謎の少女に会った二人
四、謎の少女に会った二体
「ねえメイ、外にいこう!」
窓に片足をかけて、ゴスがそう私に呼びかける。
<スカートとソックスに挟まれた足がきれいだなあ・・・>
「ねえ、め~い~?」
「え、あ、うん!」
すでに上半身を外に出しているゴスに遅れないように、私も後ろに体重をかけ、飛び降りる。
宙に放り出された私たちの体は、すぐに白鳥の翼と烏の羽でくるまれた。
「っや!」
ゴスの掛け声に合わせて、私たちは背中にあるものをバッと開く。バランスをとって、空中を滑りゆく。
「メイ、どっかいきたいとこある?」
「ど、どこでもいいよ」
「じゃ、私についてきて!」
そういって、ゴスは体をゆっくり傾け、右に旋回する。私もそれに倣う。
「ほんじゃ、ぶっとばしていっくよー!」
「う、うん!」
バサッと翼をはためかせ、一気に飛んでいく!
風が、私たちの髪を、少し乱暴に掻き上げる。
「ひゃっほー! きっもちーい!」
ゴスの大声に驚いた人造人間たちが、私たちを見上げている。
「おかあさ~ん、あのお姉ちゃんたち飛んでる~」
そのうちの一人の子供が、横にいる母親にそういっているのが聞こえた。
「あはっ、あんなとこまで聞こえてる~」
ゲラゲラと笑うゴスを見て、なんだか私もワクワクしてきた。
これが、感情なんだ。私は実感した。
これが、楽しいって気持ちなんだ。
「ねえゴス」
「ん~?」
メイが、私に話しかける。
「あと、どれくらい飛んだら着く?」
「ん、ちょっと待って」
私は、目を一回閉じて、もう一度開いた。
<千里眼、っと>
とたんに私の目は望遠鏡のようになり、何キロも先を見通せるようになった。
<どうしたら、メイにうまく伝えられるかな・・・>
「ゴス?」
もう一度、メイが私に問いかけてくる。
いけない、早くしないと。
<せっかくできた友達の役にたちたいしね>
「え~っとね~・・・」
私は、千里眼で見えるある一点を指さして言った。
「もうちょっと向こうまで飛んでいくとね、林があるの。近くまで行くとちょっと人気が少なくなるから、多分わかると思うよ」
「そこに何があるの?」
「林についたらわかるよ!」
ふ~んと不思議そうな声を漏らすメイに苦笑しながら、私はさらに飛ぶ。
<・・・感情って楽しいね>
友達と一緒って、こんなに楽しい。
いったいどれくらい飛んだだろう。あたりはすっかり人気がなかった。
<ま、まだ明るいし、大丈夫だよね>
「ここだよ!」
ゴスの声に導かれるように、私はゆっくりと羽をたたんでいく。地上10センチになって、急にバランスをくずしてしまった!
「きゃあ!」
着地にも失敗して、つんのめりそうになったんだけど・・・
「おっと!」
いつの間にか目の前にいたゴスが、華奢な体で私を受け止めてくれた。
「ご、ゴス! ご、ごごごごめんなさい! あああありがとう!!」
「あっはっは、大丈夫大丈夫、着地ミスなんてよくあるって」
そう言って、ゴスは私にすっと真っ白な手を差し伸べた。
「え・・・? あの・・・」
「せっかくだし、手つないでいこ。大丈夫、全然怖くなんかないから」
全然怖くない、ってきっぱりと言い切ったゴスの真っ直ぐな瞳に、私は思わず吸い寄せられた。
そして、私の左手は、ゴスの手と重なった。
「いこっか」
「うん」
そして、私たちは歩き始める。林の中へ。
一歩ずつ、一歩ずつ。ゴスは私に歩調を合わせてくれる。
<ゴスって、なんだかかっこいいなあ・・・>
とっても美人だし、きれいだし、だからお姫様みたいなのに、それでもどこかかっこいい。
<いいなあ・・・憧れちゃう・・・>
それにしても、本当に私たちはおんなじ顔なんだろうか。絶対ゴスのほうがきれいだと思うけど・・・
ゴスから見たら、私ってどんな風に見えるかな・・・。
<いい友達って思ってもらえるように、がんばらなきゃ!>
「ほら、ついたよ」
一人であれこれ考えていた私を、ゴスが連れて行ってくれた先は・・・
まるで、天国のような、とっても広い、お花畑だった。
「・・・・・・す、すごい・・・!」
まん丸の目を大きく見開いているメイに、私は思わず得意になって言う。
「いいでしょー、メイって、花、好き?」
「うん、大好き!」
瞳から溢れんばかりの光を出してかけていくメイを、私は安心して見つめた。
<気に入ってもらえて、よかった>
「ねえゴス、見てみて!」
メイは頭に花輪をつけて戻ってきた。そのまま花に囲まれて踊りだした。
自然と私の口に笑みが浮かんだ。
<くそっ、可愛いなあ・・・>
そのとき、私たちは最高に幸せだった。ずっとこのままいられたらいいと、本当にそう思っていた。
「ちょっと、なんですか、あなた達」
・・・え?
その冷ややかな声に、私もメイも凍りついた。
私とメイは、ゆっくりとその声のしたほうを振り返った。
そして、私たちはさらに凍りついた。
そこには、一人の少女がいた。
髪は肩で二つに結んで、下に垂らしている。頬にはかすかにそばかす。服装はブラウスの上にジャンパースカート。一見普通の子供だ。
しかし、その瞳には、一切の光がない。すわっている、といえばいいのだろうか。
<機械より、暗いひとみ・・・>
「聞こえなかったんですか。なんなんですか、と聞いてるんです」
な、なんなの、この子・・・。
人造人間? いや、それとも。
人間・・・・・・?