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魔法大国の花嫁様!?  作者: 時雨瑠奈
決意する少女
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第六幕 ~救出される少女~

 相沢美冬は、いきなり壊された壁に呆然と

していた。

 黒い目には涙をためたまま、第五王子、

カインを見ている。

 カインの方は、すぐさまそこに足を踏み

入れ、彼女に抱きしめられた狼男ウェアウルフの少年と、

泣き喚く鳥少女セイレーンの少女を見ていた。

 容体を見るや、呪文のような物を詠唱し始める。

「女神の慈悲によりて、彼の者たちを癒せ……

モント!!」

 すると、銀色の光が周囲に溢れて行った。

みるみる内に、彼らの傷は跡形もなく消えて行く。

 コロン、と少年の体内にあったハズの銀塊が、その

場に転がって行った。

 美冬は我に返って二人に駆け寄る。

「ルー!! シーレーン!! 大丈夫!?」

「う……オレ、どうなったんだ……?」

「いたくない!! いたくないよ!!」

 ルーは自分に何が起こったか分からない様子

だったが、シーレーンは治った翼でピョンピョンと

跳ね回った。

 すっかり元気だという事に気づき、美冬は黒い

瞳に滲んだ涙を拭う。

「ありがとう、カイン。二人を助けてくれて……」

「どういたしまして。……よかったよ、君が無事で」

 にこりと笑われ、美冬の顔に朱が差した。

カインが美冬の手を取り、彼女を助け起こす。

 二人の距離がしだいに近づいていき、ルーが慌てて

シーレーンの目を手でふさいだ。

 彼女が暴れ、ルーごと空中に浮かびあがる。

と、その時。

「お姉さま、お兄様、ご無事ですの!?」

 第五王女、フィレンカが部屋に飛び込んで来たので、

二人は慌てて離れた。

 ルーが驚いて彼女の手を離してしまい、落下して頭を

強く打ちつけて涙目になる。

 シーレーンはきょとんとしたような顔で、まだふわ

ふわと空中に浮いていた。

「ご無事のようですね、姫様方」

 フィレンカの肩に乗っていた、小さな妖精ニンフの少女が

にっこりと笑った。

 美冬の事を報告した妖精ニンフだった。

「この子が、お姉さまがさらわれた、って報告してくれ

たんだよ!!」

「そうなの? ありがとう」

「礼にはおよびませんわ、未来の花嫁。……自己紹介がまだ

でしたわね、フィーナと申しますわ。以後おみしりおきを」

「み、美冬です。よろしくお願いします……」

 なんとか救出された美冬はカインやフィレンカやフィーナに

伴われ離宮に戻る事が出来たのだった。

 ちなみに、ルーとシーレーンは元の居場所へとカインの

魔術によって帰され無事家族に会う事が出来たという――。


 離宮に戻った美冬は部屋に一人だけになっていた。

カインとフィレンカが、公務と勉強をサボったという

理由で部屋に缶詰にされてしまったからだ。

 否、フィレンカの友達だという妖精ニンフ

フィーナがちょこん、と小さめのクッションに腰

かけて、ミニチュアなティーセットでお茶を飲んで

いた。王女が代理として来させたらしい。

 村の子供達が持っていた、人形のおままごと

セットみたい、と美冬は思った。

 一度だって遊ばせてはくれず、幼い頃の美冬は

羨ましいと思った事が何度もあったのだ。

 思わず遠い目をしていると、それに気づいた

らしいフィーナが視線を向けて来た。

「未来の花嫁、ご気分はいかがですか?」

「あの、美冬って呼んでもらっていい?」

 花嫁と言われるのも気恥ずかしいし、まだカインと

結婚する事を決めた訳ではないのでそう言われるのは

抵抗があった。

 恐る恐る尋ねると、フィーナはあっさり引き下がって

くれたので美冬はホッとする。

「わかりました、ミフユさま」

 美冬は銀のティーポットから、カップにお茶を注いで

口に運んだ。今日のお茶は、カモミールティーだった。

 とても美味しく気分がすっきりしたけれど、ちょっと

苦かった。

 ミルクピッチャーがありますよ、とフィーナに言われ

たのでティーポットと同じ素材の小さなそれを持ち上げ、

カップに注ぐ。

 味がまろやかになったので、美冬は温かいカップを

抱え込むようにカモミールティーを飲んだ。

 いろいろあったので、喉が渇いていた事を今気づく。

「「「ミフユさまっ!!」」」

 と、その時だった。

 美冬づきのメイド三人、マリオン、オリヴィア、

テレーズが、勢いよく扉を開けて入って来た。

 ノックの事も忘れるくらい、彼女達は慌てていた。

潤んだ瞳が、くしゃくしゃになった髪が、少女達が

美冬をかなり心配していた事を示している。

「ご無事でよかったです!!」

 口ぐちにそう言う彼女たちは、目に涙を浮かべて

いた。

 美冬はいたたまれなくなり、三人に謝罪した。

「心配をかけてごめんなさい……。これからは

しないわ」

「それから、その服汚れてらっしゃいますので、お召

替えをお願いいたしますわ、入浴の準備も出来て

います」

 美冬は、この前の事を思い出して赤面した。

三人がかりで脱がされ、そのままお風呂に入らされた

のだ。

 自分のためを思っての行動だというのは分かっている

けれど、それで羞恥心がなくなる訳ではない。

「あの、今日は一人で入りたいんだけど、いい

かしら?」

「よろしいのではないでしょうか?」

「「マリオン!!」」

 一番年下らしきマリオンが、二つの三つ編みを揺らし

ながら言うと、他の二人の非難の声が上がった。

 しかしマリオンは一歩も引く気はないようだ。

「この年の方だと、他の誰かに肌を見られるのを恥ずかし

がる傾向にありますわ、テレーズ様、オリヴィア殿」

 以外に大人びた口調だった。この前はしゃいでいたよう

だったのは、多少無理をしていたのかもしれない。

 二人が引き下がったので、美冬は一人でお風呂に入れる

事になった。

 何かあったら、という用心のために三人のメイドが外で

見張る。

 美冬は昨日とは違う浴場に通された。かなり広く、お風呂が

いくつもある。そこは大浴場だった。

 美冬ははしゃぎ、泡風呂やら、花風呂やら、牛乳風呂に

いたるまで入りつくし、上がる頃にはすっかり頬が紅潮

していた。

 黄色いリボンやフリルのついたドレスに着替えさせられ、

再びフィーナと二人きりになる。

 他の仕事もあるとかで、三人とは別れたのだ。

美冬達が、出されたビスケットやスコーンに手を伸ばそうと

した、その時だった。

「ミフユさまっ!!」

 入ってきたのは、メイド頭のミステルである。

抱きしめられ、温かいぬくもりを感じた彼女は、もう何が

あっても逃げるのはやめようと思うのだった。

 ミステル。カイン。フィレンカ。テレーズ。

オリヴィア。マリオンと、自分を心配してくれる人達が

こんなにいるのだから――。

 ついにヒーローが到着し、美冬達が

助け出されました。舞台が離宮へと

戻ります。お気に入り登録をしてくだ

さった方と評価をしてくださった方

ありがとうございます!

 いつも励みになっています。

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