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女王陛下

広い廊下に鳴り響くノック音。


「女王陛下、『紅き番犬』を連れてまいりました」


「いいわよー」


家女中がドアを開ける。番犬の執務室と同じくらいの大きさの部屋は彼らのよりも豪華で煌びやかだ。大理石の床には絨毯が敷かれ、大量の本が詰まった本棚は白い壁を埋めつくしている。入ってすぐの所には白くて大きなソファーと同じく白くて大きなローテーブルが置かれ、その向こう側に赤茶色の大きな執務机が置かれている。王宮でもかなり豪華に仕上げられたこの部屋は、ミスリル王国の女王、マガリの執務室だ。


「失礼します、女王陛下」


「いらっしゃーい」


部屋の中には少々だらけた姿で椅子に座るこの国の王がいた。服は質素なもので、ブラウスにカーディガン、ロングスカートと言った王からは程遠い姿だが、いつも通りなので何も言わない。何でも、

「税金の無駄だわ」

というのが彼女の主張だ。

そんな節約家のこの女ーーこの国の長は、公務の時や来客の相手をする時は国の豊かさの主張と王としての威厳をもたせるため、豪華なドレスで対応している。


「『紅き番犬』ーーエドワード・ヒスベルク、ウェールズ・コンツェント、リコリス・カーヴァネット。ただ今参上しました」


「よく来たな男二人。…いらっしゃいリコリス今日も可愛いわ!」


「ありがとうございます、マガリ様」


マガリ・ミスリル・ルティエント。二年前、17歳のリコリスと20歳のウェールズ、エドワードが『紅き番犬』になると同時に、弱冠22歳でミスリル女王となった。銀髪に赤い目というミスリル王室の特徴を受け継いだマガリ女王は国民から人気が高い。


賢い政策と法案で国をまとめ上げて行く一方、裏社会の王としても君臨した彼女は裏社会で起こる事件ーー正確には表社会に出してはならない事件を解決する役目も持っていた。


「本日の用件はねー…イザベラ、話してー」


「御意」


ーー本日の用件は裏社会についてです。最近、王国に蔓延り始めたマフィアを通じて麻薬が入り始めています。種類はアヘンと大麻。陛下は麻薬の毒による災いが国民に降りかかる事を恐れ、憂いていらっしゃいます。


「その憂いを取り払うのが今回の任務です」


イザベラという名の家女中ーー正確には護衛兼秘書、がつらつらと代弁した。


「承りました。資料は」


「こちらを」


イザベラがエドワードに資料を渡す。それほど枚数の無い資料にはどれも文字がびっしりと詰まり、紙を真っ黒に染めていた。資料を読み始めたエドワードに代わりウェールズ、リコリスは言葉を続けた。


「僕達『紅き番犬』、必ずや陛下の憂いを晴らしましょう」


「全ては女王陛下、貴方の為に」


姿勢を整え、胸に手を当て会釈。


「…よろしく頼みます」


女王はだらけていたはずの姿勢をいつの間にか整った姿勢に直し、先ほどとは全く違う、王としての威厳を持つ声音で返事を返した。


彼女の後ろから、彼女の背負う青と銀白色、赤の国旗が見えていた。


__________



「今回の仕事は麻薬に手を染め、それで一儲けしている貴族ーー麻薬貴族ですか。イヴァン・キース伯爵、ヒュッテ・ヴォイド侯爵、アスベルト・コーデリス男爵の三人」


「この三人がそれぞれ抱えている傘下のマフィアや秘密結社の取り潰し、粛清…だな」


『紅き番犬』の執務室中央、豪華で大きい、柔らかなソファにウェールズとエドワードがリコリスと向き合うように座る。もちろん拳銃とダガーは壁の定位置に戻されているが、各自の私物であるレイピアだけは皆足元に立てかけている。


紅茶の置かれたこれもまたなかなかに豪華な木製ローテーブルを挟み、受け取った資料を回し読みしながら状況把握をする三人。


エドワードが手帳を取り出し、ペンでさらさらと書き込んでいく。


「まずは傘下のマフィアや秘密組織を片っ端からリスト化。とりあえず3日でやろう。どこがどう関わってるかも片っ端から調べるぞ」


「了解」


「となると明日は外で聞き込みですかね…リリアーヌはもちろんですがどうします?郊外まで聞きに行きます?」


「麻薬貴族の三家は屋敷を首都ーーリリアーヌに持っている。郊外になにか所有物があるわけでも無い。だからリリアーヌだけで多分平気だ」


「了解ですヒスベルク先輩」


リコリスは手帳を取り出しメモをとっていく。勿論ウェールズも。


「その後はまだわからないが…とにかく情報だ。資料だけじゃ情報は全く足りない。それに情報が無ければ何も成し得ない」


パタン、と音を立てて手帳を閉じたエドワードが立ち上がる。


「明日の仕事は朝10時から。馬車は…」


ん、とウェールズが手を上げる。


「僕のでいい?もちろん仕事用だからシンプルだし家紋とかは一切ない。エドワードを回収してリコリスの家に行けばちょうどいいよね」


「いいだろう」「問題無しです」


ウェールズは満足げに表情を緩ませるとローテーブルに残っていた菓子ーーローズマリークッキーに手を出した。


そしてその後はエドワードの解散、という言葉でお開きになった。

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