第十七幕 ~旅に出る少女~
相沢美冬は、ミステル達に
囲まれてだんだん元気になって
来ていた。
拗ねたような顔をしつつも、
アクアもほぼ毎日通って来て
いる。特に、カインは仕事の
合間を縫って毎日やってきた。
彼の方も、顔色はだいぶ良く、
もう仕事をやっているのだ。
ちゃんと仕事してるんですか、
とメイドやメイド頭達に疑われて
いるけれど、カインは仕事を放り
出してまで会いに来る人ではない、
と美冬は思っている。
「ねえ、旅行しない?」
そうカインに言われたのは、美冬が
普通に食事を出来るようになってから、
かなり経った頃だった。
「旅行?」
美冬はお菓子をつまみながら言った。
今はお茶の時間である。
お茶受けは、クッキーのようなビスケットの
ようなお菓子、〝クルリア〝だった。
お茶は甘い香りのする、美冬の世界のアップル
ティーである。
カインの兄のアベルが、また手に入れてくれたの
だった。どうやって手に入れているか、までは美冬
にもカインにも分からないのだが。
「うん!! ミステルが、婚約旅行に行ってきたら
どうかって!!」
「えーと、それって、二人だけって……事、かしら?」
美冬の白い顔がみるみるうちに赤くなって行った。
婚約して、思いが通じ合ったとはいえ、まだまだ
初々しい二人だ。
カインも同じように赤くなっていた。
甘くなりかけた雰囲気を、フィレンカの声がぶち
壊す。
「ええええ、あたしも行きたい~~」
「バカ!! 婚約旅行だぞ!? ちょっとは無い
頭で考えろよなっ」
「なんですって!! ちびっこのくせに!!」
「誰がチビだ!!」
頬を膨らませてフィレンカは文句を言っていた。
ルーに額を小突かれ、口ゲンカになっている。
シーレーンは今日はお休みのため、出かけていて
いない。
「そうだけど……駄目?」
「駄目じゃないわ……」
見つめ合う二人を、尋常じゃない目でアクアが
見ていた。
このバカップルが!! その目は確実にそう
言っていた。
メイド三人がお茶を飲ませて慰めている。
まだ心の整理はついていないらしい。
諦めるのも、好きだと気づく以上に難しい事
ではある。
カインの馬鹿、と小さくアクアが呟いたが、
言われている等の本人であるカインは気づいて
いなかった。
まあ、二人に悪気がないのは分かっているので、
アクアはそれ以上強くは言えないのだった。
「行きましょう、カイン」
「行こう、ミフユ!!」
こうして二人は旅費の入った財布と旅券だけを
持って旅行に行った――。
「うわあ、私、旅行って初めて!!」
美冬は馬車から身を乗り出して窓の外を見て
いた。
その黒い目は、きらきらと子供のように輝いて
いる。
美冬は旅行に行くのが初めてなのだ。
両親と一緒だった頃は、当然一緒に行かせては
くれなかった。
村の外にすら行かせてもらえなかったのである。
美冬がとても嬉しそうなので、カインはさらに
嬉しくなった。
そうしているうちに、最初の目的地の都市ガザール
へとたどり着いた。
馬車を降りて金を払い、軽い食事を取る事に
する。
「ミフユ、何食べたい?」
「どうしようかしら……」
都市ガザールは露店が多かった。
あたりを探していると、誘拐された時に食べた美味しい
食べ物、〝ショコルーン〝が売られている屋台があった
ので、それを買ってもらい、美冬は笑顔で頬ぼった。
チョレートに似た味は、やはり最高のお味である。
旅を楽しみながら美冬はカインに笑顔を向け、カインも
また笑顔を浮かべるのだった。
美冬は、その後も屋台を巡り、そんなにお腹のタシにも
ならなそうなお菓子や、おもちゃのブローチなどをねだっ
たりと、珍しく子供のように我がままを言ってはカインの
笑顔を深い物にさせたそうな――。
美冬とカインが婚約旅行に出発です。
今回は久々に二人だけで過ごすシーンを
結構書けました。
楽しそうにしている二人を見るとなんだか
微笑ましかったですね。




