第二十幕 ~攫われかける少女~
相沢美冬は、第五王子カインと
働いていた。
だが、彼とは違う役職である。
美冬は料理全般と皿洗い、カインは
力仕事や雑務全般だった。
「ミフユ、ここはこうやるのよ」
一緒にやるエルダと美冬はかなり
仲が良くなっていた。
それを見るたびに、何故かカインは
不安を隠せない。
彼女は何か隠している気がして仕方
ないのだ。
それが何かはカインにも分かっては
いないのだけれど。
「ねえ」
「うわっ!!」
カインは声をかけられて飛び上がった。
いつの間にか、そこにはエルダがいたの
である。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない……」
「何か用?」
気恥ずかしいやら苛立つやらで、カインは
思わずぶっきらぼうに言い放った。
それを見ていた美冬が、怒ったように言う。
「カイン、そんな言い方はないんじゃない
かしら」
「美冬……」
カインは悲しそうに彼女を見つめると、歩き
出した。
ぐいっとエルダがその腕を掴み、睨むような
視線を向ける。
「ねえ、話があるんだけど」
「早く言ってくれない? 僕も仕事があるん
だけど」
カインは苛立つ気持ちを抑え込むのに大変
だった。
彼女は似ている。真夜中に襲撃してきた少女に、
非常に似ているのだ。
彼女だと断定する理由も、証拠もないし、美冬を
心配させたくないから言わないけれど。
だが、それでもカインはこの少女はあの時の子
ではないかと思っていた。
だから、つい辛く当たってしまうのである。
「カインはミフユとはどういう関係?」
「なっ!? か、関係ないよ、君には!!」
「関係なくはないわ。私はミフユの友達よ」
カインは思わず舌打ちしたくなった。
美冬が見ていなかったら、きっとやっていただろう。
顔が火を噴いたと錯覚しそうなくらい熱を持って
いた。
ちらりと見てみると、美冬の顔も同じくらい
赤い。
「婚約者だよ。それが何?」
「どうもしないわ。聞いてみたかっただけよ」
にっこりとエルダは笑っている。
何故かカインにはそれが不気味な笑みに見えた。
仕事があるからと二人から離れる。
ムッとしたように、美冬はカインを睨みつけて
いた。
「ごめんなさいね、エルダ。カインはちょっと
疲れてるみたい……」
「私は気にしてないわよ。きっと、彼ヤキモチを
焼いているんじゃないかしら」
「ヤキモチ?」
「私達が仲がいいからヤキモチ焼いてるのよ」
美冬の顔が再び赤らんだ。頬に手を当て、
エルダを涙目で睨みつける。
「もうっ、からかわないでよ」
「あら本気で言ったのに」
くすり、と笑った顔は、やはり美冬にとっては
安心を抱かせる笑みだった。
彼女のそばにいるとなんだか安心出来る。
もちろん、カインのそばの方が心地よいけれど。
美冬には何故カインが彼女に辛く当たるのかが
分からなかった。
エルダはヤキモチだと言ったけれど、どうしても
そうとは思えない。
いつもは温厚な彼にしては、非常に珍しい事
だった。
「こらっ、何さぼっているんだい!!」
「ご、ごめんなさい……」
「今やるわ、そんなに怒らないでよ」
怒鳴られたので、二人はそれ以上の会話を続ける
事ができなかった。
美冬は二度目の目が回るほどの忙しさを味わい、
夜寝る頃にはもうくたくただった。
エルダと同じ部屋をあてがわれたが、彼女は買い
物に行くと言うので、一人で先に寝る事になって
いた。
すこやかな眠りが彼女を支配する。
美冬は熟睡していた。揺り動かされても、ひょっと
したら起きないかもしれない。
と――。
「お迎えにまいりましたよ、お姫様」
美冬が寝ている部屋の窓辺に、少女が一人、立って
いた。フードと口もとのマスクで顔を隠している。
闇にまぎれられるような黒衣の姿だった。
「さあ、こちらに……」
少女は部屋に降り立つと、美冬を抱き上げてまた窓辺に
移った。美冬は眠っていて起きない。
このまま攫われてしまうのだろうか。
と、その時だった。
「ミフユに何をしてるんだ!!」
そこに駆け付けたのは、カインだった。
少女は舌を打ち、一旦部屋に戻る。
カインは眠れなくて外を散歩している最中に、彼女が
誘拐されようとしている所を発見したのである。
魔法の力も借りて窓によじのぼると、カインは部屋に
入り込んだ。
「な、何!? きゃあああっ!!」
カインの声で、ようやく美冬は目覚めて暴れ出して
しまった。再び舌打ちの音が響く。
「大人しくしろ、殺すぞ!!」
「きゃあああっ!!」
少女は押し殺したような声で脅したが、すっかり恐慌
状態に陥っている美冬は叫ぶばかりだった。
とりあえず美冬を下ろし、誘拐班は一度部屋の外へと
飛び出す。
その後を、カインが慌てて追って行った。
「よくも、ミフユを……!!」
「っきゃあああっ!!」
カインは巨大な炎を少女に浴びせかけた。
少女はよけたけれど、少しかすってしまったよう
だった。
そのまま少女は窓から落下する。
カインはぎょっとなって窓から外をのぞいたけれど、
少女の姿はそこにはなかった。
「カイン……」
「ミフユ……」
部屋に戻ると、今にも泣きそうな顔をした美冬が
抱きついてきた。
カインは優しく彼女の背に手を回す。
「怖かったね、もう大丈夫だよ」
「ありがとう……。ひどいこと言っちゃって
ごめんね……」
「いいんだよ……」
二人はそのまま抱きあい、エルダが帰ってくるまで
そのままでいたのだった――。
久々の魔法大国~です。
美冬と仲良くなっていく
エルダに、何故か不安に
なるカイン。
そして、その夜とある
事件が起こって――!?




