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魔法大国の花嫁様!?  作者: 時雨瑠奈
旅行に行く少女
30/33

第二十九幕 ~魔法大国の王子と神子~

 エルダは彼に事情を話して

いた。

 彼には自分を知る権利がある。

本当は語りたくなかったけれど、

エルダは全てを彼に明かした。

 カインは黙ってそれを聞いて

いた。

 話し終えた時、エルダは彼が

怒るだろうと思ったけれどそんな

事はなかった。

 彼は一切怒る事はなく、それ

どころか同情したような瞳を

エルダに向けたのだった。

「大変だったんだね、君も」

 エルダは責められる当てがなく

なって焦った。

 恥ずかしさのあまり死にたく

なった。

 どうして、こんな人達を騙したの

だろう。

 彼らは、優しい純粋な心を持って

いるのに――。

 でも、後悔したってそれはもう取り

戻す事の出来ない事だ。

「責めないの? 私は、あなたの大切な

女性を誘拐し、なおかつ犠牲にしようと

しているのよ」

「僕だけが、正義ではないから」

 再び飲み物に手を出した彼の言葉は

簡潔だった。

 エルダもまた飲み物を飲みながら彼の

言葉を待つ。

「村の人達には村の人達の正義が、君には

君の正義が、ちゃんとあるよね。だから、

責めたりしない。だからって、このまま

ミフユを犠牲にさせたりはしないけどね」

「私、まだ、迷っているのよ」

「迷っている?」

 カインの言葉はどこまでも穏やかで、

エルダは彼にずっと思い悩んでいた事

まで打ち明けていた。

 彼になら話してもいい気がした。

「私は、できればミフユを犠牲にしたく

なんてないの。だけど、村を捨てる事も

出来ない。私の帰る場所は、ここしか

ないの。それに、村にはまだ未来の

ある子供達もいる」

 エルダは飲み物を置くと、膝を抱える

ようにして座り直した。

 小さい頃からの癖だが、自分自身では

気づいていなかったりする。

 深く考える時の彼女の癖だった。

「神子様!!」

 悲鳴のような声が聞こえたのはそのすぐ

後だった。エルダもカインも驚き話をやめる。

 叫んでいたのは、美冬の世話をしていた

少女だった。

「大変です、神子様!! 生神様が、生神

様が、村の大人達に連れて行かれてしまった

んです!!」

 少女の紅い頬には、殴られた後さえ

あった。彼女を守ろうとして殴られた

のであろう。

「まだ私は指示をしていないのに」

 エルダは苛立たしげに爪を噛みながら

呻いた。

 自分で自分を責め立てたい気持ちに

駆られていた。

 村人の不満がたまっていた事を、エルダは

知っていた。

 知っていて、何もしなかった。だが、その

結果がこれだ。

「ミフユ!!」

 カインが血相を変えて走り出した。

エルダも、少女に「ここにいて」と指示を出して

走り出す。

 両方に共通する思いは、ミフユが無事でいる

事だった――。


 美冬は考え事をしながらベッドに横に

なっていた。

 思いだした初日はショックのあまり

茫然としたものの、しばらくする内に

記憶はなじんできて、嫌な気持ちはする

ものの気持ちが悪くなったりはしなく

なっていた。

 ただ、記憶のはしに何かがひっか

かっている感じがして、思い出せ

ない歯がゆい事がある。

 自分に優しく声をかける相手の言葉が

浮かんだのに、彼の顔と名前がどうしても

思い出せない。

 思い出さなきゃいけない気がするのに。

彼は、一体誰なのだろうか。

「ボクは君がすきなんだ!!」

「ボクのことが嫌いでもいい!! この世界が

好きじゃなくていい!! 元の世界で幸せに

なれないなら、ずっとここにいてよ!!」

 言葉の数々に、真摯さとミフユに対する愛情が

感じられる。自分も、彼の事を好きだったの

だろうか。

 分からない。思いだせない。

だけど、思い出さなくちゃと言う気持ちが

少しずつ強くなっていった。

「生神様、お食事をお持ちしました!!」

 そこにやってきたのは、美冬の世話係として

働いている少女だった。

 美冬は体を起こして微笑みを浮かべる。

「ありがとう」

「一人で食べられますか?」

「ええ、大丈夫よ」

「あの、これもあたしが焼いたんです。

よかったら食べてください、元気

が出ますよ」

 焼き菓子のような物が並べられた皿と、

りんごのおかゆのような物を置くと少女は

部屋を出て行った。

 りんごのおかゆもどきを口にした美冬は、

ひねくれた言動をするけど仲良くしてくれた

人魚の少女、アクアの事を思い出した。

 他にも、この焼き菓子〝クルリア〝を食べ、

かかっている星の粒の事、テレーズ、フィレンカ、

シーレーン、ルー、オリヴィア、ミステル、

マリオン、出会った女性や男の子の名前と顔が

次々に浮かんで来た。

 ノア、アベル、カナン、セト、ルルリエ、ライカ、

シエリーナ、レイラ、王のカイレーク、王妃の

リエラの顔も。

 美冬は思わず流れ出た涙をぬぐう事なくお菓子を

かじる。どうして、忘れていたのだろう。

 優しくしてくれた彼女達、愛してくれた彼女達、

それを、自分はどうして忘れたりなんてしたのか。

 だけど、彼女はどうしても愛をささやく男の子の

顔と名前だけが思い出せないのだった。

 と――。

「お待ちください!! 生神様は今具合が悪くて

ふせっている最中です!!」

「うるさい!! 何が生神様だ!! そこを

どけ!!」

「嫌です!!」

 世話係の少女と、男性の声が聞こえて来た。

続いて、少女の悲鳴と何かが弾けたような音。

 少女が殴られたのだと気づいた美冬はベッド

から離れてすぐに部屋から出ようとした。

 しかし、男達が部屋を乱暴に開け放つのが

先だった。

「あんたには罪はないが、来てもらおうか。

俺達はもう限界だ。あんたみたいな小娘に

貢ぐ料理の材料だってもう底を尽きそう

なんだよ」

 にやにやと笑う男の一人が美冬の腕を

取ろうとした。

 世話係の少女がぶつかるようにして

それを止める。

「生神様に触らないで!!」

「うるせえ!! もう一度殴られ

たいか!!」

「やめて!! その子に手を出さないで。

私が、行けばいいのでしょう?」

 美冬は本能的に自分に死が迫っていると

気がついていた。

 この男達は、自分を殺すつもりだ、と。

止めようとする少女に優しく笑いかけると、

美冬は男の手を振り払って彼についていった。

 美冬は気づいていなかったが、彼らは罪も

ない少女を殺す事に喜びさえ感じていた。

 彼らが殺人者と言う訳ではない、この娘が

生贄になる、神様への供物をささげるのだと

いう正当性が彼らの罪悪感を消失させていた。

 やがて、美冬の体にぐるぐると縄が渡されて

いった。

 美冬は祭壇の柱にくくりつけられ、身動きが

取れなくなる。

 彼の事を思い出せないまま死ぬのかと思うと悲し

かったが自分に優しくしてくれた少女を、これ以上

傷つけたくなかったのだった。

 火が放たれた。パチパチと火花が散る音が聞こえて

くる。それは美冬のはかされた靴を少しずつ焦が

していた。

 その時――。

「ミフユ――ッ!!」

 飛び出してきたのはカインだった。

止めようとする男達を投げ飛ばし、彼女の前に

やってくる。

 後ろにはエルダがいて、青ざめた顔でそれを

見守っていた。

 ……あつい。炎はとうとう美冬の足まで到達した。

だが、美冬は彼の顔を見たとたん、そんな事はすぐに

忘れた。

 バラバラになったピースがかちりと上手くはまった

時みたいに、彼の顔と名前が浮かんで来た。

 美冬はようやく思い出せた事に涙がこぼれる。

「かい……ん……カイン!!」

「ミフユ!!」

 だけど、もう間に合わない。自分は死ぬのだ。

それでも美冬は幸せな気持ちでいっぱいだった。

 死ぬ前に、彼の事を思い出せたのだ。

「カイン、やっと思い出せた。さようなら……

大好き……」

 炎が裾にまとわりつく。カインが彼女に手を

伸ばそうとした瞬間、炎がさらに猛り狂って

大きくなった。

 カインの悲鳴のような声が、炎の音にかき

消される。

「いや、嫌よ、美冬!! まだ、あんたに

謝ってないのに、話したい事だって、

たくさんあったのに!!」

 エルダの絶叫がその場に響き渡った――。

 カインに全ての事情を話す

エルダ。しかし、その後で

美冬に異変が起こって……!?

 美冬、大ピンチな回です。

はたして、彼女はこの危機から

回避出来るのか!?

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