第三十幕 ~救われる神の村と元生き神の少女~
エルダはへたりとその場に膝をついていた。
生き物のような炎が、美冬を覆い尽くして
食いつくそうとしている。
カインも同じように膝をついていたが、
彼は彼女を救いだせなかった痛みに顔を歪めて
いた。
がつん、と拳が地面に打ち付けられる。
何度も、何度も。地面に血がしみ込んでも止め
なかった。
本当は泣きたいのだろう、彼女を救えなかった
自分を責めているのだろう。
こんな事になったのは自分のせいだと思っては
いるけれど、彼女にはその気持ちが痛いほど
よく分かった。
「カイン……」
エルダはカインの腕を抑えつけようとして、
振り払われてその場に転んだ。
痛かったけれど、そんな権利などないと声を
あえて上げないようにする。
と、はっとなったようにカインが青ざめて謝って
来たが、エルダは首を振った。謝るのはこっちの方
だった。
自分がここに美冬を連れて来なければ、彼女は
こんな目に遭わないで済んだ。……自分が全て悪い
のだ。と――。
ぽつぽつと雨の雫がその場に降り注いだ。
久しぶりの雨と、冷たい雫に村人達が歓声を上げる。
しかし、エルダもカインも喜んでいられる状況では
なかった。大事な人を亡くしたのだ。
喜べるはずもない。
「あっ!!」
声を上げたのは、誰だっただろうか。
村人の女性か、泣きそうな顔だった美冬の世話役の少女
か、二人には判別出来なかった。
それでも顔を上げた二人の目に飛び込んで来たのは、
なくしたと思っていた大事な人の姿だった。
美冬は燃えていなかった。多少服や体に小さな火傷は
負っていたものの、火の中で燃えていなかった。
何か光のような物が彼女を包んで守っている。
「神様が、美冬を守った……?」
彼女がそう言った時、その言葉を肯定するかのように
雨が一段と大きくなった。
村人はもう喜んでいるばかりではなく、必死に雨水を
集めようとしている者もいる。
ひびわれていた地面や畑、田んぼも久方ぶりに降った
雨で潤っていた。
火が完全に消え、縄は焼け切られていたので、美冬は
二人に駆け寄った。
「カイン!! エルダ!!」
「ミフユ!!」
エルダは駆け寄ろうとしたけれど、あまりに慌て過ぎた
カインがぶつかって来たので動きを止めた。
カインは美冬をしっかりと抱きしめて泣いている。
美冬も生きていた喜びで彼の胸に顔を寄せながら、子供の
ように泣いていた。
「よかった……」
エルダは心からの笑みを浮かべると、雨をその手ですくい
ながらホッとしたように座り込んでいた。
この村も、美冬も救われたのだ。もう、悩む必要もない。
子供達も、村人ももうお腹を空かせて苦しむ事もない
のだ――。
エルダは、巫女を止めると村人に宣言した。
最初は驚きで声さえも出ない村人に、彼女は笑顔でやり
たい事を話した。
「もう生贄とか、そういうことは一切やめにしたいの。
畑を耕して、田んぼの世話をして、巫女としてじゃなく
一人のエルダとして生きたいから。それに、神様はちゃん
と私達を見ていてくれたんだもの。巫女はもういらないわ」
村人達は反対しなかった。そして、エルダや神様、子供
達に今までの事をわび、二度と無精はしないと誓った。
こうして神の村の生贄事件は幕を閉じた。
帰ると言う美冬とカインを、エルダは最後に訪ねた。
「……帰るんですってね」
「うん。皆も心配しているだろうし」
「また会いに来るからね!!」
カイン達の顔は、エルダを一欠片さえも憎んではいない
顔だった。エルダはその事が信じられない。
「なんで、敵の顔を見て笑っていられるの? 私、あんたを
生贄に差し出そうとしたのよ。罰されてしかるべき
なのよ!!」
「罰するだなんて!! それにエルダは敵じゃないわ」
「仕方なかったんだよね」
カインと美冬はあくまで自分を憎んだりしていない。
エルダは泣きながら彼らを馬鹿だと罵った。
罵りながら泣いた。最終的には、美冬に抱き寄せられて
まで彼女はずっと泣いていた。
泣き終わった頃、美冬がようやく口を開いた。
「罰を受けるって言うなら、一つだけお願いをしてもいい?」
「別に出来る限りの事なら構わないけど……」
「私と、友達になって。あなたと本当の友達になりたいの」
そう言うと、エルダはためらったように顔を真っ赤に染め、
再び「馬鹿」と呟きながら頷いた――。
ようやく、次話投稿出来ました~。
魔法大国の花嫁様!?はもうすぐ終わり
ですが、続編の新シリーズも書いてみよう
かなって思っています。




