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魔法大国の花嫁様!?  作者: 時雨瑠奈
惑う少女
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第一幕 ~召喚される少女~

 ここは、魔法大国フランジェール。

緑に囲まれた美しい、魔法使い達が作り上げた歴史を

持つ国である。

 今まさに、その国の荘厳そうごんなる王宮では秘儀ひぎが開始

されようとしていた。

 魔法大国の王族が、一生に一回だけしか使えない秘

術をもちいたものだ。

 儀式の中心にいるのは、五男のカイン・ルク・フラ

ンジェールだった。年は十五。

 十人兄妹の中で一番の美形といわれて、国民から人気

がある。

 灰金色アッシュ・ブロンドの肩までの髪、いつもきらきらと瞬く金の瞳。

顔はどちらかというと中性的だった。

 髪を伸ばせば、女性にも見えるだろう。

王子は高めの美しい声で歌うように呪文を唱え始めた。

 彼の血のつながった妹姫、フィレンカ・ルク・フラン

ジェールが、目をきらきらさせて未来の姉の登場を今か

今かと待っていた。

 兄と同じ色の髪を三つ編みにして両側に垂らしている。

 金の瞳は宝石のようだった。

ちなみに、魔法大国の王族には養女制度も取り入れられ

ているので、カインとフィレンカには血のつながらない養

子の兄や姉がたくさんいて、フィレンカは五女、カイン

は五男だった。

 血の繋がりが有益という訳ではないけれど、カインは

王の実子じっしで優秀なので未来の王ではと噂されていた。

 この儀式は、異世界から花嫁を召喚する、という物だ

った。

 はるか昔から、ここではこの秘儀のもと、王族は花嫁

または花婿と結ばれるのである――。



 しばらくの後に呪文は終わった。

王子が立っている、儀式のために造られた台座が虹色の

きらめきを見せる。

 やがて、一人の少女がふわり、とその場に現れた。

美しい娘だ。その美貌は、全員が息を飲むくらいだっ

た。

 侍女達や、カインの姉である姫君方、カインの兄であ

る王子達もその美しさに見とれていた。

 が、悪い所が無い訳ではない。

少女の肌にはところどころ痣があったし、美しい黒髪は

ほつれていて、服はボロボロだった。

 カインは少女の様子を悲しく思うのと同時に、愛しさ

がこみあげて来た。

 この少女を、王子は瞬時に愛してしまったのだった。

「ようこそ、僕の花嫁」

 カインは眠っているらしい少女の足元に膝をつくと

そう声をかけた。

 少女はぴくりとも動かない。

しかし、脈も心音も正常なので生きているのだろう。

 そ、っと傷だらけだがなめらかそうな腕に触れてみる。

かすかだが、ぴくりと腕が動いた。

「君の名前は、なんていうのかな?」

 カインは少女が起きてくれるという望みをこめて

つぶやくが、やっぱり少女は眠ったままだった。

 兄達がからかいと苦笑を向けるのにも気づかず、

カインは少女を抱き上げた。――驚くほど軽かった。

「――ミステル、部屋は用意してある?」

「はい、もちろんでございます」

 幼少期から使えてくれている忠義な女官長ミステルは、

王子に問いかけられにっこりと微笑ほほえんだ――。



 相沢美冬は、薔薇に似た甘い香りの中で目覚めた。

頭がぼうっとしていた。

 立ち上がりかけ、痛みでうめく。

まだ覚醒かくせいしていない頭で、美冬は自分は死んだの

かしら、と思った。

 あんなに高い場所から落ちて、しかも土の中に埋めら

れたのだ。生きているはずがない。

 ここはどこ? 天国? それとも、痛みがあるから、

地獄? 

 でも、地獄ってこんないい香りががするのかしら。

美冬は訳が分からなかった。

 今彼女が寝ているのは、薔薇の香りと思われる香水が

しみこませてあるふかふかの寝台だった。

 寝心地がいいが、今まで寝た事もない柔らかなベッド

に美冬はついためらってしまう。

 服も着ていたはずの物ではなく、真っ白くて薄いワン

ピースのような物だった。

 レースというのだろうか、ふわふわした物がたくさん

ついていて、村の女の子達がつけていたリボンとかいう

物までついていた。

 どちらも美冬が持っていない物だった。

今までとは、全然違う目覚め方だ。

 美冬は、いつも子供達に起こされるのが定説だった。

 いつも堅い床の上に、どこかから取って来たダンボー

ルを敷いて寝ていた。

 なのに、これは一体どういう事だろう。

これは神様が死に行く自分に与えた幸福なのだろうか。

 と、いきなりノックの音と共に、扉が開いた――。



 扉を開いた人物は、びっくりしたように目を見開いて

いた。

 美冬の家に元はいた使用人と、こちらの方が衣装は高

級そうだが、大体同じような格好だった。

 紺色のワンピースにレースとフリルとかいう飾りを飾

ったエプロンをつけている。

 年は三十代くらいだろうか。

美冬は思わず身構えた。彼女は天使かもしれないと思っ

たのだ。

 ここは美冬が以前いた場所ではない。

警戒するのは当然だった。

 藍色がかった淡い金の髪を短く切り揃え、同色の瞳を

輝かせた女性――ミステルは口を開いた。

「あらあら、お譲さん、どうしたんですか? 傷は痛み

ますか?」

 美冬は彼女の顔と声を聞いて体から力を抜いた。

彼女はどことなく、雰囲気が育ての親に似ていたのだっ

た。

 そして自分の体を見てみると、包帯がぐるぐると巻い

てあるのに気付いた。

 肩や腕、頭にも巻いてある。

ミイラとはいかないが、もう少しでミイラ風になる所だ

った。

「傷を癒してさしあげたかったんですが、昨日は医療班

がいなかったんですよ。今日は癒せますよ」

「ここ、どこなの?」

 かたい声が美冬の口かられた。

ああ、と女性はうなずいた。

 どことなく気遣わしげな笑みから、少し嬉しそうな笑

みに変わっていた。

「ここは魔法大国フランジェールの離宮ですよ。フィ

レンカ様と、カイン様と、王妃様がお住みになっていま

す。私は、メイド頭のミステルと申しますわ」

「ミステル!!」

 少女のような声が部屋の外から聞こえると共に、高級

そうな木の扉が音を立てて唐突とうとつに吹き飛んだ。

 美冬は思わずびくっとなり、零れ落ちそうなほど黒の

瞳を大きく見開いて固まる。

 飛んできた破片が、美冬の肌にさらに傷を刻んだ。

体が痛みを覚える事に、美冬は衝撃を感じて黙り込んだ。

 ここは死の世界ではない。

傷を負うのだから、どこか別の世界である。 

「カイン王子!! 魔術は控えなさいと言っているで

しょう!! お譲さんがびっくりしているじゃありませ

んか!!」

「ごめん、ミステル!! と、そこの黒髪の君。おどろ

した?」

「ここは、天国でも地獄でもないの?」

「え、違うけど……」

「なんで余計な事したのよ!!」

 いきなり怒鳴どなられ、カインは目を見開いた。

構わず美冬は彼に詰め寄るとさけぶ。

「私は、もう生きていたくなんかなかったのに!! やっ

と、あんなつらい人生に終止符が打たれたのに!! なんで、

なんで、余計な事!!」

 言ってから、美冬は身構えた。

なぐられるだろうか。それとも、中傷を投げられるのだろ

うか。

 村の少年達に口答えすると、いつも女の癖にうるさい、

と頬を張られた。

 ……他の村の少女達は決して殴らなかった癖に。

が、王子は、美冬が考えた事はしなかった。

 ただ、悲しそうな顔をしていた。

美冬の言葉に、境遇きょうぐうに同情するかのように。

 美冬はそのままふわり、と王子に抱き寄せられた。

彼女は目をさらに見開いて動けなくなった。

 今まで、男性にそんな事をされた事はなかった。

彼らは怒鳴り、中傷ちゅうしょうをし、暴力をふるうばかりだった。

「辛い目にあってきたんだね、でももう大丈夫だよ。僕が君を

愛するから。大事な、可愛かわいい、僕の花嫁」

「花嫁!?」

「ミステル、彼女に話していないの?」

「今話しますわ。古来より、ここの国では、花嫁を異世界から

召喚する風習があるのです。それによって、召喚されたのが、

あなたなのですよ」

 美冬は首を振った。どんっ、と王子を突き放した。

王子は首をかしげて、なぜこんな事をされたのか分からない様

子である。

 美冬はキッと彼をにらんで叫んだ。

「この私が花嫁!? 信じないわ!! 信じてたまるものですか

!! どうせまた、だますのでしょう!?」

「だますってなんの事?」

「私はもう、誰も信じないって誓ったのよ!!」

 美冬だって、お伽噺とぎばなしを読んでもらったりして、いつかは自分

にも王子様が迎えに来てくれる、と本気で思っていた時期があっ

た。

 ラブレターをもらい、うかれて書かれていた場所に行った。

が、いつもで待っても誰も来なかった。

 後で、村の子供達にだまされていたのだと知った。

お前なんかに、王子様が来る訳ないだろ、とからかわれた。

 その言葉と、だまされていたという事実は幼かった美冬みふゆをかな

り傷つけたのだった。

 すっかり心を閉ざしたような様子の少女に、カインはこまった

ような顔をするだけだった――。

 美冬が異世界に召喚

され、魔法大国の王子の

花嫁に大抜擢されました。

 でも、つらい目にあって

きた彼女はカインたちを

信用しません。

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