いのちの聖木
それは、ただそこに在った。
存在を必要以上に主張することもなく、ひっそりと、空気のように自然にあった。
3メートルくらいだろうか。人の背丈より少し高いくらいの木がぽつりと生えていた。上部がふっくらと葉におおわれていて、絵本に出てきそうな形だった。
少女は、その木の横に黙って立っていた。そして、その木をいとおし気になでて言う。
「これが、地球のいのちよ。そしてこの枝が、人間のいのちの源泉」
少女はそこで言葉をきり、一本の枝を指す。
「この枝に与えられるエネルギーを使って、人間が生きているの」
『人間のいのちの源泉』の枝は、やけに太っているが軽く、葉は黄色く縮れていた。
「あなたも『全て滅びてしまえばいい』と思ったのでしょ?」
少女が突然、そんなことを言い出した。
「ああ。“も”ということは、お前もか?」
「うん。でも゛これを見て゛滅びてはダメだと思ったわ。この聖木を枯らしてはいけないって
それで、毎日ここに通っていたら、この年齢のまま成長しなくなっていて、私の活動エネルギーは、全てこことつながるようになっていた」
少女がそう言って木に頬を寄せると、確かに一体になって感じられた。
俺が何も言わずに沈黙していたら、少女は俺を手招きして呼んだ。
「ねえ、ちょっとここを見て」
言われるがままに木に近寄って、指された場所を見る。すると、木の根本の土が円状に密度が低くなっていた。
「これは?」
「ここにはね、昔はこの聖木があったの。今なんか比べ物にならないほど、太く高く堂々としていて、立派な木だったのよ。今は痩せてこんなに小さくなってしまった……」
俺はその土を手にとった。空気ばかりで重みのない、乾いて痩せた土だった。
俺は、横にいる少女と同じように、木に体を寄せた。
すると、息遣いのように穏やかで、しかし確かな地球の鼓動が聞こえたような気がした。ふと、手に暖かさを感じてそちらを見ると、少女が俺の手を握りしめていた。
「これでも、全て滅んでしまえばいいと思う?」
俺が答えようと口を開いたとき、洞窟の外から地響きが伝わってきた。また、地上に残されたいのちがあっけなく握りつぶされていく。
「この木は、地球は滅んではいけないな」
少女は、俺の答えを聞いて満足げに微笑んだが、俺はまだ続けた。
「だけど、ほかの人間がここへ来たら、この木を切り倒してでもエネルギーを得ようとするだろう」
少女は驚いて呟いた。
「で、でもそんなことをしたら……」
俺は頷いてみせる。
「ああ、わかってる。そんなことをしたら、エネルギーを得られるどころが人類もほかの動物も全部滅んでしまう。けれど、地上をあんなふうに荒らして平気な連中は、それを信じない」
少女は黙って俺の言葉を待っている。そのとおりだと、納得してくれたのだろうか。
「だから」
俺は、その木を苦しめている枝に手をかけて、大きく息を吸った。
「人間は滅びてしまうのが、この木にとって、地球にとって一番だ」
「え……」
俺の言葉に驚く彼女に、俺は笑いかける。
「お前はこの木と直接つながっているから死なないだろ。お前はこの木を、第二、第三の人類から守るんだ」
「そんな、だめ……!」
止めようとする彼女に構わず、俺は枝を掴んだ腕に力をゆっくりと力を込める。
「地球が、滅びてしまわないように……」
ちょっと短いのかなぁ。
よくわからないです。
次で終わる……予定です。よろしくお願いします。




