第十幕 ~あいさつをする少女~三男・長女編~
長男、次男にあいさつを終えたカインと
美冬は、続いて三男であるカナンの元へと
出向こうとしていた。
何故かカインがピリピリしているのを感じ
取り、美冬は首をかしげる。
いつもの優しい姿が嘘のように、彼は今
かなり険しい顔になっていた。
美冬は恐る恐る彼に声をかける。
「どうしたの、カイン?」
「あの、ね。ミフユ……」
「うん……」
「カナン兄様は、ちょっとっていうかかなりの
女好きで、多少うっとうしいかもしれないけど、
嫌わないであげてね」
「別に私は大丈夫だけど……」
カインははぁっとため息をついた。
大丈夫じゃないのは実は僕だけどね、と呟いたが、
美冬には聞こえていない。
扉をノックしたが返事がなかった。
首をかしげながらカインは扉を開いたけれど、そこは
無人のようである。
カインの青い瞳が訝しげな色を帯びた。
「あれ、カナン兄様?」
「――カイン様、恐れながら、今はカナン様は図書館
塔におられると存じますが」
「あ、そうだったね。あ、ルルリエ姉様もいるかも」
と、テレーズが口を挟んだ。カインはハッとなる。
美冬はルルリエという女性と、図書館塔の事は知ら
なかったのでつい質問していた。
「ルルリエ? 図書館塔?」
「あ、ルルリエは僕の一番上の姉様だよ。図書館塔は、
お城の近くにある書物庫の事だよ」
三番目の兄だけでなく、一番目の姉もいるという情報に、
思わず美冬は硬い表情になった。
カインはそれに気づいたのか、にっこりと安心させる
ような笑みを向けてくる。
「大丈夫だよ、ミフユ。僕がついてるから」
「ありがとう、カイン……」
二人は手をつないだまま図書館塔へと歩いて
行った――。
テレーズは図書館塔の内部で美冬達の許可を得てから
読書にふけり、カインと美冬は二人がいるという場所
へとやってきた。
顔を上げた淡い緑色の髪の少年が、「あ」と声を上げて
カイン達に手を上げる。
「カナン兄様、お久しぶりです」
「よう、カインじゃないか。お前が図書館塔に来るなんて
珍しいじゃん。――ルルリエ姉さん、カインが来ましたよ」
「カインが?」
清流のような青い髪と瞳の少女が顔がようやく本から顔を
上げた。
読書の邪魔をされた事に苛立っていたようだが、カインの
方を見つめると笑みを浮かべる。
「あ、その子がお前の? へぇ~見違えたじゃないか。あの時の
ボロボロの女の子とは思えない」
緑の髪の少年カナンは美冬に目を止めると、傷だらけだった
少女とのあまりの違いに目を見開いた。
青い髪と瞳の少女ルルリエは黙っている。
「カナン兄様!」
「い、いいのよカイン。本当の事だもの。――カナン様、ルル
リエ様、私美冬と申します、よろしくお願いします」
「気安くカナンでいいよ。君みたいな可愛い子だとだいかんげ
――いてっ!」
後半のセリフが途中で切られたのは、ルルリエが平手で頭を
叩いたからだった。
ルルリエは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「馬鹿ね、彼女が困っているでしょう。それに、神聖な図書館
塔でナンパなんてするんじゃないわよ」
「あいってぇ~。な、ナンパじゃないですよ姉さん。緊張して
いるみたいだからほぐしてあげようかと……」
「カインはそうは思ってないみたいよ」
カナンはちらりとカインに視線を移した。
すると、いつもは大人しい弟が外敵にさらされた子供を守る
母猫のように歯をむき出して怒っていた。
「じょ、冗談だってカイン。怒るなよお」
「まあ、馬鹿は放っておいて。――私は、ルルリエ。養女
ではあるけれど、一応ここの第一王女よ」
ルルリエは冷や汗を流しながら弟をなだめようとする
カナンを放置し、睨むような瞳で美冬を見つめていた。
美冬はすっかりおびえてしまい、たじろいでいる。
「って、あんた!」
「は、はい!?」
と、いきなりルルリエの目が先ほどより鋭くなった。
何を怒っているのだろう、と美冬はさらに怯える。
「る、ルルリエ姉様、あんまり美冬に……」
「あんたは黙ってなさい!」
「あぅ……」
腕を掴んだルルリエにカインが抗議をするも、一睨みで
黙らされてしまった。ルルリエはしばらく美冬を睨むように
見ていたが、やがて口を開く。
「あんた、ちゃんと食べてるの!? ここに来てからしばらく
経ったのにまだこんなに痩せてるなんて、カイン、あんた何を
やってるのよ! 世話させてるメイドは誰なの!? 職務怠慢
だわ!!」
カナンがおずおずと「図書館では静かにしましょうよ」と告げ
たが、やっぱり睨まれて黙らされた。
カインはルルリエが美冬に害をなすつもりじゃないと分かり
ホッとしている。
「あ、あの……テレーズ達を罰さないでください。彼女達はよく
やってくれています。これでも、前よりは太ったんですよ……
彼女達のせいではありません」
「そう、ならいいわ。――これ、食べなさい。もちろん、図書館
塔から出てからよ」
「ありがとうごございます……ルルリエ様」
「それと、私口悪いのよあんまり気にしないで。あんたが嫌いって
訳じゃないわ。あんたとは一度話してみたかったのよ。ちょっと
乱暴な事をしてしまったけど、よかったらまたここに会いに来て。
失敗したわ、頭に血が上りやすいのは自覚してたのに」
「また、会いに来ますカインと一緒に」
ルルリエはようやく美冬に笑みを向けた。
カインが胸を撫で下ろして美冬の手を掴み、カナンが「お、俺も
忘れないでね!?」と念押しした――。
今回は第三王子と第一王女にあいさつ
するお話です。第一王女は気が強く多少
乱暴ですが、基本的には優しい人です。
第三王子はちょっと女好きでチャラい
ですね。でも悪い子ではないんですよ。
次回は、第四王子と第二王女と第三
王女とのあいさつ予定です。




