人間に対する人造人間
「・・・さすがは人造人間、所詮は人形が動いてるだけのくせに、なかなかやりますね・・・・・・」
先ほど私たちを森ごと燃やそうとしたことも忘れて、少女はそういった。
わずかに悔しげに歪んだ瞳は、やはり何の光もうつしてはいない。
どこまでも続く、深い闇。
「ふん、どうよ。あんたごときが火なんかで、私たちを潰せると思っていたの? 調子に乗るのもいい加減にしたらどう? 逃げるのなら今のうちだと思うけれど」
強気なゴスに苦笑して、私はゆっくり立ち上がる。
「あっ、メイ!」
「心配しないで。大丈夫だから」
正直言うと、大丈夫だとはとても言えなかった。スカートは半分以上燃えてしまって、足もやけただれて、ぼろぼろだ。でも、痛みは全く感じない。私たち人造人間に、痛覚なんかない。
「あ、人形が人形を心配してる。やっぱりあなた達はおかしいですね」
吐き捨てるように言うその少女に、ゴスは歩み寄り―――――
「っあ!」
少女が軽く悲鳴を上げた。
ゴスの手が、彼女のツインテールの片方をつかんだのだ。
その手を払いのけようとして、少女は必死だが、しかしゴスには通用しない。
人造人間の力は、人間の15倍なのだから。
「えーいやっ!!」
「うわあ!」
ゴスが引っ張る方向に、少女は大きくつんのめった。
少女の靴のあと、深さ約10センチ。
「ひっ・・・こ、この化け物!!」
「まだまだぁ!」
さらにそのままゴスはだっと駆け出した。髪の毛をつかんだまま。
少女の体が浮かび、
一瞬にして、地面にたたきつけられた。
「! っかはっ!!」
少女が口から吐き出したのは、血。
といっても、ほんの数滴だ。舌でも噛んだのだろう。
けほ、こほとむせる少女の前に回って、ゴスは仁王立ちし、
「いっとくけど、今のでもだいぶ手加減してたんだよ? さすがに殺しちゃだめだから、ちょっと緩くしてあげたの。お礼は?」
「・・・言うと、思ってるんですか」
「なわけないでしょ」
即答した彼女は、その赤黒いスカートを翻し、さっそうと少女から離れる。
自分に向かって歩いてくるゴスに、私は身震いした。
・・・すごい。
でも、怖い。
少女は立ち上がれないようで、まだしゃがんでいる。脚の骨、折ったんだろうか。
でも、と私は思い直す。
でも、仕方のないことだ。
人造人間と人間は、決して交わってはいけない。それは、太古の昔からとっくに決まっている、この世の掟なのだ。
それを彼女は破った。
仕方がない。
それに。
当たり一面燃えてしまって、妙にだだっ広い空を見上げ、私は言葉を紡ぐ。
「この世界は、残酷なんだよね」