第四章30 『《彼女》について知らなかったこと』
現在起きている事態に対して、ある程度の理解ができているのは、奏太やシャルロッテたちだけではない。
先日の一件において、まさにその一瞬を確認した身としては、信憑性が増すどころか信じる他ないという結論に至った。
それは分かりやすい言葉で表すのなら、超能力。
自分ぐらいの年頃なら大抵は興味を持ったり、人によっては資料を漁って覚えて使ってやろう……などと考えるだろうと思う。
だが結局それらは空想の産物がほとんどで、叶ったとしても紛い物かただの自分にとって都合の良い妄想か。
自身の弱さを知っている身としては、そんなことを考えている暇があるならトレーニングの一つでもやれ、と言いたいところではあるが。
まあ、前置きが長くなったが、現在世界のあちこち——というよりは特定の人物を残して、それ以外は全部と言ったところか——が時を止めているのは超能力のようなものだろう。
先日シャルロッテを襲い、無謀にも自分と戦おうとした黒フード。
あの人物が使っていたよく分からない力も、恐らく本質的には同じもので、
「予想の一つとして、なかったといえば嘘になりますが……正直、信じたくはなかったですね」
「…………」
天姫宮葵が構えたまま視線を向ける先は、一体いつの間に入ってきたのか、複数の人影。美水希美だ。
どれか、ではない。いずれもが彼女なのである。
何か顔に被っている様子もなければ、葵が疲れているわけでもない。だから表現としても最も正しいのは、
「分身の術……のようなものでしょうか」
けれど彼女は今まで、そんな便利なものをなぜ使わなかったのだろうか。
考え——ああそうか、と納得する。
「あなたの『獣人』としての能力は他の人と違って異質なものだった。けれど実際はあなた本来の力と『獣人』の力を合わせただけだと、そういうことですね?」
「…………」
まあ、あからさまにこちらを狙っているのに、わざわざ能力の説明をするわけがないか。
長所や得意な技、あるいは癖などというものは向き合い方次第で弱点となり得る。彼女に武道の心得があるとは思えないので、駆け引きを考えての判断か、あるいはただ説明が面倒だと思ったか。
どちらでもあり得る話で、けれど確かめるにしてもやや不利な状況だ。
「え、え。なにが起きてるの……」
「あの人って、レンさんの妹なんじゃ……」
「でも変な武器みたいなの持ってるよ……?」
この部屋は元々パーティーにも時折使われるとかでかなり広めになっており、屋敷に残っている皆を集めても、まだまだ余裕があった。だからここで軽い戦闘を行なったとしても、まあ大丈夫だろう。
複数相手だろうと希美の力量は分かっているし、多少苦戦するだろうが勝てる。
————後ろで怯え、うろたえている少年少女たちを守りながら、という条件さえなければ。
ちら、と振り返る。
「っお、お兄ちゃん。私もてつ、手伝うから……」
普段の葵との稽古や、奏太直々に制御法や力の配分を教えたことで、そこらの素人よりはマシになった少女、絢芽。彼女はダメだな、と一目で判断できる。
状況が分からないなりに、彼女も葵の指示で動こうとしてくれているようだが、足はガクガクと震えているし、何より忘れてはならない。
最初から実戦で成果を出せる者など、ごく少数だ。
相手との相性であるとか、状況判断であるとか。そういったものは大事だが、もっと根本の精神。
練習では上手くいっていたのに、いざ本番となると緊張して体が固まってしまい、あるいは怯えてしまうということはなにも珍しい話ではなく、普段通りに動くことこそが一番難しいなどという言葉もある。
そこから絶え間なく変化する状況があって、力には限界があり、感情は揺れ、徐々に正常な判断さえも難しくなってくるのだ。
成功どころか、そもそも最初の段階で転んでしまった彼女ではそれを乗り切ることなど不可能に近い。
誰にもそれを責めることなどできないし、最初から動けて、かつ練習以上の実力を発揮なんていう規格外のことをやってのけるのは、本当に例外中の例外なのだから。
「アオイお兄さん。やっぱり、お姉ちゃんは……」
「……。そうですか、分かりました」
それまで姉のユズカの状態を確認していたユキナが、申し訳なさそうに報告してくる。
状態——それはこの場において、彼女だけが空間凍結の効果を受けていることを意味する。
葵も希美が入ってくる前、ある程度の確認してみたのだが、体が動かないのだ。
呼びかけても返事はなく、呼吸音も聞こえない。軽く叩いてみても怒られることもなければ、硬いような柔らかいような、気持ちの悪い感覚が返ってくるだけ。
だからどれだけ力を込めて引っ張ろうとしても、その体が動くことはないし、空間の固定は能力者本人がどうにかしない限りはどうにもならない。
こうしている間に非戦闘員の子どもたちを逃せないのも、そこに起因する。
当然ながら空間凍結は人だけに限らず、扉や窓、建物、それらにも適用されており、閉じた扉は開かない。開いた窓は分身体の背後。
この部屋が一階だということを考慮してもしなくとも、まず逃げられない。
「オダマキさんは……いえ。奇跡を願ってどうにかなる状況なら、そもそもこんなことになっていませんね」
ということは、今現在戦えるのは葵一人のみ。
絢芽はともかくとしても、ユズカを戦わせる気は元々ない。が、ある程度の実力とある程度の自己判断ができる者という条件ならば、彼女も該当していた。ゆえにその手が借りられないのは痛い。
ユキナも内心は動揺しているのだろうけれど、少なくとも表向きは冷静でいられているあたり、かなり頼もしい。
非戦闘員たちがこの状況でパニックを起こすと厄介だし、彼女のような者がいてくれるのは助かる。
さて、本来なら成長を喜ぶべき場面だが……どうしたものか。
「状況から考えるに、まず間違いなく奏太さんたちの方も同じ現象が起きているでしょう。分身に限りがあるのなら、それである程度割かれてはいるのでしょうが、いかんせん数が多い」
どうやら葵が普段から常備している小道具一式は、凍結の影響を受けずに使えるようだが、それをフル活用して一度に倒せる数は三、いや四。
対して相手は六人で、本体がいなくとも分身が出来るのなら、その間に子どもたちが狙われる。
全く。
神様もとんでもない試練を——いや。神様気取りの誰かが、乗り越えるべき試練として用意したのだろう。そうでないのなら元『最強』のユズカだけを封印する意味がない。
ならば、いいだろう。
今、この戦場が葵にとっての限界なのだというのなら、乗り越えてみせよう。
彼と交わした約束は今も有効で、その彼も同じ空の下で、きっとまた誰かのために戦っている。人間か、『獣人』か、世界か、味方か、あるいは敵だった者か。
いずれにしても、必死に過去を乗り越え、今を駆け抜け、望む未来へと辿り着こうとするのだろう。
ならばこそ、葵も。
「……希美さん。たとえあなたが敵であっても、ボクは容赦しません。理由など知りません。任されたことと望んだこと、それはどちらもボクが今やるべきことですから」
「…………そう」
「さあ——行きま」
言葉と同時に踏み込み、体を前方向へと加速しようとして——二つとも、止める。いや、止まったと表現した方が正しいだろうか。
「…………は?」
自分でも珍しいと思える、間抜けな声。
だがどうやら、それは葵だけではないらしい。
絢芽のように震えていた子どもたちも、せめてもの助力にとその前に立っていたユキナも、葵の攻撃に対し、六体の分身をそれぞれ展開させようとしていた希美も。
あるいは、世界でたった一人を除く誰もが想定していなかったであろう現実に、衝撃が走った。
「どういう、つもりです?」
本気のユズカと対面した時のような、息が詰まるような感覚。
存在を知覚するだけで冷や汗が流れ、全身に鳥肌が立つほどの気迫。鍛錬を繰り返し、その戦闘能力を磨き上げてきた葵だが、だからこそ分かる圧倒的な強さ。
開いた窓から、光の槍を思わせる速度で入ってきた巨躯の人物に、葵は敵意を向ける。
ユズカの時のように、万全の準備をした上で臨むのならまだしも、今ここで彼とやるにはどう考えても不利な条件が重なり過ぎている。
だが、仕方あるまい。
「ボクにも譲れないものがあります。二人で来るというのなら——」
「————否」
地を震わせるような低い声。
半身の彼はこちらに視線を向けると、
「貴様の目は、奴によく似ている」
「奴……?」
さらに視線が後ろに、
「そうか。これが貴様の守りたいものか。既に貴様は辿り着いていたというのに、気がついていなかったのだな」
嬉しいような、憐れむような、一言では推し量れない感情で葵たちをまとめて見つめる巨躯。
何かと無表情で無口な、傭兵かプロの仕事人といったようなイメージを葵は彼に抱いていたため、意外な表情を見せるものだと驚く。
が、それは一瞬。今一番に気にするべきは他にある。
「あなたは。——『トレス・ロストロ』のソウゴ。あなたはどうしてここに?」
「ふむ」
そう。本来式典会場にいるはずの、藤咲華の行動に沿って動くであろう彼が、この場に来るのは誰にとっても予想外だった。
そのことから考えるに希美とHMAは無関係で、場合によっては目的こそ違うものの、二つがそれぞれの目的を果たそうとした結果が今にあるのだとしたら。
少なくとも、戦闘は避けられないだろう。
彼が葵と希美を相手取るか、あるいはどちらかにつくか。普通に考えれば、こちらにつく可能性はまずないわけだが、
「——。理由を聞いても?」
ソウゴがとった選択は、葵たちと共に戦い、希美を倒すこと。
それを彼は口ではなく、希美に睨みを向けることで証明した。
問いかけに迷いの一瞬もなく、
「『俺がいない間、あいつらを助けてやってほしいんだ。これから先、出来るのならずっと』。——それが奴との、ソウタとの約束だ」
……それは別に、葵の実力を疑って頼んだものではない。
ただ彼は知っていたのだ。
今日、回避できない危機が訪れることを。
どれだけの強さを得ようとも、一人ではできないこともあるのだと。
約束がどれだけの強さを持ち、敵と味方を、世界を、人を変えてくれるのかを。
「……そうですね。いえ、そうでした」
HMAは敵で、アイの一件もあるのでそうそう信用して良いものではない。
が、彼の信じた相手ならば葵も信じよう。そう思えるまでに至ったのは、葵もまた奏太に変えられた一人だから。
「それでは敵と協力するというのはやや抵抗がありますが、行きましょうか」
臨戦態勢のソウゴに並び、一瞬視線を交換する。
それは実力を測る意味があり、同時に意思を確認するため。
結論、答えは揺るがない。
役者も理由も、全ては揃った。あとは終わらせるだけ。
「共通の敵のために一時的に協力関係にあるが、油断ならない人物」という格好付けも——『今は』捨て置く。
「……お互いに彼の友人で、破れない約束がある。そこには何の違いもありはしません。だから今は立場など関係ない。それぞれの守るべきもののために————!!」
全力で駆け出し、拳を震わんと希美に迫る。
大事なところは彼が終わらせてくれる。そう、信じて。
*** *** *** *** *** *** *** *** ***
「う、らァァァァアアア!!」
自身を鼓舞するような叫び。
それは変化し続ける現実に対する警戒と理解を保ち続けることにも繋がり、結果的に希美の『等生』の能力についても分かってきた。
『昇華』を発動した状態で、四方八方から放たれる刃物を避け続ける。
正面からの刺突。斜め下からの斬り上げ。上から降ってくる包丁。投擲。回転斬り。足元に設置、不規則な動きで左右から迫る————それら全ての軌道を読み切った上で回避、何本か弾いて包丁を確認。
「……やっぱりか」
思考する間にも死の一撃は迫る、バク宙する形で、前の攻撃を器用に包丁だけ飛ばして無効化。
対処行動を取りながら、思考を続ける。
——奏太の能力は、『獣人』の力と混ざったものだと華は言っていた。ということは、希美の『等生』にも同じことが言えるのだろう。
思い出す。
今まで希美はそれが改変によるものだと隠しながら、『青ノ蝶』を「無数の蝶を出現させる能力」だとしてきた。
だが、目の前の現実はそれを遥かに凌駕するもの。
「すごいね、奏太さん」
「でも、本体がどれか、分かるの?」
「分かっても、変わらないけど。私は私の、やりたいようにやるだけ」
奏太の目が確かなら、希美は青い光の後に自身の肉体を分身させているのだ。見た目だけならどれが本体かも分からないくらい精巧に、かつそれぞれが思考を持って。
『獣人』の体内にある獣は、いわばもう一人の自分。
奏太はその片割れと会ったことがあるし、『ノア計画』の概要から考えてもあながち間違いではない。なぜならそれを証明するように、今まで希美は蝶を分身させていたのだから。
それから、もう一つ。
「武器がほとんど無限とか、どいつもこいつも厄介な……っ!」
地面に落ちた包丁に視線を向け、「やっぱり同じデザインか」と言葉をこぼす。
先程から避け続け、時折弾いている包丁はもはや何十、いや百はとうに越している。
しかしそれでも一向に無くなる気配がないのは、彼女の改変能力によるものだと考えるのが妥当。
つまり、結論を出すと、だ。
「————自分の認識する、『自身』を無数に増やすことができる能力。それがお前の『等生』、そうだろ希美!」
「…………」
『自身』の範囲は元々かなり広いのか、あるいは重なる使用によって強まったから持ち物にまで及ぶようになったのか。いずれにしても、彼女の武器が尽きることを期待するのは叶わないだろう。
それでもせめてもの救いがあるとすれば、ある程度分身の数にも限界があるのか、一定数以上に増えないこと。得物がなくなった際にはその個体だけ分身し直すこと。この二つくらいか。
……こんな厄介な能力だったから、梨佳は。
「——っ!!」
様子を見るのはここまでだ。
そう口にするように踏み込みを低く、地を這うようにして駆ける。
接近戦を警戒したのだろう、駆けた先の一体が投擲を繰り出して来るが、首だけを動かし回避。得物を失った彼女は一度本体へと戻り、リロードしようとするが、
「——遅い」
それよりも奏太の掌底の方が早い。
寸前で、左右それぞれ斜めから斬り上げと振り下ろしが飛んで来るが、狙っていた一体の足元で上方向へ跳躍、回避と顎への掌底を同時に————不発。
「なん、だ……っ!?」
確かに当たったはずの攻撃。
速度は明らかに奏太の方が早かったし、下を見ればまだ分身も本体へと戻っていない。だが、当たった感触も実際のダメージも発生していない。
空中で体を回転させ、後ろへと距離を取りつつ着地。
ならば蹴りで、と視線を前に向け、…………いない。
まとめて三体本体に戻ったのか、いや。
「——投擲狙いか!」
結論の声と同時に、奏太を囲うようにして周りから刃物が放たれる。
体を滑り込ませる隙間はない。ならば上、と顔を上げるが、
「残念」
物量による圧倒的な戦闘力、とでも言うべきか。
囲い込みは平面の横方向だけではなく、縦からも死の雨として降り注ぐ。
治せるとはいえ食らうのはあまり望ましくないが、どこをどう避けようとしても確実に当たる一撃。ならばどうするか、答えは簡単だ。
「残念はこっちのセリフだ。前に『銀狼』が同じことをやってくれたからな」
能力の本質は違えど、同じ規格外の強さを持っていた彼もまた、死の雨による攻撃で奏太を苦しめた。
だからその対処法も、分かっている。
奏太が葵に習って以降、主に得意手として使っているカポエイラ。その一つである、地に両手をつけ、それを起点に体を回して回転蹴りを放つ技。
攻撃はもちろん、『昇華』で身体能力が上がっている今なら刃物の全てを蹴り落とすことも可能だ。
「それに、もう一つ!」
立て続けに全てを落とし、そのまま身を弾いて後方へ。振り向きざまに、右足だけで着地して反応のできない一個体へ掌底。しかし先程と同様に手応えなし。
今度はそこでもう一歩、左足で踏み込んでさらに奥へと反対の掌底をねじ込む。
「……っ、は」
腹をついたその一撃は、今度こそ希美に直撃。
だが、
「浅い、か」
直後に本体へと戻ったこともそうだが、上方向へと既に飛翔し始めていた。だから結果的に、浅いダメージとしてしか入らなかった。
「……っ。よく、見抜けたね。奏太さん」
どうやら分身体に与えたダメージは本体にも還るらしい。痛みをこらえる希美が、距離を取りつつ賞賛の言葉を述べる。
……いや、彼女の場合素直に賞賛しているか、怪しいところではあるが、ともかく。
「前に言ってただろ。希美の『纏い』は『青ノ蝶』。でもそれが嘘だっていうのなら、本来の『纏い』をお前は使える。たとえば、その羽根で空を飛んだりとかな」
実際にはあの蝶——希美自身は前々からやっていたのでややこしい話になるが、簡単な話彼女は『纏い』で蝶の羽根を自身の体に生やすことができる。人の姿であっても、蝶の姿であっても。
思っていた以上に攻撃の手が早いことや、先程攻撃が寸前で避けられたこと、上空から攻撃されることが何度かあったのはそのためだ。
今まで奏太は一度も空を飛ぶ敵と戦ったことがなかったが、なるほど。これに『等生』が加わればひどく厄介な相手だ。
「——けど。正直、それで勝てないってほどじゃない」
周りを警戒したまま、問う。
「考えを……改める気は、ないのか?」
多分この発言を聞けば、かの『銀狼』や『壊女』、華などは甘いというのだろう。
けれど奏太は希美を許せなくとも、彼女が改めて言うのなら、その時は。
——背後から包丁。
横に体を逸らし、続けざまに放たれる包丁と斬撃をほとんど反射のみで回避。いずれも手加減も容赦もない攻撃で、避けていなければ致命傷になっていたもの。
つまり、
「それがお前の答えかよ、希美……っ!!」
最後に後方へ跳躍、改めて彼女を睨んで、
ふいの感覚。
脇腹が熱い。
視線を向けるよりも早く、分かる。これは——血だ。
「なっ!?」
即座に体をその位置から剥がすが、今度は頰に刃が入る感覚。
そこでようやく、異変に気がつく。
これは希美自身の攻撃というよりは、戦闘が始まって最初の方に受けた————そう。ちょうど、地面に包丁が置かれていたあの罠に近い。
それから思い出す。
確か『パンドラの散解』において、梨佳は芽空にスタンガンを、希美にも武器を持たせていたはずだ。
あれは、確か、
「……『カルテ・ダ・ジョーコ』に、『クモ』の人がいて、地味にうざかったって、梨佳さんが、言ってた」
ああ、なるほど。
空を飛べて、分身できて、いざという時は本体に戻ることで回避ができ、なおかつ武器はほぼ無限にある。とても厄介な相手で、世の理と誰かの誇りに対する冒涜以外の何物でもない。
希美は梨佳の思いやりを、まさに今、目の前で踏みにじっているのだから。
「だから、奏太さんも、梨佳さんみたいに苦戦して。ここで死んで。そのために、同じ巣を作ったから」
「————希美いいいいいいいいいいいいい!!」
視界いっぱいに広がるワイヤーと、その間から今も奏太を狙って投擲をしようとしている、分身体たち。
それらに対し、奏太はただ怒る。
約束を、守るために。




