第十五幕 ~悩む少女~
相沢美冬(は、青ざめた顔でお花畑に
座っていた。
座ったまま動かない。否、体が動かない。
「好きじゃないなら、カインのそばをうろ
ちょろしないで!!」
そう怒鳴った少女は、辛そうだった。
自分のせいで不幸な目にあう子がいる
なんて。
ここでは、美冬は求められていたけれど、
傲慢だったのだろうか。
愛されて当然だと思っていたのだろうか。
あの美冬なのに。いじめられっ子の、いくじ
なしの、役立たずの美冬。
「私、傲慢だったよね……。カインのことを
本気で好きじゃないかもしれないのに、彼の
花嫁になろうとした……」
美冬の心の暗い闇が頭を上げた――。
「お姉さま私の勝ちよ!!」
部屋に戻ろうとした時、飛び出して来た
フィレンカが笑顔で言った。
そこで美冬は、ようやくかくれんぼの事を
思い出した。
「おしかったよなあ、ミー。二人は見つかったん
だけど」
「次やるときは、見つけられるよ。お姉ちゃん!!」
「そう……」
ルーとフィレンカは首をかしげた。
美冬の顔は、かくれんぼに負けたからという訳ではない
気がしたのだ。
あんなに張り切っていたけれど、この表情はひどく
青ざめていて、たかが遊びで負けたからといって、こんな
顔をするだろうか。
シーレーンは気づいていないらしく、ふわふわと笑顔で
空中を飛んでいた。
「ミー、どうした? 具合が悪くなったのか?」
「お姉さま、どうなさったの!?」
驚いたように二人が聞いてきたけれど、美冬はあいまいに
笑って彼らと別れた。
今は誰とも会いたくなく、一人で考えたかった。
彼女の言葉は、ただのきっかけだった。
ショックだったけど、その通りだと思えた。
わからない。彼のことを愛しているのか、好きなのか、
わからない。
彼の優しさに甘えていたのだろうか、と美冬は考えた。
そして、気づいた。美冬は、一度も彼に好きだと言って
いない。
カインは何度も言ってくれたけど、美冬だけが言って
いない。
「カイン……」
「呼んだ?」
「きゃっ」
小さく呟いた時、当の本人が顔を出したので、美冬は飛び
上がりそうになった。今、一番会いたくない人だった。
美冬の部屋に行こうとしていたらしく、笑顔で歩み寄って
来る。
「ごめんね、おどかしちゃって。ねえ、散歩しない? いい
所があるんだ。湖と花畑があるところ!!」
さっきの人魚がいたところだ!!
美冬は慌てて首を振った。勢いよく振りすぎたため、首が
痛くなる。
「今、具合が悪くて……」
「そう……」
カインの顔が悲しみで染まった。しまった、と美冬は
思う。
さっきまで出歩いて、部屋にいなかったのだ。
具合が悪い人間は、そんな事しない。
嘘をついて断られた、と思ったのかもしれない。
「ごめん、また、今度ね」
カインが行ってしまう。
美冬は思わず引き止めそうになり、なんで引き止めるの
だと、自己嫌悪した。
美冬は暗い気持ちで部屋を開けた。そこには、ミステルが
いる。勉強の途中だった、と今美冬は思い出した。
「授業の続きをしましょうか?」
「ごめん……ミステル、また今度にしない? ちょっと疲れ
たの」
「あらあら、姫様たちにも困ったものね」
ミステルは疑いもせずに部屋を出て行った。
美冬はふらふらとベッドまで歩み寄り、倒れ込む。
スミレの香りがただよった。
「ううっ!! ……っく!!」
美冬は一人きりで声を殺してただ泣いた――。
美冬はそれから、一人でいる事が多くなった。
カインの誘いも、フィレンカ達の誘いも、幾度と
なく断った。
ミステルの授業も、具合が悪いからと受け
なかった。
テレーズ達も、部屋に入れなかったので、食事も
何もかもしないでベッドにいた。
あれから、何度考えてもわからない。
カインのことを好きなのかわからない。
半端な気持ちで彼に会いたくなくて、美冬はかなり
長い間彼に会っていなかった。
(このまま、私なんて、死んだ方がいいんだ……。そう
したら、カインだってあの子と結婚するかもしれ
ない……)
鬱鬱とした事ばかり、最近は考えている。
食事をしていないので体は痩せほせ、水も取っていない
ので、美冬は脱水症状に陥っていた。
頭がクラクラするけれど、起き上りたいとも、食事を
したいとも思えない。水も欲しくない。
死にたい、と本気で思っていた。
すっかり明るくなっていた彼女は、前の性格に戻って
いた。
世界の全てを呪い、いじめっ子を呪い、両親を呪った、
あの時に。
消えたい。このまま消えてなくなりたい。
自分がいたって、この世界にとって益にもなる事は
ない。害にもならないけれど……。
もうどうでもいい、と美冬は回らない頭で考えて
いた。もう、目を開けている事も難しい。
手足も動かす気になれない。
涙さえももう出ない。
と――。
冷たい水が洪水のように美冬に押し寄せた。
おぼれそうなほどの水に、ついせき込んでしまう。
水が口に入ったので、少しだけ意識がはっきりして
来た。薄眼を開け、あたりを見回す。
すると、怖い顔をした少女がそこに立っていた。
その姿は、人間の姿をしていたけれど、間違いなく
あの時の人魚だった――。
今回はかなりシリアスになっちゃい
ました。
主人公が悩みまくります。苦手な方は
要注意です。でも、次のお話ではまた
ほのぼのに戻ると思います。




