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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第三章 『反転』
131/201

第三章67 『一匹のオオカミは群れを残して』



今回、人によってはややきついグロ描写が含まれていますので、注意の方よろしくお願いします。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***






「——薬?」


「ああ。エトが実験で渡してた薬。オダマキが動物になったやつだ」


 それは数時間前、ヨーハン邸を出る前に三日月奏太に渡されたもの。

 正直言って、オダマキとしては奏太の温情には頷き、応えたいところではあった。が、抵抗も同じくらいに強かったのだ。


 まず気に食わないのが、一時的とはいえ完全に動物そのものになってしまうこと。強さを得られることには別に良いのだ。というか、むしろ嬉しいくらい。だが、見た目が何とも男らしくない。

 どうせ戦うなら強く、カッコよく、男らしくが信条のオダマキ的にはノンセンスだ。使った直後は全身の力が抜け、ガス欠状態のようになっていたこともあり、受け取って良いものか、抵抗があったものなのだが——オダマキを動かしたのは、続く奏太の言葉だ。


「自分勝手に動いてくれないか、オダマキ」


「……は?」


 意味が分からなかった。


「どういう意味だよ三日月」


「悪い、完全に言葉足らずだった。えっと……そうだな、オダマキは理科が好きだよな?」


 改まって他人から言われるのも変な感じがするが、頷く。


「で、今ここにいるのは梨佳の付き添いで」


「いや、三日月にも負けてっからな。そこもあるぜ?」


「えっと、うん。まあそれならさ、今回の作戦って梨佳が合流するまではオダマキは知らないやつと行動することになるだろ?」


 確かにそうだ。

 美水希美に関しては、姉を知っているので何となくは分かる。だが、お互いに知り合った仲かと言われればそんなことはない。

 だからと言ってそこに気まずさを感じるわけでもないが。


「俺のことは抜きにしても、だ。そんな環境の中だったら、オダマキは終始梨佳のために行動するよな? 自分をかっこよく見せたいとか、見直させたいとかさ」


 実際その通りである。オダマキはこの戦いで活躍するところを彼女に見せ、あわよくば惚れさせようくらいのことまで考えている。

 だが、どうして分かるのだろうか。


「——分かるよ。好きな子の気を引きたいって気持ちは。俺もそうだったし、誰だってそうだ。……オダマキのは分かり易すぎる気がするけど」


 最後に何か小さく呟いた気がするが、聞こえない。

 どこか遠くを見つめるような彼の瞳には、何が写っているのだろう。考えてみれば、オダマキは彼のことを兄貴分だの何だのと言ってはいたが、全然知らないことばかりだ。

 戦いが終わったら、あの葵も交えて、好きな子の話をしても良いかもしれない。たまには姉貴分の素晴らしさについて語り、あるいは彼らの話を聞いてみても良いだろう。


「でも、だ」


 と、そこで脱線しかけていた思考を奏太が止める。


「もし、梨佳とは関係なしに、許せないことが戦場で起きたら。その時はオダマキの判断に任せる」


 許せないこと。

 それはつまり、梨佳にかっこいいところを見せるよりも、優先すべきことが起きたら……ということだろうか。


「ああ。兄貴分なんてしっくりこないけどさ、もし俺の言うことを聞いてくれるなら、一つだけ。——あいつらを頼む」


 彼はそう言って、秘密兵器を差し出した。

 擬似『昇華』薬。彼はそれを、『解放』と称していた。



 許せないことが戦場で起きる可能性。彼が危惧したそれは、当然というべきかやはりオダマキの前に現れた。男ならば、逃げてはならない場面。許してはならない状況が。

 傷つけられてもなお体を張った希美を放っておけるほど、柔軟で臆病な生き方をしてきたつもりはない。


 だからオダマキは、後のことなど全て捨て。終わりに背を向けて立ち向かう。

 己の中の獣を『解放』によって、現出する————。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 『トランス』を発動させるための獣。それは『獣人』にとって、本来ならば素体と混ざり、溶け合うはずのものだ。

 そうすることによって『憑依』、『纏い』、さらには『昇華』へと達する。それはそのまま獣との対話、あるいは共存を意味し、より混ざり合っているほど能力が心理状態に左右されやすいのは当然のことと言えよう。


 だが、人の手が入った『解放』は根本から流れが異なってくる。


「オオオオオオ————!!」


 物心がついた幼児くらいの全長。全身を包む黄褐色の毛並みに、縦に尖った耳、警戒に伸び切った尻尾。

 地面につけた両手両足は、本来の彼の体格に比べればずっと細い。だが、カチカチと音を立てる牙は鋭く、地面を抉り削る爪は人間と獣、どちらの限界をも超える圧倒的な力で満たされている。


 慣れない四足歩行、だがそれを補ってあまりあるほどの。

 オダマキはすぅっと息を吸って、


「……お兄さんの『トランス』は」


 セブンの、問いかけとなるはずの言葉。

 それは最後まで続かない。

 一呼吸の間に、双頭の片方、分身体の右目が下方向からの切り上げを受けた。


「え、ぁは?」


 切られた、と気がつくより空中を滑る風のほうが早い。

 オダマキは崩れた天井の端に到達。足裏を当て、そのまま体制を変えて落下。両手の爪で残った左目を抉らんとして、


「何それ、聞いてないよそんなの!」


 遅れてきた痛みに苦しげな声を出しつつ、『ヘビ』が咄嗟の反応を見せる。

 頭を引き、分身体の視力が二つとも奪われることを防ぐが、それでも遅い。急な動きにもつれた長い尾の途中が三つの斬撃を受け、悶絶。


「ウウウウ——!!」


 オダマキはくるくると回転しつつ、地面に着地。言語にならない声で——油断してんじゃねえぞ、と言ってみせる。

 そう、身体構造が異なっているせいなのか、この状態でオダマキは言葉を発することができない。せいぜい、周りからは犬が吠えている程度にしか見えないだろう……が、どのみち理解の時間を与える気はない。


 前足を低くし、滑るようにして駆ける。


「そう何度も食らわない、よ!」


 痛みにグネグネと体を動かしていた巨体は、小さな獲物に赤瞳を向け、絞った尾を放った。


 白。


 大槍とでも称するべきか、真っ直ぐ一直線に突き出された白。それは同じく速度を上げていたオダマキには避けるのが難しい、そう思ったがゆえの一撃だろう。

 だが、『昇華』に絶対の力があるのならば、擬似的にとはいえ一時的に使えるオダマキもまた、迫る困難を超えていく。

 もう一歩踏み込めば直撃する、というところでオダマキは深く体を沈め、わざと姿勢を崩した状態で体を回転させながら前方へ跳躍。


「なっ——!?」


 結果、ギリギリのところで大槍はオダマキに直撃せず、表面を掠め取るに終わる。むろん、それでも皮膚が焼けるようなダメージはあるのだが。


 飛び込んだ先、地面をガリガリと削り取りながら止まる。それからすぐに、際限なく溢れてくる力をこれでもかと全身に巡らせ、白蛇との距離を詰めて、


「アオオオ!!」


 至近で高速の攻防が繰り広げられる。行動の先制は迎え撃つ『ヘビ』。

 先ほど大槍として長い尾が放たれた以上、残る攻撃は双頭。


 ——一撃。

 右目の光を失ったらしい分身体が、頭ごと地面に突っ込んでくるので、真正面から受け止め……ることはせず、横へ跳んで回避。


 ——二撃。

 跳んだ位置に、本体が上階を削ったことで起きた瓦礫の落下、破壊の雨が降り注ぐ。

 さすがにこれは避けきれないと判断、六個の塊に対し、避け、弾き、破壊、いなし、切断、受け止めつつ白蛇へと放り投げる。

 破片が飛び散って一部が体に刺さるが、気に留めない。破片と同速度で本体に牙を刺さんと地面を蹴って、


「あー、もう!!」


 代わりに差し出されたのは分身体。本体は瓦礫を弾いて飛ばし、分身体はオダマキの牙を根元からまともに食らった。


 強く脈打つ体から溢れ出る、生命の赤。濁流のような勢いのその液体に、オダマキは思わず顔をしかめる。


 徐々に双頭の分身体の動きが損なわれつつあるのが分かる。

 このまま放っておいても、いずれ身体は動かせなくなるはずだ。それからあるいは、本体にまで影響を及ぼすのかもしれない。そう判断し、身を剥がそうとする。


 が、


「——ッ!?」


「はーい、お兄さん引っかかった」


 牙が、外れない。

 筋肉を絞めているのだろう。オダマキ自身がヘビと一体化したかのように動かない。


「それじゃ、いただきまーす」


 巨大な頭が狙いを定め、落ちてくる。

 しかしやはり牙は外れない。どうする。さすがにこの体でも、あんなものに飲まれればひとたまりもない。そもそも『昇華』の動物に食べられたらどうなるのか。いやそんなことはいい。

 何かないか、無茶をしてでも離れるための何か。——あった。


「アアアアアアアア、オォ!!」


 振りかぶった爪を自身の牙にぶつけ、粉砕。視界が真っ赤に染まるほどの血液と痛みが広がるが、構わない。

 拘束が解けて落下する体を制御しつつ、地面についてすぐに後方へと大きく距離を置く。

 一瞬遅れて巨頭が地面にかぶりつき、床が砕かれた。


「ハッ、ハッ、ハッ」


 荒れる呼吸に二人分のものが混じった、血特有の錆びた鉄のような味。

 ここに来て初めて行動を止めたために、加速していた思考が平静に戻っていき、一気に負担がのしかかる。それまでは妙に軽かったはずの体が、重りでも載せられたかのように重く感じられる。

 ゆえにオダマキは直感する。


 ——限界が近い、と。


「僕、驚いちゃったよ。お姉さんにもお兄さんにも、こんな力があったこともそうだけどさ。まさか、頭二つも潰されるなんて」


 縦横無尽に暴れ回っていた大蛇が動きを止め、こちらを見つめる。


 先ほどの手応えで分かってはいたが、やはりオダマキの攻撃は成功した。本体を倒せなかったのは残念だが、今しがた牙を突き立てた右の頭は根元に深々とした傷を負い、ぐったりとしたまま動かない。そして反対の左は希美が切り落としたため、頭の先がなく。

 甚大な被害をもたらしたその尻尾も、重なるダメージによって決して少量でない血を流し、動きも遅くなってきて——。


「ねえ、お兄さん。残り一つなら楽々なんて思ったでしょ?」


 一瞬の硬直。

 だがそれは致命的な一瞬で、油断だ。目一杯伸ばされた尾の横薙ぎが壁を粉砕しながらオダマキの体を思い切り吹き飛ばす。

 一気に吐き出される肺の中の酸素、目の前が何度か白黒に点滅して、


「今のも耐えるんだ!? すごいね、僕も将来お兄さんみたいな男になれるかな?」


 それを許さない楽しげな声とともに頭が、間髪入れずに尻尾が、交互にオダマキを狙ってきた。完全に空っけつになった肺に酸素を大きく取り込みつつ、思考を止めず、動き続ける。


 セブンという少年は怒っているのか楽しんでいるのか、訳が分からない。まあ、褒められて嬉しく思わないでもないが。

 とはいえそれは彼を見逃す理由にはならないし、黙ってやられてやるほどオダマキも後輩の面倒見が良いわけでもない。


 瓦礫の雨を、大槍を、横薙ぎを必死になって避けようとする。が、そもそも一撃一撃が建物を発泡スチロールのように容易く砕くものだ。既にそこら一帯の足場はいつ壊れてもおかしくないほどに崩れており、体勢がふらつき、避けきれずにいくつか食らう。

 ついでに、回収されていないままのワイヤーが薄く皮膚を裂く。オダマキも、セブンも。


 ——さすがにそろそろ限界だ。


 対するセブンもそれに気がついたのだろう。攻撃を繰り出しながら、じっとこちらの動きを目で追って、


「あれれ? あ、そっか。そりゃそうだよね。お兄さんは元々、あんまり長く『トランス』使えないんだもんね」


 無視して大きく後方へ二歩、三歩。距離をとって、千切れそうな体に呼びかける。

 どうせ限界が近いのなら、最後まで力を貸しやがれ、と。


 ——『解放』は獣の力を爆発的に向上させ、人という素体を包み込む形で凝縮、それぞれが混ざらない形で一つの力とし、擬似的『昇華』を可能にしているのだとかなんとか。

 発動後は服が弾けたり、体のエネルギーが限界近くまで搾り取られるので、ここで決着をつけられなければそれで終わりだ。


 だからオダマキはその場で静止。

 声を発さず、顔を上げて白蛇をただ睨みつける。

 セブンはこれに一瞬固まり、何かあるのかと警戒するが、オダマキに都合の良い切り札はもうない。むしろ、今ここにいる自分こそが、決着をつけるための鍵なのだから。


 細められた赤瞳が、僅かに揺れた。


「——なるほど、僕もお兄さんも、なんならお姉さんも。みんながみんな傷だらけだもんね! それなら真正面からお兄さんをいじめるより、楽しいかも!」


 うんうんと、頷くように巨体の頭が揺れる。

 どうやら彼は、オダマキの考えていることを察したらしい。巨体に似合わぬ幼声が詰めていた距離を離し、自身の体調を確かめるように体をくねらせる。


 ……子どもなのに大した落ち着きだとオダマキは思う。それに、まだまだ幼いとはいえ、男のやりとりというものも分かってきている。どこぞの、ビビり倒していた『クモ』とは大違いだ。


 セブンは「うーん」と唸り、


「あのさ。僕が勝っても負けてもさ、動物教えてよ。ほら、僕ってば可愛い『ヘビ』だけど、お兄さんみたいな男にいつかはなりたいなって思うくらいの夢はあるから」


「————」


 突然何を言い出したのか、というのがオダマキの率直な感想だった。

 だが、少し思い返してみれば。彼には男のなんたるかについて語っている。真正面から『スイギュウ』に立ち向かう強さを見せた。それから先ほどはとうとうすごいとまで言われた。

 少しはこの戦闘の中で、彼に何か響かせるものがあった……ということなのかもしれない。戦場で生まれる友情愛情、などというのとはまた違う話だが。


 意識して見やれば、セブンの細められた赤瞳には興味だけでなく、敬意が込められている……ような気がする。

 まあ、それだとしたらなおさら、負けるわけにはいかない。


「————」


 大きく、深呼吸。


 視界の端には未だ地に伏したままの希美がいる。

 彼女が託してくれた戦いに、決着をつける時だ。


 改めて、黄褐色の毛並みの小さな体躯のオダマキと、黄ばんだ白鱗を持った巨体『カルテ・ダ・ジョーコ』のセブン『ヘビ』が距離を取り、お互いを見つめた。

 数瞬の静寂が、一帯を包んだ。


 セブンは幼い割に痛みや苦しみというより、楽しげな声ばかりが目立つので、限界に近いかどうかは分からない。だが、これだけは分かる。


 ——この一撃で、全てが決まる。


「行くよ、お兄さん——っ!!」


「オオオオオオ————ッッ!!」


 響く幼声と獣の咆哮。

 動く巨体と小体。

 先に到達したのは『ヘビ』だ。


 声にならない声が巨体から発せられた。駆けるオダマキに対し、『ヘビ』は高度から稲妻を落とすが如き速度で大口を開け、食いかかる。オダマキはこれをチャンスと見たか、動きを止め、前後の足に力を込めて飛んだ。


 ——ように見せかけ、寸前で横に跳躍することで噛みつきを回避。ガラ空きになった油断だらけの頭を狙わんと両爪を振りかぶり、、


「残念だったね、お兄さん」


 そこまで予測していた『ヘビ』の薙ぎがオダマキの後方から迫る。声と風切り音に振り返った時にはもう遅い。


 勝利を確信した者は総じて油断をするものだ。そして油断をした者の終わりは大抵が決まっている。敗北か、死だ。


「——いいや、オッレの勝ちだ。十一歳」


 振り返らず、上に飛翔したオダマキが薙ぎをやり過ごし。

 さらに天井を蹴って加速した体、ひねりながら両拳を放って、『ヘビ』に激突した。


「っぁ……!」


「沈ッ、めやこらああああああ!!!」


 既に解けかかった『解放』。

 それでも散々暴れ回った教室だ。巨体が倒れ、そこへ爆風を巻き起こすほどの莫大な力が加わったとすれば。当然起きる結果は————下階への貫通。それも、教室だったものの残骸と一緒に、だ。


 ドゴン、と突き抜ける破砕音。


 直後、胃の中の物が戻りそうな勢いの浮遊感。全身を襲う脱力感は、もうすぐそこまで来ている。だが、あと数秒。ほんの少しだけ気合で耐えろと念じているうちに、


「が、ごぉあ!?」


 何か弾力のある白の物体に一度軽く弾かれ、そこから二転三転。生身の体で地面を転がり、机と椅子とに何度も体をぶつけ、揉まれながら教室を荒らしてようやく止まる。


「ッ、てぇ……」


 全身が痛い。立ち上がりたくないほどに力が抜けており、意識も途切れそうだ。

 だが、問題ない。

 骨は——折れているかどうかすら確認できないくらいどこもかしこも痛い。血は流れているが、恐らく死なない。気合でどうにかなる。むしろなれ。だから、問題ないのだと自分に言い聞かせる。


 オダマキは自分勝手に動けと、命令されているから。それに応じるだけ。

 近くにあった机に腕をつき、立ち上がってよろよろと歩いていく。

 前回のように衣服の全てが脱げ——というわけではないが、ほとんどボロ切れに近い状態で。


「よぉ、十一歳」


「……やあ、お兄さん」


 山積みになった瓦礫を割って避けるように、ちょうど真ん中に目的の人影はあった。


 僅かに口元を緩めそうになる。言葉にはしないものの、猛烈な達成感。さすがに全身にあれこれとダメージを受ければ、『昇華』にも限界は来る。その証明を希美とオダマキの手で、やってのけた。


 地面に倒れたまま、弱弱しく手をひらひらとさせる幼少年、セブン。彼は巨大な白蛇の姿を失い、元の人間の姿——枯草色の髪と熟れたリンゴのように真っ赤な瞳。小学生高学年くらいの小さな体に戻っていた。

 彼もまたオダマキ同様、放っておけば死ぬ、というほどではないが、楽観視できるほどのダメージでもない。手を振る動作一つでも、そのくらいのことは分かる。


「あんま動くんじゃねぇよ」


「お兄さん、敵なのに心配するんだ。僕がまだ力使えてたら、負けちゃうよ?」


「その時はもうオッレにはどうしようもねぇよ」


 情けない話ではあるが、オダマキは既に満身創痍だ。『トランス』もしばらく休まなければ使えないし、額に脂汗を滲ませ、疲れ切った顔をする彼にそんな腹芸ができたのなら大したものだと認められる。


 首をこき、と音を立てて鳴らしながら、散乱した机の上に腰を下ろす。


「ぶっちゃけどっちが勝ってもおかしくはなかっただろうけどよ、強いていやオッレが勝ったのは負けられねぇ理由があるからだ。分かるな?」


 問いかけに、嬉しそうにセブンが笑う。


「うん。僕があのお姉さんを傷つけて、お兄さんが頼まれたからだよね。あーあ、悔しいなぁ」


「今は仕方ねえけどよ、後は分かんねえぞ? このオッレをここまで追い込んだんだ。成長すりゃ、オッレと互角になれるかもしれねぇ」


 前半はあからさまに真っ向からの実力勝負を避けていたセブン。彼がどうして一撃勝負に応じたのかは分からない。

 思えば『昇華』を発動してからは直接的な攻撃が多かったし、それが原因か、あるいはやっぱりオダマキの姿と言葉に感化されたのか。

 いずれにしても、だ。


「オッレをすげぇって思うなら、死ぬ気で強くなってみろ。こんなクソみてぇな組織じゃなく、誰か好きな人のために生きてみろ。……男ならよ」


 やや、キメ顔。


 …………さすがにオダマキも臭いことを言いすぎたか、と一瞬止まったが、幼少年はキラキラした瞳を向けて来ていた。負けた相手には態度を改める、という点では彼も同じなのかもしれない。

 ひょっとすると自分は兄貴分になってしまったのかもしれない、などという嬉しさがこみ上げて来たのはともかくとして、


「あの『昇華』はてめえの力じゃねえんだろ?」


「うん。アザミさんはジョーカーって言ってるよ。僕も詳しいことは知らないけど」


「ならそいつにも頼るんじゃねぇ。明らかに体に無理が来てんだ。オッレも人のことは言えねえけどよ、体張る時は——」


「男として負けられない時、だよね?」


「————おぉ。そうだな、よく分かってんじゃねえか、十一歳」


 先ほどまで戦っていた相手だというのに、どちらからともなく笑い出し、拳を軽く当て合う。

 どこかの兄貴分の性格が、うつったのかもしれない。


「ま、そういうわけでだ。オッレにはまだ頼まれてることがあるからよ、またな」


 体はまだ痛む。だが、先ほどまでに比べればまだマシだ。

 重い腰を上げ、セブンに背中を向けて、


「…………おっと危ねえ、忘れてた。オッレの『トランス』だっけか、十一歳」


「え、あ、うん。僕も忘れてた」


 なんだそりゃ、と思う。

 まああんな崩壊の後だ、仕方ないとも思うが。


 振り返りつつ、笑みを浮かべて、


「——オッレは『ディンゴ』。柴犬と勘違いされるけどな、これでもオオカミの一種、らしいぜ?」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 ——一つ、明かされることのないネタバラシをしておこう。


 希美が放った蝶の指揮者は三体。うち、致命傷となったのは最後の一撃のみだが、攻撃自体は四度放っていた。


 一度目は正面のワイヤーによる斬撃。

 二度目は全方位。

 四度目は上階からの振り下ろし。


 ならば三度目はどこで放たれたのか。それは、四度目の間際。同じく上階に潜んでいた蝶が、セブンの死角へと移動した時だ。



 改めて触れておくと、彼女の武器は大きく分けて二つ。

 片方は『青ノ蝶』に取り付けた鋭利なワイヤー。そして残るもう一つが三度目の攻撃に使われた。


 さらに時間を遡り、ラインヴァントのアジト襲撃の際。

 蓮の毒を現出化させたまま、小瓶の中に入れたもの——『青蠍』は騒ぎの中でいくつか紛失してしまったが、葵は何とか二つを確保し、ヨーハン邸に持ち込んだ。


 ならば彼はその後、『青蠍』をどうしたのか。

 特に複雑な裏事情などなく、ただ彼はそれを、それぞれ一つずつ仲間に手渡した。

 片方は奏太に、そしてもう片方は、希美に。


 つまりは、以前奏太が想像した通りに。

 三度目の攻撃の際、希美は上空からそれを『青ノ蝶』で撒き散らしたのだ。


 鱗粉のように舞い、食らったと気づかれることなく死の灰として降り注ぎ、白蛇の体を侵食し、抵抗力を根こそぎ奪う。

 そうして徐々に弱っていく白蛇を、圧倒的な力でオダマキが制する——というのが、希美の筋書きだった。

 加えて言うなら、セブンを完膚なきまでに潰した後、しばらくの休憩を経て別の戦場へと向かうというところまで。


 だが、筋道通りに事は進まない。

 希美に誤算があったとすれば二つ。

 一つ目は白蛇の攻撃の風圧もあり、予想以上に『青蠍』が広がったせいで、本来被害を受けないはずのオダマキまでもが死の灰を受けることとなった。

 途中、白蛇はオダマキだけでなく、自分の動きも鈍くなっていることに薄々気がついていたために生じた最後のやり取り。そこでオダマキは全力を出し切り、『解放』の効果が切れてしまったのだから。


 それから、もう一つの誤算。

 セブンを倒したら休憩。他の戦場の支援に行く。そう考えていたからこそ、その場で持っていた武器の全てを使い切ってしまった。

 実際そこまでしなければならないほどの相手だったし、姉の紛い物の色だったから、と。

 普段感情を表に出さない希美だからこそ、今回も冷静に努めて、ギリギリのところで踏みとどまりながら臨むべきだったのだ。


 怒りを露わにしなければ、思考を一点に集中していなければ。

 敵は目の前だけではなく、世界そのもの。そう再確認していれば、起きなかったはずのミス。


 一連の事件が始まってから、より一層強くなった腹の底の黒い感情の原因を並べてみれば、何かが変わっていたかもしれないのに。

 気がつけずとも、何かできたはずなのに。


 倒すべき敵が、増えることに。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



 体の動きがぎこちない。

 右足を出そうと意識すると、半瞬遅れて体が反応するような、気持ちの悪い感覚。まあ、あれだけ無理を重ねればこうなっても仕方ない……などと、何も知らないオダマキは体を引きずりながら歩く。

 それから教室の外で待機していた青髪を見つけ、


「よぉ、美水妹。無事かよ」


「オダマキさん」


 余裕の笑み——が浮かべられていたかは分からないが、軽く済ませてきたぜといった調子で希美に話しかける。

 対する彼女はというと、無事という部分には答えず、壁にもたれてややぐったりしていた。どうやら教室の崩壊には巻き込まれず、『トランス』で降りてきたようだが……はっきり言って、先の戦闘でセブンが言っていた通りである。


 オダマキも彼女も傷だらけ。

 『トランスキャンセラー』で獣の力が使えなかった時以上に体の状態が悪い。それから恐らくは、すぐに回復するものでもない。

 デバイスの治癒はあくまで肉体の再生を少し早めるというだけで、奏太のように一瞬で治りはしないし、そもそも『トランス』の回復には関係しないのだから。


「一応よ、古里から頼まれてんだ。上にヨーハン……つったか? そいつがいるから、助けてくれってよ」


「見つかったんだ。でも、見張りは」


「おぉ。あいつが任せたっつーことは、二人じゃ倒せねえ数か、あるいは強え野郎がいるかだ。どのみち、今のオッレたちじゃどうしようもねえ」


 ぎり、と歯ぎしりをする。


 今すぐ駆けていきたい気持ちはある。梨佳に立派な戦果を知らせたいし、ちんたらと足踏みをしているのは性に合わない。


 だが、さすがにこのボロボロの体で向かうのが無謀であることくらい、オダマキにだって分かる。

 ならば他の場所に行って救援、なんてことをしたとしても、むしろ足手まといになるだけだとも。


 それに三日月奏太は言っていた。

 生きよう、と。生きて幸せにたどり着こうとそう言っていた。

 所詮数日の関わりで、勝った負けたで自分が勝手に兄貴分として慕っているだけではあっても、彼の言葉には確かに一理あるのだ。

 ひとまずはこの戦いの中で、生き残らなければなるまいと踏みとどまることくらい、できる。


「よく分かんねーけどよ、さっきすげえくらい痛がってなかったか、美水妹」


「うん。一応、もう、大丈夫」


 だからオダマキも立ったまま壁に背中を預け、希美の無事を改めて確認する。何気ない言葉を述べていく。


「さっきの十一歳……セブンの頭を切った『トランス』も驚いたぜ、オッレは。さすがは美水妹ってか」


「……そういえば。美水妹、って。オダマキさんは、姉さんのこと、知ってるの?」


「おぉ。つっても、アネキと一緒にいたっつーだけだから、そう話したこともねぇけどな。すげえ強えってのはアネキから聞いてたぜ」


「うん。姉さんは、強い」


 即答。普段は無感情な、燃えるような朱眼にちらと熱情が映る。


 そういえば姉のことを尊敬している妹だと奏太は言っていた。

 ならばその姉と梨佳が二人で各地を飛び回っていた頃の話でもしてやろう。多くのことを自分は聞いたから——と口を開きかけ、やめる。


 蓮の死に関しては、オダマキも知らされている。だから、これ以上のことを語るべきではないのだと思う。

 彼女が姉のことを尊敬していると

いうのなら、なおさら。


「オダマキさん、どうしたの?」


「……何でもねえ」


 らしくない気遣いだとは思う。

 だが、強さを持つ者には相応の敬意を払うべきなのだ。誰かに尊敬される者は相応の強さを持っているに違いないのだから。


「あ、そういや美水妹。いくつか聞きてえんだけどよ」


「なに?」


 だからそんな湿っぽい空気は飲み込んでしまって、今一番に気になっていることを聞いてみる。

 戦闘中のことだ。あれこれと手を尽くして彼女は奮闘していたが、その姿勢には学ぶべき点も、引っかかる点もあった。お互いの戦闘技術の向上にもなるだろうし、指を立てたり畳んだりしながら、考えをまとめて、


「あの蝶を出す時————」


 声が徐々に、引っ込んで行った。

 どうしたのだろう、と瞳で問いかけてくる希美。だが彼女も気がついたらしい。


 ——ひたり。


 雨にずぶ濡れになって、室内へ入ってきた時のような足音だ。

 窓を見る。だが雨は降っていない。朝から変わらぬ曇り模様だ。

 とすれば、戦闘中にプールへ突っ込んだ誰かがそのままここへやってきた、ということだろうか。誰だか知らないが、


「ごしゅ……何とかだな」


「ご愁傷様、だと思う」


 希美のツッコミを受けつつ、音の方へ体ごと頭を向ける。

 廊下の向こう側、残量が少なくなっているのだろう、チカチカとした電灯の下。

 希美か自分か、「お」と声を出し、その人物が知り合いであると分かった。


 女性だ。毛先がクルクルと巻かれたこげ茶の髪と、女性にしてはかなり高い背丈。人格が壊れているのではないかと疑うほどつり上がった狂気的な笑みを浮かべており、


「…………あ?」


 絶句。

 ぞわ、と全身の毛が逆立った。


 だが、どうしてなのか分からない。彼女は味方だ。三日月奏太はそう言っていた。だから心臓を指先でそっと触れられているような死の気配。そんなものが、感じられるはずがないのだ。


 理解は進まない。出来ないのではない。理解すること自体を、体が拒んでいる。

 だが、一つだけ言える。


「……おい、美水妹。逃げろ」


「でも」


「いいから逃げろっつってんだよ!!」


 同じように固まっていた希美に怒鳴りつけた。

 年下の、しかも少女に声を荒げたくなどないが、仕方あるまい。頭の中でけたたましく鳴る警鐘と、滲んだ脂汗がかつてないほどに危機を覚えている。

 全身は焼かれているように熱いのに、指先だけが凍えるように冷たくて。体がおかしくなったのではないかと、錯覚する。


 ぽと、ぽとぽと。

 オダマキの警戒を助長する水滴音が耳に届く。

 音は近づいてくる。


「おぉ、今の今までどこで何して……いや、違ぇな。——てめえは誰だ?」


 やけに乾いた喉から声を絞り出し、問う。

 女性は何かを咀嚼するように口をもぐもぐと動かし、頭を揺らしながら、


「んぅ、ぐ。——あぁ、世界は素晴らしいです。理性という鎧を取っ払った先にある、本能。欲求を隠さずそのまま行動に表すって、とても素晴らしいことだと思いますよぉ?」


 さらにそのまま舌で唇をぐるりと舐め、満足げにほっと息を吐く。


「あなたたち『獣人』と同じように、人間でも誰でも、己の内に獣を飼っているものです。そう思ったことはありませんか?」


「……ねぇよ」


「自分の中で許せないもの。これだけは譲れないと、深層で思っていること。たとえ相手が個人、集団、あるいは国であったとしても、心を突き動かす衝動には抗えません。これこそが正しいのだと主張する正義を執行し、無理やりに通そうとする」


 両手の指を空中で縦横様々に動かしながら、最後にクロス。


「人間は脆い生き物ですよぉ。長く戦いを続けていれば、目的と手段がいつしかすり替わる。そうして、本心に気がつく。——正義はただの建前でしかない。己の中の獣を解き放ち、戦いに身を浸していたいのだと。本当は自分の望む世界を作りたいのだと」


 わけが分からない。

 彼女は一体何を言いたいのだろうか。


「簡単な話です。私が今、こうしているのもあなた方が『トランス』と称して扱っている獣、つまり本能に従っているだけ」


「なら……」


 オダマキは痛くなってきた頭を抑えながら、下から上まで、女性を見つめていく。


 滴り落ちる液体。血。

 それは彼女自身の血ではない。

 戦闘のせいだろう、長い足には土埃などの汚れが見られるが、傷と呼べる傷も目を凝らさなければ分からないほど、かすかなものだ。

 腰から上を見てもそう。立場上、オダマキたちよりも長い年月、それも相当の数の『獣人』を狩ってきたであろうその身には、この戦闘で彼女が傷ついた跡などありはしない。服の下がどうなっているかまでは、オダマキにも分かりかねるが。


 ひとまず、


「————てめえが食ってるそれも、『獣』で間違いねえよな?」


 まじまじと見過ぎて嫌悪感が限界に達し、ついには嘔吐感すら湧いてくる。


 血が彼女自身のものでないのなら、結論など決まっている。彼女の歩いてきた道のりに落ちている物体。それには見覚えがある。片方一本だけだが、知っている。

 二本揃えば錨状の角。

 半刻ほど前、オダマキが掴んで投げたもの。


 『獣人だったもの』の塊が、彼女の服の端から溢れ、ぐちゃと落ちた。


「……イカれてやがんな。どんな神経してやがんだ。HMAのトップはどいつもこいつも、てめえみたいにおかしいのかよ?」


「——ぁは。美味しいですよぉ? 『スイギュウ』改め水牛。もちろん食用のものと比べると味は落ちますが、食べてみますか?」


 会話になっていない。

 彼女の服にこべりついた血が、少し前まで生きていたモノだと考えると、顔中にしわを寄せ、目を背ける他ない。


「食べるわけねえだろうが。オッレにそんな趣味はねぇし、作る気もねぇ」


 胃の中のものを全て戻してしまいそうなほどに、凄惨な光景だ。

 全く悪びれる様子のない彼女もそうだし、『獣人だったもの』を食した痕を全身に残す彼女。見たくない、脳が、全身がそう叫んでいる。


「理性という世界の憂鬱そのものを飛ばした、純粋な獣。体現してくれたブリガンテの皆さんは素晴らしいですね?」


 獣。皆さん。

 まさか。


「まさかてめぇ……!?」


「『カルテ・ダ・ジョーコ』の二人、『クズリ』、『サメ』。なかなか食べる機会なんてありませんでしたから、珍しい経験になりました」


 つまり、彼女は。

 この女性は、『スイギュウ』、『クズリ』、『サメ』。三人の『獣人』を喰らい、ここまでやってきた。

 相手は元々人間の身であるというのに、だ。


 そう結論が出ると同時、オダマキは声を荒げる。


「美水妹! ちんたらしてんじゃねえ、さっさと逃げろ!」


「——ぁは。私の考え、分かります? 分かりましたか? 分かったんですね? ええ、そうですよぉ?」


 女性は光のない瞳をかっ開き、頰に手を当て、恍惚な表情を浮かべて言った。


「『好きなようにやりなさい』。それが華ちゃんの命令。ですから私は——あなた達獣を全て食らいつくします。美味しく、味わって食べますから安心してくださいね?」


「————早く行けや、こらぁ!」


 希美の腕を無理やり引っ張り、逃すように強く体を押してやる。

 突然のことに体がついていかず、一歩、二歩、三歩目で転びかけるが、なんとか姿勢を立て直して、彼女は駆け出した。


「オダマキさん。……ありがとう」


 途中、何度かこちらを振り返ったが、戻ることはしない。

 それでいい。彼女は死ななくていい存在で、先の戦いで自分が守り抜けた少女だ。


「…………美水妹。てめえは生きろ。アネキと三日月を、これ以上悲しませんじゃねえ」


 深く息を吸い、女性に向き直る。


 彼女は紛れもない狂人で、頭のネジが飛んだ『壊女』だ。

 武器も持たず、獣の力も持たず、その身一つで世界の特異を食い荒らしてきた存在。

 対してオダマキのスタミナはまだ、回復しきっていない。


「悪ぃが、てめえを満足させられるほど、オッレに力は残ってねえ」


「では、どうしますか?」


 ゆえにオダマキは茶金の髪をかきあげ、言う。


「——通さねえ。オッレの体がどうなろうとも、あいつらだけは絶対に生かす。そうオッレの中の獣が、叫んでる」


「——ぁは、良いですよぉ。獣らしく雄々しいその表情。生きるための戦いを、しましょうか」


 スタミナは『体に支障が出ない程度』の限界に達した。

 それから、『解放』を使った直後。

 素体であるこの肉体も、内にある獣の力もこの戦いで散々酷使されている。ボロボロで、今だって立っているのが苦しいくらいだ。


 エトは言っていた。


 ————『解放』の直後に『トランス』を発動すれば、体に後遺症が出る。


 あえて言おう。

 それがどうした。


 敵は一人。こちらも一人。

 だが、任せられたものはこちらの方が多い。この戦いに賭けているものは、ずっと自分の方が上だ。


 ——負けられない。男として。

 その理由がオダマキにはたくさんあるから。


「行くぞ、こらぁあああああッッ!!!」





 戦いは徐々に、終わりへと向かって行く。

 未知の介入があり、予想外の事態が起こり、それでも約束を叶えようと必死に抗って。

 全員で生きて、戦いを終わらせる。


 その約束はもう、叶わない。

 少年が伝えたいと思った言葉は。想いは。もう、届かない。

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