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曖昧な出会い

 出会いというのは唐突で突拍子もないものである。

 この出会いは運命だとか、前世で繋がりがあったなんて言葉はまったくのでたらめで、こうであって欲しいという人の願望にすぎない。


 今まで出来た友達や知り合いなんてものは思い返してみたら偶々の連続で生成された繋がりにしか過ぎない。

 小学校で出会った友達、中学校の部活のメンバー、大学のサークル友達。

 どれも偶々なのだ。そこに深い意味は存在しないし、それだけなのである。


 もし仮に俺があの先の角でパンを銜えた女の子にぶつかったとしても、その後その出会いが運命だったなんて言葉を口にすることは1度もないだろう。


 そんなことを思いながら、俺は先程からずっと服の裾をひっぱってくる女の子を見た。


 ついさっき、だいたい10分前ぐらいだろうか。


 俺がいつものように大学をサボりお気に入り休憩スポットで和やかに休んでいる時だった。

 休憩スポットといっても、そこはもう人に使われていないただの廃工場。

 所謂、廃墟というやつだ。座りながら青空が見える斬新的な間取りで、壁の7割以上が植物で覆われているという非常にエコな作りになっていた。


 そんな素晴らしい建物の中で俺は丸椅子に座って、一人の時間を満喫していた。



 誰にも邪魔されない、自分だけの空間――


 建物と風が擦れ合って作り出す独特で落ち着く心地の良い音。


 古い油と土と植物とが作り出す、どこか懐かしい臭い。


 青空から射す美しい光と建物自体が作り出す影とのグラデーション。


 そんな環境が好きで俺はこの場所に時間を見つけては入り浸っていた。




 いつもと同じように俺は1時間ほどしたら帰ろうと思いながら、珍しく廃墟の中をゆっくりと見回していた。


 壁一面を覆っている緑色の美しいツタで作られた不規則な模様が、お洒落な壁紙のようであり、床からは見たことのない小さく美しい花が、ひっそりとではあったが凛と咲いていた。

 部屋の奥にはいつからそこにあるのだろうかと気になるほど大きな一本の木が堂々とその身を構えていて、この廃墟の歴史を感じさせていた。

 廃墟になってから、そこで育ち始めたと考えるのが妥当なのだが、この廃工場が建てられるずっと前からそこにいたのではないかと思わせる程の安定感を持っていた。


 ここが工場として機能していた頃にあったものは廃業と同時に取り払われたのだろう、ほとんど物が残されていなかった。

 いくつかの丸椅子と机、穴を空けるための機械のようなものと錆びれたロッカーがあった。

 

 ふとロッカーに目をやると近くに何か光る何かを見つけた。


(もしかして、お金かな?まぁ、だいたい1円玉だろうけど。)


 そんなことを思いつつ、若干の期待もしながら椅子から腰をあげた。

 近くまで行ってみると、どうやらお金ではなさそうだった。

 その光るものまで1mほどのところでそれが何だったのかようやく理解した。


「指輪だっ!」


 泥で汚れているがおそらくシルバーであろうリングの中央には翡翠色のエメラルドらしき宝石が付いていた。


 泥に塗れたリングを手に取り、ポケットからハンカチを出して試しに拭く。

 泥は思ったよりもすぐに取れ、本当に先程の指輪だったのかと目を疑うほどにまで、神々しく光を放った。


(綺麗だなぁ……いったい誰の落し物なんだろう。)


 この世のものとは思えないその指輪見るにつれて、何故か無性に指にはめてみたいという衝動に襲われた。


 別にこの指輪が欲しいとか、そういった気持ちはまったく起こらなかったのだが、指輪からは必ず一度は指にはめずにはいられない魔力的な魅力が感じられた。

 軽い気持ちで俺は指をはめてみた。


 ズキッ!!!――



 指輪をつけた瞬間、強烈な痛みが指に走った。

 驚いて、慌てて指輪を外そうとした――


 が、外れない――


 それほど無理矢理はめた覚えもないのに、もともと体の一部だったかのように指輪は固く指にはまっていた。


(おいおい、どうなってるんだこれは。)


 何が起こったかわからず、動揺している俺に追い打ちをかけるように後ろから声がした。


「あなた、何をしているのですか?」

  



 急に投げかけられた声に対して、驚くことすら忘れて振り向いた。



 先程まで誰もいなかったそこには小さな女の子が立っていた。


 急な出来事で心臓が存在をやたらに主張するのを感じながらも、何故かその子に興味が湧いた。

 背丈は正確には言えないが、丁度家においてある洗濯機より少し大きい程度なので120cmぐらいだろうか――宝石のように美しい萌葱色のロングヘアをした細身の子であった。

 これだけ聞けば普通の女の子なのだが……


 そう、泥に塗れた白いワンピースを着ていて頭から芽が生えていることを除けば……

 明らかに神妙不可思議なその出来事に度肝を抜かれつつも、冷静を装って尋ねた。


「君は誰なんだい?いつからそこにいたのかな?」


 とりあえず、聞いてみた。最初からここには俺だけしかいなかったのは自明の事柄であったが、今の状況を把握するためには聞いておくべきだと判断したからだ。


「え?ずっといましたよ?貴方がここにきた時から……」


 嘘をついているようには見えないが、そんなはずがないのは自分が一番知っている。

 この廃墟の入り口は一つであり、隠れることができるほど場所も物もない。

 考えたくはないがこの子は幽霊、そんな気がした。

 それしか今の状況を説明できる結果は無いと思ったからだ。


(もう少ししゃべってみるか。)


 これほどの状況にも関わらず俺はまだ彼女への興味が消えず、恐怖は不思議となかった。


「どうしてここにいたのかな?」


 まぁ、妥当な質問だろう。


「いたくているわけじゃありません。」


(いたくないのなら、出ればいいのに――それとも呪縛霊か何かなのかな?)


彼女が幽霊だという可能性を疑いつつ、質問を続けた。



「いたくないのなら。出ればいいんじゃない? それとも出られない理由があるの?」



「出られない理由はありました…… けど、もう大丈夫そうなんです。ほら――」




 彼女はそんなことを言いながら、俺の手を指差した。

 先程はめた指輪から緑の糸のようなものがでて、彼女の首と繋がっている。

 よく見れば、彼女の首には細い首輪のようなものがあり、緑の糸のようなものはどうやらツタのような植物らしい。

 気づけば指輪をはめた指の痛みもなくなっていた。



 複雑さが増してゆく現状をどうにか理解しようと頭がフル回転するも、どうやら スペックが足りていないらしい。まったく理解ができなかった。

 そこで俺は考えることをやめた。


「俺に何が起こった? この指輪は? 俺はどうなる?」


 わからないことを全て丸投げした。もう彼女が幽霊でも人でもどうでもよくなった。

 複雑すぎる現状をありのまま受け入れよう。そう思った。


「私も多くはわからないのですが、おそらくその指輪は種みたいなものだと思います。そうすると私は芽。貴方は土のような感じというわけです。」


彼女なりにわかりやすく説明したつもりなのだろう。


「すごくわかりづらくて申し訳ないのですが、その指輪を貴方がつけられているということは、どうやら貴方は私のパートナーになられたんだと思います。」



失敗だった。――



 丸投げした事象はすべて解読不能の暗号となった。ただ唯一わかったことは、俺はとても面倒な出来事に巻き込まれてしまったということ。


「私の名前は “カヤノ”っていいます。  これからよろしくお願いします。」


 そう笑顔で言う彼女の顔からは、どこかに憎めないところがあった。



※途中です。

続く


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