第十四幕 ~非難される少女~
相沢美冬は今日も勉強をしていた。
今日の教師は、ミステルだ。
「いいですか、ミフユさま。まずは、
ご挨拶から教えましょう。テレーズの
やり方では、覚えにくいのでね」
「は、はい……」
「まずはおはようございます……これは、
〝フィン・レン〝です。フィンはおはよう
だけで、レンがございますですわ」
早速美冬はやってみた。
桜の花のような唇を動かし、必死で言おうと
する。
発音は難しかったが、なんとか言う事が
出来た。
「ふぃん・れん……」
「なかなかですわ、ミフユさま。後、わたくし
達に接する時は、〝フィン〝だけで結構ですわ。
では、おっしゃってみてください」
「ふぃん、ミステル……。これでいいんですか?」
「バッチリですわ」
母親のような笑顔を浮かべるミステルに、美冬は
嬉しくなった。
少しずつでも、自分は変わっていっている。
もう、前の自分ではない。ここに来てから、美冬は
幸せだった。
「お姉さま、遊ぼう!!」
「ミフユお姉ちゃん、あたしも遊びたい!!」
「ちょっとお前ら待てって!! いてて……」
と、いきなり窓から、第五王女フィレンカ、下働きを
している鳥少女のシーレーン、同じく
下働きの少年、狼男のルーが
やってきた。
ルーは止めようとしたらしかったが、窓枠に頭を
ぶつけて呻いている。
「何をやっておられるんですか、姫様!! 下働きの
者達まで巻き込んで!」
「巻き込んでないもん!!」
ぷうっ、とフィレンカは頬をふくらませていた。
ルーは巻き込んでるだろ、と叫び、フィレンカに睨み
つけられている。三人はかなり仲がいいようだった。
ルーも苦笑はしているけれど、それは嫌ではない
らしい。
「フィーは考えなしすぎなんだよ! 今はミーは勉強中
だろ!!」
「うるさいな、ルー!! 勉強も大事かもしれないけど、
交流を深めるのだって立派は勉強でしょっ!!」
「口にへらないやつ……」
「なんですって!!」
言い合う二人の様子に、ミステルは驚いたような顔を
していた。
それから、くすり、と笑う。その顔は、まるで母親の
ようだった。
「姫様が、あんなに楽しそうに。あの子たちを城に呼んだ
のは、結果的によかったわね」
美冬は首をかしげた。あんなに元気そうな感じだった
けれど、いつもは違うのだろうか。
「どうせ、もう勉強にはならないわね……ミフユさま、どうぞ
姫様達と遊んでください」
「え、いいの!?」
太陽のようにフィレンカの笑顔が輝く。
シーレーンも同様だ。しかし、ルーだけはすまなそうに謝った。
「すみません……」
ミステルはさらに大きな声を立てて笑い、暗に怒っていない
事を示した。
「その前に、お茶にしましょうか」
チリリン、とテーブルに置かれた鈴を鳴らし、ミステルは
言った。
この銀色の美しい鈴は、メイドや下働きの者を呼ぶ時に使用
される物である。
しばらくして、若い少女がやってきた。ミフユが会った事の
ないメイドである。気位の高そうな雰囲気だった。
「およびですか」
髪を風変わりな形に結いあげたメイドは、髪や腕や足にまで
ごてごてと装飾品を飾っていて、およそ仕事をする気などない
ような感じだった。
お仕着せにも、レースやフリルやリボンを勝手に縫いつけ、
スカートはなんと三段になっている。
ミステルは眉をしかめたが、すぐに表情を引き締めて口を
開いた。
「お茶をお願いするわ」
「それは私の仕事ではありません」
今度は少女の眉がしかめられた。それが実際の仕事ではなく
ても、やるのがメイドという仕事である。
だが、貴族出の者の中には、高慢で決められた仕事以外は
やらない者もいた。
このメイドの少女もそのタイプなようだ。
はあ、とミステルはため息をつく。去る間際に、そのメイドは
じろりと美冬を睨んで去って行った。
拒絶するような、言葉にしなくても憎しみが伝わるような、
そんな目、だった。
「私が入れてきます」
仕方なく、ミステルが席を外し、お茶を入れて戻って
来た。今日のお茶は、コルネルの花の香りがするお茶
だった。
美冬の世界のバラに良く似ている。
美冬のお気に入りのお菓子、〝クルリア〝と、ふわふわに
焼きあげたチョコレートのケーキに良く似た、〝ルーナ
エル〝が出た。
どれも美味しく、美冬が一口食べるだけで大好きになった
物だった――。
こうしてお茶は楽しく終わり、全員はかくれんぼをして遊ぶ
事になった。
フィレンカが提案し、シーレーンが私もやりたい、と言った
のだ。
ルーだけはそんなガキみたいな事、とかぶつぶつ文句を言って
いたが、二人に押し切られてやる事になった。
美冬は断る理由もないので、加わっている。
じゃんけん(この世界にもそれはあるらしい)で鬼を決め、
彼らは走り出した。
鬼は美冬だった。百を数えた後、早速はりきって探し始める。
友達のいなかった美冬は、かくれんぼをやるのは生まれた初めて
だった。
「皆、どこにいるのかしら……あ、ルー!! 見つけた!!」
一番最初に見つけたのは、ルーだった。
廊下に飾られた、巨大な壺の中に隠れていたのだ。
本人は文句を言っていたわりには上手く隠れたようだが、
手が出ていたのですぐに分かってしまった。
「ちぇっ!! 見つかっちゃった」
文句をいいつつ、ルーは出てきた。嫌がっていた癖にちょっと
悔しそうな顔になっているので美冬はくすっと笑ってしまう。
「次は二人ね!!」
「はりきってるなあ、ミー」
「ええ!! 私、かくれんぼってやるの初めてなのよ」
ルーに手を振り、美冬は歩き出した。
すぐにシーレーンを見つける。ここまでは、すごく簡単
だった。
シーレーンの場合、裏庭の茂みに隠れていたのだが、
ふわふわ浮いていたので、すぐにわかってしまった。
「さあ、あとはフィレンカね!! どこへ行ったのかしら」
だが、フィレンカはそう簡単には見つからなかった。
この二人よりはここの事も詳しいはずなので、無理はない。
美冬はさんざん歩き回り、ついに前庭にたどり着いた。
前庭は、色とりどりの花が咲き乱れていて、とても素敵な
所だった。美しい湖まである。
「とっても素敵!!」
「誰!?」
思わず声を上げると、誰何の声が投げられた。
湖から、綺麗な顔立ちをした人魚が出てくる。
「あんた、誰?」
「美冬っていうの。よろしくね!」
「ミフユ? あんたが異世界の姫?」
「異世界から来たわ」
刺すような視線は、決して美冬を歓迎はしていない。
どうして嫌われてるのか、美冬には分からなかった。
「私、あんたが大嫌い!!」
「どう……して……」
「あんたが、カインの花嫁だからよ!! どうして異世界
婚が認められているのに……異種族婚が認められてない
のよ……」
憎々しげに人魚が叫ぶ。美冬はなんと言っていいのか分か
らず、その場に立ち尽くした。
「あんた! カインのことが好きなの!? 好きじゃないん
なら、カインの周りをうろちょろしないでよね!!」
人魚はそれだけ言うと、湖に帰ってしまう。
後に残された美冬は、茫然とするだけだった――。
前半はほのぼの、ラストはちょっぴり
シリアスになってしまいました。
美冬は絶賛魔法大国の生活を満喫中
です。ラスト以外は……。




