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魔法大国の花嫁様!?  作者: 時雨瑠奈
惑う少女
4/33

第三幕 ~捕獲される少女~

 相沢美冬は、走っていた。

黒い髪を振り乱し、黒い目を潤ませて。

 彼女は魔法大国フランジェールの、第五

王子カインに〝花嫁〝として召喚されたの

だった。

 しかし、彼には自分よりふさわしい人が

いると判断し、夜中に城を抜け出して来て

今の状況に至るのである。

 彼が好きなのかは分からない。

でも、彼は幸せになるべきだと思った。

 私なんかじゃなく、本当に選ばれた、彼が

好きになった女の子と、幸せに。

「きゃっ!!」

 美冬は木の根に足を取られ、その場に

転んだ。

 綺麗だった寝間着に、土の汚れがつく。

弁償とかどうしようかしらと一瞬思った

ものの、もうあのお城には帰らないの

だからと美冬は自分を無理やり納得させる

事にした。

「どうやったら、私は帰れるのかしら。私が

帰ったら、彼だってあきらめて他の女の子

と結婚するわ、きっと。私じゃ、彼を幸せに

することなんて、できないんだから」

 ふうっ、とため息を一つつくと、彼女は

また歩き出した。と――。

「ん!? う~!!」

 いきなり後ろから口を布でふさがれた。

顔だけで後ろを向くと、そこには柄の悪そうな

男がいる。

 仲間らしき奴が、もう一人、いた。

「アニキ!! こいつ〝花嫁〝じゃない

ですか!? 髪も目も真っ黒だ。異世界人

ですぜ」

 口をふさいでいる男が、もう一人に言った。

どうやら、〝花嫁〝の事を知っているのは大勢

いるらしい。

 もう一人の男はニヤリ、と笑った。

「それはかなり高く売れるな。それに、上玉

だしな」

(離して!! 離してよ!!)

 美冬はじたばたと暴れたが、力でかなう訳は

なかった。

 大人しくしてろ、ともう一人に手刀を叩き

こまれる。

 頭に鈍い痛みが走り、美冬はそのまま気を

失った。が、男たちは知らなかった。

 その様子を、小さな妖精が見ていた

事に――。



 その頃、第五王子カインは――。

常とは違う目覚めを迎えていた。

「お兄様ああああああっ!!」

「ぐえええええっ!!」

 第五王女であり実の妹の、フィレンカが

いきなり上に飛び乗ってきたのだ。

 思わずつぶれたグエルの様な声が

飛び出す。

「お兄様大変なのおきてっ!!」

「わかった!! 起きたからどいて、

フィレンカ!!」

 たとえ小柄な体格をした幼い妹であっても、

勢いよく腹に乗られてしまうと重く感じて

しまう。

 カインはつい涙目になりながら、妹に

懇願してしまった。

 幸い、フィレンカは素直にひょいっ、と

ベッドから飛び降りた。

 本当におてんばな子だな、と苦笑しながら

カインは起き上がる。

「お姉さまが大変なのよっ!!」

「お姉さまってミフユ?」

「そうよっ!! 妖精ニンフたちが教えて

くれたの。お姉さまが、人身売買ヒューマニアの人

達に連れてかれたって!!」

「何だって!? ミフユが!?」

 カインはベッドからすぐに降りた。バンッ、と勢い

よく扉が開かれる。

 メイド頭のミステルが、血相を変えて飛び込んで

来た。

「カイン様、大変ですっ!! ミフユ様が

いませんっ!!」

 続いて、彼女づきの三人のメイドも入ってくる。

どちらも慌てている様子だった。

「「「ミフユ様がお部屋にいないんですっ!!」」」

 テレーズ・マリオン・オリヴィアが慌てたように

叫んだ。

 カインは慌てて部屋を飛び出し、彼女の部屋に飛び

込んだ。

 ミステル達の言っている事が間違いだとは思わない。

ただ、自分の目で確かめたかった。

 ミフユはやっぱりいない。カインはため息をつき、

へたり込んだ。

「どうして、ミフユ!? どうしていなくなったの!?」

 彼女の部屋は、誰かがいた形跡などないかのように片

づけられていた。

 天蓋つきのベッドの布団は、きっちりと折りたた

まれている。

 銀のティーセットは、ピカピカに洗いあげてあった。

ただ、風呂の匂いの残り香だけが、少女がいた事を

現していた。

「お兄様っ!! 悩んでないで早くお姉さまを探しに

いきましょうよっ」

 声をかけるのをためらうメイド達に変わり、

フィレンカが怒鳴るように言った。

 ぎらぎらと炎のように目がきらめいている。

「わかった!! 僕は今すぐに人身売買ヒューマニアがいる

場所を特定する!! フィレンカは妖精ニンフたちに目撃

情報を確認してっ」

「りょうかいよ、お兄様っ!!」

 フィレンカとカインは、注意をするミステルの言葉も聞かず、

一斉に窓から飛び出した――。



 その頃、美冬は。

倉庫のような場所で目を覚ましていた。

 着ていた服は脱がされ、革製の丈夫そうな服を着せ

られている。

 高そうな服だったから、持って行かれたのかもしれ

なかった。

「ここは……」

「……うわっ!」

 美冬が声を上げると、ビクッ、と銀色にきらめく髪を

した少年が反応した。ふわふわとしてそうな耳がピンッ、

と立っている。

 どうやら驚かせてしまったようだ。

狼男ウェアウルフの少年だった。彼は大きな獣の目で

彼女を見た。

「あんたも、売られたのかい? 人間みたいだけど」

「私、異世界から来たの」

「〝花嫁〝か。なんで逃げてきたの? 城ではよくされて

たんだろ? おいらたちと違ってさ」

「あそこにいても、私、王子を幸せにできないから」

「なんで?」

「なんでって……」

 美冬は困り果てた。彼の目はどこまでも純粋で、言葉に

迷った。少年はなおも言葉を続ける。

「なんで幸せにできないって思うの? そんなの王子が

決めるべきことだろ? あんたが決めるべきじゃないん

じゃないの?」

 と、ギョッとしたように少年が黙った。おろおろとして、

服を探り始める。

 どうしたんだろう。そう思った美冬は、頬を濡らす物を

見て自身も驚いた。いつのまにか、泣いていたのだ。

「これ、使えよ」

 少年はティッシュを差し出して来て、美冬は黙ってそれを

受け取った。

 慌てて目をこする。心配そうに、少年は彼女を見上げ

ていた。

「ごめん……」

「いいのよ。本当のことだから。私、バカだったわ。ちゃんと、

王子と相談すればよかったのよね」

「ねえ、あんた名前は? オレはルー!!」

「美冬よ。よろしくね」

「ミフユ? 言いにくいな、ミーって呼んでいいかい?」

「ええ。いいわよ」

 美冬達が笑い合っている最中に、扉が開けられる音と、

少女の泣き声が聞こえた。

 下っぱらしき男が、鳥の羽根が生えた少女を放り込むと、

また鍵を閉めて去って行ってしまう。

 泣きじゃくる少女に、ルーと美冬は困ったよう顔を見合

わせた――。

 お城から抜け出した美冬が人買いに

誘拐されてしまいます。そこで出会った

少年によって美冬は変わっていきます。

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