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黒と白の世界と  作者: 夕陽ゆき
第三章 『反転』
114/201

第三章51 『信頼と布石』



「それで、次なんだけど……」


 梨佳の一時的な単独行動と、その後の合流。はっきり言って戦力的に厳しさが増すことは間違いないのだが、これからのために必要だというのなら仕方あるまい。

 そう自分に言い聞かせて、順番は前後してしまったが会議の前からずっと考えていたことを口にする。


「今回の作戦は人質の救出と、ブリガンテの撃破。改めてそう口にするとさ、前者が明らかに厄介な問題になって来るよな」


 そう、今回はただ来る敵を追い払い、あるいは倒すだけの籠城戦とは難易度も規模も全く異なるのだ。


 特に、人質の存在。

 

 これは先ほど葵も言った通り、アザミなら間違いなくラインヴァントが来ると分かっていて、なおかつ今頃は対策も取っているはずだ。

 本人だけでなく、『カルテ・ダ・ジョーコ』及び、配下の一般構成員。見張りも含めて全員が警戒態勢に入っていると言ってもいい。


 ということは、だ。

 もし仮に人質を盾にされた場合、身動きが取れなくなってしまう。ブリガンテの意表を突いた救出作戦だというのなら混乱させることも可能だが、あらかじめ分かっているのなら奏太たちの出現が確認でき次第、「こいつらがどうなってもいいのか」などと要求を唱えるだけでいいのだから。



 ——ということを語った上で、


「そこで一つ、俺から提案がある」


 芽空をちらりと見やって目が合うと、意思の確認をするように共に頷く。

 いざ口に出すとなると、舌の先に躊躇いがあったが、


「……芽空とシャルロッテを、潜入と人質の救出に向かわせたい」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「この二人を、ですか?」


「ああ。一応二人とも話したけど、芽空の『カメレオン』のこともあるし、一番適任だからって」


 葵の問いに奏太は表情を硬くしながら頷く。


 この会議が始まる前、奏太は葵と別れ、別の目的も兼ねてそれぞれのメンバーを訪ねていた。

 そこで彼女ら二人と話して至った結論なのだが——、


「シャルロッテは本当にいいのか? はっきり言って、普通の人間じゃ……」


「ハッ、下民風情が何を言っているのかしら。ワタクシの決めたことは揺るがないし、誰かの意思で覆るものでもないわ。このワタクシを誰だと思っているのかしら」


「いや、シャルロッテっていう人間だよ……」


 正直なところ、シャルロッテの志願を呑んで良いものかは悩んでいた。

 アイやハクアのような例外はともかく、普通の人間にメモカ所有者、さらには『獣人』の相手をすることなどまず不可能だ。芽空はともかく、彼女がそれらと相対することになった場合、何かを取り出す暇などないくらいに蹂躙される可能性すらもあって。


 しかしそれでも呑んだのは、


「以前フロイセン家はメモカ所有者の調査に当たったことがある、って言ってたよな」


「ええ。それで無効化する術を得ているわ。あんたたちの『トランス・キャンセラー』と言ったかしら。それが『獣人』相手なら、私の場合はメモカ所有者の相手のものだけれど。……よく覚えてたわね、気持ち悪い」


「そりゃ昨日の今日の話だから覚えてるだろ」


 毎度一言多いのはともかくとして、こんな理由である。

 加えて一つ付け加えるなら、彼女が芽空の側を離れないことと、その性格的な問題である。一度決めたら揺るがない、確かにそれは立派な精神性なのだが、もう少し他の手を考えないのだろうか……というのはまあ、良いとして。


「でもそうすると『獣人』相手にした時はどうするっスか? プルメリアサンが潜入で、シャルロッテサンがメモカ所有者相手っスよね。なら……」


「そこで、だよ。護衛をつけようと思うんだ」


「護衛っスか?」


「ああ。ある程度のところまで二人を護衛してもらって、出来るなら残りの『カルテ・ダ・ジョーコ』も引きつけてもらいたい」


 そう言い、奏太が視線を向けた先は、


「これをオダマキ、希美、それから梨佳に任せたい」


 いずれも『カルテ・ダ・ジョーコ』相手に遅れをとらない、ラインヴァントのメンバーたちだ。

 正確に言うとオダマキは違うのだが、それでも彼が協力してくれることは変わらない。

 そしてこの提案に対し、各々が見せた反応は、


「あーしはいいけどさ、オダマキは出来んのかよ? お前散々今回ミスってるけど」


 ケラケラと笑い声を上げる梨佳と、


「お、おぉ! 当たりまえだろアネキ、三日月! オッレは二人の舎弟みてぇなもんだからよ、ちゃんと指示は聞くぜ? それにあれだ、名誉……なんたらってやつだ!」


「オダマキさん、名誉挽回、だと思う。……私も、分かった。途中までの、護衛、だよね。やれるだけ、やってみる」


 実績はともかくとして、気合十分なオダマキと、後半の声にわずかに力のこもった希美。

 彼らは特に反対意見を挙げることなくそれを受け入れた。


 ただ一瞬、梨佳が申し訳なさそうな表情を浮かべたのが、気になるところではあったが。

 彼女は彼女なりに何か重大な要件に取り掛かっている。それならば仕方ないと奏太が言っても、つい気にしてしまうのだろう。


「……梨佳もちゃんと頼むぞ?」


「分かってるっての。あーしはちゃんと遅れ分は取り返すから、安心しろよ」


 だから一言だけ、個人的に確認しておいて。


 そこまで決まったところで、残ったメンバーは三人。

 奏太と葵とアイなわけだが、前者二人は皆がある程度予想をしているはずだ。だが、


「奏太さん。彼女——アイさんは一体どういう役割なんです?」


 案の定というべきか、楽しげにニタニタと笑みを浮かべているアイをちらと見て、葵が疑問する。

 どうやら他のメンバーも彼と同様のことを考えているようで、視線が一気に奏太に集まるが——。


「えっと……どう聞くべきかな」


 それを受けた奏太は、言葉に躊躇う。

 そもそもの考えはある。アイという女性の立場も知っている。能力は不明瞭だが、ユズカの攻撃を全て防ぎきった上で仕留める寸前まで追い込んだ強さも。


 だから、ゆっくりと言葉を選んで、


「——みんな、アイのこと知ってるか?」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「奏太さん、どういうこと?」


 言ってすぐに希美が首を傾げた。

 それもそうだ。自分の言葉を再度口の中で唱えてみれば、言葉足らずどころの騒ぎではなかった。


 だから、「今回の事件についてだけどさ」と切り込んで、


「色々あってブリガンテにはこっちの情報が漏れてる。みんなの『トランス』もそうだし、アジトのこともメンバーの増減も。まだ向こうには奥の手があって……正直アイが加わっても厳しいっていうのが現状だ」


 もちろん、賭けによって得た情報はある。そこから考えられることもある。

 だが、それを踏まえても流出した情報と、戦力差。向こうにはアザミの『昇華』もあるし、『トランスキャンセラー』、加えてフェルソナに何かをさせている可能性も。


 作戦前にこんなことを考えるのもなんだが、はっきり言って分が悪い。アザミは自分の勝利を疑わないだろうし、籠城戦では彼一人を倒すきっかけすら掴めなかった。


「————でも、そんな俺たちが向こうに予想外なことをできるとしたら?」


 一つだけ、あるのだ。

 あの時になくて今あるもの。

 つまりそれは、


「アイ——HMAの存在だ。確かに俺たちラインヴァントはブリガンテを倒すって言ってるけど……」


「ボクたちがHMAと協力関係にあることまでは、ブリガンテも把握してるわけではない、と?」


「ああ、そうだ。あの時俺たちと一緒にいたユズカが自分から言うとは思えないしな」


 奏太の考えに葵は目を細めて考え込んで、


「仮にあの子に監視が付いていたとしたら、奏太さんたちがHMA本部から出たところを目撃されていないとも限りませんが……まあその可能性は低いでしょう。それを抜きに考えると人質、つまり人間視点で考えると、HMAが助けに来たことが分かればプラスに働くでしょうね」


 完全に把握されていない場合は、戦場全体に動揺を生み出すことも出来ますしね、と。


 おおよそ説明しようとしていたことは彼が言った通りだ。

 HMAの存在で芽空の心配していた人質のパニックを防げるし、予期せぬ事態を招く可能性は低くなる。その上、ブリガンテ側にも影響もあるならば。


 そうした考えがあって、


「最初の質問だ。アイがどれだけ知られてるか、それを俺は知りたい」


 HMAの戦力と以外のメリットを最大限に活かせるかどうか、その確認に入る。


「アイには悪いんだけどさ、俺はつい最近までアイの名前を知らなかった。華は総長として知られてるけど、ハクアに関してもだ。ただ、俺の場合は諸事情があるし……みんなはどうだ?」


 諸事情は説明が長くなるので省くとしても、ハクアは言わずもがな『獣人』の敵だった。

 そのこともあってかラインヴァントも以前から知っていたようだし、アイやソウゴといった者たちをみんなが知っていてもおかしくはない。

 芽空とシャルロッテが、以前『検査』でHMAを出入りしていたことを考えても、だ。


 しかしそれに対し、


「二人…………か」


 大きな反応があったのはオダマキと梨佳の二人のみ。

 これを納得の結果だと言うかのように楽しげに頷いているアイが気になるところだが、それを尋ねるより先二人は奏太の疑問に口々に話していく。


「あーしは前にこいつから話を聞いたことがあってなー。まあ正直信じてなかったけど」


「オッレもそうだぜ、アネキ。ぶっちゃけオッレでもさすがにそりゃねぇだろって思うぐらいだったしよ。——これはオッレが県外を回っていた時の話だけどよ……」


 それは、オダマキが生き残りの『獣人』がいないかと県内外を探して回っていた時の話だ。


 いわく、その者は女性だった。

 いわく、その容姿は呼吸を忘れるほどに美しく、また呼吸出来ないほどに恐ろしい。後ろ姿を見せれば骨の髄までしゃぶり尽くされ、挙げ句の果てには姿形がなくなるほどに食べられる。

 いわく、見逃してもらうには、特別な言葉を三回唱える必要があるのだと言う。


 その他、人の血を吸うことで若さを保っているとか、聞かれて選んだ色によって殺され方が変わる等々、どこかで聞いたような話がちらほらと。


「都市伝説かよ」


 真っ先に口から出たのはそんな言葉である。

 噂は尾ひれがつくもの、というが、もはやHMAの幹部どころか怖い話の類だし、情報のほとんどがデマそのものである。確かに怖いとすら感じることもあるが、それを除けば女性と美しいという点しか合っていない。


 当のアイ本人はと言うと、「これまた面白い噂ですね」などと笑いを漏らしているあたり、彼女自身が原因な部分もあるのだが。


 とまあ、そんなことはともかくとして。


「……ちなみにオダマキが聞いたっていうのは、県外だけ……なんだよな?」


「ん、おぉ。ラインヴァントほどじゃねぇけどよ、『獣人』と話したことあるやつも中にはいんだよ。そいつらに聞いたけど、なんかあんのか?」


「————」


 オダマキの話を聞いていて、もしかしたら、と思ったことがある。


 ラインヴァントのそれぞれの出身を聞いた時があったが、元々都内にいた者がほとんどで、そのいずれもがアイのことを知らないと示した。

 都外の者はこの中だと奏太や希美が該当するが、これについてもやはり、だ。


 だとしたらどうしてオダマキが聞き出せたのか。それは『ノア計画』が迫っている今だからこそ、だとしたら——。


「アイ、『トレス・ロストロ』は担当地区でもあるのか?」


 彼女はあえて説明しないのだろうが、色んな情報を集めてみればこの結論にたどりつくのだ。


「ええ、ありますよぉ? ハクア君がこの東京、私が都外といった感じですね」


 そしてこれをアイが肯定。続けて、


「その代わりソウゴ君に関しては、華ちゃんの側にいることがほとんどですけどね。……今は別件がありますし」


 他のメンバーのことも語ってくれたおかげで、知名度に大きく差がある理由に関しては説明がついた。

 最後に何か小さく呟いた気がするが、それを問う暇を彼女は与えてくれない。何故なら、


「私は聞きたいんです、奏太君。このタイミングで私のことを訪ねた、ということは————そういうことで良いのでしょうか」



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「————っ」



 これまでのどこかずれた調子とは違い、薄く浮かべられた笑みと、興味深げに細められた目。

 

 それはかの麗人を彷彿とさせるもので、やや緩みつつあった空気は一変、息苦しいほどの圧迫感が場を包む。

 息を呑む奏太にアイは続けて、


「先ほどそちらの天姫宮君が言ったメリットに加えて、私に名乗らせることには意味がある。謎の『獣人』集団がブリガンテを倒すよりも、HMAの名を出し、協力関係を明らかにした方が今後の役にも立つ……そうですね、奏太君?」


「……ああ」


「華ちゃんの判断はどうあれ、私個人としてはその考えを素晴らしく思います。この作戦はそもそもHMA・ラインヴァントの同盟による作戦ですから、双方の評価が名実ともに上がるのですしね」


 彼女はペラペラと言葉を並べ、奏太を称賛してみせるが、感情の温度に変化はない。ただ淡々と、用意された文章を音読するような調子だ。


「もちろん、私の元々の知名度を覆す方法はいくらだってありますから、名を明かすことを躊躇いはしません」


「じゃあ!」


「——ですが、その前に一つ」


 期待に腰を上げる奏太だが、それをアイは裏切るように制止。口の前で人差し指を立てて、


「まだ最後までメンバーの割り振りを聞いていません。それを聞いた後で決めましょうか」


 そう言って、再度奏太に話を続けるよう求めてくる。

 それに一瞬固まりかけたが、奏太は首を振ってから一同に向き直ると、


「それじゃあアイを含めた残りの三人だけど……俺はアザミ、葵はユズカに当たりたいと思う」


「二人は籠城戦においてそれぞれ勝利には至らなかった、と聞きましたが、奏太君の言うそれは私情を含めてのものなのでしょうか?」


「——、もちろんあるよ。アザミは俺の手で倒したいし、葵だってユズカを助けたいと思ってる。でもそれだけじゃない。倒すための方法は考えてるし、奥の手も用意してある」


「奏太君はともかく、天姫宮君はそれほどの実力があるとは思いませんが……なるほどなるほど。そこまで言うのなら納得しましょう。そうなると残りは私をどう動かすつもりなのか、と言う疑問だけが残りますね」


 奏太と葵の割り振りに関しては、順番がずれたが元々一番最初に決まっていた。

 とはいえ後の説明もなしにこうもすんなり受け入れてもらえるとは思なかったが、アイの場合、期待を含めて頷いたのだろう。あるいは、奏太が言わんとしていることに既に見当がついている可能性も。

 しかしまあ、ともかく。


「…………みんな芽空から聞いてるとは思うけど、アイはユズカ以上の実力を持ってる」


 アイの役割を示す上で、改めて彼女の強さに奏太は触れる。


 他の『トレス・ロストロ』や藤咲華同様、『未知』の能力を持っているのだろう、ラインヴァントの最大戦力であったユズカの攻撃を、アイは漏らし一つなく捌き切った。その上で、追い詰めて。


 そのことから考えても、


「この場でアイが最大戦力だって言ってもいいはずだ」


 奏太も男だ。それに思うことがないわけではないが……ユズカを毎日のように相手していた身としては、もはや認めざるを得ない。

 葵も同様の思いがあるのか、数秒瞑目してから頷く。


「あの子が負けを認めるなんて、そう何度とあることではありません。確かに全盛期に比べていくらか動きは落ちていますが……ボクはもちろん奏太さんよりも強かったことは確かですから」


 葵はアイの強さに判を押し、最後に申し訳ない、といった様子でこちらに視線を向けてくるが、それに奏太は気にしてないと首を振って、改めてアイを見つめた。


 ——この場の最大戦力である以上、彼女はアザミやユズカに当てるべきなのだろうが、先ほど言った通り二人には奏太と葵が当たる。


 ならば彼女は自ずとブリガンテの他の面々をを相手にするわけだが、ここでいくつか忘れてはいけないことがある。

 『カルテ・ダ・ジョーコ』はトランプを基にした組織だが、その六から十及びジャックは健在で、さらにはまだ『ジョーカー』がいる可能性がある。

 『トランスキャンセラー』についても、音が耳に届けばこちらの『獣人』が無力化されてしまうため、使われ方によっては一瞬で戦況がひっくり返る可能性も。

 そしてさらには、フェルソナが向こうにはまだ捕まっているのだ。一日やそこらで何かが変わるとは思えないが、絶対に彼がブリガンテに協力させられないとも言い切れない。


 これらの理由を含めて、一体いつ何が起こるとも分からないのだ。

 出来るのであれば経験が豊富な実力者が現場にいた方が、不測の事態に対し適切な対応が取れる。


 ——などということを口にした上で、


「アイには芽空たちと同じ人質の救出、護衛、状況に合わせたヘルプ、これらをやってもらいたい」


「……つまりは便利屋、と言ったところでしょうか?」


 低く問われた声。

 その裏で、彼女がどう考えているのかは分からない。

 奏太が押し付けようとしている仕事量と、自分が良いように使われることに不満を持っているのか、はたまたその逆か。いずれにしても、言えることは一つだけ。


 ——次の発言で、全てが決まる。


 だから奏太は瞑目し、言葉を選ぶ。

 仮に目の前が華がいるとすれば、どうしたら彼女は頷くか。同盟以外で、頷く理由があるとすれば何か。


 それは、


「世界にとって『獣人』は恐怖そのものだ。そして、それを倒し、人間を守るのがHMAの役目。——そうだろ?」


「————」


 思い返せば、ハクアもそうだ。


 どういう経緯で『獣人』ならば問答無用で殺す、という思考に至ったのかは分からない。かつて『獣人』の被害を受けたことがあるのか、あるいは。


 彼の考えを理解出来ることなど、この先絶対にない。

 交わることのない平行線だ。


 しかし、それでも。

 彼は一貫して人間の味方だった。


「囚われてる人間を助けるのも、そのための手助けをするのも、ヘルプも。どれも最終的には人を助ける結果に繋がるし、アイは仕事をしっかりやるんだよな」


「————」


「なら出来ないわけがないよな、アイ」


 そんな煽るような奏太の発言に、アイが見せた反応は至ってシンプル。

 最初は小さな数度の頷き、漏れる笑い声、そうして、最後に目を細める。


「確かにその通りです、奏太君。HMAは人間の皆さんにとって、正義の味方そのものですからね。私は奏太君の意見を否定する理由もありませんし、ましてや仕事と都民のためとあれば引き受けて当然の役割です」


 彼女はさらに続けて、


「……華ちゃんには『好きなようにやりなさい』と言われていますからね。ですから私は、引き受けましょう。——全力をもって、この身を戦場へと捧げます。改めて、よろしくお願いしますよぉ?」


 そこまで言い切ると、アイは楽しげに笑んでみせる。瞳の奥に、闘気ともいうべき鋭い気迫を浮かべて。

 その姿にこの上ない頼もしさを感じつつ、奏太は彼女に頷いた。


 そして、


「…………そーた」


 各々の役割が決まったところで、芽空がこちらに視線を向けてくる。


 次の話へと移行すべきだ、と。


 だから奏太は一度大きく息を吐いて切り替えると、


「さて、問題の作戦内容なんだけど……」


 懐を探り、机の上に懐中時計と腕時計を取り出して言った。


「頼れるものは頼ろう。————HMAの技術もな」

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