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魔法大国の花嫁様!?  作者: 時雨瑠奈
決意する少女
8/33

第七幕 ~告白される少女~

 相沢美冬は、甘いスミレの香りで

目覚めた。

 ベッドのシーツにしみ込ませる香

料は、どうやら日によって違う

らしい。

「おはようございます、ミフユさま」

 にっこりと笑ってあいさつしたのは、

オリヴィアだった。

 他の二人はどうやらいないようだ。

「おはよう、オリヴィア。テレーズと

マリオンは今日はいないのね」

「はい、お客様がいらしているようなので、

接客要員として行ってしまったのですわ」

 オリヴィアははきはきした声で美冬に事情を

話した。

 話しながらも作業をしていて、朝の紅茶が

載ったトレイをティーテーブルに並べている。

 今日のお茶は甘いミルクティー。お茶受けは、

ごまのような粒がたくさんちりばめられた、

クッキーにもビスケットにも見えるお菓子

だった。

 美冬の世界のお菓子ではなくて、フラン

ジェールのお菓子らしい。

「〝クリルア〝です。とても甘いですよ。

星の粒がかかっています」

「星の粒!? 星って食べられるの!?」

「あ、ごめんなさい。星の粒っていうのは、

ミフユさまの世界で言えば、サトウですわ」

 美冬はお菓子を一つ取ると、かじってみた。

ふわり、サクサク、カリカリ……。

 本当に不思議なお菓子だった。

中はふんわり外はカリカリ、感触はサクサク。

 今まで食べた何よりも、甘かった。

そしてこらえきれないほど美味しかった。

「おいしい……」

「それはよかったです」

 もうひとつ、もうふたつ、もうみっつ、と

あまりの美味しさに、美冬はお菓子の皿を

全てカラにしてしまった。

 しまった、と思ったが、気に入っていただけて

嬉しいです、とオリヴィアが笑っているので、

美冬はホッとした。

 怒られるかもしれないと思ったのだ。

 美冬は、なかなかあの世界での癖が抜け

なかった。

 と、その時――。



 扉が唐突に吹き飛んだ。文字通り吹っ飛ば

され、壁にガツン、とぶつかったのだ。

 美冬は目を大きく見開き、オリヴィアは

呆れたように肩をすくめた。

「フィレンカ姫、お転婆もほどほどになさい

ませ。ミフユさまが驚いておられますわ」

 てへっ、と壁をふっとばした犯人である

おてんば姫は、舌を出しておどけてみせた。

 カインにそっくりな人懐こい瞳はきらきら

輝いており、とても可愛らしい。

「ごめんなさい、お姉さま。つい扉を壊し

ちゃった。でもね、あたし、早くお姉さまと

お話したかったの」

「お姉さま?」

 今更ながら、美冬は何故自分を「お姉さま」と

呼ぶのだろうと気になった。

 確かに年上だけれど、彼女との間には何の

つながりもない。

「あなたお兄様と結婚するんでしょう? 

だったらお姉さまじゃないの!!」

 親しそうな笑顔を向けられ、美冬は戸惑った。

この子の顔には、少しも邪気はない。

 本気で自分と仲良くしたいと思っているよう

だった。

「カインお兄様はね、とってもやさしくてカッコ

イイの!! きっと、お姉さまもすぐ好きに

なるわ!! 女の人で、お兄様が嫌いっていう人

私知らないもの!!」

 きゃらきゃらと笑いながら、フィレンカはオリ

ヴィアが入れてくれたミルクティーを飲み始めた。

 かなり〝星の粒〝をカップに放り込んでいる。

甘すぎないかしら、と美冬は思った。

 ペラペラとしゃべりまくる姫に、美冬が弱冠

引いていたその時、また来客が襲来した。

「ミフユお姉ちゃん、久しぶり~」

「ミー!! これからこの城で俺達働く事に

なったんだ!!」

 鳥少女セイレーンのシーレーンと、

狼男ウェアウルフのルーがそこにはいた。

「シーレーン!! ルー!! 会いたかったわ!!」

「あたしも会いたかったよ!!」

「でも、二人とも家に戻ったんじゃなかったの?」

「一度戻ったけど、ミーには世話になってるし、恩を

返したいと思ってここに来たんだ!!」

 四人はすっかり意気投合し、美冬は少しためらい

ながらも普通に話すことが出来るようになっていた。

 次々とお菓子とお茶が運び込まれる。

お菓子とお茶があらかたなくなった時、王子づきの

メイドだというナナが、美冬を訪ねてきた。

「我が主がおよびです、ミフユさま」

「王子が、私を呼んでいるの?」

「はい」

 美冬はナナに案内され、カインがいる場所へと

やってきた。

 そこは、色とりどりの花が咲いた裏庭だった。

赤、黄色、紫、本当にいろいろな花が咲き乱れている。

 綺麗な光景に美冬は思わず息を飲んだ。

「では、私はこれで」

 ナナは帰ってしまい、カイン達は二人きりになる。

カインがためいがちに声を発した。

「み、ミフユ! 手、出して、くれる?」

「え?」

「いいから!!」

 おずおずと美冬が手を差し出す。

カインは笑顔でその手を取り美冬の体が宙に浮いた。

 空中にそのまま制止する。カインの魔法の力だった。

「すごーい、私、空に浮いてる!! こんなの初めて

だわ!!」

「気に入ってもらえて嬉しいよ」

 カインはにっこりと笑った。美冬も笑い返す。

が、次の瞬間彼の顔が厳しい物になった。

 怒鳴られる、と思った美冬は思わず身をすく

めるが、カインの声は尖ってはいたものの

静かだった。

「ミフユ。もう二度とあんなことしないでね。

君が死んだら、ボクもフィレンカも、皆悲しむ

んだよ……」

「ごめんなさい……」

「なんで、君は逃げたの?」

 美冬は深呼吸をしてから、顔を上げた。

もう逃げない。そう決めた。

 寂しそうな顔をしたカインの顔を、真っ直ぐ

見ながら美冬は口を開く。

「私じゃ、あなたを幸せにできないって

思ったの。私より、あなたにはふさわしい

人がいるって」

「そんなことない。ボクは君が好きなんだ!!」

 カインは美冬の体を強く抱きしめた。

彼女の顔が赤く色づく。

「ボクのことが嫌いでもいい!! この世界が

好きじゃなくていい!! 元の世界で幸せに

なれないなら、ずっとここにいてよ!!」

「カイン……」

 美冬の目から真珠のような涙がこぼれる。

彼と長い長いキスをかわしながら、彼女はもう

二度と何があってもいなくなったりはしない、

と心に誓った――。


「カイン、もう離して」

「えええ!? もう!?」

 恥ずかしそうにそっぽ向きながら美冬が

言うと、カインは渋々地面に降り立ち、彼女の

手を離した。

 むぅ、とすねたような顔になっている。

「空の旅はあんまり居心地がよくなかった?」

「ううん、楽しかったわ。でも、ちょっと

怖かったかも。カインの手が離れてしまったら、

私は落ちてしまうもの」

「絶対に離したりなんてしないよ!」

 美冬はカインの腕の中に収められてしまった。

カイン!と美冬が抗議の声を上げるが彼は

離さない。

 痛くない程度に彼の腕に力がこめられ、その

腕が震えている事が彼女の抵抗をやめさせた。

 カインは怖かった。美冬を永遠に失ってしまう

事が、愛しい少女がいなくなってしまう事が。

「……本当に無事でよかった。君がいなくなったって

知った時、すごくショックだったんだよ?」

「ごめんなさい……」

「もう、いいよ。ちゃんと戻ってきてくれたし。――あ、

そうだ。今度僕の兄弟達と父親に会って欲しいんだ。僕の

大事な花嫁だって君の事紹介しないといけないしね!」

 美冬が小さく頷きながらカインの腕を軽く叩くと、

カインは残念そうな顔になりながらも美冬を

解放した――。



 しかし、二人は気づいていなかった。

「なによ、あの女、あんなに王子にくっ

ついて……!!」

 一人の少女が、憎々しげに睨みつけている

事を――。

 ようやく戻ってきてカインに想いを告げられる

美冬。しかし、彼女の試練はまだ始まったばかり

です。

 彼女は幸せになれるのか!?

次回は、カインの兄弟や姉を出したいと思い

ます。

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