そのころ、もう一人は月の下で
八、そのころ、もう一体は月の下で
あーあ!!
ほんっとさいあく!
そう叫んで、私は足元の石ころに視線を落とす。
人間だったらーーーーそう、今日の昼会ったあんなちっぽけな人間だったら、こんな石ころでさえ、せいぜい数メートル飛ばせて終わりだろう。でも、私は人造人間。あんなやつらとは違う。だからーーー
「はあっ」
ばしゅーんと音を立てて、石が原型をとどめられずにとんでいく。その距離、約1625メートル。
「ふん」
こんなの、不思議でもなんでもない。私たちにとっては、普通。この世界では普通なの。だってここは!
「私たちだけの、世界なのに」
人造人間だけが暮らしている世界。
人間が立ち入ることなど、決して許されない。人間だけじゃない。犬も、猫も、虫けら1匹さえ、この世界では許されやしない。
「それなのに、あの人間は......!!」
よくも、私たちの国に!
〈ドウシマシタカ〉
いきなり耳元で鳴った雑音に顔を顰めながら、私は囁く。
「ちょっと、よく聞こえないんだけど」
〈GOS01が通信可能領域を越えようとしているからです…〉
はっと私は足元を見る。そこには今まさに、私が踏み込もうとしていた1歩に、光り輝くラインがあった。あわてて数歩下がる。
「ちょ...もっと早く言いなさいよ!」
〈あなたの自己責任です。もうすぐ真夜中になります。早く部屋に戻りなさい〉
何か言い返す前に通信がぶちっと切れる。
「あーも......今日はなんて日なのよ!!!!」