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誰が為に武器を取る

「……」


「……ん?――なっ!?」


東京エリアにある第1エデンの外郭防衛線に出現した昆虫型レギオンの掃討を終え帰路につこうとしていた防衛軍所属の霧島遥斗が扶桑真依と出会ったのはとっくの昔に放棄された旧居住区での事だった。


ま、麻衣!?――……いや、違う……ハーフの……女の子か。


打ち捨てられ廃墟となったマンションの入り口に座っているのは『ハーフ』


後天性の特異体質を持つが故に世間から忌み嫌われ迫害の対象となっている少女である。


少女の年齢は12〜13歳位。髪は黒のロングストレート。細身でどこか大人びた雰囲気を纏っている美少女だった。


しかし着ている服がかなりボロボロなので親に捨てられてからかなりの年月が経っていることが分かった。


「遥斗ぉー帰るぞぉー!!」


「あ、あぁ。分かった!!」


仲間の兵士が軍用トラックになかなか乗り込まない遥斗を急かす。


だが、今は亡き妹の姿とそっくりな少女を前にして遥斗はその場から動く事が出来なかった。


「おっせーぞ遥斗、なに見てんだ?ってハーフかよ……はぁ〜ほっとけよあんな化物モドキ」


動こうとしない遥斗を見かねて呼びに来た仲間が、遥斗の視線の先にいた少女に気が付き呆れたように言った。


「いや、ちょっと……気になって。というか化物モドキと呼ぶのは止めろ」


蔑んだ目で少女を見ていた仲間にそう釘を刺した遥斗は何かに突き動かされるように少女に近付いていく。


「おい、遥斗!?どうする気だよ!!」


仲間の咎めるような声を無視して遥斗は少女に近付いていく。


「……」


「……」


そして少女の前で屈み、少女と黙って視線を交わす遥斗。


って紫!?


少女の瞳の色を確認した遥斗は驚く。


……だけどまぁ、こうも似てたらほっとけないけどな。


ある事を決断した遥斗は少女に声を掛けた。


「名前は?」


「……扶桑……真依」


突然近付いて来た遥斗の顔を見つめながら少し戸惑った様子の真依が言った。


「っ!!……そうか……真依って言うのか……真依……か……名前まで一緒とは……ハハッ」


どこか寂しげな表情を浮かべた遥斗は稲穂が頭を垂れるように顔を伏せた。


「?」


そんな遥斗を不思議そうな顔をして見ていた真依は不意に手を伸ばし遥斗の頭を撫でる。


「っ!?」


「大丈……夫?」


頭を撫でながら心配そうな顔で遥斗を伺う優しい真依。


そんな真依の行動が遥斗の心に止めを刺した。


「……なぁ」


「なに?」


青年が少女に頭を撫でられているという不思議な構図が展開されている中、遥斗は真依に思い切った提案した。


「お前が良ければなんだが、一緒に……暮らさないか?」


「……ロリコン?」


突然一緒に暮らさないかと聞かれた真依は驚いたようにそう言って遥斗の頭を撫でていた手をバッと引っ込めた。


「ち、違う!!俺はロリコンじゃない」


その事に少し傷付きながらも遥斗は慌てて事実無根だと声を張り上げる。


「そう……。じゃあ……酷いことしない?」


「あぁ、絶対しない」


「……」


出会ってから僅かな時間しか経っていないが、何故か気になり一緒に居たいと思える遥斗からの提案を真依は真剣に悩んだ後、小さく言った。


「……でも………ダメ」


「そ、そうか……そうだよな」


なんの面識もない自分が突然一緒に暮らそうと言ったこと自体無茶だったかと思いつつ遥斗は頭をガシガシと掻いていた。


「……ちがう。あそこは真依に酷いことする人がいっぱいいる」


遥斗が何か誤解している事に気が付いた真依が誤解を解こうと指をさしたのは“人間が”安全に暮らせるように作られたドーム状の巨大な建造物――エデンだった。


それに……。と続けて真依が言う。


「みんなと離れるのも嫌」


「は、遥斗!?ヤバイぞ!!」


今まで遥斗の奇行を黙って見ていた仲間の男が怯えたような声で叫ぶ。


……こりゃまた多いな。


真依の言葉と同時に現れたのは大勢のハーフの少女達だった。


廃墟と化したマンションのそこかしこから顔を出し赤や白、青といった色の瞳を持つ少女達は遥斗の事を興味深く見詰めていた。


「……えっと、じゃあエデンで暮らす事と、この子達と離れるのが嫌なだけ……なのか?」


「そう」


「俺と一緒に暮らすのはいいのか?」


「うん」


「そうなのか、しかし……弱ったな。まさか全員エデンに連れて帰る訳にもいかないし」


「……」


真依は頭を悩ます遥斗の事をつぶらな瞳でじっと見詰めていた。


「はぁ……しょうがないか――」


眉間にシワを寄せ、何かを諦めるような口調で口を開いた遥斗に真依は残念そうに顔を伏せる。


「――俺がこっちで暮らそう」


遥斗の言葉に真依はバッと顔をあげる。


「……何で?」


「何が?」


「私達と居てもいいことないのに……」


「まぁ、色々とあるんだ俺にも」


真依が死んだ妹に似ていて放って置けなかったとは言わずに遥斗は笑って誤魔化した。


「それで……返事は如何に?」


「一緒に暮らす」


「良かった。じゃあ一緒に暮らそう。あ、でも待ってくれ。先に家のこととか軍のこととか色々片付けてくる」


「……分かった。待ってる」


「じゃあまた後で来るから」


「……うん」


小さく笑みを浮かべ手を振る真依に手を振り返しつつ遥斗は仲間の元に戻って行った。


その後、軍を除隊した遥斗は約束通り真依達ハーフと共に旧居住区で暮らすことになった。










――――――――――――




西暦2000年。

節目のその年に人類に取って大きな出来事が2つあった。


1つ目は世界各地に突然現れたレギオンの存在。


レギオンとは、どこからやって来たのか何が目的なのかは不明であるが人類に対し敵対的な生物である。


最もタチの悪いことにレギオンという生物は体内に光合成物質を備えており、生きていく上で必要なのは日光と空気であり人間を襲い捕食する必要性が全くない。つまりレギオンは遊びまたはそれに準じた目的で人間を襲っていると推察される。


ちなみにレギオンの出現によって人類は滅亡の瀬戸際まで追い込まれた。


何故ならゴキブリのような生命力を持ち何処からともなく水が湧くように出現し圧倒的な物量で押し寄せて来るレギオンに人類はなすすべがなく、また人類が持つ現代兵器はレギオンに対し有効な反撃手段として活用できたがやはりレギオンの圧倒的な物量を前に焼け石に水だった為である。


しかし捕獲したレギオンを研究した結果、レギオンの苦手とする特殊な音波が分かったことで状況は一変。


人類の居住区の回りに音波の発生装置を設置することでレギオンの接近を阻む事が出来たのだ。(興奮した個体等には効果が薄い)


だが、そのことが分かった時にはもう人類がレギオンに対し攻勢に出られる力は残っていなかった。


そのため人類は僅かに残った生存圏を音波の発生装置で囲み、更にその中に作った対レギオン用要塞エデンで暮らしていくことを余儀無くされた。


緩やかな滅亡の坂を下りながら。



そしてもう1つの人類に取って大きな出来事とはレギオンの出現した時期と同時期に現れ始めたハーフと呼ばれる特異体質の少女達のことだ。


ハーフというのは人外染みた生命力を備え、異常に強い力を持っていたり大人顔負けの知能を持っていたりと人類とは隔絶した存在である。


故に人間とレギオン(レギオンの出現した時期と同時期に現れた為)の間――ハーフと呼ばれている。


またハーフになるのはなぜか少女だけで5歳を過ぎた辺りから特異体質が発現する。


最も特異体質といっても普通の少女と見た目はほとんど変わず、唯一の相違点は目の色が赤になることだ。


加えて原因は解明されていないがハーフになり何らかの事象が起きると目の色が赤から白、青、紫と順に変わっていき、それに伴い力も増していく。そして紫色のハーフは最早、人類を超越した力を発揮することが出来る。


しかし結果としてそれが原因でハーフは世間から忌み嫌われ迫害の対象となっているため、ハーフとなった少女はその殆どが親に捨てられエデンの外へと追いやられる。


だが、普通そうしたハーフの少女達を保護しようとする活動がありそうな物なのだが、何故か全くない。


何故なら音波の発生装置が有るにも関わらず時折やって来るレギオンの群れをエデンの周りで暮らすハーフの少女達や防衛軍が撃退しているお陰でエデンは平穏な暮らしを享受出来るからだ。


またエデンの運営を担っている運営部門の人間がエデン防衛の一翼を担う(ただ放っておくだけで勝手にレギオンを殺してくれる)ハーフ達の数が減ることを嫌い親達にハーフを捨てさせることを進めるために迫害を煽っているせいでもある。


「これで……ラストォ!!」


大規模な改造・改良が行われ最新式の12式機動強化外骨格に負けず劣らずの性能を誇る旧式の99式機動強化外骨格を纏った遥斗は恐竜型レギオンの首を00式長刀で跳ね飛ばす。


「遥斗、終わった?」


遥斗の背中をカバーしていた真依が手に握るハルバードを構えたまま警戒を解かずに言った。


「……あぁ、多分な。みんな〜出てこい!!仕事だぞ〜」


真依と暮らし始めてから早5年。18歳になり出会った時より一層美しく成長した真依に一瞬見とれながらも周辺に異常がないか確認した遥斗は彼女達に声を掛けた。


「「「「「はぁ〜い!!」」」」」


遥斗の呼ぶ声に元気に返事を返し隠れていた場所から出てきたのはこれまでに遥斗が保護してきたハーフの少女達だった。


遥斗と真依が討伐した無数のレギオンに少女達が、群がりその死骸を手早く解体していくのを横目に警戒を怠らないまま遥斗は真依に声を掛けた。


「こんだけ倒したら、結構な稼ぎになるからしばらくは持つな」


「うん」


解体されたレギオンの体が詰め込まれた幾つもの籠を見て遥斗は胸を撫で下ろす。


ちなみに遥斗が結構な稼ぎになると言ったのはレギオンの死骸ことだ。


レギオンは人類に取って不倶戴天の敵であると同時にレギオンの体は人類に取って貴重な資源なのである。


何故ならレギオンの黒い血液は石油、肉は肥料、骨は鉄の代わりになるからだ。


そのためエデンにあるレギオンの買い取り部門に持っていけばレギオンの死骸を高値で買い取ってくれるのだ。


「さて、帰るとしようか。と言いたい所なんだけどなぁ……」


M8アサルトライフルにM25グレネードランチャーが一体化したM29 OICW(個人主体戦闘武器)のマガジンを新たな物に交換しながら遥斗が疲れたように呟く。


「早く帰ってお風呂入りたかったのに」


レギオンの粘着性のある黒くネットリとした返り血を全身に浴びていた真依も遥斗の言葉に同意するように言った。


そして先程までレギオンの解体作業を行っていた少女達も周りを取り囲むその存在に気が付いているのか、戦闘経験の無い者を除いた全員が遥斗の教えに従いそれぞれが持つ武器を構え戦闘態勢に入っていた。


「……出てこいよ。俺達に何の用だ?」


遥斗の言葉と同時に12式機動強化外骨格を装備した防衛軍の兵士達が現れた。


「防衛軍……しかも……古巣の奴らかよ……やりずらい」


無言でこちらに銃口を向ける防衛軍の兵士達。


その兵士達の所属先を示す部隊章を見て遥斗は苦虫を噛み潰したような顔になった。


「へぇ。写真で見るより実物で見た方がいい顔してるじゃないか」


遥斗達を取り囲む兵士の後ろから白衣を着た若い女性が現れた。


「……あんた、誰だ?俺の事を知ってるみたいだが」


値踏みするような視線を向けられていた遥斗がフルフェイスのヘルメットの下で眉間にシワを寄せながら言った。


「あぁ、これは失礼した。私の名は近藤恵美。防衛軍所属の技術大佐だ。よろしく。それと君の事ならなんでも知ってるよ、私達の間では君は有名だからね。なんなら言ってみせようか?霧島遥斗、元防衛軍所属の将来有望なエリート軍曹だった男。しかし第1エデンの外郭防衛線に出没した昆虫型レギオンの討伐後、遭遇した紫色の瞳を持つハーフ――扶桑真依と意気投合し直後、軍を除隊。扶桑真依を含むハーフ達と共同生活を始める。ハーフ達との共同生活を開始した直後から各地のハーフの面倒も見るようになり、今ではヒルドルブ(戦の狼)と名乗るハーフ達の一大組織のリーダーにしてハーフの父または兄と呼ばれる特別な存在。加えて東京エリアにあるエデンをレギオンの魔の手から守る守護神とも言える男。あと……趣味は読書、特技は戦闘全般、好きな女のタイプは――」


「もういい……それで俺達に何か用か?」


近藤大佐が個人的な情報を口にし始めた所で遥斗が口を挟んだ。


「……そっちの子達は興味があるようだけど」


「いいから先を言え」


真依や他の少女達が近藤大佐の言葉に食い入るように聞き耳を立てているのを呆れたように横目で見ながら遥斗は先を促す。


「まぁちょっとした頼みがあって来たんだ」


近藤大佐のこの一言から物語は大きく動き始めた。

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