第二十四幕 ~神の村の神子姫~
神の村、セレンディス。
それがエルダの故郷だった。
エルダは神の愛し子、村の
神子姫であった。
彼女は生まれつき神子だった。
だが、彼女にはその代わり友が
いなかった。
〝神子〝として必要とされても、
一人の少女として、〝エルダ〝と
して必要とはされなかった。
それでもエルダは村人を愛し、
彼らのために出来る限りの事を
やり、村を守った。
そんな彼女が出会ったのが、
相沢美冬だった。
エルダは最初彼女を〝生贄〝と
してしか見ていなかった。
最初に見た時は、ボロボロの
恰好で儚げで、死にたいと心から
願っているような状態だった。
エルダは同情する半面、苛立つ
ような気持ちさえも抱いていた。
何故やりかえさないのだ、この
娘は。やりかえして、同じ事を
やって、苦しめてやればいいのに。
美冬は一向にやりかえす気配も
なく、ただ逃げて悲しんで世界と
自分の運命を呪うばかりだった。
しかし、その目も心も綺麗な
ままだった。
その事がさらにエルダの心を
騒がせた。
巫女として生きていても、
エルダの心はいつでもざわ
ざわと騒いでいる。
誰にも相談する事が出来ず、
エルダはいつしか心に闇を
抱くようになっていった。
彼女だってもっと汚れれば
いい。
生きているのに、死にたいと
願うなんて許さない。
こんなに綺麗なままで死に
たいなんて許さない。
だから、エルダは美冬を
召喚しようとした。
死にたいのなら生贄として
使ってやろうと思ったのだ。
普通は清らかな乙女、神子が
なるのが普通だったし、エルダも
幼い頃からその覚悟だけはして
来たのだが、彼女には後任が
いなかった。
妹も親もすでになく、村の人間
にも資格を持った者がいない。
エルダを失うという事は、神の
加護、村の後ろ盾を失くすると言う
事だ。
猛反対に遭い、彼女は生贄になる
事が出来なかった。
そこで目を付けたのが、他の清らか
なる乙女を代わりに生贄にするという
手である。
生きる意志をなくし、かつ清らかな
心を持つ乙女。
相沢美冬は資格も条件も申し分
なかった。
召喚しようとしたけれど、彼女は
別の者に召喚されていた。
魔法大国フランジェールの、第五
王子カイン。
彼が彼女を召喚したのだ。
ボロボロの恰好で現れた少女に彼は
同情し、いつの日か愛し、彼女を
自分の花嫁として扱う事に
決めていた。
何故その事をエルダが知っている
のかというと、こっそりと様子を
うかがっていたからだ。
美冬はしだいに彼に心を開き、
友達も出来、明るくなっていった。
もう死にたいなどと思いもしない
だろう。
エルダは歪んだ想いで彼女を
見つめていた。
幸せになった彼女を嬉しく思う
反面、何故か酷い目に遭わせたいと
思ってしまうのだった。
エルダは心をおさめようと努力を
した。
そんな事思ってはいけないと、彼女
以外の者を生贄にしなければならないと。
だけれど、他には条件にあてはまる者は
一人もいなかった。
生贄は一人でなくてはいけない。
たった一人、清らかなる乙女を生贄に
しなくてはいけない。
困ったエルダは、心を押し殺して美冬に
近づいた。
協力者を雇い、美冬達を働かざる状況まで
追い込み、彼女の親友という役割を手に入れた。
そして、彼女の信頼をもっとも得た頃に、
彼女は美冬を攫ったのだった。
彼女はエルダを責め、泣いた。
心が痛まなかった訳ではない。
でも、村のためと割り切り、エルダは彼女を
村に連れて行ったのだった――。
今回はエルダの事情などを
いろいろと書いてみました。
美冬を裏切ったエルダですが、
彼女にもいろいろ事情があったん
ですよ~という事になってます。




