は普段の言動からまるで常人とは違い。

 『英雄』は生まれる瞬間からそう決まっていて。

 『魔女』はなるべくしてなった、当たり前の神秘なのだと。


 だが、それもある種の歴史だと言っても良い。

 後から振り返るからこそ、成功の道だったと言え。同じ時を過ごした者にしか分からないことがあるから、人々は誤解をする。


 あるいは、場所と付け加えても良いかもしれない。

 同じ時を過ごしていても、誰からも憧れを抱かれ、皆を惹きつけていたがゆえに理解されなかった麗人もいるからだ。



 だから、人類は知らない。


 かつてラインヴァントを名乗っていた組織や、その協力者たち。

 彼らと敵対する同族(、、)の組織。

 麗人率いる巨大組織の幹部。

 『英雄』や『魔女』。


 皆に、それぞれの物語があったことを。

 彼と彼女の——約束を。



「————」


 窓の外を見つめる少女がいた。


 彼女の瞳は憂いげで、しかし何があっても受け止めると決意しているような、そんな強さを秘めている。

 いや、正しくは。

 秘めていた、と語るのが正解だろう。


 少女にとってこの年月は、ページが欠けている状態で進める本のようなものだった。

 物語を完成させる上で必要な、大事なページ。それが欠けていてもなお進めようと言うならば、いつかどこかで、無理は来る。


 皆に協力を仰いで、それでも辿り着けないものがあり。

 それでも弱音を吐けず。だから少女は望んだ。


 本心を——自分を見つけ出してくれる人を。


「————」


 きぃ、と。

 何の前触れもなく、ドアが開いた。


「誰か……って。誰もいないのか」


 それは黒髪の少年だった。

 目つきがやや悪いくせに全体のシルエットは細めで、言葉に覇気がなく。とてもではないが、誰かを救えるほど立派には見えない。


 けれど少女は知っていた。

 少年が理不尽を嫌い、多くの人の不幸を許さなかったことを。誰もの幸せを望み、間違いを否定してきたことを。


 最初から、そうだった。


「————そこだ」


 少年の手が伸びてきたかと思えば、その手は少女を掴み。

 次第に、消えていた少女の全身を露わにしていく。

 存在を確かめるように、二人は互いの瞳を見つめ。


 視線が、交わる。


「約束、守りに来たよ」


「————」


 そこには様々な感情があった。

 身体中を甘い刺激が走るくらいの愛おしさ。喜び、感動、悲痛、申し訳なさ——それらがごちゃ混ぜになった、とても一言では表せない気持ち。


 けれど、驚きだけはなかった。

 少女にとって少年は救いであり、当たり前の居場所。

 次に紡ぐ言葉も、決まっていた。


「……私には何の価値もないよ。いてもいなくても、変わらないの」


「——自分のことを価値がないって言うんなら、俺は何度だって言うよ。必要な存在だって」


 記憶をなぞる想い。

 けれど世界が進めば、少年たちは駆けてきた。

 少女たちが色づいたから、世界は白黒じゃなくなった。


「世界は変えられないよ。私一人じゃ」


 そしてそれは、少年にとっても同じだ。

 ずっと前からそうだった。


「そっか。それなら——」


 少年を信じ、もう一度空を目指した、あの日から。

 少女を何度だって見つけると約束した、あの日から。




 声が、重なる。


「————俺たちで変えよう、芽空」


「————私たちで変えよう、そーた」



 涙と笑顔をかき混ぜて。

 少年たちはもう一度、走り出す。


 それぞれが自分の色を描ける、世界のために。











*** *** *** *** *** *** *** *** ***



まずは、いつもお読みいただいていたことに感謝を。

それから、ここまで読んでくださった皆様方へ。ありがとうございました。

これにて、『黒と白の世界と』完結です。


たくさんのことを話したいところではありますが、活動報告にて明日、落ち着いてからゆっくりと書きたいと思います。

ですから今はひとまず、重要なことをいくつか。


この作品は、大きく分けて四つで構成されるシリーズの一作になっています。

そのため、前日譚にあたる物語。それから、終曲2〜エピローグに至るまでの物語。さらに…と、まだまだ続いていきます。

興味を持ってくださった方や、また続きが見たい、という方はぜひお読みください。

連載開始はおおよそ一ヶ月のお休みをいただいた後、と考えています。等々、今後の詳細も明日の活動報告にて書き記すつもりです。


さて、重ねてになりますが、本当にここまでお読みいただきありがとうございました。

この作品が面白かった、という場合には評価・感想等書いていただけると、励みになります。


応援、ありがとうございました。




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