魔王復活の報
「た、大変です! 陛下、報告があります!」
謁見の間へ飛び込んできた従者は、転がるようにして玉座の前に跪くと開口一番そう叫んだ。
「何事か。申せ」
あまりに鬼気迫るその姿に、無礼な振る舞いを咎めることも忘れて王――クラウス・メル・アルディナ王は従者を促した。
従者は呼吸を落ち着かせながら、しかし焦りの残る様子で報告を伝えようと口を動かす。
「きゅ、宮廷魔術師団からの伝令がっ、はぁ、ふう……失礼しました。宮廷魔術師団からの伝令が御座います。その内容が内容なので、一刻も早く陛下にお伝えせねばならぬと……」
「分かった。その様子、どうやら急を要するようだ。簡潔に用件だけ申せ」
「はっ。大陸北方、海を越えた島にて、魔王の魔力反応を察知したとのことです。――封印が解け、魔王が復活致しましたっ!」
「……!?」
従者のどこか悲鳴のような報告を聞き、クラウスは自身の耳を疑った。あまりに唐突な、現実味のない言葉だ。首筋を汗が伝う。声が震えないよう努めて冷静に、しかし信じられないという様子で従者に問い返した。
「それは真か? 宮廷魔術師団がその判断を下したというのか?」
「はい。宮廷魔術師の長である大賢者様もそのように仰っており、『これは逃れようのない事実であり、一刻も早く対策を講じるべきだ』とも……」
「なんと……いうことだ」
クラウスは玉座に背を預け、重い息を吐いた。大賢者までもがそういうのであれば、最早疑う余地はなくなってしまった。
魔王とは、大陸に伝わる大災厄ではないか……。伝説では勇者が封印したのではなかったのか? かの勇者が施した封印が有限だったのか、それとも魔王の力が強まったとでもいうのか?
彼の心中を渦巻く疑問は尽きることなく、しかし最も大きな感情は一つ、恐怖だった。
何故……何故今になって封印が解かれ、永きに亘る平和が破られんとするのか。魔王とは既に、古の時に置き去られた伝説ではなかったのか。
クラウスは眩暈のする頭を揺すり、力なく従者へと告げた。
「……宮廷魔術師団、近衛兵団及び全ての国防戦力を集結させよ。また、元老院と各代表者を召集せよ。緊急会議を開く。それと勇者の子孫にも使者を出せ」
「はっ」
従者は一礼すると、謁見の間を急いで後にした。クラウスは今後のことを考えてため息を吐きそうになる。伝説の通りになるのであれば、再び空が赤く染まり、大陸が戦乱で覆われてしまうだろう。
従者が出て行って間もなく、別の従者が血相を変えて飛び込んできた。クラウスが何事かと尋ねる前に、その従者は報告を口にした。その内容に、再び耳を疑うことになる。
「伝令! 宮廷魔術師団より、魔王が驚くべき速度で我が王国へ向かってきているとの報告が――」
その言葉の意味をクラウスが理解するのと同時に、王城を大きな衝撃が襲った。