笑って済ませば良いじゃない。
田舎の公立高校の放送部の部員たちの、面白いってほどではないお話が始まるぞ!
==on air==
「――さぁ、始まりました。我が汪津高校放送部、閲覧注意の班、略して『閲注班』がお送りします、森羅万象ぶっ殺しラジオ『vowvow allow dreamer』
――高校生活の昼休み,皆様、如何お過ごしでしょうかね。」
西に海。東に山脈。自然に挟み撃ちを喰らっている地方の県立高校の昼休み、俺達一年生が半ゲリラ的に放送している番組が始まった。
「さぁ、記念すべき第1回の放送です。私、司会進行を進めさせてもらっています、《家城乾治》で御座いますぅ。」
ニタニタした笑みが言葉にジワリと滲んでいる、そんな声。
そんな声を出して、家城乾治の偽名の下で、同級生であり、俺達の班の班長が喋り出す。
「公式ツイッターアカウントの方も準備してますんでね。ゆくゆくはツイートの方も読んでもらいましょうか。そして、何かしら興味深いリツイート等ありますれば我々が読み上げますから。」
「…メールじゃないんやね。」
「ん?なんですか?《春夏》さん。」
「いや、普通こういうのってメールじゃないんけ。」
「えぇ。メールフォーム開設出来てませんから。」
「あ、結局出来んだんけ。」
「いやもう俺達はありとあらゆる物事の素人なり、ジャンルのニワカ共の寄せ集めですから。」
「いやいやいやいや。」
「掃溜めですよ。この学校の。」
「お~~。否定できない自分がいるぜぇ~~。」
古びまくった放送室のブース未満のマイクの前では頭髪の弾けた眼鏡野郎の堀太利班長と、長髪を持て余した女、《春夏》を名乗る浜松絵梨佳総書記が自虐ネタを織り交ぜ、騙し騙しトークをしていた。
その外で、同じ放送部の一年、閲覧注意班の“参謀”である俺は同士めがけてラインを確認する。
『教室の反応どう?』
と、教室で観測中の班員(役職はまだついていない)の一人、倉茉ナントカさんに送信したところ、瞬間的に既読が付き、そのまた瞬間的に御馴染みの、やつれた白男のスタンプが張られた。
『了解』
解りやす過ぎるコンパクトな観測結果に対し、そう送ってスマホを机の上に放る。何年前からこの学校に在籍しているのかさっぱりわからない机の上で、俺のスマホはその直後ブーブーと呻り、画面に白男がふたたびやつれた顔を見せた。
そんなにか。
そんなにひどいか、教室の反応。
だから言ったのに。
止めておけ、と。
そして横では放送部の先輩達が酷い顔を、なんとも酷い顔をして同級生二人を睨みつけていた。
「普通の女子高生と、普通じゃない殺し屋と忍者!!そんな三人の三つ巴の笑いを楽しもう!『キルミ―ベイベー』!!」←別段魅力的ではない堀の声。
「…。今の何け。」
「CMです。今俺がレンタルしてハマってる漫画のね。」
「あ、あんたの肉声でやるんや。」
「コチラcmの方ですね、初契約の5番目以内でしたら無料で請け負いますのでね。個人法人どちらでも結構です。」
「法人聴かないでしょ。こんなラジオ。」
「いや、けど野球部とか、サッカー部とか部員増やしたいでしょ。CM頼んでくると思うよ。」
「あ、法人て部活のこと?」
「あぁ~~あ。Y○Kとかからcmの依頼。来ねぇかな。面白いんだものアソコのCM。」
「ぁ。あそこのCM私も好きやわ。」
「それかあれね。立●科学グループね。」
「あぁ~~」
「 「 『スティーブ!!起きろ!!!』 」 」
「さ。無駄話もこのくらいで――」
この無駄話ですでに壊滅的な結果が発生している。
「じゃ、コーナーの方も紹介して参りましょうかね。」
堀のその一言を聞き、最年少の班員のメンバーの“堀2号“こと、湯野林が効果音を鳴らす。
「――――ュエクシ!――」
「え~、構成作家、陽向君のくしゃみでした。」
急に飛んできた俺へのイジリに俺は全力で渋い顔を見せつけ、『』と、こんなこともあろうかとあらかじめ大描きしておいたキャンパスノートを開いて見せたが、奴は「」とか話し続けながらこっちをみて、満面の笑みを輝かせて中指を立てたのであった。
俺は負けじと親指を下ろしてやったが、奴の御自慢のマイペースには通じなかった。
あいつ頭悪いもんなぁ。
「コーナーその①――付き合わせろ!『僕のセンター総選挙』
これはですね、皆さんの付き合いたい異性を教えていただき、そしてその異性とどんなことをしたいか、その願望を投稿してもらいます。
コーナーその⓶――最強は誰だ!『妄想格闘巌流島』
こちらは、ありとあらゆるテーマ、どんなジャンルでも結構ですので、何か土俵を決めてうちの生徒達をガンガン対決させていって最強の生徒をきめようじゃないか、そんなコーナーです。
コーナーその③――いつもあなたの心の中に。『日めくりゴールドマウンテン』
これは我が校の職員室を代表する存在であり、現一年三組の統べる独裁者、金山先生の発言を集めて、送ってもらう企画です。」
こんな調子のコーナー説明を聞きながら、隣では堀二号が冷た~~い目をして硬直しておった。そしてこう言った。
「どうすんのコレ。」
唇以外の一切の筋肉を硬直させて吐いた言葉。
その回答は、俺は一切持ち合わせていなかった。
「黙ってくれ堀2号。」
「っちょ、そう呼ばないでって言っとんにか!!」
「…黙れ、“ゆのりん”。」
「…ッ。」
「いっっってぇえ」
肩のあたりにグーパンチを喰らう。妙に不良っぽい表情を染みつかせた、この素朴な童顔少女は、またムスーッと堀一号――もとい、己の従兄のことを睨みつけた。
そして、後ろから「ダメだな、これ」という声が聞こえて振り返る。
「あ、先輩。」
「お前ら、あれだ。ウチ辞めろ。」
「…急展開来ましたね。」
「退部届、四人分出しとくからな。橘内と堀と浜松と、湯野林の四人分。」
――この放送を最初で最後に、俺達《閲覧注意班》は、所属放送部を追放された。
==off air==
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