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勇者の武器は現代兵器

これは過去の出来事。


月明かりに照らされた城の片隅で少女の悲痛な叫び声が上がっていた。


『アキヒト!!しっかりしなさい!!誰か!!誰か!!』


『グボッ、ゲホッゲホッ!!わ…るい、しっくった……』


主でありまた最愛の者でもある少女を暗殺者の凶刃から守るため身を挺して庇った男が暗殺者の短刀で左肩から右脇腹までをザックリと切り裂かれ傷口から夥しい量の血を流し自らの体から流れ出した血の池に沈んでいる。


『お願い止まって!!お願いだから……っ!!』


『カレ…ン、もう……手遅れだ……』


ボロボロと大粒の涙を流しながら傷口をギュッと押さえて止血を試みる彼女の手に男がもういいというかのようにそっと手を被せた。


『いやよっ!!諦めてたまるもんですかっ!!絶対、絶対に助けるからっ!!』


だが、彼女は男の言葉を否定し必死の思いで止血を続けている。


そんな彼女を見かねた男は残り少ない力を振り絞り精一杯の大声を出す。


『カレン……カレンッ!!』


『っつ!!』


『もう……いい、から』


男の大声に彼女は体をビクッと震わせると一瞬力を抜いたがすぐに力を入れ直し傷口を押さえた。


『お願いだから……。そんなこと言わないでよ……。私の側にずっと居るって約束したじゃない……っ!!私を1人にしないでよ……、なんでもするから、お願いだから……ずっと私の側にいて……っ!!』


『ご、めん……な、カレ……ン、約束――』


涙まじりにそう小さく声を漏らす彼女の頬を震える手で優しく撫でていた男だったが、途中で言葉は途絶え彼女の頬に触れていた手は力なくベチャという音をたて地面に落ちてしまった。


『アキヒト?アキヒト!?いゃぁ……イヤァーー!!目を覚ましてよ!!アキヒト!!アキヒト!!』


その後、彼女が何度呼び掛けようとも男が目を覚ますことはなくただ彼女の慟哭だけがその場に悲しく響いていた。














――――――――――――




「――すよ」


誰かが呼ぶ声がした。


「金剛二曹!!起きてください、もう着きますよ!!」


「……あぁ、悪い」


実弾演習で使う武器、弾薬を演習場に輸送中の74式特大型トラックの車内で寝ていた陸上自衛隊所属の金剛(コンゴウ)秋人(アキヒト)二等陸曹は部下の三等陸曹の声で目を覚ました。


……またあの時の記憶か


「? どうしたんですか?二曹、ずいぶん魘されていたみたいですけど」


「いや……、なんでもない」


「そう……ですか?」


起きてからもぼぉーっと遠くを見ているアキヒトを心配そうに三曹が見詰めていた。


そうしているうちに2人の乗る74式特大型トラックは演習場に到着しプシューという音をたてて駐車場に停車した。


「うわっ、まずい……。俺達が最後の到着みたいですよ」


自分達以外に10台の74式特大型トラックが既に駐車場に止まっているのを見て三曹が慌てた様子で言った。


「じゃあちょっと集合場所聞いて来ますから二曹はここにいてください」


「すまん、頼んだ」


まだ寝惚けた風のアキヒトを気遣ってか三曹はそう言い残すと74式特大型トラックから降りて何処かへ走り去った。


これで何回目だろうな。あの時のことを夢を見るのは、あれからもう5年も経つのに……。


三曹が演習場の方に向かって走って行くのを視界におさめながらアキヒトは5年前に自分が体験した異世界トリップでの出来事をゆっくりと思い返していた。


いきなり異世界に飛ばされて、カレンに拾われて、知らぬ間に勇者として祭り上げられて……いろいろあったなぁ……まぁ、途中でカレンを庇って死んだと思ったらこっちに戻ってたけど……


「あぁ……会いたいな」


そんな風にアキヒトが第2の故郷とも言える場所に望郷の念を抱きカレンに会いたいと呟いた時だった。


「ん?」


気が付けばアキヒトの乗る74式特大型トラックや側に止めてあった10台の74式特大型トラックの下に神々しい光りを放つ魔方陣が浮かんでいた。


なっ!!……まさか!!


その魔方陣にアキヒトは見覚えがあった。忘れもしない自分を異世界に送りカレンと出会う切っ掛けとなったその魔方陣のことを


そしてアキヒトがまたカレンに会えるかも知れないという期待を抱いている間にも魔方陣の放つ光りの強さは増していき最後に目を焼くような強烈な光を放ったあとアキヒトと74式特大型トラックの一団は演習場の駐車場から姿を消していた。












――――――――――――



ローゼリア王国のアーネスト侯爵家、当主カレン・アーネスト侯爵は絶体絶命の危機を迎えていた。


「カレン様!!もうこれ以上は持ちません!!」


「クッ!!総員城塞まで後退しなさい!!」


領土拡張に燃える隣国、レーベル帝国による突然の侵攻を受けローゼリア王国領内に雪崩れ込んできた大軍勢を少ない兵力で様々な策を弄して迎え撃っていたカレンだったが、帝国軍のごり押しともいえる物量作戦により策も役に立たなくなり絶望的な状況に追い込まれていた。


「カレン様もお早く!!」


「私が殿を務めるわ!!早く行きなさい!!」


後退を始め隙を見せたローゼリア王国軍をレーベル帝国軍が見逃すはずがなく、一気に押し込もうと突っ込んで来る敵兵を切り伏せながらカレンが叫んだ。


「っ!!了解しました!!ご武運をっ!!」


カレンの思いを汲み取った家臣のニコラが断腸の思いでそう返し後退している兵士を急がせているのを感じつつカレンは王国軍には属していない子飼いの私兵達と共に必死に戦線を支えていたが、いつの間にかカレン達は退路を断たれ敵兵に囲まれていた。


「っ……はぁ……はぁ……」


「ん……? !? おい!!女がいるぞ!!」


「本当か!!おぉー!!しかも上物じゃねぇか!!是非とも生け捕りにしてたっぷりと可愛がってやろうぜ!!」


「まてまて、そいつの周りにいる兵士もよく見りゃあ女じゃないか!?」


「なに!?ほぉー、こいつは俄然やる気が出てきたぞ」


凛とした顔に返り血を浴びて荒い息を吐くカレンの存在に気が付いたレーベル帝国の兵士達が興奮した様子で言い、気合いを入れ得物を握り締めるとカレンやカレンの護衛である女性兵士達をどう辱しめようか考えながらカレン達に猛然と襲い掛かった。


……ふん、アキヒト以外にこの身を許してたまるもんですか。


下卑た笑みを口に張り付けて次々と襲い掛かって来る敵兵を1人また1人と斬って捨てていくカレンは敵兵達の戯れ言を耳にしてそんなことを考えていた。


だが、そんなことを考えていたせいか隙を突かれカレンは握っていた剣を弾き飛ばされてしまった。


「「カレン様っ!!」」


もう数人しか残っていない部下達がカレンを助けようとするが、敵兵に阻まれカレンに近付くどころか前に進むことも出来なかった。そして剣を失いどうすることも出来なくなったカレンが、雲霞のように押し寄せてくる敵兵にその身を蹂躙されることを良しとせず舌を噛み切り自害しようとした時だった。


「どけえぇぇーー!!」


警笛のようなクラクションを鳴らし凄まじい勢いで敵兵を次々と撥ね飛ばしながら74式特大型トラックが砂埃を巻き上げカレンの目の前に滑り込み急停車した。


「ば、化物だ!!」


「に、逃げろーー!!」


突然戦場のど真ん中に突っ込んで来た未知の物体を目の前にして蜘蛛の子を散らすように逃げていく敵兵達とはうってかわってカレンはただ1人その場に呆然と立ち尽くしていた。


「早く乗れ!!」


「……えっ、……そんな、アキヒトは……だって……もう……」


「えぇい!!時間がない!!」


「えっ、あっ、キャア!!」


「お前らも早く!!」


ドアが開き中から手を伸ばしてきた男――アキヒトの顔を見てカレンは信じられないとばかりに口をわなわなと震わせ驚きに目を見開く。


だが、こちらを見詰めたまま一向に動く様子のないカレンをアキヒトは強引に車内に引きずり込むとそう叫びカレンの子飼いの私兵達を呼び寄せる。


するとその声に反応したカレンの部下達は慌てて74式特大型トラックの側面によじ登りしがみついた。


「動くぞ!!しっかり捕まってろよ!!」


生き残っていたカレンの部下達が皆、74式特大型トラックになんとかしがみついたのを確認するとアキヒトは思いっきりアクセルを踏み込んだ。


そうしてカレン達を救出した化け物――74式特大型トラックに乗ったアキヒトが逃げていくのを遠巻きに眺めていたレーベル帝国軍の兵士達は怯え交じりの瞳で見送った。












――――――――――――




「なんなんだ、あれは……。いや!!それよりもカレン様は!?」


ずっと戦場の様子を注視していたニコラが城塞の物見櫓の上でそう呟いた。


「お、おい、あれこっちに向かって来るぞ!?」


「不味い!!門を閉めろ!!」


「バカ者!!あれにはカレン様も味方の兵士もいるのだぞ!!閉めるんじゃない!!」


得体の知れない物が城塞に近付いて来るのに気が付いた兵士達が慌てて城塞の門を閉じようとしたためニコラが兵士達を叱りつけた。


「あれが城塞の門をくぐってから門を閉めるんだ!!」


「りょ、了解です!!」


そしてカレン達を乗せた74式特大型トラックが城塞の門をくぐる寸前、カレンの隣にいたアキヒトを視界に捉えたニコラは一瞬呆けたあと急いで門に向かった。


「な、なんとかなったか……」


レーベル帝国軍の包囲網を強行突破したあと開いていた門から城塞に入ったアキヒトは74式特大型トラックを停車させるとハンドルにもたれ掛かりそう呟いた。

「ね、ねぇ……」


アキヒトが一息ついているとその袖をクイッとカレンが引っ張った。


「……なんだ?」


「本当に貴方は……アキヒト……なの?」


潤んだ瞳でこちらをじっと見つめているカレンにアキヒトは笑顔で言った。


「あぁ、“約束”を守るために戻って来た」


「っ!!〜〜〜〜〜〜〜!!」


アキヒトの言葉を耳にした瞬間、カレンの瞳からは大粒の涙が溢れ出した。そしてカレンはアキヒトの胸に飛び込むとニコラが74式特大型トラックの所にやって来るまでずっとアキヒトの胸の中で泣いていた。


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