第二十三幕 ~攫われた少女~
第五王子カインは、目覚めた時
一瞬最後の場面が思い出せ
なかった。
頭に鈍痛が走り、ようやく
はっきりと覚醒する。
自分の婚約者であり、愛した少女
ミフユは誘拐された。
彼女が友と信じた、エルダという
少女によって。
カインは彼女の協力者に頭を殴られ、
気絶していたのだった。
「ミフユ……」
立ち上がりかけて呻くと、足音が
聞こえた。
カインは振り向いてその人物を睨
みつける。
「誰だ!!」
人物はためらいがちに彼を見つめた。
その人物は、エルダに雇われていたという
おかみさんだった。
その背後にはサフェナと言われた少年が、
こちらの様子を窺うように見ながら隠れる
ようにしている。
「何の用? 僕を笑いに来たの?」
「手当てしに来たんだよ。あの子を、
エルダを悪く思わないでおくれ」
「悪く思えないはずがないだろ!!
あいつはミフユを攫ったんだ!! 事情が
あったって許せるものじゃない!!」
叫んだ後、カインは頭を押さえて呻いた。
おかみさんが悲しげな顔になり、少年が
キッとカインを睨みつける。
「何も、知らない癖に! 姫様は、好きで
そんな事をしたんじゃない!」
幼い少年の金の瞳が、怒りを秘めてぎらつく。
でもカインだって退くつもりはなく、黙って
彼を睨みつけてやった。
と、バタバタといくつかの足音が響き、
見知った者達が現れた。
「フィレンカ!! ルー!! 皆!!」
そこにいたのは、カインの実妹・フィレンカ、
美冬の親友であるルーとシーレーン、そして
カインの幼馴染であるアクアだった。
「お兄様、助けに来たわ!! 早く帰り
ましょうよ」
フィレンカは以前見た時よりも大人びて見えた。
ルーがその手を握っているのを目ざとく見つけたが、
あえてカインは黙っていた。
いつの間にやら、フィレンカとルーは前より親しく
なっていたようだ。
妹の事は愛しているし、複雑な物を感じない訳でも
ないけれど、カインはそこまで彼女に干渉するつもりも
彼女に近づく男を排除するつもりもない。
「お姉さまは?」
「あれ、ミーがいないじゃん」
「ミフユお姉ちゃんどこに行ったの~?」
「何よ、折角来てやったのに」
カインはためらうような様子を見せたが、口を
開いて事情を説明した。
「攫われた……」
『え?』
全員の声が見事にかぶった。カインはため息を
つき、もう一度説明する。
「美冬は攫われたんだ――!」
『ええええええええっ!!』
再びハモった全員の悲鳴がその場に響き
渡った――。
その頃、美冬はエルダに連れられて
彼女の故郷に来ていた。
エルダの力はかなり強く、美冬には
逃げる事など出来ない。
それに、エルダの村の人間らしき男が
開いた片手を掴んで拘束していた。
「エルダ、私をカインのもとへ帰して!!
帰りたいの!!」
「駄目よ。大事な人柱を逃す物ですか」
エルダは彼女が世界を呪い、自分の運命を
呪った頃からずっと狙いをつけていた。
自分の死を願っていた美冬。
だから犠牲にしても構わないと思って召喚
しようとしたのに、先に魔法大国の王子が
召喚してしまった。
その後も彼女を狙って襲撃をかけたが、
魔法大国の人間にはかなわずに彼女を連れて
行く事が出来なかった。
そんな時に聞こえたのが、美冬と王子が婚約
旅行をするという話だった。
だからエルダも出かけ、手ごろな孤児の少年と
中年の女を雇った。
そして、エルダは神子姫としての任務を果たした。
村のために、死んでもらう生贄、人柱を連れて来た
のだ。
「――村長、人柱です」
「エルダ、お願い!! 私を帰して!!」
「うるさいな、黙っていてくれる?」
闇の色をした光がエルダの手から放たれた。
美冬は直撃を受けて倒れ込む。
彼女が気絶する寸前見たのは、エルダの悲しげな
顔だった――。
アクアが作ってくれた水枕を額に当てながら、
カインはエルダが雇ったという女性の話を
聞いていた。
金で雇ったという話だったが、エルダは何でも
彼女に話していて、彼女はまるで本当の娘のように
感じていたという。
サウェナと呼ばれた少年も、いろいろと聞いている
らしく彼女を慕っているようだった。
「あの子だって、本当は辛いんだよ。ずっと一緒にいた
んだ。情が芽生えないはずがないだろう」
「でも、エルダは美冬を攫った――」
「あの子は神子姫なんだよ。責任も義務もある。だからって、
やっちゃいけない事だけどね」
ルー達は黙っていた。彼らはエルダの事を知らない。
だから何も言うことが出来なかった。
サウェナは悔しそうな顔だった。
「姫様だって、こんな事したくないのに……」
「ミフユ……お姉ちゃん……」
ぽつりとシーレーンが呟いた。
甘い香りのお菓子がたくさん出されていたけれど、誰も
手をつけることはなかった。
ただ悲しげにうつむくばかりだった。
「あなたは、知っているんですか? エルダの居場
所を……」
「知っているよ」
カイン以外の全員の顔が輝いた。
アクアだけは、その後で顔を赤らめてそっぽ向いたが。
ミフユの居場所を知っていて嬉しかった、というのを
認めたくないらしい。
「あの子は、そこで彼女を生贄にするつもりだよ。早く
行っておあげ!! 間に合わなくなるよ!!」
「おかみさん!」
サフェナがエルダを裏切るのか、と言いたげに彼女を
睨みつけた。他のメンバーも驚いたように彼女を見て
いる。
「あなたは、エルダの味方ではないんですか?」
カインはあくまで冷静だった。女性はうつむく。
しかし、次の瞬間には顔を上げていた。
「味方だよ。このままミフユを生贄にしたら、エルダは
一生後悔する。あたしは、あんたたちよりエルダと一緒に
いた時間が長いんだ。そのくらい分かるよ――サフェナも、
分かるよね」
カインは黙った。シーレーン、アクア、フィレンカ、ルーを
見つめる。彼らはしっかりと頷いた。
サフェナはもう何も言わず、黙っておかみさんの手を不安
そうに握っていた。
大丈夫だ、と言いたげにおかみさんが彼の頭を撫でる。
「一緒に来てくれる?」
『もちろん!!』
全ては彼女を助けるために。
全員は団結して彼女を救うために動き出した――。
今回はカイン達中心のお話です。
後半、美冬達も出てきますが。
誘拐された彼女を、カイン達が
取り戻す決意を固めます。
アクアは、完全にツンデレに
なって来ましたね(笑)。




