第二十六幕 ~変わっていく少女~
第五王子カインは、仲間と共に
神の村に向かっていた。
アクア、ルー、シーレーン、
フィレンカ、ミステルで美冬を
救出する部隊は組まれている。
美冬つきのメイド達も行くと
言ったけれど、危険なので城に
残ってもらっていた。
(待っててね、ミフユ……ッ!!)
カインは不安そうな彼女の顔を
思い浮かべ、ぎゅっと拳を握り
ながら心中で叫んだ。
「お姉さま、きっと悲しんでいる
でしょうね」
「ミー……」
「ミフユお姉ちゃん……」
三人も心配そうな顔をしている。
アクアは一見何でもないような顔を
しているように見えたが、眉がしかめ
られていた。
きっと、口には出さないけれど美冬を
かなり心配しているのだろう。
彼らはすぐに村に乗り込んだ。
門の前には門番がいて、ぎょっとしたように
全員を見ていた。
門番とは言っても、明らかに戦闘慣れして
いない、ただの村人のようだった。
着ているのも、鎧などではなく、薄汚れた
服だ。武器も木を削って作ったらしい槍
だった。
「だ、誰だ、貴様たちは!!」
門番はアクア達に木の槍を向けて来た。
ため息をついた後、アクアがすっと彼の前に手を
かざす。大量の水が彼に襲い掛かった。
村をそのまま埋め尽くさんばかりの勢いの水が
その場にあふれだす。
悲鳴を上げ、彼はそのまま水に飲まれてもがき
回った。
アクアはちょっと悲しげな顔になると、
「ごめんね」と小さく言う。
フィレンカ達は男の行動に目を見張っていた。
彼女達には何も見えなかったのだ。
男は何もない所で悲鳴を上げ、まるで苦しむ
かのようにのたうちまわっていた。
そう、このアクアの技は、幻術なのだ。
幻の水を出現させ、男を溺れさせたのである。
動かなくなった男が、ただ気絶しただけである
事を確認してから、彼らはまた歩き出した――。
その頃――。
相沢美冬は、エルダと共にいた。
話をしていて、彼女の顔は嬉しそうだ。
だが、エルダだけはせっぱつまったような、話さ
なくてはまるで死んでしまうかの錯覚を受ける
ような、そんな表情だった。
美冬はそれには気づいていないらしい。
エルダは本心を言うならば、ここにはいたくは
ないのだった。
美冬に対する後ろ暗い気持ちや、悲しみを
味わいたくないから。
だが、自分は巫女だ。我慢しなくてはならない。
美冬が話したいというのならば、無理をしてでも
話をする他ない。
悲しい気持ちを打ち消すかのように、エルダは
声を張り上げて話し始めた――。
その頃、カイン達は村人達と戦っていた。
なんとか門番は倒したものの、道に迷ってしまい、
村人達が住む場所にやって来てしまったのだ。
「皆、殺すんじゃないぞ!! 大怪我も
させるな!!」
「分かったわ!!」
「了解です、お兄様!!」
カインは全員に指示を飛ばしながら、魔術で
強化した拳で村人達を薙ぎ飛ばしていた。
シーレーンが歌で何人か眠らせ、ルーが爪を
しまった拳で村人達を気絶させる。
アクアは何度も幻術を使用していた。
フィレンカはなるべく魔術をセーブした力を使い、
村人を倒していく。
「かなりいるわね……私、疲れたわ」
と、ここでアクアがリタイアした。
幻術はかなりの精神力と集中力が使われる。
なので、長時間の使用は難しいのだ。
シーレーンも歌いすぎて喉を抑えていた。
戦える人数が半分に減り、そのせいで何人かを
逃がしてしまった。
やがて、顔を引きつらせたエルダが彼らの前に
姿を現した――。
「私の村人達を傷つけたわね」
「美冬を傷つけたお前に言える事か!!」
あくまで冷静な声を出そうとする彼女に、
カッとなってカインは怒鳴り声をあげた。
その声に驚いたのか、エルダの後ろにいた
少女がひょっこりと姿を現す。
その顔を見た時、カインの表情が驚きに
染まった。
そこにいたのは美冬だった。
カインの愛しい少女。愛する婚約者がそこに
いたのだ。
「エルダ、美冬お姉さまを返してよッ!!」
フィレンカが鋭い声をあげる。
エルダは嫌な笑い方をすると、あっさりと
了承した。
その答えに、全員は驚愕して目を見開く。
「いいわよ。ただし――」
「ただし、何よ!?」
苛立つような声を上げたアクアが立ち
上がった。
さらにエルダは笑みを深くすると、美冬を
見つめながら言う。
「美冬が、生神様が、それを望んでいるなら、
私も止めはしないわ。ねえ、生神様? 彼らを
知っている? 彼らと帰りたい?」
何か含みがあるのに気付いてカインが眉を
ひそめる。
美冬は全員をちらりと見ると、首を振って
彼らを知らない事を示し、帰りたくない
事も示した。
「あなたたち、誰? 私は分からないわ」
「ミフユ!?」
「お姉さま!?」
「ミー!!」
「ミフユお姉ちゃん!!」
カイン達は悲鳴のような声を上げた。
アクアだけは、こいつが何かしたのでは、と
言わんばかりにエルダを睨みつけている。
しかし、エルダはアクアの鋭い視線など
見ようともせず、ただ指示を出しただけ
だった。
「あなたたち、お客様に退出願うのよ」
『はいっ!!』
追い出せと命じられ、ずらずらと村人が彼らを
取り囲んだ。
青ざめたカイン達は動けない。
「ミフユ、本当に僕達が分からないの?
ミフユ――――!!」
どれだけ叫ぼうとも、彼女は彼の方を一切
見ようとはしなかった――。
ミフユを助け出そうとする
カイン達。しかし、ミフユは
カイン達を覚えてはおらず!?
しばらくシリアスパートで
進みます。あ、最後はハッピー
エンドなのでご安心を。




